2024/03/02

2024年1月に調査を終了したケース

2024年2月1日、2024年1月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、同年2月14日付で一部公開決定がなされた。

上記の期間(2024年1月)に調査を終了したのは4件で、このうち2件で調査結果が通知された。また、残る2件のうち1件は調査しない旨が通知され、1件は申立てが取り下げられた。

今回公開された調査結果通知書のうち、市道を走行中にタイヤが破損したとして苦情が申し立てられた第2023-46号が興味深い。この案件では、市は賠償することを認めたものの、申立人は市が主張する過失割合に納得がいかないとして苦情が申し立てられた。

ところで、道路管理の瑕疵により自動車が損傷したとして賠償を求めた案件は過去にもある。ある意味、典型的な苦情といえるかもしれない。当ブログでも紹介しているところ(第28-13号第29-80号第30-57号第2019-119号第2019-121号第2020-74号の6件。ただし確認もれの可能性あり)、これらの案件ではいずれも市は「賠償しない」という見解であった。

これに対し本件では、市は4割の過失を認めている。しかし、申立人はそれでは納得がいかないとして、100%の賠償のほか、破損したタイヤと同一の製品を探すことも求めて苦情を申し立てた。この点、当ブログ開設者は、申立人の主張はあまりスジがよろしくないという印象を受けた次第である(ただし、どのような主張をしようともそれは当事者本人の自由であることはいうまでもない)。

ところで、調査を担当した田村智幸オンブズマンは、「オンブズマンは、オンブズマン条例に基づき、中立公正な立場において市の業務に対する苦情について、市の対応の不備等を指摘する立場にありますが、本来的に司法手続きで判断されるべきことについて司法の判断を先取りするような意見を述べることはでき」ないとして、「過失割合の妥当性や市の道路管理責任について、オンブズマンの判断を述べること」をしなかった。当ブログ開設者は、このような田村智幸オンブズマンの判断は、具体的な過失割合について言質を取られることを避けようとした結果であろうと考えている。

しかしながら、田村智幸オンブズマンもいうように、札幌市オンブズマンは市の業務について、市の対応の不備等を指摘することをその役割とする。したがって、市が業務の一環として「今回の事例おける過失割合は4割である」と主張することについて、オンブズマンがその不備(のありなし)を指摘することは何ら妨げられるものではない、と当ブログ開設者は考えている。

つまり、司法機関は紛争解決のために最終判断を下すのに対し、オンブズマンは市の対応に改善の必要があるならばその点の指摘をするにとどまる。また、その指摘も強制力はなく、市がその指摘に応じるか否かは市の判断に委ねられている。そして、「過失割合」についてのオンブズマンの指摘を市が受け入れたとしても、市と申立人の間で合意が成立するとは限らない。オンブズマンが何を述べようとも、「司法の判断を先取り」することにはならないというのが、当ブログ開設者の考えるところである。

また、田村智幸オンブズマンは本件について「本来的に司法手続きで判断されるべきこと」であると述べているが、司法手続きの利用こそが紛争解決の「本来的」なあり方だと考えているならば、そうした評価は当事者合意に基づく自主的な解決の意義を著しく過小評価していると思われる。

むしろ考えるべきは、オンブズマンが沈黙することは結果として市の対応を黙認することになり、そうしたオンブズマンの姿勢が田村智幸オンブズマンのいう「中立公正な立場」といえるのか、ということであろう。

この点、市の対応に不備はないとオンブズマンが判断した場合、申立人からするとオンブズマンは市をひいきしており「中立公正な立場」ではないように感じられるかもしれない。しかしながら、少なくとも「不備はない」と判断する理由が明示される点はオンブズマンが「沈黙」した場合と決定的な違いがある。田村智幸オンブズマンは「紛争解決の落とし所」について見解を示すことを回避したが、オンブズマンの役割は市の主張の妥当性について見解を示すことなのではなかろうか。

以上、縷々述べてきたが、田村智幸オンブズマンと当ブログ開設者では札幌市オンブズマンの「制度観」に違いがあるのかもしれない。すなわち、田村智幸オンブズマンは、札幌市オンブズマンは行政と市民間の紛争を解決するADR(裁判外紛争解決手続)として理解する一方で、当ブログ開設者は、札幌市オンブズマンは住民自治の実質化を図るための制度であり、苦情を媒介とする行政と市民間のコミュニケーションチャンネルである、と考えているということである。この点については、機会があれば再論したい。

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①第2023-37号
 生活保護の受給者から通院時のタクシー代支給に関する担当ケースワーカーの対応をはじめとする一連の市職員の対応について苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

②第2023-46号
 市道を軽自動車で走行中にタイヤが破損したことに関し市の過失割合に関する説明に納得がいかず市職員の一連の対応にも問題があるとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

③第2023-47号
 有料老人ホームを運営する法人が市本庁の生活保護担当課から指導を受け無料低額宿泊所を開設したにもかかわらず、保護の実施機関である区の保護課から生活保護受給者の入居を認めないという連絡があったとして苦情が申し立てられたケース。調査開始後に苦情申し立てが取り下げられ調査が中止された。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

④第2023-49号
 生活保護受給者が親族の死亡により遺産を相続したところ遡及して保護費の返還を求められたとして苦情が申し立てられたケース。申し立ての取り下げにより調査は実施されなかった。(担当オンブズマン:原俊彦)

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