2024/06/29

2024年4月に調査を終了したケース

2024年5月1日、同年4月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、決定期間延長のうえ、同年6月14日付で一部公開決定がなされた。

上記の期間(2024年4月)に調査を終了したのは13件で、このうち10件で調査結果が通知された。また、残る3件はすべて苦情申立ての取り下げにより、調査が中止された。なお、今回の公開分で、2023年度に苦情が申し立てられた案件(全71件)はすべて公開された。

さて、今回公開された案件には、理不尽とも思える主張を繰り返す申立人からの苦情が2件あるところ、調査対象部局の対応は対照的である。

まず、子どもが学校でいじめを受けているが教育委員会が適切に対応してくれないという苦情(第2023−62号)である。この案件で教育委員会は、「申立人の困り感の解消につながる取組について学校と検討」したり、「申立人の困り感に寄り添いつつも、これまでの先入観に因われず学校と連携」する等、慈悲深く対応する姿勢を見せている。

これに対し、市民活動サポートセンターに入居するNPO法人等の活動についての指摘や問い合わせをした際の担当者の対応についての苦情(第2023−66号)では、調査対象部局の市民文化局は、「不当要求行為やその他カスタマーハラスメント行為等に当たると判断される場合には、関連部局と共有を図りながら、本市として毅然とした対応を行って」いく姿勢を明確にした。

このように、調査対象部局の対応は極めて対照的であるが、教育委員会としては「子どもの権利」を考慮すると、その親を無下に取り扱うことはできないと考えたのであろうと当ブログ開設者は考えている。

次に、道路用地の取得に関する市の一連の対応について苦情が申し立てられた案件(第2023−58号)も興味深い。この案件では、用地の任意買収および土地収用手続の利用という業務の一端が垣間見える。

ところで、この案件における申立人の主張は、当ブログ開設者の理解では、①用地取得に伴う補償額が不十分である、②任意買収に応じるか否かについて最終の意思確認が不十分なまま土地収用手続きに着手しようとした、③任意買収に応じると伝えたにも関わらず土地収用手続きの対象となると説明を受けた、という3点である。

これに対し市は、①補償額は市が定めた基準による、②回答書は未記入だったものの最終の意思確認は行っている、③市と任意契約を結ぶだけでは土地収用手続きの対象から除外できない旨を伝えるのが遅れたことを詫びたうえで土地収用手続きの対象から外す方法を伝えた、と回答している。

当ブログ開設者としては、(ア)未記入の回答書を返送された市がこれまでの対応から任意買収に応じないと決めつけて次の手続きに移行したことや、(イ)任意に売却の契約を結んでも(おそらく未登記のままでは)土地収用手続の対象から除外できない旨の説明をするのが遅れたこと、さらには、(ウ)地権者が任意買収に応じる意向を明らかにしても補償金の額について合意できない限り土地収用手続きに移行せざるを得ないことを市が理解していなかった可能性があることという3点について、市の対応は適切さを欠いていたと考えている。

もっとも、調査担当の田村智幸オンブズマンは、このような問題意識を欠いたようだ。それどころか、どうやら申立人の主張を理解することもままならなかったようである。

すなわち、オンブズマンの判断によると、申立人は「任意買収も用地収用も地権者には本来必要のない手続である」と主張しているらしい(15頁9〜10行目)。しかしながら、申立人は、(当該地の相続手続をして個人名義にするという)「①の手続は、任意買収であろうと用地収用であろうと、本来地権者側には必要のない手続きであ(る)」と主張しているのである(3頁17〜19行目)。

申立人はおそらく、地権者の側で登記費用を負担するのを避けたいのであろう。そのため、登記費用は市が負担すべきであると主張していると思われる。つまり、申立人の主張はあくまで、登記の名義変更手続きに関するものである。「任意買収も用地収用も地権者には本来必要のない手続きだ」という(オンブズマンが考える)申立人の主張を前提とすると、市はこれらの手続きを利用することなく用地を取得できることになるのだろうか。

なお、不動産の相続に関しては、2024年4月1日から相続登記の義務化が図られている。相続人が登記義務を負うからには、当然、その費用も負担することになると思われる(市が費用負担する謂れはないことになろう)。

このほか、外国籍の市職員の数について問い合わせたにも関わらず回答を得られなかったという苦情(第2023-61号)も、当ブログ開設者には興味深い論点を含んでいる。

すなわち、著名な東京都保健婦事件の最高裁判決(最大判平成17.1.26裁判所HP)の判示を前提として、札幌市における職員任用時および管理職任用時の国籍要件の存否等、職員任用の実態がどのようになっているのか、ということである。質問の組み立て方を工夫すれば担当部局から回答を得られるであろうか。それとも、「個人情報」を盾に回答を拒否されるであろうか。

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①第2023-57号
 町内会の世帯数に疑念を抱きまちづくりセンター所長に情報開示を求めたが適切な情報開示がなされないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

②第2023-58号
 市が取得しようとしている道路用地の地権者(の一部)を代表して建設局総務部用地取得課と交渉している申立人が、補償額が不十分であることのほか、文書の記載が不十分であるにも関わらず任意売却に応じないと市が一方的に判断したり、地権者が本来不要な手続きを取るよう市から求められたり、任意売却に応じても土地収用手続の対象となることについて説明を受けていなかったとして、用地取得へ向けた市の一連の対応について苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

③第2023-61号
 外国籍の市職員の人数について問い合わせたところ、「個人情報になる」として教えてもらえなかったとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

④第2023-62号
 申立人の子どもが学校でいじめを受けており、その旨を教育委員会に訴えても対応してもらえないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

⑤第2023-64号
 国民健康保険料等を滞納しているとして差押予告書が送付されてきたが、滞納処分が停止されるべき生活状態であるのみならず、生活保護廃止の時点でその後の保険料の取り扱いについて適切な説明を受けていなかったとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:梶井祥子)

⑥第2023-65号
 市電の運転士が用を足すまで車両を離れ何の説明めもなく運行を遅らせたことや、ラッシュ時に運行停止した際の情報提供が不十分だったことについて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑦第2023-66号
 市民活動サポートセンターに入居するNPO法人等の不正行為等について、担当の市民文化局に問い合わせや指摘をしても担当職員が回答や面談に応じないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

⑧第2023-67号
 生活保護受給者が12時30分ころ保護課に電話したところ昼休み中の電話は避けてほしいと言われたとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:梶井祥子)

⑨第2023-69号
 生活保護受給者が不用品を売却して得た収入の取り扱いやインターネットプロバイダに支払う費用について担当ケースワーカーから受けた発言内容等について苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)
⑩第2023-70号
 障がいのある子に支給される紙おむつ代の支給上限額の引き上げ等を求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑪第2024-1号
 昨冬に自宅の生垣が除雪の際に傷つけられたため現場の確認を依頼したが放置され、今冬もまた生垣を傷つけられたことから、生垣の原状回復を求めて苦情が申し立てられたケース。申立ての取り下げにより調査は中止された。(担当オンブズマン:神谷奈保子)
⑫第2024-6号
 子ども家庭福祉係の相談員が話す内容を理解してくれず、必要な情報も提供してくれないとして、その対応について苦情が申し立てられたケース。申立ての取り下げにより調査は中止された。(担当オンブズマン:神谷奈保子)
⑬第2024-7号
 生活保護課の担当者から冷たく事務的に対応されるとして苦情が申し立てられたケース。申立ての取り下げにより調査は中止された。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

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