2024/02/08

2023年11月に調査を終了したケース

2023年12月1日、同年11月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、決定期限が延長され、2024年1月12日付で一部公開決定がなされた。

上記の期間(2023年11月)に調査を終了したのは6件で、このうち4件で調査結果が通知された。また、残る2件のうち1件は苦情申立てが取り下げられ、もう1件は調査しない旨が通知された。

今回公開された調査結果通知書のうち、市立図書館からはがきで通知を受けた予約図書の取り置き日数についての苦情である第2023-33号が興味深い。電子メールが一般化した今日、かつては迅速かつ簡便な連絡手段であったはずのはがきも、現在では非効率な連絡手段となったようだ。“昭和は遠くなりにけり”、といったところであろうか。

ところで、はがきで予約図書の通知がなされた場合の取り置き日数については、2022 年5月にそれまでの10日から12日に延長されている(当ブログ開設者の照会に対する中央図書館担当者からの回答)。このような対応は、2021年から22年にかけて、普通郵便およびはがきの配達日数が延長されたことにともなうものである。

この点、本件苦情のように、はがきによる通知の場合には他の連絡手段よりも実質的な受取可能日数が短くなる可能性があるとしても、すでに取り置き日数を延長しているという事情は、(さらに)「取り置き日数を延長することは困難である」という市の回答を正当化する根拠の一つとなるであろう。

もっとも、現在のはがきによる通知の運用は、通知ハガキの実物をいったん予約受付館から中央図書館に「庁内メール」で送付し、中央図書館から利用者に発送する場合もあるようだ。しかし、こうした手続きはいかにも効率が悪いといわざるを得ない。

そのため、当ブログ開設者は、予約受付館に予約図書が到着した旨を電子メールで中央図書館に通知し、中央図書館からはがきを発送すれば「庁内メール」の送付にかかる時間を短縮できると考える旨、中央図書館担当者に伝えたところである。

そのほか、今回の苦情を契機とする予約図書取り置き日数に関する利用者に向けた説明の改善内容については、通知書本体の「市の回答」部分で確認していただきたい。

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①第2023-28号
 申立人の子息が何某かの不始末をしでかしたこと(詳細は不明)にともなう学校の対応について苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

②第2023-32号
 札幌市外から札幌市に転入した申立人による市の児童相談所の一連の対応について苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

③第2023-33号
 市立図書館から予約図書の連絡をハガキで通知された場合における取り置き日数について苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

④第2023-34号
 生活保護受給者がこれまで「稼働収入」として取り扱われていた収入が「臨時収入」とする取扱いに変更されたことにより控除額が減額されたことについて(その結果、支給される保護費の額が減少することになると思われる)苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

⑤第2023-39号
 市営住宅の入居者がさまざまな嫌がらせを受けているとして苦情が申し立てられたケース。嫌がらせの主体が不明であり、調査対象とすべき機関も特定できないとして、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

⑥第2023-44号
 職員が申立人の就職活動を記録する日付印の日付をボールペンで修正したことについて問い合わせた際の対応が不適切であるとして苦情が申し立てられたケース。当該対応がなされたのは札幌市ではなく、北海道労働局の施設であったとして申し立てが取り下げられた。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

2023/11/24

2023年10月に調査を終了したケース

2023年11月1日、同年10月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、11月14日付で一部公開決定がなされた。

上記の期間(2023年10月)に調査を終了したのは3件で、全3件で調査結果が通知された。3名のオンブズマンが各々1件づつの担当である。以下ではそのうち2件について、当ブログ開設者の感じたところを述べる。

まず、第2023-19号である。この案件は、生活保護受給者が親族死亡により未支給の国民年金を受給したことにともなう、保護費の取扱いに関する苦情である。保護課は当初、親族死亡時に資産が発生したとして支給ずみの保護費の返還を求めたものの、その後対応を改め、未支給年金の入金時点で収入認定し保護を廃止した。こうした一連の対応の経緯について苦情が申し立てられたところ、市の保護課は、当初の説明が誤りであったことを認めた。

ところで、この案件における保護課の対応(とりわけ当初の説明が誤りであると認めたこと)について、当ブログ開設者は、対申立人向けの「方便」ではないかという印象を抱いている。

すなわち、保護課は当初、入金された未支給年金の「全額返還」(と保護の継続)というプランAを選択したものの、申立人世帯の納得を得るのが困難であると考え「保護廃止」というプランBの対応に変更したのではないか、ということである。また、そのような事情をそのまま申立人に説明することも、(たとえ事実であったとしても)申立人の気分を害する可能性は高い。

さらに、申立人世帯にとっても、保護を継続した場合には医療扶助が受給できるのに対し、保護廃止になると国民健康保険料および医療機関受診時には一部負担金という負担が生じることになる。そのため保護課としては当初、保護廃止後に入金された年金をやりくりしながら生活するのでは、生活保護受給時よりかえって生活が苦しくなるという点も考慮したのではないか、ということである。

ただし、これはあくまで当ブログ開設者の印象にすぎず、保護課の対応を過大評価しているかもしれない。また、申立人世帯にとっても、保護継続より保護廃止が可能ならばそちらを選択するという判断は、生活保護の受給の「自己決定」として尊重されるべきであると思われる(生活保護法も「申請保護の原則」を規定する・同法7条)。

ところで、案件を担当した原俊彦の判断によると、支給ずみの保護費の取扱いについて、戻入通知書による「返還」と納入通知書による「徴収」がなされたことについて、「これらの取扱いの違いについて文書と口頭で説明を受けましたが、オンブズマンにとっても両者の違いは容易に理解できるものではありませんでした」ということである。この記述からは、最終的にその違いを理解したのか未だ理解できないままなのか不明であるが、「行政に関し優れた識見を有する」(札幌市オンブズマン条例8条2項)オンブズマンにしては、あまりにも理解力が貧弱であろう。

この点、これらの通知書の「名宛人」及び「名目」の違いは、保護金品は世帯主に交付するのが原則であり(生活保護法31条3項本文および同法33条4項)、保護廃止となることで過支給となった保護費については「世帯主」に対し「戻入」の手続きが取られ、「世帯構成員」(当然ながら世帯主とは別人)の口座に未支給年金が入金され資産を保有することになったために返還が必要になった保護費については、当該世帯構成員に対し「徴収」の手続きがとられた(同法63条および77条の2第1項)、というのが当ブログ開設者の理解である。

次に、第2023-27号である。この案件では、札幌プレミア商品券2023の購入手続きについて、発券場所のローソンの数が少なく、発券するための端末操作も煩雑であるとして苦情が申し立てられた。

まず、当ブログ開設者が市の回答を一読し何より驚いたのが、発券機能を備えた端末を備えたローソンが札幌市南区内に5店舗しかないという事実である。申立人の居住区が南区ならば(公開を受けた文書からは不明)、「自宅の周りにはローソンがない」という事態も大いにありそうなことである。

それでは、ローソン以外のコンビニエンスストアはどうであろうか。市内各区の店舗数を調べたのが以下の表である(なお、表はあくまで店舗数であり、発券機能を備えた端末が未設置の店舗を含んでいる可能性がある)。参考のため、各区の人口および公的な性格を有する施設として投票所及び郵便局(簡易局を含む)の数も添えた。

それによると、南区のローソン5店舗というのは、市内の総店舗数がローソンより少ないファミリーマートの8店舗すら下回る惨状である。市は業務委託に際し「販売所は200か所以上を確保する」ことを要件としたそうであるが、購入者の利便性を確保するためにも、各区ごとに最低10か所の販売所を設置する等の要件もあわせて設定すべきであったと当ブログ開設者は考えている(条件を満たす(と思われる)コンビニエンスストアの系列が存することは下表のとおり)。今後、札幌市がコンビニエンスストアの発券機能を利用する事業を実施する機会があるならば、考慮していただきたいものである。

なお、この案件の担当オンブズマン田村智幸によると、「販売方法の選定については市の裁量が尊重されるべき」であり、「販売所について郵便局等を併用できたかについては軽々に判断できることではな(く)」、「ローソンを販売所としたことについて、市の判断に不備はない」そうであるが、販売所へのアクセス保障という視点が完全に欠落している。課題を残す判断であると思われる。


人口
(万人)
投票所
郵便局
ローソン
セイコー
マート
セブン
イレブン
ファミリー
マート
中央区
25 37 48 85 58 78 43
北区
29 48 33 30 47 48 20
東区
26 39 30 31 45 44 19
白石区
21 30 24 23 38 40 19
厚別区
12 22 13 13 15 15 6
豊平区
23 31 18 23 34 30 19
清田区
11 16 14 11 15 12 4
南区
13 33 20 5 28 18 8
西区
22 31 23 24 29 34 7
手稲区
14 24 15 14 22 17 4
全市
197 311 238 259 331 336 149

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①第2023-19号
 生活保護受給者が親族死亡により未支給の国民年金を受給したことにともなう保護費の取扱い等について苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

②第2023-27号
 札幌プレミア商品券2023の購入手続きについて、発券場所のローソンの数が少なく、発券するための端末操作も煩雑であるとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

③第2023-31号
 生活保護受給者に対する市職員の電話での対応や病状調査票に係る対応等について、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

2023/11/03

オンブズマンが苦情調査をしない条例上の根拠について

前回のエントリーで紹介した第2023-30号は、「苦情について調査しない旨」が通知された案件である。この案件では、職員の行為が「市の機関の業務の執行」(札幌市オンブズマン条例(以下、「条例」という。)3条)に該当しないという説示がなされている。しかしながら、当ブログ開設者はこの案件では、むしろ「申立人の利害の不存在」(条例16条1項1号)を理由とするべきであると考えている。

ところで、この点とは別に、当ブログ開設者はこの案件においてオンブズマンが、「条例16条第1項の規定により、調査をしないことといたしました」という説示に接し疑念を抱いた。それというのも、当ブログ開設者は、この案件では条例3条がオンブズマンが調査を実施しない根拠であり(すなわち苦情申立てに係る事実がオンブズマンの所轄外の事項である)、何故に条例16条を根拠とする旨を説示するのか、と感じたためである。

当ブログ開設者がこのように感じたのは、条例3条がオンブズマンの所轄事項を規定するとともに、条例16条が調査対象外の事項を規定し、苦情申立ての内容がオンブズマンの所轄外の事項である場合には条例3条、苦情申立ての内容が調査対象外の事項である場合には条例16条1項を根拠として、オンブズマンが調査を実施しないと理解していたからである(このほか、調査することが相当でない特別の事情がある場合については条例16条2項)。

しかしながら、今般改めて条例の規定を確認したところ、そうした理解は正鵠を得たものではないことが判明した。そこで以下において、条例の規定内容を確認しておきたい。

まず、札幌市オンブズマン条例17条1項は、オンブズマンが「前条の規定により苦情を調査しないときは、苦情申立人に対し、理由を付してその旨を速やかに通知しなければならない」と規定する。

そして、条例16条1項は、「オンブズマンの所轄事項でないもののほか」、同項各号が規定する「調査対象外の事項」に該当するものであるときには、オンブズマンが申立てに係る苦情について調査しないことを規定するのである。

この点、当ブログ開設者は、条例16条1項の「オンブズマンの所轄事項でないもののほか」という箇所を見落としていた。そのために、条例3条に基づいて調査しない場合と条例16条(1項及び2項)に基づいて苦情について調査しない場合があると誤認する結果となった。しかしながら、条例17条が前条の規定により調査しない場合の通知について規定している以上、条例16条のみが調査しない場合の根拠と考えるのが適切と思われる。

このように、札幌市オンブズマン条例は、オンブズマンが苦情について調査しないのは、①苦情がオンブズマンの所轄事項ではない場合(条例16条1項)、②所轄事項に該当するが調査対象外の事項に該当する場合(条例16条1項)、③所轄事項に該当するが調査することが相当でない特別の事情がある場合(条例16条2項)であることを規定し、苦情について調査しない場合にはその旨を申立人に通知する(条例17条1項)ことを義務づけるのである。

ただし、条例17条を読む限りでは、①条例16条以外を根拠として調査しない場合があるととともに、②その場合には申立人に対する通知は不要である、という反対解釈も成り立たないわけではない。そして、その場合には、条例3条の規定する所轄事項に該当しない苦情については、条例3条を直接の根拠として調査しないと理解するわけである。

しかしながら、前述したように条例16条1項が「オンブズマンの所轄事項でないもの」(同条例3条)についてもオンブズマンが調査しないと規定している以上、あえてこのような反対解釈をする必要性はない。のみならず、条例16条を根拠とせずにオンブズマンが調査を実施しない場合には条例17条に基づく書面通知も義務づけられないという解釈も適切ではないだろう(ただし、申立人が所在不明で通知不能な場合の対応は考えておくべきかもしれない)。

以上の次第で、申し立てられた苦情が条例3条が規定する「所轄外の事項」である場合において、「条例16条第1項の規定により、調査をしない」という第2023-30号のオンブズマンの説示も、理論的に誤りではないことが確認できた次第である。

とはいえ、この点について過去の案件を確認したところ、もう少し丁寧な言い回しがなされた案件も存在する。それらの案件では、①申し立てられた苦情が所轄外の事項であること、②条例16条1項は所轄外の事項については調査しない旨を規定していること、の2点について説示した上で、調査しないという結論を導いている。こうした論理展開が申立人に対してより懇切丁寧であることはいうまでもない。

2023/10/30

2023年9月に調査を終了したケース

2023年10月1日、同年9月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、10月16日付で一部公開決定がなされた。

上記の期間(2023年9月)に調査を終了したのは7件で、このうち5件で調査結果が通知された。また、残る2件のうち1件は調査しない旨が通知され、1件は申立人による苦情申し立ての取り下げにより調査が終了している。

さて、今回公開された全7件の案件のうち6件が神谷奈保子オンブズマンの担当である。あたかも”ワンマンショー”の趣である(残る1件の担当は田村智之オンブズマン)が、その仕上がりは決して芳しいものではないと、当ブログ開設者は考えている。

まず、第2023-23号である。この案件は、WEST19(札幌市保健所等が入所している施設である)の駐輪場所に関する苦情であるが、申立人は2023年5月17日から8月2日までの間、市が何の対策を示さなかったことについて苦情を申し立てている。これに対し、神谷奈保子オンブズマンは、7月6日に市民の声を聞く課から保健所健康企画課に情報提供がなされて以降の担当係の対応についての見解を示している。

しかしながら、申立人は、市民の声を聞く課から保健所担当課への情報提供がなされるに先立ち、5月17日、同月23日及び6月12日にも、市民の声を聞く課に対し苦情や要望を出していることを、神谷奈保子オンブズマンは「市政相談票」で確認した旨を自らの判断中で言及している。このような事情を把握しながら、神谷奈保子オンブズマンが市民の声を聞く課から保健所担当課へ7月6日まで情報提供がなされなかった事情についての調査を行っていない。当ブログ開設者は、神谷奈保子オンブズマンの明らかな職務懈怠であると考えている。

次に、第2023-25号である。この案件は、住民税の「減免」を受けている生活保護受給者が札幌市住民税「非課税」世帯支援給付金の支給を受けられなかったことについて、苦情を申し立てた事例である。

この住民税の「減免」と「非課税」の違いは、住民税の賦課期日である1月1日の時点で生活保護を受給している場合には住民税が「非課税」となり、賦課期日より後に生活保護の受給を開始した場合には申請により住民税が「減免」されるというものである(ただし、生活保護受給開始前の賦課期日の時点で住民税非課税の場合は減免の申請は不要である)。

この点、神谷奈保子オンブズマンが自らの判断中でこうした両者の違いを説明していれば、もっと要領のよい判断となったと思われる。とはいえ、制度をベースに勘所を押さえた説明をオンブズマンに期待するのは、"ないものねだり"かもしれない(なお、上記の説明は、あくまで「減免」と「非課税」の違いについてである。「減免」と「非課税」で支援給付金の支給に差を設けることの当否については、別途、検討を要することはいうまでもない)。

さらに、第2023-30号である。この案件は、市職員が勤務時間中にイントラメールで私的なやり取りをしたり、勤務時間中に調査施設を私的に利用しているとして申し立てられた苦情である。神谷奈保子オンブズマンは、「本件申立てに係る市の職員同士間の不適切な行為については、市の業務執行に該当するものではなく、職員個人の私的な行為にあたる」ことから、オンブズマンの所轄事項である「市の機関の業務の執行に関する事項及び当該業務に関する職員の行為」(札幌市オンブズマン条例3条)に該当しないと判断したようである。

しかしながら、こうした判断は是認できない。なぜなら、市職員は職務専念義務を課されているため(地方公務員法35条)、本来行うべき業務を行っていないという職務専念義務の懈怠は、「当該業務に関する職員の(不作為という)行為」として、オンブズマンの所轄事項に該当すると考えられるからである。

もっとも、市職員が不適切な行為をしているという苦情がオンブズマンの所轄事項であったとしても、申立人が申立ての原因となった事実に「利害」を有しないときには、オンブズマンの調査対象外の事項となる(札幌市オンブズマン条例16条1項1号)。したがって、この案件においてオンブズマンが調査をしない理由は、オンブズマンの所轄外の事項だからではなく、申立人が利害を有しないためであるとするのが適切であったと当ブログ開設者は考えている。

このほか、第2023-22号の判断においては、「共感の姿勢や寄り添う気持ちを持った対応をお願いしたい」という見解を披瀝する神谷奈保子オンブズマンであるが、市職員の主観的な姿勢や感情のあり方について云々することについて、当ブログ開設者は根本的な疑問を抱いている。それは、当ブログ開設者が市職員に期待することは、市民の要望を適切に把握することであり、市民に対し適切な説明を行うことだからである。どのようなタイミングでどのような説明を行うのが適切かは、ケースバイケースで案外難しい。求められるのは、職務遂行のための日々の研鑽であろう。

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①第2023-20号
 生活保護受給者がクーラー設置費用の支給を求めたが、その際の職員の対応がけんもほろろであったとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

②第2023-22号
 生活保護受給者が家賃の更新料の支払いおよび障害者加算を求めた際の職員の対応について苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

③第2023-23号
 WEST19の庁舎周辺部の駐輪禁止エリアを明確にすることを求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)
④第2023-24号
 札幌市住民税非課税世帯支援給付金の支給に時間がかかりすぎているとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智之)

⑤第2023-25号
 生活保護受給者がケースワーカーから札幌市住民税非課税世帯支援給付金の支給対象になると思われる旨の説明を受けたにも関わらず、支給対象の「非課税者」ではなく「免税者」であることを理由として支給されなかったとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

⑥第2023-29号
 交通事故の現場で受傷者の救護に当たった際、その後到着した救急隊から失礼な発言をされたとして苦情が申し立てられたケース。申立人が苦情申し立てを取り下げたことにより調査は終了している。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

⑦第2023-30号
 市職員が勤務時間中にイントラメールで私的なやり取りをしたり、勤務時間中に調査施設を私的に利用しているとして苦情が申し立てられたケース。本件申立てに係る市の職員同士間の不適切な行為については、市の業務執行に該当するものではないとして、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

2023/10/01

2023年8月に調査を終了したケース

2023年9月1日、同年8月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、9月15日付で一部公開決定がなされた。

上記の期間(2023年8月)に調査を終了したのは8件で、このうち7件で調査結果が通知され、残る1件で調査しない旨が通知されて調査を終了している。

さて、今回もまた興味深い案件が公開されているが、ここでは介護保険制度の利用者からの苦情である第2023-26号に注目したい。それというのも、介護保険給付を受けてサービスを利用する市民からの苦情について、札幌市オンブズマンは自らの権限に基づく適切な調査を実施していないように思われるからである。

まず、この案件は、申立人がデイサービスを体験利用した際の苦情について、居宅介護支援事業所、ケアマネージャーおよび区の担当部局が適切に対応しないとして、さらなる対応を求めた「介護保険課から納得のいく明快な説明をしてもらえなかった」というものである。

一般に介護保険給付を受けて介護サービスを利用しようという場合、要介護認定を受けた上で、ケアマネージャーが作成するケアプランに基づいて介護サービスを利用することになる、その際、費用の大部分が介護保険から支給されることになる。

そして、介護サービスのうち居宅サービスを利用する場合には、指定居宅介護支援事業所のケアマネージャー(法令上の用語は「介護支援専門員」)が作成したケアプラン(法令上の用語は「居宅サービス計画」)に基づいて、指定居宅サービス事業者の介護サービスを利用することになる。

ところで、指定居宅サービス事業者(介護サービスを提供する事業者のことである)は、利用者及びその家族からの苦情に迅速かつ適切に対応することが義務づけられている(たとえば通所介護については札幌市指定居宅サービス等及び指定介護予防サービス等の事業の人員、設備及び運営の基準等に関する条例113条が準用する条例38条)。そして介護保険法は、保険給付に関して必要があると認めるとき(同法23条)および居宅介護サービス費の支給に関して必要があると認めるとき(同法76条1項)における行政の調査権限を規定する。

また、指定居宅介護支援事業者(当該事業者の事業所に所属するケアマネージャーがケアプランを作成する)も、自ら提供した指定居宅介護支援および自らが居宅サービス計画に位置付けた指定居宅サービスに対する利用者及びその家族からの苦情に迅速かつ適切に対応することが義務づけられている(札幌市指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営の基準等に関する条例29条1項)。そして介護保険法は、前述の同法23条のほか、同法83条1項が指定居宅介護支援事業者に対する行政の調査権限を規定する。

さらに、介護支援専門員(ケアマネージャー)は、厚生労働省令で定める基準に従って業務を行う義務があるところ(介護保険法69条の34第2項)、居宅サービス計画の作成後も居宅サービス計画の実施状況の把握が義務づけられている(札幌市指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営の基準等に関する条例16条13号)。そして都道府県知事は、介護支援専門員の業務の適正な遂行を確保するため必要があると認めるときは、介護支援専門員に対し必要な報告を求めることができる(介護保険法69条の38第1項)とされている(なお、この都道府県知事の権限を定めた規定は指定都市に適用される・地方自治法施行令174条の31の4第1項)。

このように、申立人が事業者等の苦情対応に不満をいだいたようなケースでは、そもそも事業者等が利用者等の苦情対応をすることは法令上の義務とされている点に留意する必要があるだろう。また、行政の調査権限についても法令の定めがあるのであり、①申立人の苦情は市が介護サービスの事業者等に対し調査権限を行使すべき事例であるかということ、さらに、②そうである場合に市が調査権限を適切に行使したかということ、それに加えて、③申立人の苦情に対応した市の担当部局の対応の適否などは、まさに「市の機関の業務の執行」として、札幌市オンブズマンの調査対象となるというが当ブログ開設者の制度理解である。

この点、過去にさかのぼると、札幌市オンブズマンは2021年度の8月(このエントリー)および9月(このエントリー)に2か月連続で介護保険の住宅改修費に関する苦情調査を終了しているが、いずれの案件も調査担当のオンブズマンが「市の機関の業務の執行」という観点から調査を実施するという視点が致命的に欠けていると思われた。そのため、当ブログ開設者は、介護保険法には「第4章 保険給付」および「第5章 介護支援専門員並びに事業者及び施設」のそれぞれに行政の権限が定められていることを指摘した(2021年9月に調査を終了したケース)。

さて、それから2年が経過しようとしているが、今回、第2023-26号の調査を担当したオンブズマン(2021年8月に調査を終了した第2021-17号を担当したオンブズマンでもある)は「苦情について調査しない旨」を通知した。そのため、申立人の苦情に対し、市の対応の適否についてオンブズマンの判断が示されることはなかった。

調査担当のオンブズマンは、①居宅介護支援事業所と申立人の関係は「市の機関の業務の執行」ではないこと、さらに、②ケアマネージャーの対応についてはすでに介護保険課から介護支援事業所への指導がなされているということを理由として調査を実施しなかったが、このような判断は、調査担当のオンブズマンが申立人の苦情を適切に把握しているのかということのみならず、オンブズマンの調査権限についての適切な理解を欠くのではないかという疑念を抱かせるものである。

もっとも、この第2023-26号では、申立人から全35枚におよぶ苦情申立書が提出されている(当ブログ開設者は当該文書の写しを交付されたものの、その内容は非公開とされた)。市から申立人に交付された「回答文書」がその中に含まれており、オンブズマンとしてはそれ以上の回答の必要はないと判断し、調査を実施しなかった可能性がある。

しかしながら、それでもなお、市が「文書回答」を行った一連の経緯(および当該回答文書の記載内容)の適否については、「市の機関の業務の執行」としてオンブズマン調査の対象となると思われる。また、市の一連の対応についてその根拠を明確にすることにも、申立人の「利害」が認められるであろう。

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①第2023-12号
 市営住宅の入居者が他の入居者の問題行動を理由として新たな入居者を入居させない結果空室が増え、既入居者にとっては入居者による役割分担の負担が大きいとして、新たな入居者を入居させることを求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

②第2023-13号
 申立人が生活保護の担当職員から「妄想」という発言を再三にわたりされたことで精神的苦痛を受けたとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

③第2023-14号
 市民自治推進課に対する問い合わせの回答に時間を要するとともに、オンブズマンに対し苦情を申し立てると伝えるや否や回答が寄せられたとして、回答に時間を要する対応の改善を求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智之)
④第2023-15号
 配偶者と2人で年金収入のみの苦しい生活をしているにもかかわらず、国民健康保険の保険料の減免申請を受け付けてもらえないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智之)

⑤第2023-17号
 申立人企業が所有する賃貸物件はペット禁止であるにもかかわらず生活保護受給者がペット連れで入居したことについて、保護課が転居費用を保護費として支給することができないと説明することや、ペット禁止の物件であることを認識しながら転居を認めたこと等に納得がいかないとして、市に納得のいく説明を求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)
⑥第2023-18号
 住民税非課税世帯支援給付金の申請手続きについてコールセンターに問い合わせた際、銀行の都合で変更になった銀行名の証明書類を添付するよう説明を受けたことに納得がいかないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

⑦第2023-21号
 生活保護受給者が、これまでケースワーカーの家庭訪問は事前に約束をして行われてきたにもかかわらず、今回事前の約束なしに家庭訪問がなされたことを不服として苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智之

⑧第2023-26号
 デイサービスを体験利用した際の利用報告書に事実に反する記載がなされていたことについて、居宅介護支援事業所、ケアマネージャーおよび区の担当課に苦情を申し立てても対応してもらえなかったことから、保健福祉局介護保険課に調査および指導を求めたものの、介護保険課からも納得のいく明快な説明が受けられなかったとして苦情が申し立てられたケース。事業所と申立人の関係は「市の機関の業務の執行」に該当せず、ケアマネの対応についてはすでに市から事業所に指導がなされているとして「調査することが相当でない特別の事情がある」として、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:原俊彦)