上記の期間(2024年7月)に調査を終了したのは5件で、このうち4件で調査結果が通知された。また、残る1件は調査しない旨が通知された。
さて、今回公開された案件のうち、市税を指定期限内にキャッシュレス決済で納付しているにも関わらず、「分納催告書」が送付されてくるとして苦情が申し立てられた第2024-24号が興味深い。
このような苦情には既視感がある。それもそのはず、2023年度には、「PayPayを利用して市税を納付したにも関わらず、自宅及び職場あてに賃金を差し押さえる旨の通知が送付された」という苦情が申し立てられている(第2023-42号)。
ところで、上記2023年度に申し立てられた案件(第2023-42号)の苦情等調査結果通知書によると、①その当時、滞納整理事務の担当者が業務に使用する「滞納整理システム」には「速報データ」が連携していなかった、②そのため、別途、「『速報データ』の情報の有無を確認する」作業が必要であるにもかかわらず、当該作業を行わなかったという業務上の過誤があった、③現在はシステム改修が完了し、「滞納整理システム」に「速報データ」が連携した、ということである。
しかるに、今回の案件(第2024-24号)では、「滞納整理システムに連携している速報データの確認をしない」という業務上の過誤が発生した。せっかくシステム改修が完了したのに「速報データ」の確認を怠るとは、「起こる可能性のあることはいつか実際に起こる」、あるいは、「何事であれ失敗する可能性のあるものはいずれ失敗する」といった、マーフィーの法則を地で行くような職員の業務遂行である。
もっとも、「システム改修が完了した」とはいうものの、不完全な点も残されたままだったようだ。今回の案件の市の回答によると、システムにおいて、分納催告の滞納明細には「速報データ」が反映されておらず、滞納明細の画面から「速報データ」を確認できない仕様になっているということである。「滞納整理システム」に「速報データ」が連携したというには、いかにも中途半端な印象を受けるものの、なにゆえにこうした不完全なシステムとなったのか、その事情は不明である。
ところで、今回この案件を担当したオンブズマン田村智幸は「(差押等の強制処分の可能性について通知する)内容の文書を送付する以上は、誤送付が生じないよう複数人の目でチェックができる何らかの方法や工夫を取り入れて誤送付が生じないような方策を取り入れるべき」という見解を披瀝する。
「複数人のチェック」がいかにも効果的な手段であるかのようだが、職員相互が「誰かがチェックしているはず」と思い込み、過誤を見落とすような事態が生じないとも限らない。実際、前述の第2023-48号も、係長及び課長のチェックが機能せずに過誤が生じることになった。
こうした事態を防ぐには、限られた人間の注意力を効果的に配分できるように、どのような点で過誤が生じやすいかを明確化し、職員間で情報を共有することが求められると思われる。いわゆる、職場における「暗黙知」の共有というやつである。
マニュアルにより作業を標準化する場合にも、標準化すること以上に、なぜその作業を行うのかということや、どのような過誤を避けるための標準化であるか、といった背景事情についての情報の共有は、過誤を回避するうえで有効な手段であると思われる。
以上の次第で、非常の後味の悪い案件ではあるが、今回の第2024-24号の調査を通じて、どこに落とし穴が待ち構えているか職員に注意を喚起する効果を期待する。今後、職員が同じ轍を踏み、「2度あることは3度ある」とならぬことを願ってやまない。
次に、申立人に対し調査しない旨が通知された第2024-32号である。この案件では、生活保護申請時及びその後の家庭訪問時の職員の対応について苦情が申し立てられたが、申請時の対応については、すでに別件の苦情(第2024-30号)が申し立てられているようである。
こうした場合、新たに別件として調査を実施するのが非効率であることは当然であり、「申請時の職員対応」についての苦情が同一の内容であるならば、その部分についての調査を実施しないことは適切であると思われる(ただし、理由づけは別途考える必要がある)。
しかし、「申請時の職員対応」について、当初の苦情で主張されていない内容が新たな苦情申し立てに含まれていたり、当初の苦情が申し立てられた後、職員が家庭訪問した際の対応について新たに苦情が申し立てられた場合には、なお、申立人には「(苦情)申立ての原因となった事実についての利害」が認められると当ブログ開設者は考えている。したがって、本件苦情について、「具体的利害の不存在」を理由として調査を実施しないという調査担当オンブズマン神谷奈保子の理由づけには賛成できない。
それでは、このような場合、調査担当オンブズマンはどのように対応すべきか。当ブログ開設者は、申立人に対し「すでに申し立てられている案件で新たな内容も取り込んで調査する」旨説明し、申し立ての取り下げを要請するか、それが叶わぬ場合には新たな案件としてすでに申し立てられている案件と並行して調査を実施するのが適切であろうと考えている。
この点、調査担当オンブズマンとしても、すでに申し立てられた案件において、新たに申し立てられた案件の趣旨を取り込んで調査を実施しているのかもしれない。調査担当オンブズマンが「申立人の苦情を適切に拾い上げたか」についての評価は、別件の苦情調査の結果を待つ必要がある。
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①第2024-24号
市税を指定納付期限内にキャッシュレシュ決済で分割納付しているにもかかわらず、再三にわたり「分納催告書」が送付されてくるとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)
②第2024-25号
札幌市平岸霊園内の道路にコンクリート製台座が放置されていたために衝突した車が破損したとして、修理代金の弁償を求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)
③第2024-27号
④第2024-28号
生活保護を受給している申立人が長期にわたり家庭訪問がなされず、訪問された際にも極めて短時間で不十分であったとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:梶井祥子)
⑤第2024-32号
生活保護申請時及びその後の家庭訪問時の職員の言動が保護を申請した申立人の不安を煽るものであったとして苦情が申し立てられたケース。保護費の支給が遅れるのではないか等の不安を申立人が抱いたからといって、「現在、申立人に具体的な利害が発生していると、直ちにオンブズマンは判断することはでき(ない)」として、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:神谷奈保子)
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