2024年1月1日、2023年12月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、決定期限延長のうえ、2024年2月9日付で一部公開決定がなされた。
上記の期間(2023年12月)に調査を終了したのは8件で、このうち7件で調査結果が通知された。また、残る1件は調査しない旨が通知された。
今回公開された調査結果通知書のうち、滞納していた固定資産税を差押予告書記載の指定納付期限までに電子納税したにもかかわらず差押調書が送付されてきたという苦情(第2023-42号)が興味深い。結論として市は対応の拙さを認めているものの、何が拙かったかという認識に難があるように思われるためである。
まず、市の税務担当部局では情報システムとして、「収納管理システム(①)」と「滞納整理システム(❷)」という異なったシステムがあり、差押通知書を発行する際には「滞納整理システム(❷)」を利用するようである(なお、「差押通知書」は差押債権の債務者に交付され、滞納者には「差押調書」が交付される模様)。
また、市税が電子納税された場合にはそれぞれのシステムにデータを反映させる必要があるところ、「収納管理システム(①)」と電子納税に関する「速報データ(③)」は連携している一方で、苦情の時点では「滞納整理システム(❷)」が未改修で「速報データ(③)」と連携していないなかった。そのため、「速報データ(③)」を出力した「エクセルデータ(④)」に基づいて「滞納整理システム(❷)」に手作業で入力する作業が必要な状況であった(現在は改修ずみ)。
ところが、「エクセルデータ(④)」を「滞納整理システム(❷)」に反映させる作業を担当職員が懈怠した結果、差押えに着手する段階で電子納税により滞納が解消していることが認識されず、「差押通知書」(および「差押調書」)が発送されることになった模様である。
なお、「滞納整理グループ」が差押えを実施する際(「差押通知書」の発送はその過程の一つ)の手順は、(1)納税担当職員が差押え起案時に「滞納整理システム(❷)」または「エクセルデータ(④)」で電子納税の状況を確認する、(2)差押え決裁時に(ア)担当係長が「滞納整理システム(❷)」により、(イ)担当課長が「エクセルデータ(④)」または「収納管理システム(①)」により電子納税の状況を確認する、(3)納税担当職員が「差押通知書」発送前に電子納税の状況を最終確認する、というものであった(なお、ここでいう「電子納税の状況を確認する」とは、結果通知書の「速報データの情報の有無を確認」という記述を換言したものである)。
以上の手順を前提とすると、たとえ「滞納整理システム(❷)」に「速報データ(③)」が反映されていなくとも、上記(2)(イ)の担当課長の段階で、「エクセルデータ(④)または「収納管理システム(①)」により電子納税がされている状況を把握できるはず、ということになる。逆にいえば、(1)の納税担当職員および(2)(ア)の担当係長の段階では「滞納整理システム(❷)」により状況確認をすることが(も)想定されており、当該システムに電子納税の情報が反映されていない「まさか」に事態に対処することは、そもそも期待できない手順となっている。
しかしながら、「市の回答」によれば(通知書9頁)、「債権等の差押えの事務処理を行う際の担当係長及び担当課長の役割は、担当職員が作成した書類の記載内容を確認することでありますが、本件では、いずれの役職者も所定の確認を怠っていた不適切なもの」なのだそうだ(下線は当ブログ開設者による付記)。
上述したように、「滞納整理システム(❷)」に「速報データ(③)」が反映されていなかったため、担当係長は所定の確認作業を行ったにもかかわらず、電子納付が完了している状況を認識できなかったのであり、市の回答の「いずれの役職者も所定の確認を怠っていた」という記述は正確さを欠くと思われる。当ブログ開設者は、確認作業を完全に怠った担当課長の失策を糊塗するため、担当係長が巻き添えを食らったと考えているが、いかにも気の毒であり、担当係長の士気が低下しないか懸念する。
また、「市の回答」(通知書5頁)では、「速報データ(③)」が「滞納整理システム(❷)」に反映されていなかったことについて、(滞納整理システム(❷)への)「「速報データ」の情報の入力が適切に行われているかについて、他の職員による確認を行うべきでありましたが、担当係長及び担当課長はそれに関して適切な指示を行っていませんでした」として、確認体制に不備があったことを認めている。
この点についても、担当課長による確認の段階で「速報データ(③)が「滞納整理システム(❷)」に反映されていないことを把握していれば、当該入力作業の完了を確認する作業が必要であることを認識できていたと思われる。したがって、担当課長が確認作業を怠ったことは、二重の意味で致命的な失策であった。
当ブログ開設者は、担当課長が確認作業を怠った理由や、そもそも職員が「エクセルデータ(④)」を「滞納整理システム(❷)」に反映させることを懈怠した理由を明らかにしない限り、具体的対策を講じることはできないと考えている(業務負担が過重でそこまで手が回らなかったのだろうか?)。本件ではすでにシステム改修が完了しているとはいえ、「職員への指導や注意喚起を行う」(通知書10頁)という「精神論」頼みでは、今後も「確認作業の懈怠」という同種の過誤が生じるおそれがあると考える。
なお、この案件を担当した田村智幸オンブズマンによると、「本件では、納税担当職員と上席者のどちらか一人だけでも「速報データ」を直接確認するという本来のルールを実行していれば、本件の事態が起こらなかったことが明らか」(通知書14頁)なのだそうであるが、このような記述からは、田村智幸オンブズマンがいう「本来のルール」について、オンズマン自身の理解が粗雑であることが見て取れる(なお、田村智幸オンブズマンがいう「速報データ」とは、「エクセルデータ(④)」を指すものと思われる)。
まず、すでに確認したように、納税担当職員の確認作業は「滞納整理システム(❷)」によることも想定されているほか、担当課長の確認作業も「収納管理システム(①)」によることも想定されている。したがって、「「速報データ」を直接確認する」ことが「本来のルール」であるという理解は誤りである(なお、田村智幸オンブズマンがいう「速報データ」とは「エクセルデータ(④)であろうことは前述)。
また、市の回答では、「速報データ」と「エクセルデータ」の文言が明確に使い分けられているが、これはおそらく「速報データ」本体は本庁にある財政局(税務担当)税制部納税指導課が保有しており、そこから各市税事務所に「エクセルデータ」が提供されるためであるというのが当ブログ開設者の理解である。
そうすると、田村智幸オンブズマンがいう「速報データ」が「エクセルデータ」を意味するのではないとするならば、「「速報データ」を直接確認する」ためには、各市税事務所の職員はその都度、本庁の納税指導課を訪問しなければならないことになる。しかし、そうした煩わしさを避けるために「エクセルデータ」の提供がされているわけである。本件のような事態を避けるために必要だった作業は「速報データ」を直接確認することではなく、(市の回答の用語を用いるならば)「「速報データ」の情報の有無を確認する」ことであった(なお、前述のように当ブログ開設者は「電子納税の状況を確認する」と表記した)。
それからもう1点、田村智幸オンブズマンの判断には、「差押えの対象物が「給与」という勤務先から申立人に支払われる債権であり、その性格上、勤務先から申立人への給与の支払を禁止する命令であることから・・・(以下略)」という記述がある。このような記述は、賃金全額の支払いが禁じられるかのように読めるのだが、もしかすると田村智幸オンブズマンは法律専門職の弁護士という肩書を有しながら、残念なことに差押禁止債権をご存知ないのかもしれない。
すなわち、賃金債権の差押えは労働基準法24条の「賃金全額払い」の例外として、使用者は当該差押え額を控除して賃金を支払うことが認められる。その一方で、本件における固定資産税の場合には、地方税法373条7項が国税徴収法の規定を準用することを規定し、同法76条は差押禁止債権を規定する。したがって、この差押禁止債権に該当する賃金については、使用者はなお労働者に対し支払わなければならないことになる。賃金債権の差押えが「勤務先から申立人への給与の支払いを禁止する」というのは、いかにも正確さを欠く粗暴な記述と思われる(なお、民事については、民事執行法152条1項参照)。
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①第2023-35号
身体障害のある市営住宅の入居者が駐車場の割り当てに際し障害者への配慮に欠けるとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)
②第2023-36号
土砂災害警戒地域に指定された道路ののり面上端にある申立人所有地の管理について札幌市の複数の部署に相談しているが総合的な対応がなされないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)
③第2023-38号
自宅前の道路が舗装されたことで歩道部分に傾斜がついたことや車両乗り入れ部の平らな縁石の本数が家により違いがあるとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)
④第2023-40号
生活保護受給者がこれまでとことなりケースワーカーが事前の約束なしに家庭訪問をするようになったとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)
⑤第2023-41号
タクシー運転手の申立人から公園のトイレが冬季に閉鎖されることについて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)
⑥第2023-42号
滞納している固定資産税を差押予告書記載の指定納付期限までにpaypayで電子納税したにもかかわらず差押調書が送付されてきたとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)
⑦第2023-43号
全世帯数にくらべて町内会に加入する世帯数が少なすぎるのは何らかの不正が行われているからに違いないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)
⑧第2023-45号
市職員が配偶者の収入が増えたことで共済組合から被扶養者として取り扱われなくなったことについて苦情が申し立てられたケース。共済組合の行う決定や処分は「市の機関の業務の執行」に該当しないとして調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:神谷奈保子)
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