2026年6月2日、同年5月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、決定期間延長のうえ、2026年7月16日に一部公開決定がなされた。
上記の期間(2026年5月)に処理を完了したのは14件で、このうち9件で調査結果が通知された。また、残る5件のうち4件については苦情について調査しない旨が通知され、1件については苦情申立ての取り下げという扱いがなされている。
1.オンブズマンのその条例解釈は適切か
当ブログでは札幌市オンブズマンの「調査」 を紹介しているが、その意義の一つとして、「オンブズマンが何を理解していないか」が可視化されることがあると考えている。今回公開された第2026-12号(苦情について調査しない旨の通知書)もそんな案件である。
この案件では、家庭裁判所に保全処分を申し立てている本件苦情申立人が、当該保全処分の申立ての相手方に対する保健センター職員の助言が保全処分を執行不能にするおそれがあるとして、苦情が申し立てられた。
これに対し、調査担当オンブズマン梶井祥子は、「令和8年3月(非公開部分)日に判示された保全処分(非公開部分)については、(非公開部分)側の弁護士から、(非公開部分)を害するものであるとして、保全処分の執行に関する意見書が提出されており、この意見書において、(非公開部分)の発言が言及されていました。(改行)(非公開部分)の発言の有無は、現在係争中の事項に関与する内容であり、本件苦情申立ては条例第3条第1項第2号に該当すると考えます」として、調査しない旨が通知されている。
しかしながら、札幌市オンブズマン条例は、「オンブズマンの所轄事項は、市の機関の業務の執行に関する事項及び当該業務に関する職員の行為であって」、「判決、裁決等を求め現に係争中の事項」に該当しない事項についてオンブズマンの所轄外である旨を規定する(同条例3条本文および同条2号)。つまり、オンブズマンの所轄事項に該当する事項であっても、当該事項について「判決、裁決等を求め現に係争中の事項」である場合には、オンブズマンの所轄外になるということである。
この点、本件苦情の前提事実は、本件苦情申立人は家庭裁判所で相手方と係争中ということである。したがって、「判決、裁決等を求め現に係争中の事項」は、あくまで家事関係の紛争なのであり、市の機関の業務に関する事項、あるいは市の機関の業務の執行に関する職員の行為について係争中であるわけではない。
つまり、本件苦情で申し立てられているのは、本件苦情申立人の保全処分の相手方に対する保健センター職員の対応の適否であり、当該職員の対応は「市の機関の業務の執行に関する事項及び当該業務に関する職員の行為」として、なお、オンブズマンの所轄事項に該当すると思われる。
要するに、札幌市オンブズマン条例は、3条本文に該当する事項であっても同条各号に該当する場合にはオンブズマンの所轄外であることを規定しているのである。本件の調査担当オンブズマン梶井祥子は、3条本文を無視して3条2号に該当すること「だけ」を理由にオンブズマンの所轄外と判断したが、条例解釈を誤っているいわざるをえない(ただし、別の理由により「調査をしない」旨の判断が正当化される可能性はある)。
2.オンブズマンはその「事実」をどのように認定したのか
次に紹介する第2026ー7号は、令和7年度物価高対策臨時給付金に関する苦情である。申立人は札幌市からはがき(「支給のお知らせ」)が届いたが、そこに記載された振込口座の氏名が「旧姓名」であったことから、振込されない可能性を懸念してコールセンターに架電したのが苦情の発端である。
申立人は、市が「電子政府・マイナポータル・公金受取口座」の「公金受取口座」を利用すればいいところ、そうせずに古い情報で振込口座を指定したことについて苦情を申し立てた。また、「コールセンター」の対応にも不満を抱いた模様である(なお、この給付金に関する札幌市が開設したwebページはここ)。
さて、この案件が「おもしろい」のはここからである。本件調査の「市の回答」部分(および上記webページ)には、市がどのように本件給付金を迅速・確実に給付しようとする工夫が垣間見えるからである。つまり、すでに同種の給付金を支給している場合等にはその口座情報を利用することで、「手続不要」で給付を受けられるようにしたのである。
ただし、その際に数種の口座情報がある場合に備えて口座の順位づけをしたところ、申立人のケースでは、「旧姓名」の口座が申立人主張の「公金受取口座」よりも優先順位が高かった(ため、申立人が振込されない可能性を懸念した)わけである。
ところで、この案件の申立人がコールセンターに架電したのと苦情を申し立てたのは同日で、2026年4月16日である(苦情申立書に記載された「問い合わせ日」の日付による)。また、この日は当該給付金の支給期間の初日とされていることから(支給期間は2026年4月30日まで)、この時点ではまだ「旧姓名」の口座に振り込みがなされるか、申立人は未確認の状態であったと思われる。それにもかかわらず、申立人は「この状態であれば、書類を書く手間がかかった上、かなり遅い5月以降の給付金支給となる」と主張しているのである。
そして、この案件担当オンブズマン梶井祥子も、「申立人への本件給付金については、結果的に振込が通常より遅れることになりますが、何卒ご理解いただきたいと思います」という見解を披瀝している。
しかしながら、この案件の「市の回答」部分では、申立人に対する本件給付金の振込の帰趨についての言及はない。したがって、本件調査の担当オンブズマンの梶井祥子が申立人への給付金の振込が「通常より遅れることにな(る)」と断言した理由は「謎」である。
もちろん、申立人の苦情は、市が振込口座として「公金受取口座」を利用しなかったことが不適切だというものである。したがって、「旧姓名」の口座に振込できたかどうかは別の論点であり、担当オンブズマンの梶井祥子は、前者について調査すれば足りると考えたのかもしれない。
とはいえ、申立人はもともと、「口座名義が『旧姓名』であるために振込できないかもしれない」ことを懸念したのである。当ブログ開設者は、申立人が苦情において縷々主張する論点よりも、本件苦情のより「川上(かわかみ)」に近い不満に対しその帰趨を明らかにすることがオンブズマンに期待される役割であると考えている。個別案件の対応を契機として、制度運用のあり方を検討することにつながるからである。
3.そのほかの注目案件
この第2025-118号では、(市税を滞納しているために督促を受けた申立人が)納付書の発送について市税事務所に問い合わせをした際、職員が具体的な郵送状況を確認しないまま「文書を発送している」の一点張りだったとして苦情が申し立てられた。具体的に確認していれば申立人が複数回にわたり電話連絡をしたり、市税事務所を訪問して納付することを余儀なくされることもなかった、というわけである。
この点、市の回答では、申立人から電話の際に「納付書の郵送状況を正確にお伝えできていれば、申立人には市税事務所にお越しいただくことなく、納付書の到着を待って市税を納付していただくことも可能であったものと考えます」として、対応のまずさを認めている。
また、上記第2026-7号では、市の回答に「支給のお知らせ」に記載されていた口座への振り込みができたか否かについての言及がないのに対し、この第2025-118号の市の回答によると、「担当課にて、特定記録郵便で発送した納付書について、同月19日15時41分に申立人の自宅へ投函されていることを日本郵便公式ホームページの追跡調査にて確認(した)」ということである。
なお、この「3月19日」という日付は、申立人が市税事務所を訪問して滞納していた市税を納付した日である。その3日後の同月22日に苦情が申し立てられたことからすると、申立人をあざ笑うがごとく納付書が配達されたことで、申立人は不満を増幅させたのかもしれない。のみならず、このような「市の回答」における「負け惜しみ」がましい説明も、申立人が不快に感じる可能性がある。
このように、第2025₋118号の市の回答における配達日についての言及は「負け惜しみ」の感が強いものの、苦情化した事実関係以後の事実として──とりわけ、滞納している市税をできる限り早く納付しようとした申立人にとって皮肉であることが──興味深い。
それは、札幌市オンブズマン制度の存在意義の一つとして、札幌市職員がどのような業務をどのように遂行しているかを可視化することがあると当ブログ開設者は考えているからでもある。
-------------------------------------------------------------------------------------------------
①第2025-101号
生活保護受給者がケースワーカーから受けた「指導」に不満を覚えて苦情が申し立てられたケース。申立人は制度一般についての説明を保護廃止につながる指導であると受け止めた模様。(担当オンブズマン:神谷奈保子)
②第2025-110号
生活保護受給者が障害年金受給に関し診断書を提出しているかをケースワーカーに問い合わせたことに関する当該ケースワーカーの対応について苦情が申し立てられたケース。申立人に対しては過去に障害年金の受給手続きをするよう指導がなされていた模様。(担当オンブズマン:梶井祥子)
③第2025-111号
申立人が中央図書館のインターネット閲覧席を利用した際に離席していたところ、職員から高圧的な対応をされたとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)
④第2025-112号
申立人が病院を受診した際、(おそらく申立人の状況を確認するために)当該病院を訪問した保健福祉課職員の対応に不信感を抱くとともに、その際の状況を記録した文書の内容が誤りであるとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:樋川恒一)
⑤第2025-114号
地下鉄駅出口付近の「溝」に足を取られて転倒し負傷した申立人が、交通局の一連の対応に不満を覚えるとともに、補償を求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:梶井祥子)
⑥第2025-118号
(市税を滞納しているために督促を受けた申立人が)納付書の発送について市税事務所に問い合わせをした際、職員が具体的な郵送状況を確認しないまま「文書を発送している」の一点張りだったことから申立人が複数回にわたり電話連絡をしたり、市税事務所を訪問して納付することを余儀なくされたとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)
⑦第2025-119号
法務局から取得した婚姻届に「戸籍の訂正」がなされた記録が残っていたことから「除籍謄本」や「改製原戸籍」を取得しようとしたが取得できず、情報公開も受けられなかったとして苦情が申し立てられたケース。オンブズマンが申立人と面談した際に確認した文書からは「戸籍の訂正」が行われた事実を確認できないため「苦情申立ての原因となった事実についての利害は認められ(ない)」として調査しない旨が通知された。別件で第2025₋126号の申立てもなされている。(担当オンブズマン:樋川恒一)
⑧第2025-120号
生活保護を受給している申立人が、収益化を目指すフリーランスの活動をしているにもかかわらず担当ケースワーカーから就労指導を受ける等、担当ケースワーカーの一連の対応について苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)
⑨第2026-122号
市立札幌病院に入院していた申立人が、退院手続き時に対応した職員の話し声が大きく個人情報が漏えいされそうになったことや、別の日に受診した際の受付票に不審な文字(その内容は非公開情報とされている)が記載されていたことについて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:樋川恒一)
⑩第2025-126号
申立人は令和4年に北海道から「本人情報確認書」を取得したところ平成17年12月27日以前の記録が記載されていなかったが、申立人の知らぬ間に「戸籍の訂正」がなされていた件で「戸籍の訂正」がなされる以前の「本人確認情報」を取得しようとしてできないとして苦情が申し立てられたケース。本件申立ては(札幌)「市の機関の業務の執行」に該当せず、「戸籍の訂正」が行われた事実も確認できないとして調査しない旨が通知された。第2025-119号の申立人による申立て。(担当オンブズマン:樋川恒一)
⑪第2026-7号
令和7年度札幌市物価高対策臨時給付金に関するはがき(「支給のお知らせ」)が届いたところ、そこに記載された振込口座の氏名が「旧姓名」であったことから振込されない可能性を顧慮してコールセンターに連絡したが、そもそも「電子政府・マイナポータル・公金受取口座」を利用していればこのようなことにはならなかったとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:梶井祥子)
⑫第2026-12号
家庭裁判所に保全処分を申し立てている本件苦情申立人が、当該保全処分の申立ての相手方に対する保健センター職員の助言は保全処分を執行不能にするおそれがあるとして、苦情が申し立てられたケース。本件苦情申立てが「現在係争中の事項」というオンブズマンの所轄外の事項に該当するとして調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:梶井祥子)
⑬第2026-14号
区体育館の利用者が従来利用してた曜日を一方的に変更されたとして苦情が申し立てられたケース。その後の体育館との話し合いで問題が解決されたとして苦情申立てが取り下げられた。(担当オンブズマン:樋川恒一)
⑭第2026-18号
旧常盤小学校の公募型提案売却に関し、札幌市が行った申立人に対する説明や申立人が行った公文書公開請求に対する文書の開示の範囲が不十分であるとして苦情が申し立てられたケース。公文書公開請求に対する対応については申立人はすでに審査請求を行っており、説明が不十分であるという点については回答義務違反や説明義務違反の主張をするものではなく「申立ての原因となった事実に事実についての利害」が認められないとして調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:樋川恒一)