2025/03/05

このブログの読み方

札幌市オンブズマンによる調査内容を紹介するこのブログ、平成28年(2016年)4月以降に調査を終了した案件を紹介しているが、本ブログの開設者としては、このような作業には、主として以下の3つの意義があると考えている。

(1)オンブズマン「活動状況報告書」に掲載されない案件を紹介する
(2)オンブズマン「活動状況報告書」に掲載されない「市の回答」部分を紹介する
(3)「活動状況報告書」が発行されるよりも早くオンブズマン調査の内容を紹介する

以上を目的として、各月ごとに、調査を終了した案件を紹介するエントリーを作成してきた(なお、ブログ開設の意図については、「札幌市オンブズマン観察記はじめます」において、より詳しく説明している)。

しかしながら、このような紹介方法ではインデックス機能が弱く、同種の内容の苦情調査であっても、その終了月が異なる場合には両者を比較するのは困難であった。そこで、各年度に終了した調査を分野別に分類するエントリーを作成したものの、こうしたエントリーもまた、各月ごとのエントリーに埋没することが懸念されるところである。

以上のことから、このエントリーでは、これまで作成したエントリーを類型別に整理することで、読者の利便性を高めることを試みる。

各リンク先では、苦情の概要を紹介し、調査結果通知書等の全文のpdfファイルのリンクを張り付けてある。また、各月ごとに調査を終了した案件を紹介するエントリーにおいては、調査結果通知書等の1枚目の画像データも掲載してある。

読者諸氏においては、本ブログで紹介するデータを通じ、札幌市オンブズマンの活動状況を「観察」していただきたい。

〇オンブズマン調査の分野別分類
 平成29年度(2017年度)終了分
 平成28年度(2016年度)終了分

〇オンブズマン調査の調査終了時期別リスト
・2024年度
 4月5月6月7月8月9月10月11月12月、1月、2月、3月
・2023年度
 4月5月6月7月8月9月10月11月12月1月2月3月
・2022年度
 4月5月6月7月8月9月10月11月12月1月2月3月
・2021年度
 4月5月6月7月8月9月10月11月12月1月2月3月
・2020年度
 4月5月6月7月8月9月10月11月12月1月2月3月
・2019年度
 4月5月6月7月8月9月10月11月12月1月2月3月
・平成30年度(2018年度)
 4月5月6月7月8月9月10月11月12月1月2月3月
・平成29年度(2017年度)
 4月5月6月7月8月9月10月11月12月1月2月3月
・平成28年度(2016年度)
 4月5月6月7月8月9月10月11月12月1月2月3月

〇オンブズマン調査の処理日数の状況

 ・年度別
  2022年度まで(最新版)

2025/03/04

2024年12月に調査を終了したケース

 2025年1月1日、2024年12月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、決定期間延長のうえ、2025年2月14日付で一部公開決定がなされた。

上記の期間(2024年12月)に処理が終了したのは5件で、全5件で調査結果が通知された。

今回、公開を受けた案件のうち、もっとも興味深い案件は、国民健康保険料の滞納により差し押さえを受けた際に事前の連絡がなかったとして苦情が申し立てられた第2024-63号である。この案件における市の回答は、法に基づいた適正な業務の執行が行われているか、明確性に欠けるきらいがあると思われる。

すなわち、国民健康保険法79条の2は、「市町村が徴収する保険料・・・(中略)・・・は、地方自治法第231条の3第3項に規定する法律で定める歳入」である旨を規定する。

そして、地方自治法231条の3第3項は、「普通地方公共団体の歳入(以下この項及び次条第一項において「分担金等」という。)につき第一項の規定による督促を受けた者が同項の規定により指定された期限までにその納付すべき金額を納付しないときは、当該分担金等並びに当該分担金等に係る前項の手数料及び延滞金について、地方税の滞納処分の例により処分することができる」旨が規定されている。

さらに、同条1項は、「普通地方公共団体の歳入を納期限までに納付しない者があるときは、普通地方公共団体の長は、期限を指定してこれを督促しなければならない」旨規定し、地方税法は一般に「滞納者が督促を受け、その督促状を発した日から起算して十日を経過した日までにその督促に係る・・・(中略)・・・地方団体の徴収金を完納しないとき」には、「滞納者の財産を差し押えなければならない」旨を規定しているのである。

なお、地方税法は一般に「納期限後二十日以内に、督促状を発しなければならない」ことを規定するところ、札幌市国民健康保険条例では、「納期限後30日以内までに督促状を発しなければならない」とされている(同条例21条)。

以上の次第で、徴収金の滞納者が督促を受けてもなお徴収金を完納しない場合、「滞納者の財産を差し押さえなければならない」というのが法令の規定である。

ところが、市の回答では、「差押えという強力な権限の行使にあたっては、滞納者の実情を踏まえ、合理的な判断の下、適切に行う必要があ」(る)とともに、「「差押えをしなければならない日」を迎えたすべての滞納者に対し差押えをすることは非現実的でもある」という説明がなされるのみである。

本来ならば、督促後の財産差押えが法令上義務づけられている以上、その義務の履行しないことが正当化されるためには法令上の根拠が必要になると思われるのだが、市の回答ではこの点の説明が欠けているわけである。

この点、思い出されるのが、市税を滞納し「差押通知書」の送付を受けた申立人が苦情を申し立てた第2023-4号である。この案件では、「申立人に納付誠意がないと判断し、財産の差押えをすべく、最終通告として・・・(中略)・・・差押予告書・・・(中略)・・・を申立人に発送」したという市の回答がなされている。

この回答を契機として、当ブログ開設者は、徴収金の滞納者に「納付誠意」がある場合には、地方税法が規定する「換価の猶予」(同法15条の5(職権)及び同法15条の6(申請))を適用している可能性があると考えるようになった。

そうすると、本件の国民健康保険法の場合も同様に、督促後に徴収金が期限までに納付されずに「滞納者の財産を差し押さえなければならない」はずのケースにおいて、職権で「換価の猶予」がなされている可能性があると思われる。

ただし、前述の第2023-4号及び本件・第2024-63号のいずれの案件においても、直ちに差押えに踏み切らない取扱いが地方税法の定める「換価の猶予」である旨の市の回答がなされているわけではない。当ブログ開設者が市の回答は明確性に欠けると感じる所以である。

また、「換価の猶予」はその期間の上限が1年とされるなど厳格な要件が定められている(地方税法15条の5第1項及び同法15条の6第1項)ことから、これらの要件を潜脱すべく法令に定めのない「事実上の運用」がなされている可能性もある(「換価の猶予」については過去にこのエントリーでも言及した)。

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①第2024-56号
 自宅とは別に所有する土地・建物が面する道路を建築基準法42条2項に規定する道路として指定することを求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)


②第2024-57号
 スポットクーラーの購入費用を保護費として支給することを検討しないという保護下の説明に納得がいかないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

③第2024-59号
 申立人が居住するマンション前の歩道が通学路となっているため市に歩道を除雪するよう求めたところ、今季は車道への影響を見ることとし来季に判断するという電話での回答があったが、文書での回答がなされておらず、回答内容にも疑義があるとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:梶井祥子)

④第2024-60号
 市から路線測量の業務を受託した事業者が業務外の古タイヤ片付け作業を行ったにも関わらず委託業務成績評定の標定点が低かったことに納得がいかないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑤第2024-63号
 国民健康保険の保険料を滞納していた申立人がこれまで納付相談をしてきたにもかかわらず、事前連絡もなく預金口座を差し押さえられたとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:梶井祥子)

2025/02/28

新オンブズマン就任(2025年)

2025年2月28日、以下の議案が札幌市議会に提出され、同日、議会の同意を得た。これにより、新たに樋川恒一氏(弁護士)がオンブズマンに就任するとともに、神谷奈保子氏(民事調停委員)が再任された。樋川氏は、2021年3月にオンブズマンに就任した田村智幸氏(弁護士)の後任である。

これにより、2025年3月1日以降は、2024年3月1日に就任したオンブズマン1期目の梶井祥子氏(大学教授)とあわせ、3名体制で札幌市オンブズマンの職務が遂行されることになる。

ところで、樋川氏は北海道労働委員会公益委員を務めていた経歴がある。「不当労働行為」の審査をするのが労働委員会の役割の一つであるところ、使用者の正当な理由のない団体交渉拒否は「不当労働行為」である。その際、適切な説明を行わない「不誠実交渉」もそれに当たるとされている。

こうした制度において委員を務めていた樋川氏の経歴からすると、オンブズマンの職務を遂行するうえで、「市民が適切な説明を受ける利益」について意を配ることができるのではないかと、当ブログ開設者は期待する。

なお、上記の「市民が適切な説明を受ける利益」とは、適切なタイミングに適切な内容の説明を受けることであると当ブログ開設者は考えている。また、内容の適切さについては、その取扱がどのような法的根拠に基づいているのか(「法律(条例)に基づく行政の原理」)、さらに、その取扱が他の事例と比較しておかしな点はないか(「法の下の平等(憲法14条)」)という観点からチェックしてこそ、法律専門家たる弁護士の肩書を持つオンブズマンの面目躍如と考えている。

この点、前任の田村智幸氏は弁護士としての強みを発揮することができなかったきらいがあるかもしれない。たとえば、児童扶養手当の支払が一時差しとめされたことに対する苦情(第2023-6
)において、「別生計であることを確認する前に職権で直ちに支給停止できることについては、明確な法令上の根拠や規定を見出すことはできませんでした」として、法的根拠を明らかにすることをしなかった。

しかしながら、児童扶養手当法15条は届出義務懈怠時の手当の支払の一時差しとめを規定する。田村智幸氏は、「オンブズマンとしては、職権で直ちに支給停止できることについて、法令上の根拠に基づいて行われていることの説明を得たかった」という泣き言もこぼしているが、このような対応は、「法令に精通しなければならない」(弁護士法2条参照)はずの弁護士の法律専門家としての信用や品位を毀損する(弁護士法56条1項参照)おそれがあると当ブログ開設者は考えている。

もっとも、前々任の房川樹芳氏も、市が管理する街路灯の安全対策についての発意調査(第2020-発1号)では、参照条文等に「法令」を示していない。したがって、弁護士の肩書を有するオンブズマンのうち、田村智幸氏だけがことさらに法令上の根拠を明示していない、というわけではないことは指摘しておくべきであろう。樋川氏が同じ轍を踏まないことを望む次第である。



2025/01/29

2024年11月に調査を終了したケース

 2024年12月1日、同年11月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、決定期間延長のうえ、2025年1月9日付で一部公開決定がなされた。

上記の期間(2024年11月)に処理が終了したのは8件で、このうち5件で調査結果が通知された。また、残る3件のうち2件は調査しない旨が通知され、1件は苦情申立てが取り下げられた。

今回、公開を受けた案件のうちもっとも興味深い案件は、児童手当の申請手続きについての周知が不十分であるとして苦情が申し立てられた第2024-52号である。

この案件の申立人は、「所得上限限度額」を超過したため2022年度から児童手当の受給資格を喪失していたが、所得額が減ったために2024年度から児童手当が再度支給されると考えていた模様である。しかし、10月になっても何の通知もないことから区役所に問い合わせたところ、6月に申請が必要であった旨の説明を受けたため、申請が必要である旨対象者に通知するべきであるとして苦情が申し立てられた。

ところで、児童手当の支給を受けようとするときは、住所地の市町村長の認定を受けなければならず(児童手当法7条1項)、認定を受けた場合には、認定の請求をした日の属する月の翌月から児童手当が支給されることになる(同法8条2項)。そして、この案件の申立人は、「認定の請求」をしていなかったことから児童手当が支給されなかったわけである。

しかし、話はそれだけでは終わらない。児童手当は2024年10月から「所得上限限度額」を撤廃する等の制度改正がなされることになった(くわしくはこのサイトを参照されたい)。そのため札幌市では、「申請が必要と思われる方へのご案内」を新たに支給要件に該当する可能性がある者に対し発送したところ、申立人はこの案内を受けて申請を行ったことから、2024年9月分から児童手当が支給されることになった。

めでたし、めでたし・・・・、ではない。申立人は「たまたま」制度改正に伴う案内が送付されたために児童手当の請求につながったが、仮に制度改正がなければ、そのまま請求しないままだった可能性はじゅうぶんにある。

これに対し、市は受給資格を失った者については所得調査の同意を得ておらず、個別に申請勧奨を行うことはできない旨の説明をする。しかし、今般の制度改正に際しては新たに支給要件に該当する可能性があれば「申請が必要と思われる方へのご案内」を発送しているのであり、必ずしも説得的な説明とは思われない。

この点、市は通常の制度運用時には「法の不知を法は保護せず」の原則に忠実に申請の必要性について個別の案内はしない(ただし、資格喪失時の通知にはその旨の記載あり)一方で、制度改正時には(申請の必要性を含む)制度周知の必要性があると考えているのかもしれない。

しかし、今般の制度改正にともなう案内が発送されたことで、本件の申立人のように児童手当の認定請求をしていなかった者からの申請につながったならば、通常の制度運用時における制度の周知方法について、なお検討の必要性があることを示唆しているように思われる。

以上の次第で、この案件は市民に向けた制度や手続きの周知のあり方を考える上で興味深い材料であると当ブログ開設者は考えている。

そのほかの事案では、第2024-48号において申立人が自らを「善良な札幌市民」と称していることが目を引いた。今後、当ブログ開設者が札幌市に問い合わせをする際には、「口うるさくて煩わしい市民からの問い合わせで恐縮ですが」と一言断るべきか、現在、思案しているところである。

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①第2024-48号
 長きにわたり市民の声を聞く課に対し多数の要望をしてきた申立人が、同課から問題人物として警察に通報されたことをはじめとする一連の対応について納得できないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

②第2024-50号
 図書館で予約した図書の取り置き期限の延長が認められずに予約が取り消されたことに納得がいかないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:梶井祥子)

③第2024-51号
 自宅に隣接する市有地の桜の木の枝が越境する等管理が不十分であるとして対応を求めたにもかかわらず十分な対応がなされないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

④第2024-52号
 所得制限のため支給停止となっていた児童手当を再度受給するには申請が必要であるということであるが、申請が必要である旨の案内が不十分であるとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑤第2024-54号
 申立人に断りもなく窓口で対応した職員が申立人の障害者手帳にセロハンテープを貼ったことを契機として手帳が破損したとして、手帳の修復を求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:梶井祥子)

⑥第2024-58号
 町内会の活動実態が不明で会計報告もなされていないところ、市の担当部署に相談しても「町内会は自治組織であり町内会組織へ踏み込んだ調査及び指導ができない」という回答であったとして苦情が申し立てられたケース。本件申し立てが「市の直接的な機関でない町内会への苦情」であるとして調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:梶井祥子)

⑦第2024-62号
 自宅畑の横に産業廃棄物処理業者が廃棄物を堆積しているとして担当課に指導を要望した際には対応する旨の回答を得たがその後も改善されないとして苦情が申し立てられたケース。申立後に再度担当課に確認したところ業者に指導する旨の回答を得たとして、苦情申し立てが取り下げられた。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

⑧第2024-65号
 第2024-50号の申立人が当該調査が不十分であるとして再度の調査を求めて苦情が申し立てられたケース。「オンブズマンの行為に関する事項」はオンブズマンの所轄外であり、一度オンブズマンが行った調査は再調査できないとして調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:梶井祥子)