2026年9月1日、同年8月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、決定期間延長のうえ、2026年10月15日に一部公開決定がなされた。
上記の期間(2026年8月)に処理を完了したのは5件で、このうち3件で調査結果が通知された。また、残る2件については苦情について調査しない旨が通知された。なお、3件の調査結果が通知された案件の担当オンブズマンは、いずれも梶井祥子である。
1.市の回答が適切さを欠く場合にオンブズマンはいかに対処すべきか
今回公開された案件のうち、まず注目すべきは、生活保護を受給する申立人が通院治療のために転居する費用の支給を求めて診断書を提出したものの、当該通院治療についても転居費用についても、保護費の支給対象にならないとされたこと等について苦情が申し立てられた第2026-27号である。
本件苦情については、生活保護制度においてどのような給付が予定されているかを確認しておくことは、理解の助けになると思われる。そして、本件においては、①生活保護の医療扶助の対象となる医療の範囲、②生活保護受給者が転居する際に支給される扶助の対象が問われている。また、②については、A.転居に要する費用と、B.転居先に入居する際の敷金について、異なる費目の対象となっている。
ア.医療扶助の支給対象となる医療の範囲について
それでは、まず①医療扶助の対象についてである。この点、市の回答では、「生活保護受給中であっても、医学的に必要不可欠と認められる場合は医療扶助を受けることが可能です」という説明がなされている。
その一方で、その直後に(医療扶助においては)「国民健康保険(一般の医療保険)の適用対象とならない治療は認められません」という説明がなされており、「医学的に必要不可欠と認められる場合」の治療と、「国民健康保険の適用対象となる」治療の関係についての説明は不明確である。
したがって、より適切な市の回答は、「医療扶助の対象となる医療は国民健康保険の適用対象となる医療であるところ、当該医療が実際に医学的に必要不可欠と認められる場合において、医療扶助が支給される」といった説明であったと考えている(なお、市の回答によると、本件において申立人が希望する治療行為は、国民健康保険法の適用対象とならないため、医療扶助の対象ともならないということである)。
イ.「転居費用」の支給について
つづいて、②の転居費用である。この「転居費用」は、A.転居自体に要する費用(荷造り費や運搬費)については、臨時的一般生活費として「移送費」の支給対象となりうるものである。ただし、市の回答によると、転居することが「真にやむを得ないとき」に限り、必要最小限度の実費(事前に承認した額)の範囲内で支給される旨の説明がなされている。
また、B.転居先に入居する際の敷金については、「住宅費」として支給対象となりうるものである。ただし、市の回答によると、住宅費が支給される「転居に際して敷金の初期費用が必要な場合」とは、18の特定の事由のいずれかに該当する場合に限られる旨の説明がなされている。
そして、本件における移送費に関し、市は「疾病を理由とした転居費用の支給は、現在居住している地域の医療機関では適切な治療を受けることが困難であり、専門的な治療が受けられる医療機関の近くへ転居することが治療上不可欠と認められる場合」に支給されることを前提として、申立人の疾病について、転居することが治療上不可欠であると確認できなかったとして、移送費の支給対象とならないと判断した模様である。また、住宅費として敷金を支給することの可否については市の見解は示されていない。
ウ.医療扶助対象外の治療のための転居は「転居費用」の支給対象となるか
ところで、上記の市の回答は、「疾病を理由とした転居費用の支給」に関し、当該疾病の治療が医療扶助の適用対象であるか否かについて特にふれていない。そのため、当該治療が医療扶助の適用対象外であった場合においても、転居が治療上不可欠であると認められる場合に転居費用(移送費)が支給されるか否かは、市の回答からは明らかではない。
この点、生活保護受給者が医療扶助対象外の治療を受けるためには、一般生活費等を当該治療のために利用することが必要となってくる。その場合、生活保護受給者は、最低限度の生活を維持するための一般生活費を下回る生活費での生活を余儀なくされるのであり、このような状態は、最低限度の生活を維持するという生活保護の制度目的に照らすと、適切ではないと当ブログ開設者は考えている。
したがって、こうした場合には、転居は「真にやむを得ないとき」に該当しないために移送費の支給対象とならず、住宅費としての敷金等についても、それが支給される18の特定の事由に該当しないことから支給対象にならないと判断されることになると思われる。ただし、この点に関しては、市の回答からは明らかでないことは前述したとおりである。
エ.保護の「補足性の原理」に関する市の説明について
ところで、本件において申立人は、その当事者が誰かは不明であるものの、扶養義務者ではない第三者から「援助を受けられる環境」で治療を受けたいとして、転居費用の支給を希望している。
これに対し、市は転居費用の支給が認められない旨の説明をしているが、その際、「『その利用しうる資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用する(生活保護法第4条)』という生活保護制度の補足性の原理から逸脱しており、医療上の不可欠性及び自立助長の観点からも認められません」と論じている。
しかしながら、申立人が第三者からの援助を受けられることは、申立人の自立助長の観点からはむしろ望ましいことなのではあるまいか。そして、「保護の補足性」からすると、利用できるものはできるだけ使え、ということになるのではあるまいか。
したがって、市の回答における「補足性の原理から逸脱している」という説明は、そもそも論理が逆転していると思われる。
であるならば、本件においては、申立人が第三者から援助を受けられる事情にあったとしても、そうした事情は医療扶助対象外の医療を医療扶助として支給する理由にならないし、当該医療が「転居の医療上の不可欠性」を根拠づけることにもならないと、市は説明すべきであったのではないか、と当ブログ開設者は考えている。
※なお、「高齢者、身体障害者等が扶養義務者の日常的介護を受けるため、扶養義務者の住居の近隣に転居する場合」には敷金が支給対象となる模様である(「生活保護問答集について」問(第7の30)16)。
オ.「市の回答」の問題点に沈黙する調査担当オンブズマン
以上の次第で、当ブログ開設者は本件調査における「市の回答」には複数の問題点があると考えているが、調査担当オンブズマンの梶井祥子からそれらの点についての指摘がなされることはなかった。おそらく、梶井祥子は苦情申立ての前提となる制度についての知見を欠くとともに、市の回答における論理的矛盾に気づいていないか、気づいても指摘する必要性を感じなかったためと思われる。
カ.オンブズマンの指摘は「対応の改善」につながるか
その一方で、調査担当オンブズマンの梶井祥子は、申立人への市の対応の問題点について、いちおうの指摘は行っている。すなわち、「申立人の希望する『転居費用』の説明については、保護課から申立人に対し、移送費と敷金等の違いなどについてわかりやすく具体的に説明した様子がみられず、丁寧さに欠ける部分があったと、オンブズマンは考えます」という指摘である。
しかしながら、当ブログ開設者は、その指摘が本件の申立人の対応として適切であるかについて、大いに疑問を抱いている。それというのも、現実の対応で「丁寧な説明」をした場合、申立人に支給を受けることができるという期待を抱かせることになる可能性があるからである。
すなわち、申立人はあくまで「転居費用」の支給を求めているのであり、「転居費用」として支給される金銭の費目の説明を求めているわけではないのであり、この場合には、「転居費用の支給の可否」を説明すれば足りるのではないか、ということである。
それにもかかわらず、調査担当オンブズマンの梶井祥子が保護課の説明が「丁寧さに欠ける部分があった」と指摘するのは、事実レベルで申立人に対する説明ではなく、むしろ本件調査におけるオンブズマンに対する説明が「丁寧さに欠ける部分」があり、オンブズマンが市の説明を理解できなかったという趣旨であろうと当ブログ開設者は考えている。
したがって、本件調査における「市の回答」には改善の余地があるとともに、調査担当オンブズマンはその旨をオンブズマン判断で指摘することで「説明の改善」につながった可能性があるところ、残念ながら、調査担当オンブズマンには苦情の前提となる制度への理解が不足していたために改善点が指摘されることはなかったものと思われる。
※※なお、本件では一般生活費としての「移送費」の支給の可否が論点となったが、この一般生活費の「移送費」とは別に、医療扶助にも「移送費」という費目がある。ただし、こちらは通院・転院・往診に要する費用を支給するもので、通院目的の転居費用は支給対象にならない。
2.市民は同じ説明を複数回しなければならないのか
続いての案件は、申立人の(おそらく親族である)関係者に関する高齢者福祉・医療・介護についての情報提供および家族対応が、特定の親族を中心とした連絡体制となっており申立人に十分な情報提供がなされていないとして、本庁高齢福祉課および区保健福祉課に対応を求めたところ、各部署の対応の一貫性や、市民からの申し出の取扱いに関して疑義があるとして、苦情が申し立てられた第2026-31号である。
ところで、本件の申立人は、本庁高齢福祉課を訪れた際、「うちの業務ではないので区役所の担当窓口である保健福祉課に行ってくれ」という対応をされた模様である(※あくまで、当ブログ開設者による「要約」である)。
こうした場合、申立人は本庁高齢福祉課で行った説明を再度、区保健福祉課の窓口ですることを余儀なくされる。また、区保健福祉課の窓口担当者も、申立人の説明を一から聞く必要がある。したがって、本庁高齢福祉課は申立人の了承を得たうえで、申立人から聞き取った内容を区保健福祉課に情報提供しておくと、申立人と区保健福祉課担当者双方の時間と労力が節約された可能性があると思われる。
ただし、この点はあくまで本件調査結果通知書の「市の回答」に記述がないだけで、本庁高齢福祉課から区保健福祉課への情報提供はなされているのかもしれない。しかしながら、区保健福祉課が申立人に対応した後、その経緯については区保健福祉課から本庁高齢福祉課に対し連絡したことについては「市の回答」に記述されていることからすると、「市の回答」に記述のない本庁高齢福祉課から区保健福祉課への情報提供はなされていないだろうと当ブログ開設者は考えている。
また、たとえ本庁高齢福祉課から区保健福祉課に情報提供がなされていても(当然ながら、申立人の了承を得た上で)、本件申立人による区保健福祉課に対する説明が全く不要になるわけではない。
その際、中には「いかに自分が不条理な取り扱いをされているか」を何度も繰り返し語りたい相手方市民もいるであろうし(対応する担当者の苦労がしのばれる)、担当者が相手方市民の負担を考慮して話を先回りしすぎると相手方市民の気分を害することも考えられる。
したがって、情報提供を受けていたとしても、実際に対応する局面での担当者の負担はさほど軽減されないかもしれない。相手方市民にとっても、期待したほど担当者に話が伝わっていないということも考えられるが、それでもなお、市の担当者間で「情報共有」することを相手方市民に伝えることは、当該相手方市民の心理的安定に寄与すると当ブログ開設者は考えている。
・・・と、当ブログ開設者が以上のような思いを馳せたのは、この案件の担当オンブズマン梶井祥子が別件の発意調査(2025-発1号)においては、困難女性支援においては「ワンストップサービスが必要不可欠」と論じていたからである。
であるならば、困難女性支援の場面に限らず、市民対応においては「ワンストップ」対応が望ましいということになるのではないか。さらに、市民に向けた行政の「ワンストップ対応」の意義は、「市民が同じ説明を何度もせずにすむ」ことにあるのではないか、ということである。
のみならず、本件においては、本庁高齢福祉課は申立人が持参した文書をいったんは複写しようとしている。結局、申立人の了承を得て当該複写を廃棄しているが、本庁高齢福祉課としては、申立人からの強い要望でいったんは文書の複写をしようとしたということであろうか(なお、複写を廃棄したことに申立人は不満を抱いた模様である)。
このような経緯があったことも、当ブログ開設者が本庁高齢福祉課から区保健福祉課への情報提供が可能だったのではないかと考える所以である。
以上、本件に接し当ブログ開設者が感じたことを記したが、本件苦情における事実関係のほか、市の回答およびオンブズマン判断については、苦情等調査結果通知書(ここ)で確認していただきたい。
3.そのほかの注目案件
かなり特殊な案件であるが、第2026-25号は地下鉄駅職員の対応に不満を抱いた申立人が、「話し合いの場」を設けることを求めて苦情が申し立てられている。こうした要求に市はどのように回答し、オンブズマンがどのような判断を示したかは、苦情等調査結果通知書で確認していただきたい。
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①第2026-25号
地下鉄駅の職員からケンカを売られるような態度をとられたと主張する申立人が、当該職員との話し合いの場を設けるよう要望したものの拒否されているとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:梶井祥子)
②第2026-27号
生活保護を受給する申立人が、通院治療のために転居する費用の支給を求めて診断書を提出したものの、当該通院治療についても転居費用も保護費の支給対象にならないとされたこと等について苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:梶井祥子)
③第2026-31号
申立人の(おそらく親族である)関係者に関する高齢者福祉・医療・介護についての情報提供および家族対応が、特定の親族を中心とした連絡体制となっており申立人に十分な情報提供がなされていないとして、本庁高齢福祉課および区保健福祉課に対応を求めたところ、各部署の対応の一貫性や、市民からの申し出の取扱いに関して疑義があるとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:梶井祥子)
④第2026-41号
社会起業家のA氏とその関連団体による公的助成金の使途等に疑義を抱いた申立人がオンブズマンに対し申立人がとりまとめた情報を提供したところ、オンブズマンの所轄事項である市の機関の業務の執行および当該業務に関する職員に関する事項に該当する行為が不明であり、申立人が申立ての原因となった事実について利害を有するとも認められないとして、調査しない旨が通知されたケース(本件苦情と別件で申し立てた苦情に関する追加情報を提供する趣旨であろうか?)。(担当オンブズマン:樋川恒一)
⑤第2026-43号
札幌市を定年退職後に再任用された職員が、当該再任用が再任用配置方針に合致しておらず、人事係長に相談しても問題ないと回答されたとして、苦情が申し立てられたケース。本件苦情は「職員の自己の勤務内容に関する事項」というオンブズマンの所轄外の事項に該当するとして、調査しない旨が通知された。担当オンブズマン:神谷奈保子)