2023年4月1日、同年3月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、決定期限延長のうえ、5月1日付で一部公開決定がなされた。
上記の期間(2023年3月)に調査を終了したのは9件で、調査結果を通知したものが7件、残る2件で調査をしない旨が通知されている。
さて、今回の公開分は、「弁護士」の肩書を有する田村智幸オンブズマンが、法律(条例)の条文一つ満足に読めないらしいことが判明したことが興味深い。おそらく「弁護士」という職業は、あくまで紛争処理屋であって、制度屋でなければ理論屋でもないのであろう。そのため、依頼人の利益を最大化するという職業的使命のためならば、都合よく話を「つまみ食い」することも厭わず、そうした行動様式が、傍からは「条文一つ満足に読めない」ように見える要因なのではないかと、当ブログ開設者は考えている。
このことが顕著に現れているのが、「無料低額診療」に関する第2022−74号である。この「無料低額診療」は、社会福祉法が定める「第二種社会福祉事業」として、経済的理由により適切な医療を受けることが困難な方々に対して、医療機関が無料又は低額な料金で診療を行う事業である(札幌市のサイトにおける同事業の紹介)。
調査担当の田村智幸オンブズマンは、「無料低額診療事業に対して、都道府県が監督権限に基づき助言・指導・調査・是正等を行えるような根拠や規定等を見出すことはできませんでした」という見解をその判断において披歴している。
しかしながら、社会福祉法70条は、都道府県知事による社会福祉事業を経営する者に対する調査権限を規定している。また、同法72条は、都道府県知事に対し、法令違反が存する場合に社会福祉事業を経営することを制限・停止を命ずることができる旨、規定している。
こうした規定が存するにも関わらず、田村智幸オンブズマンは、「監督権限に基づき助言・指導・調査・是正等を行えるような根拠や規定等を見出すことはできませんでした」というのである。当ブログ開設者に、「条文一つ満足に読めないらしい」と思わせた理由がおわかりいただけるだろうか(なお、同法150条が規定する「大都市特例」により、同法70条及び72条の規定は指定都市に適用される)。
また、この案件の調査対象部局の担当者は、当ブログ開設者が社会福祉法が規定する市の権限について問い合わせた際、オンブズマン判断のこの箇所は「言葉足らずである」とコメントしていたが、当ブログ開設者はオンブズマンが「言葉足らず」だったのではなく、前提たる「制度」への理解が足らなかったものと考えている。
すなわち、田村智幸オンブズマンは、「無料低額診療事業は税優遇があるものの、医療費の負担そのものは医療機関の持ち出しとされているようです」とも述べている。このような書きぶりは、当ブログ開設者には医療機関が100%医療費を負担するかのように読める。しかしながら、受診者が公的医療保険の適用を受ける場合には、医療機関には保険者から診療報酬が支払われるのであり、医療機関が負担することになるのは、受診者の本人負担分に限られる。したがって、医療機関による医療費の負担は、全額が「医療機関の持ち出し」になるわけではない。
そして、この案件では、苦情申立人と調査対象部局の双方とも、公的医療保険の適用を当然の前提とする主張及び回答を行っている。そのため、上記の田村智幸オンブズマンの判断は、公的医療保険制度への理解を欠くことが顕著であると思われる。当ブログ開設者としては、田村智幸オンブズマンが国民健康保険に関する苦情調査を担当することがないよう願わずにはいられない。
結局、この案件では、社会福祉法に基づく権限行使を求める申立人の苦情に対しては、①市が権限を行使するような法令違反は存在しないこと、また、②医師による投薬が1ヶ月とされたことが不満ならば、その理由について受診した医療機関に尋ねるべきこと(保険医療機関及び保険医療養担当規則療担規則20条2号イが、「投薬は、必要があると認められる場合に行う」旨規定していることが手がかりになるだろうか?)が、申立人に示されるべきであった(その法的性格は、医療法6条の13第1項1号が定める「助言」である)と当ブログ開設者は考えている。しかしながら、ついぞ調査担当の田村智幸オンブズマンから、そのような指摘がなされることはなかった。
次に、第2022-91号も、調査担当の田村智幸オンブズマンが「条文一つ満足に読めない」と思わせる案件である。この案件は、市立病院で医療過誤があったとして、損害賠償を請求したいと考えた申立人が、「医師賠償責任保険加入についても調査をお願いする」として、苦情が申し立てられた模様である。苦情申立ての趣旨の大部分が非開示とされており、申立人の主張を読み取ることはできないが、おそらく賠償も求めているものと思われる。
この案件の調査を担当した田村智幸オンブズマンは、札幌市オンブズマン条例16条2項が「調査することが相当でない特別の事情があると認めるとき」を調査対象外事項として規定する趣旨を検討する。それによるとこの規定は、「高度に専門的な知識が求められる行為に関しては、オンブズマンが判断を示すことは困難であることを踏まえ、設けられている」のだそうだ。そして、この見解にしたがい調査を実施しなかった。
しかしながら、札幌市オンブズマン条例19条3項は、「専門的又は技術的な事項について、特に必要があると認めるときは、専門的機関に対し、調査、鑑定、分析等の依頼をすることができる」と規定する。したがって、調査担当のオンブズマンに専門的・技術的な知見を欠く場合についても、制度上は手当てがなされている(ただし、実際に専門的機関に依頼した事例は存在しないようである)。
また、『「札幌市オンブズマン条例」の解釈と運用(逐条解説)』においても、条例16条2項について、「例えば医療行為に係るものなど、高度に専門的な事項で条例19条3項の規定による専門的機関による調査等の依頼によっても解決する見込みがなく、調査能力の充実した裁判所等に速やかに判断を仰ぐべき場合など」が例示されている。
このように、条例が制定された当初、札幌市オンブズマンに苦情が申し立てられた事項が高度に専門的なものであったとしても、そのことだけで当然にオンブズマンによる調査の対象外となるわけではなかったことは明らかである。したがって、上記の田村智幸オンブズマンによる条例16条2項の理解は、条例制定過程における議論を無視し条例19条3項の規定を死文化するとともに(※)、オンブズマン調査の対象外となる事項を過度に拡大するものであると思われる。
ただし、当ブログ開設者も、この案件の処理に関しては、申立人が提訴する意向を有していることや、医療行為の当否に関しては裁判所の判断に委ねるのが適切であると思われることからすると、「簡易迅速」を旨とするオンブズマンが「調査対象外」と結論づけることに異論はない。
その一方で、市立病院が医療過誤の賠償にどのような備えをしているかについては、なおオンブズマン調査の対象となりえるであろう。申立人も、「医師賠償責任保険加入についても調査をお願いする」との主張を行っているように、公立病院における国賠法適用の有無や医師個人の責任等について(最高裁は医療行為について「公権力の行使」に当たらないと判示している模様・最判昭和57.4.1)、札幌市の見解を確認しておくことには、一定の意義があるであろう。
以上の次第で、当ブログ開設者は、田村智幸オンブズマンの判断はいささか適切さに欠けることがままあると考えている。その反面、そうした適切さに欠ける判断は、その裏とりをすることで、当ブログ開設者の札幌市行政への理解が深まるという効果を有している。そうであるならば、「弁護士」の肩書を有する田村智幸オンブズマンが「条文一つ満足に読めない」などと揶揄するよりも、田村智幸オンブズマンのご高説をありがたく拝聴し、自らの見識を深めることに徹するのが今後の当ブログ開設者のとるべき態度かもしれない。
(※)なお、条例19条3項の規定については、条例が制定された当時、オンブズマンが専門的知見を欠くことで専門的機関に対する調査等の依頼をすることすらままならない、という事態は想定していなかった可能性がある。この点、条例制定後に調査等の依頼が行われたケースが存在しない模様である事情も考慮すると、札幌市オンブズマン制度の実態は、オンブズマンが調査等を適切に依頼できるだけの専門的知見を欠く一方で、調査等の依頼のしくみも、「簡易迅速」を旨とするオンブズマン制度との相性がよくないのではないかと、当ブログ開設者は考えている。
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①第2022-69号
生活保護を受給する申立人が、担当のケースワーカーの一連の対応や窓口を訪問した際に元警察官が同席したこと等に不満を覚え、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)
②第2022-73号
スポーツ局が実施したPRステッカーの入札において、仕様書の記載を見て入札を断念したが納品された現物は仕様書記載の規格と食い違いがあるとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)
③第2022-74号
無料低額医療により医療機関を受診した申立人が、薬が1か月しか処方されなかったことを不服として、札幌市に社会福祉法による調査と指導等を求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)
④第2022-75号
札幌市から除雪業務を受託した事業者の「除雪センター」及び札幌市の「土木センタ―」が申立人からの問合せに適切な対応をしないとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)
⑤第2022-76号
インターネットから申し込んだキャンペーンについて消費者センターに相談した際の職員の対応に納得がいかないとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)
⑥第2022-80号
生活保護受給者が、非常食の支給が途中で打ち切られたこと等を不服として苦情が申してられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)
⑦第2022-82号
⑧第2022-90号
⑨第2022-91号
生活保護受給者が、金銭の借り入れが確認できたので保護を打ち切らなければならないと通告されたが、結局何も見つからず、その後の職員の対応も誠実さを欠くとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)
除雪センターの弁護士から届いた内容証明郵便の記載内容が、市民が適切な行政サービスを受けられないかのような記載であるとして、苦情が申立られたケース。発端が同じような近接した時期に起こった事案についてすでに調査を完了しており、この案件でオンブズマンが新たな見解を示すとは考えにくいとして、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:原俊彦)
市立病院で医療過誤があった件について、損害賠償をを請求するつもりであり、市立病院の医師賠償責任保険加入についても調べてほしいとして、苦情が申し立てられたケース。医療行為に関する高度な専門的知見を欠くオンブズマンには調査が困難であるとして、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:田村智幸)
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