2025/11/08

2025年8月に処理を終了した案件

 2025年9月1日、同年8月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、決定期間延長のうえ、同年10月16日に一部公開決定がなされた。

上記の期間(2025年8月)に処理を完了したのは6件で、このうち2件で調査結果が通知された。また、残る4件のうち、1件については苦情について調査しない旨が通知され、3件については苦情申立てが取り下げられた。

今回公開を受けた6件という件数はさほど多くはないものの、当ブログ開設者が看過できないと感じた点がいくつかある。以下において、労をいとわず指摘したい(件数が多い場合には、問題点を認識しながら言及しない場合もあるという趣旨である)。

まず、第2025-12号である。この案件は、区役所窓口で適切な説明が受けられなかったために児童手当が受給できなかったとして、手当の遡及支給を求めて苦情が申し立てられた事案である。

児童手当については2024年に制度改正がなされ、それまでの所得制限が撤廃された。その時期に申し立てられた案件(第2024-52号)において、市が制度の周知に前向きでないことについては、すでこのエントリーで指摘している。

そのため、当ブログ開設者は、市の児童手当に関する市民への制度の周知や説明は改善の余地があると考えているところ、今回公開を受けたこの案件が、まさにそのことを証明したといえるかもしれないと感じた次第である。

それでは、まず第2025-12号の事実の経過を確認しよう。申立人が最初に区役所窓口に相談したのが2023年10月、受給手続きのための認定請求書の提出が2024年10月、そして、2025年5月23日付で受給資格が認定され、翌月に2024年10月分から児童手当が支給されることになった。

このように、当初の相談から認定請求まで、さらに認定請求から資格認定まで時間がかかりすぎているのは、市から申立人に対し適切な情報提供がなされなかったからではないかと、当ブログ開設者は考えている。

すなわち、本件調査における「市の回答」によると、申立人に対し「認定請求の翌月から支給されること」を説明したのは2024年10月のことである(2023年の相談時に説明したという記述はない)。当初からこの点の説明がなされていれば、もっと早期に認定請求がなされた可能性もあるのではないか、ということである。

また、認定請求書提出時(2024年10月)に申立人が翌月から支給になるという市の説明に不満を述べ、「提出できる書類が他にもある」と主張した際にも、「市の回答」には、市が遡及支給が可能となる場合や、その場合にどのような書類が必要かという説明をしたという記述はない。その結果、市が申立人からの書類提出を待つうちに認定がなされないまま、ずるずる日数が経過していったのであろうと当ブログ開設者は考えている。

次に、制度面についての記述でも、この案件には看過できない点がある。それは、オンブズマン判断における、「離婚協議中で配偶者と別居している場合の一般受給資格者については、その事実を確認できる書類を認定請求を添付書類として提出することが義務付けられています。(児童手当法施行規則第1条の4第2項第7号)」という記述である(なお、「市の回答」には、「離婚協議中であることがわかる書類」についての言及があるものの、その根拠となる法令は明記されていない)。

しかし、施行規則の同号は「一般受給資格者が、支給要件児童と同居し、これを監護し、かつ、これと生計を同じくするその父若しくは母(中略)であつて、当該支給要件児童と同居しないでこれを監護し、かつ、これと生計を同じくするその他の父若しくは母(中略)と生計を同じくしないときは、当該事実を明らかにすることができる書類」と規定している。したがって、「離婚協議中で配偶者と別居している場合」のみに適用される規定ではないわけである。

これをもう少し、「法律」の規定に即して説明すると、その子が施設に入所していたり父母が外国に住所を有するといった例外的ケースを除き、児童手当は①その子を監護し、生計を同じくする父母に支給されるが(児童手当法4条1項1号)、②その子を監護し、生計を同じくする父母が複数ある場合にはその子の生計を維持する程度が高い者に支給されることになる(同法4条3項)。

ただし、③その子が一方の父母と同居し、その父母がその子を監護するとともに生計を同じくする場合で、その父母がもう一方の父母と生計を同じくしない場合には同居する父母に支給される(同法4条4項)のである。

つまり、「離婚協議中である」ことは、児童手当法4条4項が規定する要件である(その子と同居する父母がもう一方の父母と)「生計を同じくしない」ことを示す事情の一つに過ぎないということである。そして、前述の児童手当法施行規則第1条の4第2項第7号は、その場合に「生計を同じくしない」事実を明らかにすることができる書類の提出を求めているわけである。

そうすると、離婚協議中であるか否かを問わず、父母が別居した場合に父母のどちらがその子の児童手当を受給するかは、①父母間で生計を同じくするか否かによって適用条項が変わり、②父母間で生計を同じくする場合には「子の生計を維持する程度が高い者」が児童手当を受給し(法4条3項)、③父母間で生計を同じくしない場合にはその子と同居する父母が児童手当を受給する(法4条4項)ことになる。

なお、法4条3項が適用されるケースで提出が求められる書類については施行規則第1条の4第2項第8号が規定し、法4条4項が適用されるケースで提出が求められる書類については、施行規則同項第7号が定めている。

以上の次第で、調査担当のオンブズマンは、児童手当法施行規則(1条の4第2項第7号)があたかも離婚協議中で配偶者と別居している場合についての規定であるかのように論じることは「勇み足」だと当ブログ開設者は考えている。

もっとも、児童手当法の支給要件の規定(同法4条)は、支給を受けるための要件と支給対象となる者が渾然一体と定められており、きわめて難解である(関心の向きは、児童扶養手当法が定める支給要件を見くらべることを推奨する。同法4条)。その結果、様々なケースに対応するためのマニュアルを作成しても、法令の規定と事務の取扱いの関連が希薄になり、結果として市民に対する説明が適切さを欠く要因の一つになっているのかもしれない。そうだとすると、実に悩ましい。

それでは次に、今回公開分の苦情等調査結果通知書2件のうち残る1件(第2025-22号)であるが、この案件は市から業務委託を受けた企業の従業員が申し立てた苦情である。申立ての内容は、業務を委託された施設の利用者の不適切な行動に対応するよう市に求めたにもかかわらず、市が対応も対策もしないというものである。

さて、この案件の問題点はオンブズマン調査の中身ではなく、「非公開部分」として公文書一部公開決定通知書に記載された内容と、実際に非公開とされた部分の整合性である。すなわち、通知書記載の「非公開部分」は、「①申立人が勤務する施設の名称が分かる部分」および「②申立人が対応した市民の職業及び役職が分かる部分」とされているものの、交付を受けた文書の「写し」においては、非公開とされた部分が過大である疑いがあるということである。

たとえば、交付を受けた「苦情等調査結果通知書」の「写し」では、業務の委託内容が定められた仕様書の規定のうち「接遇に関わる主な条項」の大部分が非公開とされている。しかし、当該条項は「施設の名称がわかる」部分に該当するといえのか。

さらに、公文書一部公開決定通知書に記載された「非公開部分」は「市民の職業及び役職がわかる部分」であるが、交付を受けた「苦情等調査結果通知書」の「写し」では、「職業及び役職」にとどまらない当該市民の具体的言動が記載された部分までが非公開とされているのではないか。

ところで、交付を受けた「苦情等調査結果通知書」の「写し」では、上記の仕様書の条項番号は非公開とされていない。そのため、「接遇に関わる主な条項」が仕様書1(2)、仕様書1(3)、仕様書1(8)、仕様書7(2)ウ(イ)、仕様書7(3)ウ(ウ)であることは、交付を受けた「苦情等調査結果通知書」の「写し」からあきらかである。

ちなみに、「札幌市里塚斎場業務仕様書」には、以下の定めがある。

1 業務総則
(2) 利用者の心情に配慮し、きめ細やかなサービスを提供するよう努めること。
(3) 業務中は職務に専念するとともに、服装、言動等に十分注意し、第三者に不快の念を抱かせることがないよう留意すること。また、宗教上の中立を保つこと。
(8) 利用者から寄せられた意見、要望、苦情等に誠意をもって対応し、必要な改善を行うなど、施設の運営管理に反映させるよう努めること。

7 業務の内容
(2) 告別業務
ウ 留意事項
(イ) 遺族及び会葬者の感情に配慮し、不快の念を抱かせるようなことがないよう細心の注意を払うこと。

(3) 炉前・収骨業務 
ウ 留意事項
(ウ) 収骨方法の説明や焼骨に関する質問への回答が的確に行えるよう、専門的知識を習得しておくとともに、質問等には常に丁寧に対応するよう心がけること。

当ブログ開設者は、これらの条項はいずれも「接遇に関わる条項」としての性格を有するのではないか、と考えている。

また、興味深いのは、交付を受けた「写し」に記載された条項のうち、非公開とされていない箇所もあるところ、仕様書7(3)ウ(ウ)の「とともに、質問等には常に丁寧に対応するよう心がけること。」という記述は、上記の札幌市里塚斎場業務仕様書の規定と一致することである。

同様に、交付を受けた「写し」に記載された【参照条文等】の「業務仕様書」の条項には非公開とされなかった箇所もあるところ、その箇所の記載は、札幌市里塚斎場業務仕様書と一致することである。

もっとも、今回交付を受けた「写し」に記載された仕様書と、札幌市里塚斎場業務仕様書の記載内容が確認できる限りで一言一句違わないとしても、それはたまたまのことかもしれない。したがって、今回の公文書一部公開決定において「非公開部分」とされた「申立人が勤務する施設の名称」が「札幌市里塚斎場」であると断定することは厳に慎まなければならないだろう。

このほか、この案件においては、調査対象部局が当該施設「を利用する様々な方から苦情が頻繁に寄せられております」と、「申し開き」をしていることも指摘しておきたい。そのような企業に業務を委託した市も責任を逃れることはできないと考えるからである。

以上が今回の公開分で調査結果が通知された案件である。続いて、調査結果が通知されなかった案件にも指摘しておくべき点がある。

まず、第2025-37号は、申立人が利用していた就労支援事業所が個別支援計画の作成という法令上の義務を果たしていないこと等を理由として、オンブズマンによる調査を求めて苦情が申し立てられた案件である。

申立人の主張は多岐にわたるが、「障がい福祉課が十分に対応していない」という主張も行っている。こうした場合、札幌市オンブズマンの所管事項が「市の機関の業務の執行に関する事項及び当該業務に関する職員の行為」(札幌市オンブズマン条例3条)であることからすると、所管課が法令違反に対し適切な権限行使を行ったかということについては、オンブズマンの調査が及ぶと当ブログ開設者は考えている。

また、所管課が権限を行使することに対し申立人に「利害」があるか(同条例16条1項1号)も問われることになるが、本件の申立人は所管課に事業所の対応について情報提供を行っていることからすると、その後の所管課の対応について説明を受けることに「利害」を認めて差し支えないと当ブログ開設者は考えている(ただし、情報提供を行ったのみでその後の対応について説明を求めていない場合には、オンブズマンが「まずは所管課に問い合わせる必要がある」ので利害はないと判断する余地はあるかもしれない)。

しかしながら、本件を担当したオンブズマンは、上記のような発想を欠いたようだ。本件においては、申立人が事業所を利用していた期間からすでに1年以上経過しているとして(同条例16条1項2号)、調査を実施しなかった。何をオンブズマン調査の対象とするかという点において、疑問の残る判断である。

なお、「個別支援計画」が作成されていないとして苦情が申し立てられた案件としては、本件のほかにも第2024-68号第2025-36号があるが、それぞれの事業所や申立人の同一性や案件相互の関係は不明である。

また、第2025-41号および第2025-42号は苦情申立てが取り下げられたとする案件であるが、当該案件の記録には申立人の苦情申立てを取り下げる旨の意向が記載されていない。苦情申立ての取下げについて札幌市オンブズマン条例には定めがないことは措くとして、オンブズマンが条例の定めにより調査を実施しない場合には、その旨を申立人に通知する必要がある(札幌市オンブズマン条例17条)。

したがって、申立人の取下げの意向を確認することもなく、また、調査を実施しない旨を申立人に通知することもなく、事実上調査を終了した場合には、条例に定める手続を経ていないという疑念が生じることになる(ただし、取り下げがなされた場合も、「調査することが相当でない特別の事情」(同条例16条2項)により調査をしないという扱いにするのが、もっとも条例の規定に忠実な取扱いであろう)。

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①第2025-12号
 離婚協議中の申立人が、区役所の窓口で適切な説明を受けられなかったため児童手当を受給できなかったとして、手当の遡及支給を求めて苦情が申し立てられた例。(担当オンブズマン:樋川恒一)

②第2025-22号
 市から業務委託を受けた企業の従業員が、業務を委託された施設の利用者が禁止行為の写真撮影を行った件で市に対応を求めたものの、市が何らの対策も対応もしないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:樋川恒一)

③第2025-37号
 就労継続支援事業所(B型)を利用していた申立人が、当該事業所は個別支援計画書を作成しないなど長年にわたって重大な問題が放置されてきており、第三者の立場からの調査を求めて苦情が申し立てられたケース。申立人が事業所利用していた時期からすでに1年以上が経過するとともに、当該事業所ま民間事業所であるためオンブズマンの所轄事項にも該当しないとして調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

④第2025-40号
 自宅周辺の熊笹を刈り取ったので大型ごみ受付センターに問い合わせたところ、竹とくま座では取り扱いに差があることがわかったが、両者の取扱が違う理由の説明を求めて苦情が申し立てられたケース。所管課にその旨伝える旨を申立人に伝えたところ、申立て取下げの意向が確認された。(担当オンブズマン:樋川恒一)

⑤第2025-41号
 マイナンバーカードの更新手続きのため区役所を訪れた際、受付をすませて窓口での案内を待ったが、郵送での手続きが可能であることをきちんと案内されていれば待つこともなかったとして苦情が申し立てられたケース。担当課あてに報告する旨申立人にメールを送信した(と公開を受けた文書に記載されているが、申立人の苦情申立てを取り下げる意向を確認した旨の記載なし)。(担当オンブズマン:樋川恒一)

⑥第2025-42号
 勤務先のハラスメント行為やハラスメントの申し出制度の不適切な運用等について苦情が申し立てられたケース。申立て内容は札幌市オンブズマンの調査の対象外と考えられるため、より適切な窓口に通報するようメールした(と公開を受けた文書に記載されているが、申立人の苦情申立てを取り下げる意向を確認した旨の記載なし)(担当オンブズマン:梶井祥子)

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