2026年8月1日、同年7月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、決定期間延長のうえ、2026年9月16日に一部公開決定がなされた。
上記の期間(2026年7月)に処理を完了したのは12件で、このうち8件で調査結果が通知された。また、残る4件のうち2件については苦情について調査しない旨が通知され、1件については苦情申立ての取り下げに基づいて調査中止が通知された。さらに、1件については「明らかな間違い申立て」という条例に根拠のない取り扱いがなされている。
ところで、当ブログ開設者は、過去に札幌市オンブズマン制度の存在意義が「住民自治の実質化」にある、と論じたことがある(このエントリー)。どのような論理でその結論が導かれるのかは当該エントリーで確認していただくとして、それはいわば、オモテの制度の存在意義である。
その一方で、制度のウラの存在意義として、「オンブズマンが何を理解していないかが可視化される」、という指摘もできるかもしれない。ただし、これはあくまでも札幌市オンブズマンの場合である。オンブズマンが何を理解していないかが可視化されることを契機として、行政担当者がオンブズマンにも理解できる説明を考えることが、行政の「改善」(とりわけ、市民に向けた説明の改善)をもたらす可能性があるということである。
そして、今回公開を受けた案件にもそうした案件が存在する。
1.保護開始決定までの医療ニーズにどのように対応するのが適切か
まず紹介するのは、生活保護申請後、保護開始決定がなされるまでの期間において、当該申請者の医療ニーズにどのように対応するのが適切かを考えさせる第2026-10号である(担当オンブズマン:梶井祥子)。
この案件では、生活保護の支給を申請した申立人が、申請後の医療・調剤の取扱いについて十分な説明を受けられなかったため、今後の取扱いについて説明を求める文書を提出したにもかかわらず提出後1週間が経過しても回答がないとして、今後の対応方針や回答時期についての説明を求めて苦情が申し立てられた。
この点、生活保護の開始が申請された場合、申請内容の審査をしたうえで要保護と判断された場合には、申請日にさかのぼって保護開始が決定される。したがって、申請日が「保護開始日」であるとすれば、申請日以後に「保護開始決定日」が存在するわけである。そして、保護が開始された場合には、必要に応じて「医療扶助」が給付されることになる(保護開始決定後の手続については「市の回答」を参照されたい)。
ところで、国民健康保険法は国民皆保険の理念の下、「都道府県の区域内に住所を有する者は、当該都道府県が当該都道府県内の市町村とともに行う国民健康保険の被保険者とする」(同法5条)と規定する。ただし、生活保護には「医療扶助」が存在することから、「生活保護法による保護を受けている世帯」(同法6条9号)は国民健康保険の適用除外とされている(このほか、健康保険をはじめとする被用者保険の被保険者等も国民健康保険の適用除外とされている)。
そうすると、生活保護の開始を申請した者の場合はどうなるか。その者が国民健康保険の被保険者の場合には、申請時点では未だ「生活保護法による保護を受けて」いないことから、保護開始決定までの期間は「国民健康保険」の被保険者としての医療を受けることができる。
前述の用語を用いると、「保護申請日」から「保護開始決定日」までの間は国民健康保険による医療を受けることができるが、「保護開始決定日」以後は医療扶助の対象となるのであり、「保護開始日」(=「保護申請日」)から「保護開始決定日」までの期間に国民健康保険から受けた医療の費用については、国民健康保険と「医療扶助」の間で清算される、ということである。また、健康保険の被保険者等の場合は、「保護開始決定日」以降も引き続き当該保険が適用されるため、「保護開始日」に遡及して以後の自己負担分相当額が「医療扶助」として支給される。
この点、本件調査においても、「市の回答」において以下の説明がなされている。
「保護申請後、保護開始決定までは、生活保護が適用されておらず、健康保険の状況に何ら変更はないことから、従前の健康保険証で受診した場合、その時点で保有している健康保険の負担率で受診となる場合もあります。」
「その後、保護の開始決定が行われると、保護から医療機関に医療券を送付し、被保護者が医療費を自己負担していた場合には、医療機関から被保護者に自己負担分を返還するよう依頼します。」
上記の説明にある「健康保険」は「国民健康保険」の誤記であると思われるが、その点はともかくとして、本件苦情の前提事実においては、保護開始決定までは国民健康保険の被保険者証を提示することで医療を受けられる旨の説明がなされないまま、受診する医療機関によっては100%自己負担となる場合もあるという説明がなされている。この点、本件申立人の保護開始申請時点の担当者の説明は改善の余地があった、と当ブログ開設者は考えている。
もっとも、市の回答においては、今後も、保護開始決定までの期間には国民健康保険の利用が可能である旨の説明をするという趣旨の記述はない。調査担当オンブズマンの梶井祥子も、(保護開始申請の時点で)「10割負担についてだけでなく、従前の保険証の負担率で受診できる可能性についても申立人に説明したうえで、医療機関への確認を提案するということもできたのではないか」という、あくまで今回の個別案件についての見解を披瀝するにとどまっている。
しかしながら、当ブログ開設者は、保護開始申請の時点で医療ニーズの高い国民健康保険の被保険者に対しては、保護開始決定まではなお国民健康保険による受診が可能である旨を積極的に説明するのが適切だと考えている。また、申請が却下される可能性もあるのであり、保護開始決定があるまで申請者を「無保険状態」として取り扱うのは望ましいことではない。
なお、梶井祥子の判断にある「従前の保険証の負担率で受診できる可能性についても申立人に説明したうえで、医療機関への確認を提案する」という記述は、必ずしもその趣旨が明確ではない。
むしろオンブズマンとしては、保護開始申請時の説明として、①申請者が国民健康保険の被保険者の場合、保護開始決定がなされるまでは引き続き国民健康保険により受診できること、②受診する医療機関によっては保護開始決定前に(保護を受給できる前提で)自己負担なく受診できる場合もあること、③申請者が受診する医療機関がどのような取扱いをするかについては当該医療機関に確認する必要があること、という3点を申請者に伝えることを市に要請するのが適切であったと当ブログ開設者は考えている。
2.申立人の苦情の即した「市の回答」とは
次に紹介するのは、オンブズマンによる「調査の組み立て」に違和感を禁じ得なかった第2026-4号である(担当オンブズマン:梶井祥子)。
この案件では、申立人が居住する住宅の水道メーターに疑義があることに端を発して当該住宅の貯水槽が市に登録されておらず、保健所からは飲用を避けるようにという話があったものの、当該住宅の管理者による住民への周知がなされていないことについて、保健所が「住民への直接の周知は市の権限外」という対応であるほか、水道水の安全が確保されない住宅に居住することについて保護課の対応も不十分であるとして苦情が申し立てられた。
本件調査においては、当初、水道局の給水部と区の生活保護担当課を対象として調査が開始された後、保健所が調査対象部局に追加されている。このような展開になったのは、「札幌市水道事業給水条例」に小規模貯水槽水道(申立人の居宅の貯水槽はこれに該当する)の管理責任者の努力義務が定められているところ、調査過程において、適正な管理がなされていなかった場合に指導を行うのは、水道局ではなく保健所であることが判明したためと思われる。
そして、ここからが違和感を覚えた要因である。本件調査においては、区の生活保護担当課は別にして、水道局および保健所が申立人および申立人の住居の貯水槽の管理責任者に対し具体的にどのような対応を行ったかについて、「市の回答」が欠落しているからである。
そのため、「調査結果通知書」の「市の回答」を読み進めても、小規模貯水槽水道の管理についての一般論は展開されるものの(その内容は「調査結果通知書」で確認されたい)、本件において担当部局が実際にどのような対応を行ったのかについては、「市の回答」における区の生活保護担当課が保健所とやり取りした経緯において間接的に触れられているに過ぎない。
こうした「市の回答」の構成は、申立人が貯水槽の管理の不備に対し市の権限行使が適切なされていないとして苦情を申し立てていることからすると、回答として不十分なのではなかろうか。やはり、市の担当部局が実際にどのような対応を行ったかについての説明は必要不可欠であり、この点に関する市の回答を欠く本件調査は、担当オンブズマン梶井祥子による「調査の設計」に重大な瑕疵があったと当ブログ開設者は考えている(水道局(水道事業管理者)宛の調査実施通知の「別紙」がこれ。「調査項目」が記載されている)。
ところで、上記のオンブズマンによる「調査の設計」とは別に、当ブログ開設者には「市職員はもうひと工夫できたのではないか」と感じられた点がある。それは、生活保護を受給する申立人の居宅を担当者が訪問した際、「生活調査のために訪問した」旨をドア越しに告げたところ、居宅への立ち入りを拒否されたという点である。
この点、市の回答によると、申立人が「メガネを購入するための保護費の請求をしたい」というニーズを「市民の声を聞く課」に伝えていたために、担当者はそのニーズを把握していた模様である。で、あるならば、担当者は「生活調査のために訪問した」と伝えるよりも、「メガネの件で訪問した」と伝えていたならばどうだったか。少なくとも、申立人に対しては、「あなたがメガネの購入を希望していることは把握した」というメッセージを伝えることができたのではなかろうか。
もちろん、だからといって申立人の居宅に立ち入ることができたとは限らないとはいえ、市の回答における(立ち入ることができなかったため)「メガネの支給の要否について判断できなかった」という事情説明は、後づけの「いいわけ」だという印象を禁じ得ない。あくまで可能性に過ぎないが、ドアを開けるとメガネの購入費用が支給されるかもしれない(開けない限りは支給につながらない)と、申立人にドアを開けるよう誘引する働きかけ方はできたのではないか、と感じた次第。
3.何らの通知もなく処理を終了することは条例に抵触するのではないか
次に紹介する第2026-35号は、洗濯機が故障した生活保護受給者が家具什器費を請求したところ理由の説明もなく担当者に拒否されたとして、家具什器費を請求するための書面の交付を求めて苦情が申し立てられたケースである(担当オンブズマン:樋川恒一)。
担当オンブズマンは、様式の請求はオンブズマンによる苦情調査の対象にならないこと等を説明して申立人の了承を得たとして、「明らかな間違い申立て」という札幌市オンブズマン条例に何ら根拠がない取り扱いにより処理を終了した。
ところで、札幌市オンブズマン条例はオンブズマンの調査について、申立てに係る苦情およびオンブズマンの自己の発意に基づく事案について調査を実施することを規定している(同条例4条1号、同条2号、同条例17条2項)。また、何人もオンブズマンに苦情を申し立てることができるとされている(同条例14条)。
そして、申立てを受けたオンブズマンは、苦情申立人に対し調査しないとき(同条例17条1項)および調査を開始したが調査を中止したとき(同条例18条2項1号)には、理由を付してその旨を通知するとされている。また、調査を終了したときには、調査結果を通知することになっている(同条例21条1号)。
なお、「調査しないとき」と「調査の中止」の異同は、オンブズマンが調査を開始する旨を調査対象部局に通知する(条例17条2項)前ならば「調査しないとき」、調査対象部局に通知した後ならば「調査中止」の扱いとなる(条例18条1項)点にある。
このように、札幌市オンブズマン条例は、いったんオンブズマンが苦情申立てを受け付けたからには、苦情申立人に対し何らかの「通知」がなされることを規定しているところ、本件苦情については「明らかな間違い申立て」であるとして、いずれの通知もされないまま調査が終了している。当ブログ開設者が「条例に何ら根拠ない取り扱い」と論ずる所以である。
当ブログ開設者は、こうした取り扱いについての疑義をオンブズマン事務局に対し照会しているものの、未だ納得できる回答を得ていない。機会があれば、その顛末を当ブログで紹介したい。
以上の疑義とは別に、本件苦情申立てには注目すべき点がある。それは、申立人が「この件について審査請求を行うため、まずは家具什器費を書面で申請したく、様式を頂戴したい」と主張している点である。すなわち、請求を却下されないことには審査請求も行えないことを理解しているのであろうということである。
ちなみに、当ブログ開設者は当初、本件苦情申立てを「審査請求」のための書面交付を求めているものと誤認した。どうやら、当ブログ開設者よりも本件申立人の方が制度に詳しい模様である。
この点、担当オンブズマンは、「まずは担当課あてに書式の請求を行い、提供に応じない場合はオンブズマン調査の対象になる」旨の説明を行ったうえで、申立人の了承のもと本件苦情を「明らかな間違い申立て」という処理をしている。しかしながら、本件ではむしろ、「申立ての取下げ」として扱う方が穏当であったのではなかろうか。ただし、その場合においても、条例の規定上は「調査しない旨」の通知の発送が必要となると当ブログ開設者は考えている。
4.そのほかの注目案件
そのほかの案件では、令和7年度札幌市物価高対策臨時給付金(以下、「本件給付金」)について苦情が申し立てられた第2026-21号が興味深い(担当オンブズマン:樋川恒一)。
この案件では、令和8年1月1日の時点で生存し一人世帯主として市内に住民登録していた申立人の母(その後死亡)に本件給付金が支払われなかったとして、苦情が申し立てられた。
本件給付金をめぐっては、すでに別件の苦情が申し立てられている(第2026-7号、担当オンブズマン:梶井祥子)。その別件では、本件給付金に関するはがき(「支給のお知らせ」)が届いたところ、そこに記載された振込口座の氏名が「旧姓名」であったことから振込されない可能性を顧慮してコールセンターに連絡したが、そもそも「電子政府・マイナポータル・公金受取口座」を利用していればこのようなことにはならなかったとして苦情が申し立てられた。本件調査と併読すると、本件給付金支給のための「工夫」が垣間見えると当ブログ開設者は考えている(別件を紹介しているのはこのエントリー)。
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①第2026-4号
申立人が居住する住宅の水道メーターに疑義があることに端を発して当該住宅の貯水槽が市に登録されておらず、保健所からは飲用を避けるようにという話あったものの、当該住宅の管理者による住民への周知がなされていないことについて、保健所が「住民への直接の周知は市の権限外」という対応であるほか、水道水の安全が確保されない住宅に居住することについて保護課の対応も不十分であるとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:梶井祥子)
②第2026-10号
生活保護の支給を申請した申立人が、申請後の医療・調剤の取扱いについて十分な説明を受けられなかったため、今後の取扱いについて説明を求める文書を提出したにもかかわらず提出後1週間が経過しても回答がないとして、今後の対応方針や回答時期についての説明を求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:梶井祥子)
③第2026-11号
生活保護を受給している申立人が、すでに別件で申し立てている案件(第2025-121号)へ追加して、定期的に収入申告しているにもかかわらず複数月まとめて収入認定されたり、自立更生費の申請をしたにもかかわらず未だ決定がなされない等の点について苦情が申し立てられたケース。なお、別件は「自立更生計画書」を提出したにもかかわらずその後の処理状況についての説明や回答がなされない、という苦情である。(担当オンブズマン:神谷奈保子)
④第2026-15号
⑤第2026-16号
⑥第2026-17号
⑦第2026-20号
生活保護を受給する申立人が、十分な説明や確認を受けることなしに住宅扶助の支給方法が代理納付から本人支払いに変更された結果、家賃を滞納し退去を求められているとして、変更の経緯の説明や代理納付の再開等を求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)
⑧第2026-21号
令和8年1月1日の時点で生存し一人世帯主として市内に住民登録していた申立人の母(その後死亡)に令和7年度札幌市物価高対策臨時給付金が支払われなかったとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:樋川恒一)
⑨第2026-22号
市発注の歩道部の改修工事により、申立人が所有する月極駐車場の縁石が施工前より高いものになるとともに切り下げ部分が縁石の数が減る等、出入庫の際に支障が生じるようになったとして、縁石の変更を求めて苦情が申し立てられたケース。苦情申し立ての取下げにより、調査中止が通知された。(担当オンブズマン:樋川恒一)
⑩第2026-26号
小学校の管理体制において、学校保健安全法に定められた「安全配慮義務」および「札幌市子どもの権利条約」(「条例」の誤記か?)への配慮が著しく欠如しているとして、苦情が申し立てられたケース。本件「苦情申立てについて、オンブズマンが調査することは簡易迅速に苦情を処理を行うこと(ママ)とする制度の趣旨と合致しません」として調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:神谷奈保子)
⑪第2026-28号
⑫第2026-35号
洗濯機が故障した生活保護受給者が家具什器費を請求したところ理由の説明もなく担当者に拒否されたとして、家具什器費を請求するための書面の交付を求めて苦情が申し立てられたケース。様式の請求はオンブズマンによる苦情調査の対象にならないこと等を説明して申立人の了承を得たとして、オンブズマンは「明らかな間違い申立て」という札幌市オンブズマン条例に何ら根拠がない取り扱いにより処理を終了した。(担当オンブズマン:樋川恒一)























