2022年8月1日、同年7月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、公開決定期限延長のうえ、8月29日付で一部公開決定がなされた。
上記の期間(2022年7月)に調査を終了したのは8件で、このうち6件で調査結果が通知されている。また、残る2件のうち1件は調査をしない旨が通知され、1件は申し立ての取り下げにより調査は実施されなかった。
さて、今回公開された案件のうち最も興味深いのは、水道料金および下水道利用料の減免に関する案件(第2022-10号)である。ただし、興味深いといっても、調査対象部局の説明が言葉足らずであるとともに、調査対象オンブズマンの判断も適切さに欠けるように思われる点においてである。
まず、この苦情の申立人は、水道料金・下水道利用料ともに市条例に減免についての規定が置かれているところ(札幌市水道事業給水条例35条および札幌市下水道条例17条)、これらの規定を根拠として減免「申請」を行ったにもかかわらず、「申請」として扱われなかったとして苦情が申し立てられた。
これに対し、水道事業管理者は、「管理者は、公益上その他特別の事情がある場合は、料金、加入金、手数料、その他の費用を減額し、又は免除することができる」という給水条例35条の規定について、「(水道事業)管理者に関するものであり、水道使用者が申請するような条文構成になっていないため、水道使用者からの申請に基づき免除することを想定していない」と回答している。
しかし、このような回答は、必ずしも適切ではないだろう。それは、当該条項は、給水条例本則に条例に減免の規定が設けられていない場合であっても、別途、管理者に減免制度を設ける権限を付与する趣旨の規定だと考えられるからである。したがって、この権限に基づいて設けられた減免制度において、水道使用者からの申請に基づいて減免の適用を判断する制度設計にすることは、十分に考えられる。減免制度において、一切の申請を排除するかのような誤解を招くおそれのある表現は、適切とはいえないと思われる。
以上の次第で、給水条例35条は、「水道使用者からの申請に基づき免除することを想定していない」のではなく、この条項は管理者に減免制度を設ける権限を付与する規定であり、この規定から直ちに水道使用者に減免の「申請権」が導かれるわけではない、といった回答がなされるべきであったと考える(なお、事案の処理としては、水道料金については減免制度が設けられておらず減免「申請」の余地はなく、下水道利用料については減免制度の存在を前提に申請が受理する、という対応がなされている)。
ところで、この案件の調査担当オンブズマンは、「給水条例第35条が、(水道事業)管理者に関するものであり、水道使用者からの申請を想定したものではないという法的解釈について、その是非を判断する立場にありません」という、なんとも無責任な判断を行っている。この点、当ブログ開設者は、調査担当のオンブズマンの「判断する立場にない」という判断は、調査に積極的に取り組む意思を欠くとともに、適切に調査を遂行する能力にも欠けるという意味であると考えている。
次に、この案件において、水道事業管理者は、生活困窮者に対する水道料金の減免は独立採算制の水道事業としてではなく、「一般会計による経費負担を前提として検討されるべきもの」と回答する。しかし、この点も論理必然的な回答ではなく、どのような制度設計をするかによって、経費負担の構造が決まってくると思われる。
そして、この点につき調査担当のオンブズマンは、「水道料金の減免については、基本的に一般会計等他の財源による予算的裏付けがある場合に限られる」と推察する。しかしながら、このような「推察」は、水道事業管理者が生活困窮者に対する水道料金の減免について行った説明を過度に一般化するものであり、妥当とはいい難いだろう。
このほか、この案件において当ブログ開設者の関心を惹いたのは、「札幌市行政手続条例」が参照されている点である。すなわち、「行政手続法」が定められいるところ、市条例と法がどのように棲み分けられているのか、という論点である(ただし、この点が苦情化しているわけではない)。
この点、行政手続法3条3項は、次のような適用除外を定めている。すなわち、「地方公共団体の機関がする処分(その根拠となる規定が条例又は規則に置かれているものに限る。)及び行政指導、地方公共団体の機関に対する届出(前条第七号の通知の根拠となる規定が条例又は規則に置かれているものに限る。)並びに地方公共団体の機関が命令等を定める行為については、次章から第六章までの規定は、適用しない。」
また、市条例も、申請について、条例等に基づき、自己に対し何らかの利益を付与する処分を求める行為(2条5号)と定義し、不利益処分について、条例等に基づき、特定の者(に)直接義務を課し、又は権利を制限する処分(2条6号)と定義している。
したがって、法令に基づく処分であるか、条例等に基づく処分であるかにより、行政手続法と市条例の棲み分けがなされることになる。また、地方公共団体が行う行政指導には行政手続法の適用はなく、市条例の規定が適用されることになる。この点、総務省のサイトには、以下の表が掲載されているので、あわせて参照していただきたい。
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①第2022-6号
滞納している市税の取扱い及び担当職員の一連の対応について、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)
②第2022-7号
市から業務を受託している企業で就労している者が行った通報について、市が正式の「公益通報」として取り扱わなかったこと等について、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)
③第2022-10号
水道料金・下水道料金を滞納している者がそれぞれの料金の「減免」を申請したが、申請に対する市の対応が札幌市行政手続条例に違反しているとして、苦情が申し立てられたケース。
なお、札幌市においては、下水道料金は利用者による「減免申請」の手続が設けられている一方で、水道料金は手続が設けられていない模様である。(担当オンブズマン:原俊彦)
④第2022-11号
不登校の状態にある中学生が、学校や教育委員会の対応では自らの学ぶ権利や安心して登校し学習する権利が侵害されたままであるとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)
⑤第2022-14号
申立人がグループホーム入所に際して障害福祉サービスの利用もあわせて申請したが、入所後3か月経過しても未だ障害福祉サービスの利用について手続きが進められていないとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)
⑥第2022-15号
生活保護受給者が入居している住居の管理会社から退去させられたこと関し、保護課が十分な説明してくれず、所持品の取扱いも不適切であったとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)
⑦第2022-23号
市が道路工事を委託した事業者によるずさんな工事により自宅が被害を受けたとして、苦情が申し立てられたケース。申立人による苦情申立ての取り下げにより、調査は実施されなかった。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)
⑧第2022-25号
市が検討中の「町内会支えあい条例」、パートナーシップ排雪はいずれも不要であり、冬季五輪も実施すべきではないとして、苦情が申し立てられたケース。苦情はいずれも市の政策への意見であり、申立人自身に利害があるといえないとして、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:田村智幸)
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