平成30年7月1日、同年6月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、7月17日に一部公開決定がなされた。
上記の期間(平成30年6月)に調査を終了した案件は全9件で、このうち6件で、調査結果が通知されている。また、2件が調査しない旨の通知、1件が申立人の取り下げにより、調査が終了している。
①第30−1号
自宅周辺の歩道の修繕のあり方及びその件に関する職員の対応について苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:房川樹芳)
②第30−2号
児童相談所の職員の対応について苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:岩田雅子)
③第30−3号
除籍謄本を請求した際の委任状の取扱い及び職員の対応について苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:杉岡直人)
④第30−4号
固定資産税の延滞金の取扱いについて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:杉岡直人)
⑤第30−5号
児童相談所が子どもを一時保護したことに関し苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:房川樹芳)
⑥第30−7号
札幌市住宅エコリフォーム補助制度の適用を申請したが対象外とされたことについて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:岩田雅子)
なお、同制度について詳しくはここを確認されたい。
⑦第30−8号
障害程度区分認定に関し、区保健福祉課の職員の対応について苦情が申し立てられたケース。苦情申し立ての原因となった事実が1年以上前のことであるとして、苦情について調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:杉岡直人)
⑧第30−9号
保健所に設置された医療安全支援センターの対応等について苦情が申し立てられたケース。苦情申し立ての原因となった事実が1年以上前のことであるとして、苦情について調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:杉岡直人)
⑨第30−16号
障害児相談支援費の不正受給に関し、返還の意思があるにもかかわらず行政処分を言い渡されたとして苦情が申し立てられたケース。申立人が苦情申し立てを取り下げたことで、調査が終了している。(担当オンブズマン:房川樹芳)
今回公開された結果通知書のうち、特に注目されるのが、①第30-1号である。それは、オンブズマンの判断が、理論的正当性・妥当性を欠くように思われるからである。
すなわち、本件調査においてオンブズマンは、道路に瑕疵があった場合に市が道路を管理する責任を国家賠償法2条1項から導くとともに、道路に瑕疵があった場合には、直ちに補修しないと国賠法2条1項の責任が問われることになると論じている。
しかしながら、国賠法2条1項は、営造物の瑕疵により「損害」が発生した場合における国及び公共団体の賠償責任の規定である。したがって、この条項から市に道路を管理する責任が生じるという理論的根拠は不明である。
また、道路に瑕疵があった場合には、直ちに補修しないと国賠法2条1項の責任が問われる、という理論も、国賠法2条1項から道路を管理する責任が導かれるという前述のオンブズマンの理論を前提とするならば、「直ちに補修しない」ことを条件とするまでもなく、道路を補修する責任が生じるのではないか。あるいは、ここでいう「国賠法2条1項の責任」が賠償責任を意味するならば、損害の発生を条件とせずに賠償責任が生じることになるのであり、いずれにせよ、理論的妥当性に欠けると思われる。
さらに、本件調査におけるオンブズマン判断は、一般論として、道路に瑕疵があった場合の道路管理の責任を論じているにもかかわらず、今回の苦情に対する個別具体的な判断においては、”瑕疵”の存否について一切論じていない。したがって、一般論と具体的判断の間には齟齬があると言わざるを得ない。
ところで、道路法42条1項は、道路の管理者が道路を適切に維持管理する責務を規定している(同項は、道路を常時良好な状態に保つように維持、修繕することを要請している。)。これに対し、オンブズマンのいうように、「道路に瑕疵があった場合に道路を管理する責任が生じる」のでは、日常的な道路管理の水準を引き下げるおそれがあるように思われる。道路に瑕疵が生じてから管理するのでは、対応が遅きに失するのではないか、ということである。
以上の次第で、この案件におけるオンブズマンの判断は、①国賠法2条1項から導かれる責任の具体的意味内容(道路管理責任か賠償責任か)、②市が道路管理の責任を負う法的根拠(国賠法2条1項か道路法42条1項か)、③求められる道路管理の水準(瑕疵の補修か「常時良好な状態に保つ」か)の3点において、理論的正当性・妥当性を欠くと当ブログ開設者は考えている。
換言すると、道路の瑕疵により損害が発生した場合の始末のつけ方の問題と、日常的な道路管理がどのように行われるべきかという問題を区別して論じる必要があるにもかかわらず、この案件では、オンブズマンが前者の問題から後者の問題を論じようとしため、その判断が理論的「瑕疵」を抱えることに陥った、ということである(オンブズマンは道路管理の「瑕疵」に関する裁判例を縷々引用するけれど、本件に関連するのは、求められる道路管理の水準という「傍論」である)。
したがって、オンブズマンはむしろ、まず一般論として、①道路は常時良好な状態に保つよう維持、修繕がなされるべきところ、そこには人員・予算等の制約が伴うこと、②道路の維持修繕には、道路の劣化が進行してから修繕が行われる「事後対応型」と、点検を定期的に行い致命的欠陥が発現する前に速やかに対策を講じる「予防保全型」があること、③道路の管理者による点検には限界があることから、それを補う市民による通報が期待される、ということを論じたうえで、そのことを前提に、今回の市の対応について、実施された道路改修の適切さと(①のレベルの対応)、道路の修繕を要望した市民への対応の適切さ(③のレベルの対応)について、判断を示すべきであったと思われる。
かつて、その苦情申し立て、ちょっと待った!と題するエントリーで、「オンブズマンに苦情を申し立てるには、それに先だち、オンブズマンが十分な調査を行うことができるか、・・・(中略)・・・等、慎重に検討することが求められるであろう」と書いたことがあるが、残念ながら、オンブズマンの調査能力に対するこうした懸念は、単なる杞憂ではなかったようである。
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