2023/11/03

オンブズマンが苦情調査をしない条例上の根拠について

前回のエントリーで紹介した第2023-30号は、「苦情について調査しない旨」が通知された案件である。この案件では、職員の行為が「市の機関の業務の執行」(札幌市オンブズマン条例(以下、「条例」という。)3条)に該当しないという説示がなされている。しかしながら、当ブログ開設者はこの案件では、むしろ「申立人の利害の不存在」(条例16条1項1号)を理由とするべきであると考えている。

ところで、この点とは別に、当ブログ開設者はこの案件においてオンブズマンが、「条例16条第1項の規定により、調査をしないことといたしました」という説示に接し疑念を抱いた。それというのも、当ブログ開設者は、この案件では条例3条がオンブズマンが調査を実施しない根拠であり(すなわち苦情申立てに係る事実がオンブズマンの所轄外の事項である)、何故に条例16条を根拠とする旨を説示するのか、と感じたためである。

当ブログ開設者がこのように感じたのは、条例3条がオンブズマンの所轄事項を規定するとともに、条例16条が調査対象外の事項を規定し、苦情申立ての内容がオンブズマンの所轄外の事項である場合には条例3条、苦情申立ての内容が調査対象外の事項である場合には条例16条1項を根拠として、オンブズマンが調査を実施しないと理解していたからである(このほか、調査することが相当でない特別の事情がある場合については条例16条2項)。

しかしながら、今般改めて条例の規定を確認したところ、そうした理解は正鵠を得たものではないことが判明した。そこで以下において、条例の規定内容を確認しておきたい。

まず、札幌市オンブズマン条例17条1項は、オンブズマンが「前条の規定により苦情を調査しないときは、苦情申立人に対し、理由を付してその旨を速やかに通知しなければならない」と規定する。

そして、条例16条1項は、「オンブズマンの所轄事項でないもののほか」、同項各号が規定する「調査対象外の事項」に該当するものであるときには、オンブズマンが申立てに係る苦情について調査しないことを規定するのである。

この点、当ブログ開設者は、条例16条1項の「オンブズマンの所轄事項でないもののほか」という箇所を見落としていた。そのために、条例3条に基づいて調査しない場合と条例16条(1項及び2項)に基づいて苦情について調査しない場合があると誤認する結果となった。しかしながら、条例17条が前条の規定により調査しない場合の通知について規定している以上、条例16条のみが調査しない場合の根拠と考えるのが適切と思われる。

このように、札幌市オンブズマン条例は、オンブズマンが苦情について調査しないのは、①苦情がオンブズマンの所轄事項ではない場合(条例16条1項)、②所轄事項に該当するが調査対象外の事項に該当する場合(条例16条1項)、③所轄事項に該当するが調査することが相当でない特別の事情がある場合(条例16条2項)であることを規定し、苦情について調査しない場合にはその旨を申立人に通知する(条例17条1項)ことを義務づけるのである。

ただし、条例17条を読む限りでは、①条例16条以外を根拠として調査しない場合があるととともに、②その場合には申立人に対する通知は不要である、という反対解釈も成り立たないわけではない。そして、その場合には、条例3条の規定する所轄事項に該当しない苦情については、条例3条を直接の根拠として調査しないと理解するわけである。

しかしながら、前述したように条例16条1項が「オンブズマンの所轄事項でないもの」(同条例3条)についてもオンブズマンが調査しないと規定している以上、あえてこのような反対解釈をする必要性はない。のみならず、条例16条を根拠とせずにオンブズマンが調査を実施しない場合には条例17条に基づく書面通知も義務づけられないという解釈も適切ではないだろう(ただし、申立人が所在不明で通知不能な場合の対応は考えておくべきかもしれない)。

以上の次第で、申し立てられた苦情が条例3条が規定する「所轄外の事項」である場合において、「条例16条第1項の規定により、調査をしない」という第2023-30号のオンブズマンの説示も、理論的に誤りではないことが確認できた次第である。

とはいえ、この点について過去の案件を確認したところ、もう少し丁寧な言い回しがなされた案件も存在する。それらの案件では、①申し立てられた苦情が所轄外の事項であること、②条例16条1項は所轄外の事項については調査しない旨を規定していること、の2点について説示した上で、調査しないという結論を導いている。こうした論理展開が申立人に対してより懇切丁寧であることはいうまでもない。

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