しかしながら、条例が定める調査対象外の事項は、当該事項に該当する苦情が申し立てられた場合においてオンブズマンが当該苦情を調査しない根拠となるに過ぎない。したがって、「調査対象外の事項」を定めることが申立てを抑止することができるものではなく、抑止効果があるとすれば、それは「調査対象外の事項」を周知した結果であろう。
この点、札幌市オンブズマン条例は、「何人も、オンブズマンに対し、市の業務について苦情を申し立てることができる」(札幌市オンブズマン条例14条)ことを規定している。したがって、ひとたび苦情が申し立てられた場合、オンブズマンは条例が定める権限の範囲内で対応していくことになる。
また、梶井祥子のいう「本来の利害関係人」という記述もその趣旨は不明である。前述のように、何人もオンブズマンに対し苦情申立てができるのである。その苦情がオンブズマン所轄事項でない場合を含めて、「調査対象外の事項」である場合、オンブズマンは当該苦情に関する調査を実施しないことになる。
なお、この案件の苦情申立人は、過去に苦情を申し立てた(第2022-12号)「その後」の市の対応について、苦情を申し立てている。こうした場合において、「オンブズマンが一度調査して結果を通知している」ことは、そのこと自体が調査をしない理由とはならないと思われる。それは、調査を終了した後の「新たな事実」に基づいて苦情が申し立てられたと評価することができるからである。
以上のように、梶井祥子による札幌市オンブズマン制度の理解ははなはだ心もとない。「梶井祥子にオンブズマンの職務は『荷が重い』」と論ずるゆえんである(なお、今回公開分は2025年11月に処理を終了した案件であるが、梶井祥子は翌2025年12月終了分においても、「オンブズマンの負担が荷重になる」という見解を披歴している)。
2.梶井祥子にオンブズマンの職務は「荷が重い」(その2)
のみならず、今回公開分のうち、梶井祥子が調査を実施した別の案件(第2025-50号)も、梶井祥子にオンブズマンの職務は「荷が重い」と感じさせるものである。
この案件は、サービス付き高齢者住宅に入居していた申立人が施設で提供される食事を取らなかったにもかかわらず施設が当該サービス利用料の返金に応じないことを苦情申立ての前提とする案件である。そして、申立人は市が施設に返金を指導することを求めたにもかかわらず適切な対応がなされないとして、オンブズマンに苦情を申し立てた。
このような場合、市は施設に対し、法令等が定める基準が順守されているかを監督する権限を有する。その一方で、契約上のサービスが適切に提供されているか否かという問題については、基本的に関与できないことになる。
それは、事業者による法令順守と契約上の義務の履行はその実現を図るためのシステムが異なり、市の権限は前者を監督することであり、後者の契約上の義務の履行については、市の権限の範囲外になるからである。したがって、市が申立人が望むような対応をしなかったとしても、市の権限行使という観点からは、やむを得ないことになる。
ただし、このような場合にも、都道府県社会福祉協議会の「運営適正化委員会」による「苦情解決」の制度は、施設とサービス利用者間の紛争解決のために利用可能である(社会福祉法85条)。オンブズマンも「その職務の遂行に当たり、市民の権利利益を擁護し、並びに市政を監視し、及び市政の改善を図る他の諸制度と有機的な連携を図ることなどにより、その役割を効果的に果たすよう努めなければならない」(札幌市オンブズマン条例5条2項)ことからすると、オンブズマンは「運営適正化委員会」による「苦情解決」の制度を申立人に紹介することが期待されると当ブログ開設者は考えている。
しかし、残念ながら梶井祥子が上記の「紛争解決」の制度について言及することはなかったが(「事業の経営者による紛争解決」(社会福祉法82条)について言及するのみである)、梶井祥子は「札幌市社会福祉協議会会長」の肩書も有するようである。
「札幌市」社協の会長の肩書を有するにもかかわらず、「北海道」社協が設置する制度については知見を欠いていたということであろうか。仮にそうならば、当ブログ開設者は、梶井祥子にオンブズマンの職は「荷が重い」という思いを抱かざるを得ない(なお、オンブズマンと市社協会長の兼職は、「オンブズマンは、市と特別の利害関係を有する法人その他の団体の役員を兼ねることができない」と規定する札幌市オンブズマン条例9条2項との関係でも議論の余地がある)。
3.「フリーペーパー」の扱いはどうなる?
次は、市が管理する公園内で写真撮影をする際に「利用料」の支払いを求められたことに納得がいかないとして、苦情が申し立てられた案件である(第2025-39号)。この案件では、他の自治体における取り扱いを丹念に調査している点が興味深い。担当オンブズマン樋川恒一の「ファインプレー」かもしれない。
ただし、当ブログ開設者は、市条例が「業として写真を撮影する場合」には許可を得るとともに使用料の支払いを要することを規定している点について、市の回答への疑念を抱いている。それは、「有料刊行物に掲載するための撮影もこれに該当する」という記述があるからである。こうした記述は、広告収入に基づいて発行される「フリーペーパー」の取り扱いがあいまいになるきらいがあるのではなかろうか。
この点、調査担当オンブズマン樋川恒一も、どのような場合が「業として写真撮影をする場合」となるのか基準が明確でないとして、市に基準の明確化を求めている。このようなオンブズマン判断は、市の主張を鵜呑みにすることなく、オンブズマンの果たすべき役割を適切に果たしていると評価できると思われる。
惜しむらくは、苦情申し立てから調査結果通知書の発送まで、3か月以上かかっていることである。さすがに時間がかかりすぎという印象をぬぐえないが(調査実施通知書の発送からも2か月半程度要している)、オンブズマンが調査に習熟するにしたがい、迅速化が図られることを期待したい。
4.「会計年度任用職員」の任用手続きについて
さきほどの案件では樋川恒一オンブズマンの「ファインプレー」を紹介したが、こちらの「会計年度任用職員」の任用手続きに関する案件(第2025-71号)は、樋川恒一オンブズマンの「凡プレー」といえるかもしれない。
申立人は、会計年度任用職員の選考を一括で行わないことに対し苦情を申し立てた。現状、札幌市における会計年度任用職員の選考は、部署ごとの個別の対応になっているようだ。
この点、調査担当オンブズマン樋川恒一は、「本件申立ては、他の応募希望者も同様の取り扱いを受ける会計年度任用職員の『選考』という採用方法を問題としていることに鑑みると、他の応募希望者とは異なる申立人自身の利益にかかる事案とは認められません」という見解を示し、調査を実施しなかった。
しかし、である。申立人の調べたところによると、他の自治体では会計年度任用職員の選考を一括で行っているところもあるそうだ。このような運用がなされている場合、応募者は一度の応募で手続きを完了することができるのに対し、札幌市のように部署ごとの対応であれば、応募者は選考に漏れるたび、再度の応募を余儀なくされることになる。
調査担当オンブズマンの樋川恒一は、他の応募者も同様の取り扱いになるために申立人がことさら他の応募者より不利益な取り扱いを受けているわけではない、という見解のようである。しかしながら、当ブログ開設者は、「一括選考」しない理由の説明を受けること自体に「申立人の利害」が認められるべきだと考えている。
むしろ、調査担当オンブズマンの樋川恒一が従来の札幌市オンブズマン制度の運用と平仄をあわせるならば、「申立人が実際に複数回の応募を余儀なくされた事実は存在しない」ため「具体的利害」がない、という理由で調査しないほうが適切であったかもしれない(ただし、前述したように当ブログ開設者は、「説明を受けること」自体に「利害」があると考えている)。
5.行政内部文書と「保有個人情報の訂正請求権」
今回公開分にはもう1件、樋川恒一オンブズマンの「凡プレー」を疑われる案件がある。それは、市職員が申立人に対応した際の記録(公文書)に誤字があることを申立人が指摘した際の職員の対応について、苦情が申し立てられた案件である(第2025-73号)。
調査担当オンブズマンの樋川恒一は、当該公文書が「対外文書ではなく、対内文書であり、あくまで担当課での内部報告のため作成された文書である」として、「当該対応記録に誤字があったからといって、申立人に不利益が発生しているとは認められず、この点について申立人は利害を有しない」と判断した。
しかし、である。「個人情報保護法」は、行政機関の「保有個人情報」(同法60条1項)について、本人の「訂正請求権」を規定している(同法90条1項)。したがって、行政内部文書の記載が「保有個人情報」に該当する限り、当該文書に誤字があったとしても「申立人に不利益が発生してい(ない)」というオンブズマンの判断は、この「訂正請求権」の意義を没却すると思われる。
むしろ論ずべきは、申立人が本件苦情で申し立てた内容がオンブズマン制度を通じて実現すべき「利害」として適切か、という点ではなかったか。「誤字に対しての詫び、第三者(承認)を交えての面会を求める」等の申立人の主張は、いささか過大だという印象を禁じ得ないからである(ただし、当ブログ開設者の制度理解に基づくと、オンブズマンは「申立人の主張」の当否ではなく、「行政対応の適否」を判断すべきである。したがって、こうした印象論の適否については別途、議論の余地がある)。
6.複数回の申立てをする「超上客」をいかに「おもてなし」すべきか