上記の期間(2024年9月)に処理を終了したのは5件で、このうち3件で調査結果が通知された。また、残る2件は調査しない旨が通知された。
今回調査結果が通知された3件のうち、2件の前提となる事実関係が興味深い。まず第2024-34号は、2度にわたり救急搬送が受けられなかったという苦情である。申立人が119番通報したが、在宅療養中の搬送対象者は同居の「キーパーソン」と主治医の間で「自宅で看取る」方針が決まっていた模様である。申立人と「キーパーソン」間の意向が一致せず、救急隊が振り回される格好になった。救急通報された他の事案の対応に影響を及ぼさなかったか懸念される。
つづいて第2024-41号は、長期にわたり国外に住所を有する人物から「所得証明書」の取得を委任された申立人が、取得窓口における「本人確認」の方法について苦情を申し立てた事案である。苦情の論点からずれるのだが、国外に住所を有し国内に住民登録をしていない人物がいかなる事情で「所得証明書」を必要としたのかということや、札幌市が取得窓口となった事情、さらにはそもそも国外に住所を有する人物の「所得」を日本国内で把捉できるのか等、苦情の前提となる事実に当ブログ開設者は興味を抱いた(ただし、残念ながら調査結果通知書からはそれらの事情は不明である)。
その一方で、今回「調査しない旨」が通知された2件は、札幌市オンブズマンのあり方を考えるうえで課題を残したように思われる。すなわち「調査しない」旨を通知するにしても、申立人にとって有益と思われる情報提供をする余地があったのではないか、と当ブログ開設者は考えるからである。その意味では、札幌市オンブズマンの「アカウンタビリティ」軽視の傾向が現れているのかもしれない。
まず、担当課が適切な権限行使をしなかったために会社乗っ取りにあったと申立人が主張する第2024-43号である。この案件の事実関係は不明であるが、調査を行うことで、①申立人から「担当課」に対する要望や問い合わせはなされたか、②「担当課」が権限行使するような事実関係にあるか、③今後「担当課」が何らかの対応をする余地はあるか等、申立人の不満に対する市の見解を明らかにすることができたと思われる。
もっとも、本件においては、申立人が「市はやるべきことをやっていない」と主張するのみで、オンブズマンが調査対象とすべき「担当課」自体が明らかでなかった可能性もある。
そうした場合、本件で調査担当オンブズマンは申立人に面談したようであるから、申立人の考える「担当課」を尋ねるなり、「通知書」で申立人に対し「担当課」に問い合わせるよう助言してもバチは当たらないと思われるのだが、調査担当のオンブズマンとしては調査しない理由を考えるのが精いっぱいだったのかもしれない。
続いて、第2024-45号は、生活保護を受給する申立人が利用する介護事業所や受けるサービスの見直しが急務であると考え、生活保護の担当課と他の課が同席しての面談を求めているにも関わらず実現しないことから、札幌市の行政の組織性、体制、姿勢等の問題点を適切に調査することを求めて苦情を申し立てた案件である。
申立人もずいぶん大きく出たものだが、調査担当オンブズマンは申立人に「申し立ての原因となった事実に利害がない」ことを理由として調査しない旨を通知した。しかし、である。オンブズマンが調査をしなかったため、「介護事業所やサービスの見直しをしたい」という申立人のそもそもの要望は手つかずのままになった。
このような場合、調査担当のオンブズマンはどのような苦情であれば調査が可能か、たとえば「介護事業所やサービスの見直し」という申立人の要望の実現可能性を調査対象部局に問い合わせる形ならば調査可能である(と当該オンブズマンが考えるならば、ではあるが)といった形で、通知書で申立人に情報提供するのが適切ではないかと当ブログ開設者は考えている。
以上の次第で、当ブログ開設者は、オンブズマンによる申立人(を含む市民)に対する「説明」や「情報提供」は、申立人自身の行動を喚起するという観点から「市民の意向が的確に反映された市政運営に資する」(札幌市オンブズマン条例1条)と考えている。換言すると、オンブズマン自身に求められる「アカウンタビリティ」ということができるかもしれない。
こうした前提に立つならば、今回調査しない旨が通知された案件においては、オンブズマンは調査「できない」あるいは調査「しない」理由を説示するよりも、どのような「苦情」であればオンブズマン制度ですくい上げることが「できる」のか申立人に対し情報提供したり、場合によってはオンブズマンが適切に調査を行えるように申立人に協力を要請するといった対応が期待されるのではなかろうか。
もっとも、現在の札幌市オンブズマンは調査に取り組む際、申立人の「利害」について、実体的な「利害」に重きを置き、適切な説明を受けるという「利害」については軽視する傾向にある。まずはこうした対応を改め、適切な説明を受けることの意義を捉え直すことが必要であると当ブログ開設者は考える。
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①第2024-34号
申立人が2度にわたり(おそらく親族の)傷病者の救急搬送を求めて119番通報をしたが2度とも受け入れ先が見つからずに救急搬送されなかったとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:梶井祥子)
②第2024-38号
札幌市から中島公園テニスコートの管理の許可を受けた札幌テニス協会がテニスコートを適切に整備・管理していないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)
③第2024-41号
本人から所得証明書の取得を受任した申立人が、対応した窓口の職員が申立人の意に反して「本人確認書類」のコピーを取ったとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:梶井祥子)
④第2024-43号
市の担当課が「会社乗っ取り」を是認して適切な権限行使をしなかったとして苦情が申し立てられたケース。「調査することが相当でない特別の事情がある」と認められるときに該当するとして調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:田村智幸)
⑤第2024-45号
生活保護受給者が利用する事業所や受けるサービスの見直しが急務と考え、保護課による自宅訪問日に各担当部局も同席することを求めたが同席を拒否されたとして、本件の原因となった事柄ではなく、札幌市の組織性、体制、姿勢等の問題点を適切に調査してほしいとして苦情が申し立てられたケース。市政全販に対する苦情は申立人が「申立ての原因となった事実についての利害を有しない」として調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:梶井祥子)
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