2022/04/28

2022年3月に調査を終了したケース

 2022年4月1日、同年3月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、2022年4月15日付で一部公開決定がなされた。

上記の期間(2022年3月)に調査を終了したのは12件で、このうち10件で調査結果が通知されている。また、残る2件のうち1件は調査をしない旨が通知され、1件は申立人の取り下げによる調査中止により、調査は実施されなかった。

さて、今回交付分の案件で最も興味深いのは、札幌市の指定管理施設の元職員が、当該施設においてハラスメント受けていたことを市に訴えても十分な対応がなされなかった、という苦情が申し立てられた第2021-106号である。

この案件において特に興味深いのは、以下の2点である。第1の点が、指定管理者に対する市の権限についての市の回答の内容であり、第2の点が、調査担当の原俊彦オンブズマンによる判断の視点の狭隘さである。

まず、第1の点である。市の回答によると、地方自治法244条の2第10項は、地方公共団体の長又は委員会による、指定管理者の「管理の業務」についての調査・報告・指示の権限を規定している。また、当該指定管理者における「管理業務仕様書」には、「労働関係法令の順守」が規定されている、ということである。

このことを前提に、市は申立人からのハラスメントの申出を受け、当該指定管理者に対し、ハラスメントの事実関係及び関係法令及び就業規則等に基づいた対応ができているかについて、調査・報告を行うよう指示している。これは要するに、札幌市は、指定管理者の内部的な労務管理も、当該指定管理者の「管理の業務」として、市の調査等の権限行使の対象になると考えているということである。

この点、今回の苦情の事実関係からすると、ハラスメントの時点における当該指定管理者は、未だ労働施策総合推進法が定める事業主の「措置義務」は適用となっていない模様である(中小事業主については2022年4月1日から適用)。しかしながら、市は当該指定管理者に対し、同法が規定する「措置義務」の内容に準じた調査を実施しており、このような市の対応は、かなり積極的なものであると評価することが可能であろう。

その一方で、労働関係の専門機関ではない市にとっては、法令違反について公表がなされたような事例であればともかく(たとえば、労働施策総合推進法33条2項参照)、「労働関係法令の遵守」についての判断は、困難が伴うと予想される。

で、あるならば、仕様書記載の「労働関係法理の順守」とは、指定管理者が使用者として法令遵守の義務を負う当然のことを記載したに過ぎず、将来的に市が指定管理者を選定する際、「労働関係法令の順守」の状況が考慮要素の一つとなるに過ぎない、と位置づけるのが適切という評価も可能であると思われる。

また、「指定管理者による管理を継続することが適当でないと認めるとき」には、指定の取り消しや、業務の全部または一部の停止を命じる権限も規定されているものの(地方自治法244条の2第11項)、労働関係法令の順守の状況を理由としてこれらの処分がなされるのは、よほど悪質なケースに限定されるであろう。

そして、このような理解をするならば、今回の申立人のようなケースでは、市の対応としては、指定管理者に対する調査権限を行使するよりも(※調査を実施してはいけないという趣旨ではない)、申立人に対し、労働関係法令に基づく権限を有する機関についての情報提供を行うことで当該機関への対応を促す、あるいは、個別的な労使紛争の解決機関についての情報提供を行い、労働契約の一方当事者である申立人の次の行動を促すことが、「法令順守」の実効性を高めるとともに、申立人のニーズにも沿った対応になると思われる。

続いて、第2の点である。まず、原俊彦オンブズマンは、「市は、独自の責任において事実調査を行い、必要に応じて指定管理者」を指導すべきであると述べる。その上で、「本件調査のポイントは、市が指定管理者に対して法令などの規定に従って適切に対応したかどうかにある」と論ずる。この見解によれば、「法令などの規定に従って適切に対応したか」が問われるのは「指定管理者」ではなく、「市」であることになる(※市の調査権限が適切に行使されたかを問う趣旨に読めるが、オンブズマンがどこまで自覚的であるかは不明)。そのためであろうか、指定管理者が順守すべき「労働関係法令」については、全く引用・参照されていない。

また、原俊彦オンブズマンの判断は、当該指定管理者が本件の申立人の「使用者」として労働関係法規に基づく責任を負う主体であることや、当該法令を遵守させるためのメカニズム、さらには、個別労働者が利用可能な紛争処理システムといった、諸々のしくみに対する視点が一切欠けている。おそらく、今回のようなケースにおいて、申立人が市に対応を求めるのはスジがあまりよろしくない、という問題意識も希薄なのだと思われる。

結局、原俊彦オンブズマンは、「申立人が訴えている窮状は労働関係法令の順守や雇用環境の維持向上に関わることであり、さらにもう一歩踏み込んだ、秘匿性を考慮した工夫のある調査や指示を検討し実施する余地はあった」と判断するものの、このような判断は、本件において指定管理者が順守すべき労働関係法令が具体的に何を指すのかが不明であるばかりか、指定管理者が労働関係法令を遵守することについて、市に過大な期待を寄せる無いものねだりであると、いわざるを得ないであろう。

以上が今回公開された案件のうち、最も興味深い事案についての当ブログ開設者の考えるところであるが、原俊彦オンブズマンが調査を担当した案件としては、雨水貯留池への投雪に関する苦情が申し立てられた第2021-96号の判断において言及している内容も、その妥当性は疑わしい。

すなわち、原俊彦オンブズマンは、「安全管理上、許可されるかどうかはわかりませんが」という留保の下、雨水貯留池を児童公園などと同様に周辺住宅の雪捨て場とする可能性について言及する。

しかしながら、こうした言及をするならば、本件調査において安全管理上の問題についても市に説明を求めた上で行うか、別途、オンブズマンが自己の発意による調査を実施すべきであろう。こうしたオンブズマンの要望は、調査対象部局に対する不意打ち以外の何物でもないと思われる。

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①第2021-83号
 保護課の担当者が訪問日を一方的に決めて変更予定を聞き入れず、その際、ケースワーカー以外の職員まで入室してきたとして、苦情が申し立てられたケース。申立人が申し立てを取り下げたため、調査は実施されなかった。(担当オンブズマン:田村智幸)

②第2021-94号
 国民健康保険の保険料を過払いしたが返還されなかったり、返還されるにしても返還まで時間がかかったこと等について、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

③第2021-95号
 自宅マンション前の除雪がなされた後、1階居室の窓が雪で埋まり換気ができなくなったため市に排雪を求めたが対応されず、その後の一連の対応にも問題があるとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

④第2021-96号
 市の雨水貯留池に投雪する市民がいるために市の担当課に対応を求めているが十分な対応がなされないとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

⑤第2021-97号
 生活保護の受給者が自動車使用禁止の指示書の交付を受けたことや、職員が対応した際の発言内容等について、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑥第2021-100号
 通院時のタクシー代の支給が1週間単位の事後支給であることについて生活保護受給者からの苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

⑦第2021-101号
 通所している作業所の職員が申立人にとって知られたくない個人情報を当該作業所を訪問した申立人の友人に漏洩したことについて、市の障がい福祉課による当該作業所に対する指導が不十分であるとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑧第2021-102号
 さる団体が発行する広報誌について、市の経済観光局が印刷・発送にかかる経費を負担しているところ、内容に問題がある広報紙が発行されたことについて市の対応が十分ではなかったとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

⑨第2021-103号
 さる団体が発行する広報誌において名誉を傷つける内容が記載されたにもかかわらず、当該広報誌の発行に関与する市の経済観光局の対応が十分ではないとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

➉第2021-106号
 市の指定管理施設で嘱託職員として勤務していた申立人は他の職員から嫌がらせを受けてきたところ、指定管理施設の職場環境が劣悪なことについて、市が指定管理者に対する指導を行うなど適切な対応をとることを求め、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

第2021-107号
 申立人の息子が通うデイサービスの事業者に対し指導を行うよう市に求めた際、対応した職員の対応が高圧的であったとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

⑫第2021-109号
 札幌市の市営住宅の通年募集について、電子申請を可能にすること等を求めて苦情が申し立てられたケース。札幌市外に居住し、市営住宅への入居希望者でもない申立人は「申立の原因となった事実について利害を有さない」として、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

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