上記の期間(2021年8月)に調査を終了したのは10件で、このうち8件で調査結果が通知されている。また、残る2件のうち1件は調査をしない旨が通知され、1件は申立人の苦情取り下げにより、調査が終了している。
このうち、もっとも注目に値するのが第2021-17号である。この案件は、介護保険制度における住宅改修費が支給されないという苦情である。調査に3か月もの期間を要したり、要領を得ないオンブズマン判断が延々と続く等、数多の欠点はあるものの、市の対応において改善すべき点が浮き彫りになったという点で、重要な意義を有すると思われる。
このうち、もっとも注目に値するのが第2021-17号である。この案件は、介護保険制度における住宅改修費が支給されないという苦情である。調査に3か月もの期間を要したり、要領を得ないオンブズマン判断が延々と続く等、数多の欠点はあるものの、市の対応において改善すべき点が浮き彫りになったという点で、重要な意義を有すると思われる。
ところで、介護保険制度における住宅改修費(要介護の場合は「居宅介護住宅改修費」(介護保険法45条)、要支援の場合は「介護予防住宅改修費」(介護保険法57条))は、在宅で介護を受けながら生活する際、生活する上での支障をできる限り軽減するために、住宅の改修費用を補填する制度である。そのため、要介護者または要支援者が福祉施設や医療機関に入所・入院している場合には、支給対象とならないのが制度の建前である。
これに対し、制度運用の実態としては、福祉施設や医療機関から退所・退院して在宅での生活に復帰しようという場合において、あらかじめ住宅の改修工事を完了しておくことは、在宅への復帰を円滑化できる利点がある。そのため、退所・退院に先立ち工事を完了した場合にも、事後的に住宅改修費を支給することが許容されている。
このように、制度の建前と運用の実態にギャップがあるため、退所・退院に先行して工事を完了しながら、結果的に退所・退院できなかった場合には、「在宅での生活」という住宅改修費の支給要件を満たさないために、住宅改修費が不支給となるケースが生じることになる。本件苦情は、まさにそうした事例である。
のみならず、本件苦情の場合には、住宅改修工事を完了しても、退所・退院が叶わなかった場合には住宅改修費が支給されないことについて、要介護者(の親族)は事前に知りうる機会がなかったとして、住宅改修費の支給手続きを代行したケア・マネージャーの対応についても、苦情が申し立てられている。
以上が苦情の概要であるが、オンブズマン判断には看過できない点があるので、以下で指摘しておきたい。
まず、本件調査を担当したオンブズマンは、ケア・マネージャーの対応について縷々見解を展開している。しかしながら、居宅介護支援事業所に所属するケア・マネージャーの行為は、オンブズマンの所轄事項たる「市の機関の業務の執行に関する事項及び当該業務に関する職員の行為」(札幌市オンブズマン条例3条)に該当せず、その判断はオンブズマンの所轄事項を逸脱していると思われる。
また、調査担当オンブズマンは、申立人の主張に引きずられたためであろうか、「制度運用上の不備」であるとか、「市の説明責任」といった過度に抽象的な文言を弄するものの、市に対し、具体的に改善すべき内容を指摘するには至っていない。苦情の前提たる制度について、調査担当オンブズマンが十分に理解できていないためかもしれない。
さらに、調査担当オンブズマンは、「仮に事前に担当ケアマネから説明・教示されていたとしても、適切なタイミングで工事を延期又は中止することは難しかったのではないか」という見解を示している。
しかしながら、工事の延期又は中止の可能性という申立人側の対応について云々することは、オンブズマンが「市の機関の業務の執行」について調査をする際には、不要な判断であると思われる。のみならず、このような見解を示すことは、徒に申立人の感情を害する可能性がある。調査を担当したオンブズマンも、あえて自らのデリカシー欠如を積極的に示す必要もあるまい。
①第2021-17号
②第2021-28号
⑤第2021-34号
このほか、オンブズマン判断において、使われている用語に適切ではないと思われるものもあるが、調査の意義を損なうほどのものではないため、そのことを指摘するにとどめたい。
なお、このエントリーを公開した時点では、当ブログ開設者は市の説明の疑義について記述したが、その後、市の介護保険課に問い合わせることで自己の誤解が判明したため削除した。複数回の問い合わせに対応してくださった担当者氏には、記してお礼申し上げる次第である。
以上、当ブログ開設者の思うところを縷々述べてきたが、市には今後、①市民に向けた制度について周知の段階と、②実際の具体的な請求手続きの段階において、住宅改修費が支給されない場合について、市民の理解が得られるような教示・説明の工夫をこらすことを期待している。
(2021年10月30日に記述を一部修正しました)
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①第2021-17号
介護保険から住宅改修費が支給されないことのほか、どのような場合に支給されないかについてケアマネから事前に説明を受けなかったことや市の担当部局の一連の対応について、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)
②第2021-28号
2018年の北海道胆振東部地震の際、家屋が一次調査で「一部損壊」と判定されたことにその際は納得したが、改めて二次調査の実施を求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)
③第2021-30号
③第2021-30号
狸小路3丁目の歩行者専用道路にコンテナが2基設置されているが、通行に支障があるとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)
④第2021-32号
賃貸不動産の管理をしている会社が、当該会社の管理物件に入居する生活保護受給者の部屋の明け渡しや家賃の未納に関し保護課に対応を依頼しても十分な対応がなされないとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)
⑤第2021-34号
かつて札幌市に居住していたが現在は市外に転居した申立人が、申立人の子について札幌市の児童相談所がケース移管しないこと等について、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)
⑥第2021-35号
⑥第2021-35号
札幌市オンブズマンに苦情を申し立てようとする際、市職員が申立てに介入してくるためにオンブズマン制度の中立性が確保されていないこと等について、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)
⑦第2021-36号
教育委員会の職員から送付されてきたメールの内容に虚偽がある等、教育委員会職員の対応について苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)
⑧第2021-39号
住民税課税に際して過誤が補正されたこと伴い、国民健康保険及び介護保険の保険料も補正されたが、納付ずみの納期分の保険料は補正前の金額を納付したために過払いになっているとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)
⑨第2021-43号
市営住宅の入居に当選したが、民生委員からの圧力で辞退に追いやられたとして苦情が申し立てられたケース。申し立てられた事実が1年以上前のことであり、調査しないという結論になる可能性が高い旨を説明したところ、申立てが取り下げられたため調査は終了している。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)
⑩第2021-45号
申立人に無断で印鑑登録証が偽造されるという犯罪について、犯罪に加担した区役所の責任を札幌市オンブズマンが追及してほしいとして、苦情が申し立てられたケース。印鑑登録がなされたのが1年以上前の出来事であるとして、調査しない旨が通知され調査は終了している。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)
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