2023/10/01

2023年8月に調査を終了したケース

2023年9月1日、同年8月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、9月15日付で一部公開決定がなされた。

上記の期間(2023年8月)に調査を終了したのは8件で、このうち7件で調査結果が通知され、残る1件で調査しない旨が通知されて調査を終了している。

さて、今回もまた興味深い案件が公開されているが、ここでは介護保険制度の利用者からの苦情である第2023-26号に注目したい。それというのも、介護保険給付を受けてサービスを利用する市民からの苦情について、札幌市オンブズマンは自らの権限に基づく適切な調査を実施していないように思われるからである。

まず、この案件は、申立人がデイサービスを体験利用した際の苦情について、居宅介護支援事業所、ケアマネージャーおよび区の担当部局が適切に対応しないとして、さらなる対応を求めた「介護保険課から納得のいく明快な説明をしてもらえなかった」というものである。

一般に介護保険給付を受けて介護サービスを利用しようという場合、要介護認定を受けた上で、ケアマネージャーが作成するケアプランに基づいて介護サービスを利用することになる、その際、費用の大部分が介護保険から支給されることになる。

そして、介護サービスのうち居宅サービスを利用する場合には、指定居宅介護支援事業所のケアマネージャー(法令上の用語は「介護支援専門員」)が作成したケアプラン(法令上の用語は「居宅サービス計画」)に基づいて、指定居宅サービス事業者の介護サービスを利用することになる。

ところで、指定居宅サービス事業者(介護サービスを提供する事業者のことである)は、利用者及びその家族からの苦情に迅速かつ適切に対応することが義務づけられている(たとえば通所介護については札幌市指定居宅サービス等及び指定介護予防サービス等の事業の人員、設備及び運営の基準等に関する条例113条が準用する条例38条)。そして介護保険法は、保険給付に関して必要があると認めるとき(同法23条)および居宅介護サービス費の支給に関して必要があると認めるとき(同法76条1項)における行政の調査権限を規定する。

また、指定居宅介護支援事業者(当該事業者の事業所に所属するケアマネージャーがケアプランを作成する)も、自ら提供した指定居宅介護支援および自らが居宅サービス計画に位置付けた指定居宅サービスに対する利用者及びその家族からの苦情に迅速かつ適切に対応することが義務づけられている(札幌市指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営の基準等に関する条例29条1項)。そして介護保険法は、前述の同法23条のほか、同法83条1項が指定居宅介護支援事業者に対する行政の調査権限を規定する。

さらに、介護支援専門員(ケアマネージャー)は、厚生労働省令で定める基準に従って業務を行う義務があるところ(介護保険法69条の34第2項)、居宅サービス計画の作成後も居宅サービス計画の実施状況の把握が義務づけられている(札幌市指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営の基準等に関する条例16条13号)。そして都道府県知事は、介護支援専門員の業務の適正な遂行を確保するため必要があると認めるときは、介護支援専門員に対し必要な報告を求めることができる(介護保険法69条の38第1項)とされている(なお、この都道府県知事の権限を定めた規定は指定都市に適用される・地方自治法施行令174条の31の4第1項)。

このように、申立人が事業者等の苦情対応に不満をいだいたようなケースでは、そもそも事業者等が利用者等の苦情対応をすることは法令上の義務とされている点に留意する必要があるだろう。また、行政の調査権限についても法令の定めがあるのであり、①申立人の苦情は市が介護サービスの事業者等に対し調査権限を行使すべき事例であるかということ、さらに、②そうである場合に市が調査権限を適切に行使したかということ、それに加えて、③申立人の苦情に対応した市の担当部局の対応の適否などは、まさに「市の機関の業務の執行」として、札幌市オンブズマンの調査対象となるというが当ブログ開設者の制度理解である。

この点、過去にさかのぼると、札幌市オンブズマンは2021年度の8月(このエントリー)および9月(このエントリー)に2か月連続で介護保険の住宅改修費に関する苦情調査を終了しているが、いずれの案件も調査担当のオンブズマンが「市の機関の業務の執行」という観点から調査を実施するという視点が致命的に欠けていると思われた。そのため、当ブログ開設者は、介護保険法には「第4章 保険給付」および「第5章 介護支援専門員並びに事業者及び施設」のそれぞれに行政の権限が定められていることを指摘した(2021年9月に調査を終了したケース)。

さて、それから2年が経過しようとしているが、今回、第2023-26号の調査を担当したオンブズマン(2021年8月に調査を終了した第2021-17号を担当したオンブズマンでもある)は「苦情について調査しない旨」を通知した。そのため、申立人の苦情に対し、市の対応の適否についてオンブズマンの判断が示されることはなかった。

調査担当のオンブズマンは、①居宅介護支援事業所と申立人の関係は「市の機関の業務の執行」ではないこと、さらに、②ケアマネージャーの対応についてはすでに介護保険課から介護支援事業所への指導がなされているということを理由として調査を実施しなかったが、このような判断は、調査担当のオンブズマンが申立人の苦情を適切に把握しているのかということのみならず、オンブズマンの調査権限についての適切な理解を欠くのではないかという疑念を抱かせるものである。

もっとも、この第2023-26号では、申立人から全35枚におよぶ苦情申立書が提出されている(当ブログ開設者は当該文書の写しを交付されたものの、その内容は非公開とされた)。市から申立人に交付された「回答文書」がその中に含まれており、オンブズマンとしてはそれ以上の回答の必要はないと判断し、調査を実施しなかった可能性がある。

しかしながら、それでもなお、市が「文書回答」を行った一連の経緯(および当該回答文書の記載内容)の適否については、「市の機関の業務の執行」としてオンブズマン調査の対象となると思われる。また、市の一連の対応についてその根拠を明確にすることにも、申立人の「利害」が認められるであろう。

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①第2023-12号
 市営住宅の入居者が他の入居者の問題行動を理由として新たな入居者を入居させない結果空室が増え、既入居者にとっては入居者による役割分担の負担が大きいとして、新たな入居者を入居させることを求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

②第2023-13号
 申立人が生活保護の担当職員から「妄想」という発言を再三にわたりされたことで精神的苦痛を受けたとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

③第2023-14号
 市民自治推進課に対する問い合わせの回答に時間を要するとともに、オンブズマンに対し苦情を申し立てると伝えるや否や回答が寄せられたとして、回答に時間を要する対応の改善を求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智之)
④第2023-15号
 配偶者と2人で年金収入のみの苦しい生活をしているにもかかわらず、国民健康保険の保険料の減免申請を受け付けてもらえないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智之)

⑤第2023-17号
 申立人企業が所有する賃貸物件はペット禁止であるにもかかわらず生活保護受給者がペット連れで入居したことについて、保護課が転居費用を保護費として支給することができないと説明することや、ペット禁止の物件であることを認識しながら転居を認めたこと等に納得がいかないとして、市に納得のいく説明を求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)
⑥第2023-18号
 住民税非課税世帯支援給付金の申請手続きについてコールセンターに問い合わせた際、銀行の都合で変更になった銀行名の証明書類を添付するよう説明を受けたことに納得がいかないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

⑦第2023-21号
 生活保護受給者が、これまでケースワーカーの家庭訪問は事前に約束をして行われてきたにもかかわらず、今回事前の約束なしに家庭訪問がなされたことを不服として苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智之

⑧第2023-26号
 デイサービスを体験利用した際の利用報告書に事実に反する記載がなされていたことについて、居宅介護支援事業所、ケアマネージャーおよび区の担当課に苦情を申し立てても対応してもらえなかったことから、保健福祉局介護保険課に調査および指導を求めたものの、介護保険課からも納得のいく明快な説明が受けられなかったとして苦情が申し立てられたケース。事業所と申立人の関係は「市の機関の業務の執行」に該当せず、ケアマネの対応についてはすでに市から事業所に指導がなされているとして「調査することが相当でない特別の事情がある」として、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:原俊彦)

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