2019/11/27

2019年10月に調査を終了したケース

2019年11月1日、同年10月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、11月15日に一部公開決定がなされた。

上記の期間(2019年10月)に調査を終了したのは5件で、このうち4件で調査結果が通知されている。また、残る1件は申立人による苦情申し立ての取り下げにより、調査が終了している。

その中で注目されるのが、第2019-41号である。この案件を担当した房川樹芳オンブズマンは、文章表現の稚拙さが特に際立つオンブズマンであるが、この案件もまた然り、である。

まず、この案件は、障害福祉サービスの利用者が市に対応を求めた際の職員の対応について苦情が申し立てられた案件である。そして、その前提として、サービス利用契約が事業所によって一方的に解約されたという申立人の主張と、申立人からサービス利用契約の解約の申入れがなされたという事業所の主張が対立している。

この点、苦情等調査結果通知書(以下、「通知書」という)12頁で、「契約の解約の理由については、・・・(中略)・・・その場にいなかったオンブズマンには、どちらの主張が正しいかわからないことから、事実認定についての判断を述べることはできません。」という判断が示されているが、ここでいう「事実認定」とは、市の担当課が事業所に問い合わせたところ、申立人が申し立てる事実の存在は確認できなかったという市が行った「事実認定」を指すのか、それとも、オンブズマン自身が申立人と事業所の間で起きた「事実」について認定できないということなのか、その趣旨は不明である。

次に、この案件でサービス契約の解約をめぐり問題になっているのは、解約の「理由」ではなく、解約の「手続き」であろうと思われる。現に、同頁1行目の見出しには、「不適切な契約の解約の手続き」と明記されている。「理由」と「手続き」の区別もつかないのは、いささかお粗末であろう。

さらに、房川樹芳オンブズマンは、上記のように「事実認定についての判断を述べることはできない」という判断を示しておきながら、通知書14頁では、「申立人に対する契約の解約の理由の伝え方としてはいささか不十分であったように思います。」とも述べている。後者の言い回しでは、あたかも事業所が申立人に契約の解約を通知したかのように読めるが、「事実認定についての判断を述べることはできない」のではなかったか。

すなわち、市の説明によると、事業所が申立人に申し入れたのは、「朝の支援からの撤退」であり、夜の支援は継続する方針であったというのである。したがって、「事実認定についての判断を述べることができない」ならば、「事業所による契約の解約」という申立人が主張する事実を前提とする、「解約の理由の伝え方が不十分」という判断を示すこともできないはずである。

もっとも、房川樹芳オンブズマンとしては、事業所による契約全部の解約の場合のみならず、提供するサービスの一部から撤退する場合にも、事業所は利用者に対しその理由を説明することが求められる、ということをいいたい模様である(12頁6段落目参照)ことからすると、14頁の「解約の理由」という記述も、事業所による契約の一方的解約であるか事業所によるサービスの一部からの撤退であるかを問わず、事業所はサービスの利用者に対しその理由を説明する必要があると、読み手の側で忖度せよ、ということなのかもしれない(ただし、読み手に忖度を強いるのであれば、オンブズマンもなかなかの殿様商売である)。

ところで、当ブログ開設者としては、この案件では、事業所が「一方的」に「朝の支援からの撤退」を申し入れたことが、正当な理由のないサービス提供の拒否に該当するのか否かが、一番の問題であると考えている。そのため、申立人による「一方的に解約された」という主張も、事業所が契約解除の意思表示を行ったという法的主張というよりは、事業所が解約のきっかけをつくったという主張と解すべきであると思われる。

この点、房川樹芳オンブズマンは、「市においては、当該事業所に対して、契約の解約の契機となる朝の支援の撤退の理由が正当な理由に該当することを申立人も納得したうえで、合意して契約の解除に至ったのかの確認とそれに伴う指導が不十分であったようにオンブズマンは思います。」と述べている(通知書13頁)。

しかしながら、「正当な理由のないサービス提供の拒否」という法令違反行為(となるのかどうかも一つの論点であるが)を前提に、利用者が事業所に愛想をつかしてサービス利用契約を解約することは十分考えられる。したがって、サービス提供の拒否に正当な事由があるかということと、契約の解約に申立人が納得しているかということは、別次元の問題である。それにもかかわらず、その区別していない房川樹芳オンブズマンの判断は、何が問題であるかを十分把握していないように思われる。

また、市の権限行使のパターンの一つに、事業所に法令違反の疑いがある場合に、当該違反の存否を確認するとともに、違反があった場合にその是正を求めるということがある。そのため、たとえそれが申立人のためであるとしても、市が、「申立人も納得して契約の合意解約に至ったのか」という、法令違反に関わらない内容で事業所の対応に介入をした場合、事業所からオンブズマンに対し、市の介入が過剰であるという苦情が申立てられる可能性も否定できないであろう。

もっとも、市の権限行使の適否が一つの論点になるとしても、本件は、申立人は市が十分に自分の味方になってくれなかったと感じていることが、苦情申立の背景にあると思われる。そのため、市がその権限を適切に行使したとしても、こうした申立人の思いとのギャップを埋めるのは、実際のところ困難かもしれない。

なお、札幌市障害者総合支援法施行条例は、重度訪問介護にかかる指定障害福祉サービスの事業者が利用者またはその家族から苦情を受け付けた場合には、その内容について記録することが義務づけられている(同条例50条は同条例46条2項も準用)。また、事業者は、「利用者又はその家族からの苦情に関して」市又は市長による調査に協力する義務を課している(同条例50条が準用する同条例46条3~5項)。

そうすると、今回の市の対応は、申立人から苦情を受け、事業所に電話をかけて問い合わせるのみだった模様であることからすると、それ以前からの一連の経緯も含め、事業所が申立人からの苦情に関し適切に記録を作成・保管しているか等、市の事業所への調査が適切であったかということについて、オンブズマンが見解を示す余地はあったように思われる。

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①第2019−41号
 事業所から一方的に障害福祉サービスの利用契約を打ち切られたと主張する申立人から、そのことの不当性を訴えた市職員の対応等について、苦情が申し立られたケース。(担当オンブズマン:房川樹芳)

②第2019−48号
 特別障害手当受給の再認定の際に医師の診断書が必要とされることについて、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:杉岡直人)

③第2019−50
 札幌市外の医療機関の経理担当者から、札幌市に介護保険の主治医意見書作成料を請求した際、これまで提出を求められたことのない法人代表者の委任状が必要であるとの連絡を受けたとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:房川樹芳)

④第2019−51号
 企業所有のマンションにおいて入居世帯数の水道料金を支払えばよいところ、全世帯数の水道料金を支払っていたとして、過去10年間に過払いした水道料金の返還を求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

⑤第2019−60号
 市営住宅の入居者が、他の入居者から嫌がらせを受けているとして、市の対応を求めて苦情が申し立てられたケース。申立人の苦情取り下げにより、調査は終了している。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

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