2026年7月2日、同年6月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、決定期間延長のうえ、2026年8月14日に一部公開決定がなされた。
上記の期間(2026年6月)に処理を完了したのは12件で、このうち10件で調査結果が通知された(うち1件はオンブズマンの発意による調査)。また、残る2件のうち1件については苦情について調査しない旨が通知され、1件については苦情申立ての取り下げに基づいて調査中止が通知されている。
なお、今回の公開分で、2025年度に申し立てられた苦情の全案件の公開が完了した。
ところで、今回公開分のうち、(オンブズマンの発意による調査を別にして)当ブログ開設者の興味関心をとりわけ強く引いた案件が3件ある。
そのうち、第2025-108号および第2026-13号は、オンブズマンが理論的に掘り下げるべき論点を看過した(逆にいうと、調査対象部局がその論点を巧みにかわした)と感じる案件であり、第2026-2号は、市の監督権限行使にあたっての「原則」についての説明を引き出した「隠れたファインプレイ」が光る案件である。
1.過去の案件から得た知見が役に立つ
それでは、まず第2026-13号から見ていこう(担当オンブズマン∶樋川恒一)。この案件は、申立人が年度途中で確定申告することですでに賦課された市税が減額され、減額後の納付書が送られてくると考えていたところ、納付書が送られてこないまま、市税を滞納しているとして口座が差し押さえられたとして苦情が申し立てられた案件である。
市は、市税を減額する事務処理にミスがあり、この点については申立人に謝罪するものの、差し押さえ自体は適法になされており、いったん差し押さえた金額を返金してほしいという申立人の要望に応えることはできないと回答した。
調査担当オンブズマンも、市が事務処理にミスがあったことを認めたことでよしとしたのか、差し押さえた金額の返金はできないという市の回答を追認している。
しかしながら、当ブログ開設者は、こうした市の回答及びオンブズマン判断に疑問を抱くことになった。すなわち、市は市税を減額する事務処理にミスがあり、減額する事務処理中であるという情報がシステム上で確認できなかったのであるが、①減額事務処理中であることが確認できたならば差し押さえに踏み切ることはなかったのか、②減額事務処理中であっても変更前の賦課処分は有効であり、滞納している市税を差し押さえに踏み切る場合はあるのかは、本件調査からは判然としないからである。
また、②であるとしても、③本件においても、何らかの事情があれば差し押さえに踏み切ることはなかったのではないか、ということも、本件調査からは判然としない。
当ブログ開設者がこのように考えるのは、過去に第2023-4号に接しているからである。この案件は、市税を滞納したことで「差押通知書」の送付を受けた申立人が差押えを待ってほしいと求めたが受け入れられず、説明を求めた職員から十分な説明も受けられなかったとして苦情が申し立てられたのだが、当ブログ開設者は以下のコメントを残している(このエントリー) 。少し長くなるが引用する。
「この案件で当ブログ開設者の目を引いたのは、市の回答における『申立人に納付誠意がないと判断』したという箇所である。市税の納付という法律上の義務の履行に際し、『誠意』というフレーズはそぐわないように感じられたからである。
しかし、である。どうやら納税義務者が『差し押さえを待ってほしい』と泣きを入れるケースでは、この『誠意』が意味を持つ場合もあるようだ。
この点、まず出発点となるのは、市町村民税の滞納者が督促を受けたにもかかわらず完納しない場合、市町村の徴税吏員は滞納者の財産を差し押さえしなければならないという原則である(地方税法331条1項1号)。
しかしながら、地方税法は『職権による換価の猶予』を規定する(同法15条の5)。ここにいう『換価』とは、財産の差し押さえを含む概念であるが、滞納者の財産の換価を直ちにすることにより『その生活の維持を困難にするおそれ』があり、その者が徴収金の納付・納入について『誠実な意思』を有すると認めるときは、滞納処分による財産の換価の猶予をすることができるとされている。ここにいう『誠実な意思』がおそらく、市の回答にいう『誠意』であろう。
(中略)
このように、『その生活の維持を困難にするおそれ』があることが前提だが、徴収金の納付・納入に『誠実な意思』がある場合、地方団体の長が慈悲深い対応をする根拠となる規定は、実にしみじみと味わい深い。」
いかがであろうか。この案件(第2026ー13号)の調査対象部局も担当オンブズマンも、申立人の苦情の趣旨を「すでに差し押さえられた金員の返還」であると解したうえで、返金に応じられないことを是認するが、むしろ論じるべきは、「市税を減額する事務処理」にミスがなければ差し押さえに踏み切ることはなかったのではないか、という点であったと当ブログ開設者は考えている。
つまり、「納付誠意」を問われることなく口座を差し押さえされた本件苦情申立人にとって、「事務処理にミスがあったが差し押さえは適法」という調査結果に納得できるか、疑問を禁じ得ないということである。
2.書面によるのか口頭によるのかそれが問題だ
次に紹介する第2025ー108号も、オンブズマンが理論的に掘り下げるべき論点を見過ごしたと思われる案件である(担当オンブズマン∶梶井祥子)。自営業による稼働活動を行っている生活保護受給者が、ケースワーカーによる「就労指導」が「行政指導」の任意性および不利益取扱いの禁止に違反する等(生活保護法27条3項および行政手続法32条参照)、憲法および法令上の疑義を生じさせる不適切なものであるとして、苦情が申し立てられた。
こうした申立人の苦情に対し、調査担当部局は、被保護者は生活保護法62条1項に基づき同法27条に基づく指示に従う義務があり、指示に従わない場合、保護の変更、停止及び廃止を行うことは、法に規定された適正な手続きであり、(申立人が主張する)違法な強要等には該当しないと回答している。
以上が本件苦情の最も基本的な論点であるが、注目すべきは、市の回答において生活保護法施行規則19条についての言及がない点である。
すなわち、同条は、「法第62条第3項に規定する保護の実施機関の権限は、法第27条第1項の規定により保護の実施機関が書面によって行った指導又は指示に、被保護者が従わなかつた場合でなければ行使してはならない」と規定しており、生活保護法27条1項に定める指導指示も、口頭で行われる場合と書面で行われる場合では、その持つ意味が大きく異なるからである。
本件の「市の回答」における事実の経緯においても、「このまま増収できない場合は、法27条に基づく書面での指導(指示書)となる」旨の説明をした旨の記述はあるものの、指導指示が口頭による場合と書面による場合の違いについて申立人に説明した事情はうかがわれない。そのため、生活保護法27条3項を根拠として指導指示が「被保護者の意に反して、指導又は指示を強制」されないと信じて疑わない申立人が、増収指導に対しただひたすらに不満を募らせたのではなかろうか(ただし、事実のレベルにおいては、本件苦情申立人がその違いについての説明を受けていたとしても、不満を募らせた可能性はある)。
このように、本件調査においては、生活保護法27条1項が規定する指導指示が口頭による場合と書面による場合の違いを明らかにすることが必要であったと、当ブログ開設者は考えている。
ところで、この案件において、調査担当オンブズマン梶井祥子は、「オンブズマン制度の中では裁判所のような司法的検証はできず、行政手続法第32条と生活保護法第62条との関係については、ここで判断を示すことはできません」という見解を披瀝しているが、ここでいう「司法的検証」とは、いったいなにを意味しているのだろうか。
一般論として、司法機関の特徴としては、①当事者双方の主張に基づいて裁判所が判断することや、②司法機関の判断が確定すると強制力が発生する(ことがある)、といったことが指摘できると思われる。これに対して、オンブズマン制度の下においてオンブズマンは申立人と調査対象機関双方の主張に基づいた判断を行うため、形式的には対審構造という司法機関類似性を有しているものの、オンブズマンの判断には強制力がない点で、司法機関との違いがある。
しかしながら、オンブズマンの判断に強制力がないことが、オンブズマンが法令解釈についての自らの見解を示すことの妨げにはならないであろう。
この点、この案件を担当したオンブズマン梶井祥子は、「行政手続法第32条と生活保護法第62条との関係については、ここで判断を示すことはできません」という見解を披瀝するものの、生活保護法62条の適用対象となる「指導指示」、あるいは、書面でなされた「指導指示」は、行政手続法が定める「行政指導」には該当しない(ただし、生活保護法27条3項との論理的整合性は課題として残る)という解釈は十分成り立ちうるのであり、オンブズマンがその旨の見解を示すことも、何ら支障はないと思われるのである。
そうすると、「司法的検証ができないオンブズマンは判断を示すことができない」というオンブズマンの見解は、札幌市オンブズマンの制度上の制約というよりも、梶井祥子が自らの法令解釈能力の欠如を宣明したものと理解するのが適切であると思われる。
3.問いの立て方しだいで調査の「深度」が大きく変わる
さて、以上の2件に対し、第2026-2号は、市の回答において、障害者福祉サービスの事業者に対する市の監督権限の行使についての「原則」が説明されている点で、大きな意義を有すると当ブログ開設者は考えている(担当オンブズマン∶梶井祥子)。
それというのも、札幌市オンブズマンの所轄事項は、「市の機関の業務の執行に関する事項及び当該業務に関する職員の行為」(札幌市オンブズマン条例3条)だからであり、申立人の苦情の実質が福祉サービス事業者の提供するサービス自体への苦情であったとしても、オンブズマン調査の対象となるのは、あくまで市の監督権限の行使についてにならざるを得ないからである。
とはいえ、この調査の結果、市の監督権限の行使についての「原則」について明らかになったことで、今後、同種の苦情が申し立てられた場合において、その苦情調査において何を調査すべきか、事前の見通しを立てやすくなることが期待できるであろう。
この点、今回公開された第2026-2号は、「就労継続支援B型事業所が『重要事項説明書』に記載された『障がい者の自立のためのサポート』が実行されていないことを市の障がい福祉課に苦情を申し立てたが、その後、なんの連絡もない」として、障がい福祉課の対応について苦情が申し立てられた案件である。
そして、本件では調査実施通知書に調査項目として「事業所に対し、市が行う指導監督の範囲及び内容(根拠条文等を含む。)」が明記されたこともあって、市の監督権限の行使についての「原則」が明らかになったわけである。この調査項目の立て方は、本件調査の「深度」を増す「隠れたファインプレイ」と呼ぶことができるだろう。
以上の次第で、オンブズマンの所轄事項との関係においても、将来的に同種の苦情が申し立てられた場合の備えとしても、オンブズマン調査において「市の権限行使の原則」について明らかにしておくことは、大きな意義があるといって差し支えないだろう。このことが、札幌市オンブズマンに携わる者の間の共通了解事項となることを当ブログ開設者は期待する。
と、書いてはみたものの、過去に当ブログで同じようなことを書いたような気もする。気のせいかもしれないが(このエントリーだろうか?)
4.そのほかの注目案件
その他の案件としては、第2026-24号がオンブズマンが苦情の趣旨を適切に把握できなかった結果、調査しない理由が見当外れになったという印象を受けるという点で興味深い(担当オンブズマン:梶井翔子)。
この案件では、消防局救急課が所管する業務を受託した事業者が受託業務の会場を手配することにつき、本来事業者が行う業務を救急課が行うことで当該事業者を優遇することになったとして、そのことに不満をいだいた受託事業者が消防局に照会したところ、その回答に納得できない点があるとして苦情が申し立てられた(というのが当ブログ開設者の理解である)。
担当オンブズマン梶井翔子は、「令和8年度の本業務の履行状況について、契約の当事者ではない申立人に直接的・具体的な利害が及んでいるとは言えない」として、調査しない旨を通知した。
しかしながら、消防局の対応は当該事業の受託事業者を優遇するものであり、この事業者が選定されたのは、事前の事業者間の公平性が欠くものだったと本件苦情申立人は主張しているのである。
梶井翔子は「オンブズマンとして心がけていることは、想像力を働かせて、申立人の思いになんとか近づくこと」なのだそうだが(令和7年度札幌市オンブズマン活動状況報告書・巻頭言参照)、心がけるだけでは埋め合わせることができないほど、梶井祥子はオンブズマンの職務適性に欠けるのかもしれない。
また、梶井翔子は「仮に契約内容が正しく履行されないことにより、市の損害を生じさせている場合には、市長や職員等の、違法・不当な財務会計上の行為または怠る事実について、直接住民がその是正や防止、損害の補てんを求めて監査委員に監査を請求することも可能です」という見解も披露しているが、他の事業者よりも「安価」だったからこそ、当該事業者が業務を受託したと推察できる。だとすると、市に「損害」が生じたとは考えにくいのではないだろうか。
したがって、こうした住民監査請求についての言及も、梶井翔子の職務適性の欠如を示していると思われる。
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①第2025-108号
自営業による稼働活動を行っている生活保護受給者が、ケースワーカーによる「就労指導」が「行政指導」の任意性および不利益取扱いの禁止に違反する等、憲法および法令上の疑義を生じさせる不適切なものであるとして苦情が申し立てられたケース。なお、申立人は別件の第2025-109号の申立ても行っている。(担当オンブズマン:梶井祥子)
②第2025-109号
自営業による稼働活動を行っている生活保護受給者が、収入認定の際に必要経費が経費として認定されないことを不服として苦情が申し立てられたケース。なお、申立人は別件の第2025-108号の申立ても行っている。(担当オンブズマン:梶井祥子)
③第2025-121号
生活保護受給者がパソコンを購入した費用が経費として控除が認められなかったことに端を発し、保護課に「自立更生計画書」を提出したにもかかわらず、その後の処理状況についての説明や回答がなされないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)
④第2025-発1号
「札幌市における女性支援の現状について〜困難女性支援法施行後の取組と課題〜」と題するオンブズマンの自己の発意による調査。(担当オンブズマン:梶井祥子)
⑤第2026-2号
就労継続支援B型事業所が「重要事項説明書」に記載された「障がい者の自立のためのサポート」が実行されていないことを市の障がい福祉課に苦情を申し立てたが、その後、なんの連絡もないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:梶井祥子)
⑥第2026-3号
生活保護の受給者が、保護申請時にすべての資産を示したにもかかわらず、その後、未申告の資産があるとして保護費の(一部)返還を求められたことを不服として苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)
⑦第2026-6号
申立人が自動車で市道を走行中に道路の陥没のためにタイヤがバーストしたことから市に補償を求めたが、補償しないと回答されたために補償を求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)
⑧第2026-8号
生活保護を受給する際にNHK受信料の免除を申請する書類を書いたが、保護を受けなくなったところNHKの集金人が申立人宅を訪問したのは、保護課が申立人の許可なくNHKに申立人が保護を受けなくなったという情報を提供したためであるとして苦情が申し立てられたケース。申立人から苦情申し立てを取り下げる旨の申し出があったとして、調査中止が通知された。(担当オンブズマン:樋川恒一)
⑨第2026-9号
「地方創生移住支援金」について問い合わせをしたところ、予想したとおりに申請期限を過ぎているから対象外である旨の説明を受けたが、制度周知のためには「転入届」を受け付ける際に制度の案内をすることも考えられるのではないかとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)
⑩第2026-13号
市税事務所に「確定申告をしたので納税額が変わると思う。納税相談をしたいので納税通知書が欲しい」旨を連絡したにもかかわらず、その後、通知書が送られてこないまま約5か月後に口座が差し押さえられたとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:樋川恒一)
⑪第2026-19号
非営利を目的として市民が利用するはずの「市民活動サポートセンター」の事務ブーズを営利企業が利用していることおよび、そのことについて担当部局に「公益通報」した後の当該部局の対応に時間がかかっていることについて、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:樋川恒一)
⑫第2026-24号
消防局救急課が所管する業務を受託した事業者が受託業務の会場を手配することつき、本来事業者が行う業務を救急課が行うことで当該事業者を優遇することになったとして、そのことに不満をいだいた受託事業者が消防局に照会したところ、その回答に納得できない点があるとして苦情が申し立てられたケース。「本業務の履行状況について、契約当事者ではない申立人に直接的・具体的な利害が及んでいるとは言えない」として、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:梶井祥子)












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