2021/04/27

2021年3月に調査を終了したケース

2021年4月1日、同年3月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、同年4月15日付で一部公開決定がなされた。

上記の期間(2021年3月)に調査を終了したのは12件で、このうち9件で調査結果が通知されている。また、残る3件中1件で調査しない旨が通知され、2件は申立人による苦情取り下げにより、調査は終了している。


ところで、今回公開を受けた案件は、”眠れるオンブズマン”こと原俊彦オンブズマン(「眠れるオンブズマン」の愛称の由来は、このエントリー及びこのエントリーを参照されたい)が、申立人の苦情の内容や市の調査対象部局による説明を理解する能力に乏しいことが顕著に現れている点で、きわめて興味深い。

まず、オンブズマンが申立人の苦情の内容をどの程度理解しているかについてである。第2020-66号は、紙媒体(及びweb)による一般向けの情報提供に関与している(と思われる)申立人が、札幌芸術文化劇場の職員から、記事の「校正」を申し入れられたことに端を発する苦情である。

調査を担当した原俊彦オンブズマンは、「本件における『校正』の依頼が、憲法21条第1項及び第2項に抵触する事前検閲を意図したものであるという申立人の主張について、その事実を確認できませんでした。」と判断している。

しかしながら、そもそもの申立人の主張は、校正の申し出が「事前抑制の禁止」に抵触しかねない、あるいは、「検閲及び事前抑制の禁止に抵触するおそれがある」というものである。したがって、申立人は、オンブズマンがいうような「事前検閲を意図したものである」という主張を行っているわけではないことからすると、オンブズマンが、申立人の苦情を正確に理解しているとは言い難いように思われる。

もっとも、憲法21条2項が禁ずる「検閲」が何を意味するかについては、論者の間でも見解の対立が存する。また、申立人の主張に揺らぎがあるのも事実であり、申立人は、市の担当部局に対し、憲法21条2項が「事前抑制」を禁じているという主張が記載されたメールを送信する一方で、苦情申立ての趣旨には、憲法21条1項及び2項が「検閲及び事前抑制の禁止」を規定するという主張が記載されている。したがって、申立人が「検閲」と「事前抑制」の関係をどのように考えているのかは、必ずしも明らかではない(「検閲」を禁ずる旨の憲法の規定は21条2項である)。

これに対し、オンブズマンは、申立人が「事前抑制」という用語を使用しているにもかかわらず、何故にか「事前検閲」という用語を使用している。オンブズマンが「事前検閲」という用語を使用した理由は不明であるとともに(「事前抑制」と取り違えたのであろうか?)、オンブズマンがいう「事前検閲」の意味するところも不明である。

また、オンブズマンは、「写真のクレジット表記やトリミングの有無を確認する」ことは、憲法21条1項及び2項に抵触しないと判断するが、公的機関が「著作権保護」の目的であれ、表現活動について事前に確認することは、なお「事前抑制の原則禁止」との関係が問われることになると思われる(たとえば、「著作権権侵害」を理由として出版差し止めを求める訴訟であればどうか)。したがって、オンブズマンの判断は、申立人が苦情を申し立てた、「地方公共団体やそれに準ずる団体」が事前に「校正」を求めることへの疑義に対する回答としては、不十分であるといわざるを得ない。

なお、当ブログ開設者は、本件において札幌文化芸術劇場は、公的機関としての立場で確認を求めたのではなく、著作権者に代理して事前に著作権が侵害されていないことの確認を求めたと解する余地があると考えている。

次に、市の説明の理解についてである。第2020-75号は、保育所入所選考に際する「利用調整基準」についての苦情である。

調査を担当した原俊彦オンブズマンは、「市の説明によれば、保育所等の申込児童数が、利用の要請を行った施設の利用定員を上回る場合には、国の通知(※当ブログ開設者注・いわゆる「留意事項通知」を指すと思わる。)に従い、保育の必要性の高い順に利用調整を行うこととされており、さらに、国による基準の他に、詳細な利用調整基準については、各自治体に一定の裁量があるということです。」と述べるが、苦情等調査結果通知書の「市の回答」には、このような説明は記載されていない。

すなわち、市の回答は、①保育所入所選考に際する優先事項の対象事項が「留意事項通知」に例示されていること、②札幌市の「利用調整基準」は、原則として「留意事項通知」に基づいて作成した上で、適宜、優先利用の項目や指数、利用調整基準表の構成等を制定及び改正している、というものである。このような説明が、何故に、オンブズマンのいうような、「国の通知に従い、保育の必要性の高い順に利用調整を行うこととされて」いる、となるのであろうか(また、市町村が保育の必要性の高い児童が優先的に利用できるよう調整する旨を規定するのは児童福祉法施行規則であって、「国の通知」ではない)。

この点、上記のようなオンブズマンの説明では、「留意事項通知」には法的拘束力があり、各自治体はこの通知に従う義務があるかのような印象を与えるが、「留意事項通知」には、当該通知が地方自治法245条の4第1項が規定する「技術的助言」であることが明記されており、法的拘束力がないことは明らかである(それに従うか否かは、各自治体の判断に委ねられる)。

のみならず、「留意事項通知」記載の優先事項の対象事項が「例示」であることは、市の回答においても言及されている以上、市が「利用調整基準」を作成するにあたって、「留意事項通知」とは異なる事項を優先事項の対象事項とすることが許容されるのは、理の当然である。

そして、本件苦情の申立人は、「留意事項通知」と札幌市の「利用調整基準」の齟齬を主張しているのであるから、それぞれがどのような法的性格のものであるかを踏まえておけば、オンブズマンが陥った「国の基準に従って利用調整を行う」という誤解を避けることができたと思われる。この点、「留意事項通知」は、前述したように「技術的助言」であることは前述した。そして、市の「利用調整基準」が行政手続法2条8号ロに定める「審査基準」である(この点は、市こども未来局の担当課に確認ずみ)。

したがって、当ブログ開設者の理解では、札幌市における保育所入所選考に際する利用調整は、札幌市が行政庁として定める「審査基準」(行政手続法5条1項)である「利用調整基準」に基づいてなされるものである(「国の基準に従って利用調整を行う」わけではない)。また、札幌市が「審査基準」たる「利用調整基準」を定めるに際しては、「技術的助言」(地方自治法245条の4第1項)である「留意事項通知」を活用した、ということになる。しかしながら、非常に残念なことなのだが、原俊彦オンブズマンには、こうした構造が理解できなかったのであろう。

以上の次第で、2件の結果通知書におけるオンブズマン判断を見てきたが、オンブズマン調査が原俊彦オンブズマンの手にかかると、どういうわけか、申立人はそんな主張はしていないという主張を行ったことになり、市もそんな説明は行っていないという説明を行ったことになったわけである。

もっとも、こうした原俊彦オンブズマンの判断も、申立人の苦情や市の説明について、市民が主体的・自律的に考え、理解するための格好の材料を提供しているという評価も可能であるかもしれない。札幌市オンブズマンの「無用の用」である。

このほか、原俊彦オンブズマンが担当した案件では、前述の第2020-66号において、通知書に「著作権」や「著作権法」についての言及があるにもかかわらず、【参照条文】には著作権法の規定が記されていない。どうやらオンブズマンは、条文を参照することもなく、著作権や著作権法について言及している模様である。

また、第2020-69号では、申立人が主張する所得証明書の提出日が1年以上前のことであるとして、オンブズマンは、「これ以上の事実関係を調査することができ」ない旨の判断を行っている。

しかしながら、「申立ての原因となった事実から1年を経過しているとき」(札幌市オンブズマン条例16条1項2号)には、その事項はオンブズマンによる「調査の対象外」となるのであり、「これ以上の事実関係」に至るまでの程度であっても、当該事項を調査することはこの規定に抵触することになる。

どうやらオンブズマンは、調査を実施する・しないという判断と、どの程度まで詳細な調査を実施するかという判断の区別がついていない模様である。この点、同条例同号後段は、「正当な理由があるときは、この限りでない」(同号後段)と規定している。たとえ詳細さを欠く調査であるとしても、すでに1年を経過している事実を調査するのであれば、オンブズマンは、その事実を調査する「正当な理由」を説明する必要があると思われる。

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①第2020−66号
 札幌文化芸術劇場hitaruから、媒体に掲載する記事の内容について「校正」を求められたことが、憲法21条1項及び2項(検閲及び事前抑制の禁止)に抵触するおそれがあるほか、校正を断って以来、取材を拒否されるようになった等の苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

②第2020−69号
 申請したはずの児童手当が支給されていなかったこと及び申請時に提出した所得証明書がその後どのように使われたか教えてほしいとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

③第2020−70号
 市立幼稚園の担任の教諭の言動に関する幼稚園の対応及び市幼児教育センターが文書による対応に応じてくれないこと等について、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

④第2020−71号
 生活保護の受給者が、厳しい就労支援をやめてほしいとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

⑤第2020−72号
 市民活動サポートセンターで利用しようとしたスキャナーが不調であったが、職員の誰もが利用方法がわからなかったとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

⑥第2020−74号
 市道のロードヒーティングが十分稼働していなかった結果事故が生じたとして、今後の事故防止対策をとることや金銭補償等を求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

⑦第2020−75号
 次女が認可保育所に入所できない旨の通知を受けたが、札幌市における認可保育所の選考及び利用調整の基準は正当性及び平等性に欠けるとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

⑧第2020−78号
 マイナンバーカードの発行手続き住所変更を同時に行った際、電子証明書暗証番号を変更する必要がある旨の説明を受けなかったことから、確定申告に不備が生じたとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

⑨第2020−81号
 市立高校に通学する高校生が、道路交通法に違反する危険な自転車運転をしているとして高校に改善を求めてきたにもかかわらず改善がなされないとして、指導の改善と徹底を求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)
⑩第2020−82号
 区役所の駐車場を利用した際に2時間無料になると説明を受けたにもかかわらず料金の支払いを求められたとして、苦情が申し立てられたケース。申立人の申立て取り下げにより、調査は終了している。(担当オンブズマン:田村智幸)
⑪第2020−85号
 札幌市の関係者による違法・悪質な行為が継続しているとして、苦情が申し立てられたケース。申立人の主張する行為が誰の行為であるのか特定できず、市の職員の行為であるか判然としないため、「市の機関の業務の執行に関する事項及び当該業務に関する職員の行為」に該当するとは判断できないないとして、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:原俊彦)

⑫第2020−86号
 新型コロナウイルス感染症の集中対策期間に飲食店の時短営業を行ったが、支援金について問い合わせ、回答を待っているうちに申請期間を過ぎたところ、申請期間の経過を理由に申請が受け付けてもらえなかったとして、苦情が申し立てられたケース。その後、担当課から申請期限を過ぎた場合の申請の受け付けについて検討するという回答があったとして、申立人が苦情申立てを取り下げたことにより、調査は終了した。(担当オンブズマン:田村智幸)

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