2022/01/28

苦情について調査しない旨の通知書(第2021-92号)及びオンブズマン調査のあり方についての意見書

 思うところあって、札幌市オンブズマンに苦情を申し立てた(2件)ところ、いずれも、「苦情について調査しない旨の通知書」が送付されてきた。どのような苦情を申し立てたかについては、2022年1月に調査を終了した案件についての公文書公開を受けた際、紹介するとして(ここで紹介)、今回申し立てた苦情のうちの1件及びオンブズマン調査のあり方について、当ブログ開設者の考えるところを札幌市オンブズマン室宛に送信した。以下、その本文を紹介する。


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1 オンブズマンの独立性及び公正中立性について

一般に「オンブズマン」の制度においては(ここでいうオンブズマンとは、いわゆる民間のオンブズマンのことではなく、行政オンブズマン、議会オンブズマン等の「公的オンブズマン」を想定している)、オンブズマンは、独立の地位で公正中立の立場から調査を実施するのであり、その活動は何人からも干渉・介入されてはならない。このことは、札幌市オンブズマンの制度についても同様であり、オンブズマンが独立の地位であるために、「オンブズマンの行為」が事後的にオンブズマンによる調査対象にもならない(札幌市オンブズマン条例3条6号)ことが規定されている。

また、ここでいう「オンブズマンの行為」とは、元々はオンブズマンが申立人と面談した際の対応のように、①オンブズマンの具体的な言動を指していたと思われるが、現在の札幌市オンブズマン制度の運用においては、調査結果や調査を実施しない等判断等、②オンブズマンの調査活動も含む概念であると理解されているようである。

ところで、札幌市においてオンブズマンの委嘱を受けた者は、自らの自覚と責任の下、オンブズマン条例の定める目的実現のため、その職務に精励することが期待されている。そのために、①オンブズマンの(オンブズマンによっても干渉されない)活動領域はどの程度まで確保されるべきか、その前提として、②オンブズマンが中立性を確保できる活動領域の限界について、原理原則に即した検討が必要になると思われる(ここではとりわけ、オンブズマン事務局との関係を想定している)。


2 申立人による再度の苦情申立てについて

札幌市オンブズマン条例は、オンブズマンの職務について、「市の業務に関する苦情の申立てを受け付け、簡易迅速に処理すること」(4条1号)を規定する。この規定は、オンブズマンが簡易迅速に苦情を処理する必要上、申立人が同一の苦情について再度の申立てをすることを認めない根拠となりうると思われる。

すなわち、オンブズマンが苦情を簡易迅速に処理する必要上、申立人は同一の苦情について申し立てをすることができるのは1度限りであり、いったんオンブズマンが調査結果を通した場合には、実質的に同一の苦情申立てについては、「申立ての原因となった事実についての利害を有しない」(札幌市オンブズマン条例16条1項1号)と判断するわけである。

ただし、それはあくまで、「同一の苦情」について申し立てられた場合についてであり、調査が終了した後、新たな事情の下、苦情を申し立てることが妨げられるものではない。

そして、この「苦情申立て1回制の原則」とでも呼ぶべき取扱いは、オンブズマンが調査結果を通知したケース及びオンブズマンが調査結果と通知しなかったそれぞれのケースにおいて、以下のような根拠づけられる。

(1)オンブズマンが調査結果を通知したケース

オンブズマンが調査結果を通知したケースにおいては、①オンブズマンの行為該当性と②申立人の利害の存否という、二つの論点から、調査を実施しないという判断を根拠づけることができる。

まず、①オンブズマンの行為該当性についてである。この論点は、オンブズマンが実施した調査結果に納得がいかないとして再度苦情が申し立てられたケースについて処理する場合の正当化根拠である。この場合、オンブズマンが実施した調査という「オンブズマンの行為」(札幌市オンブズマン条例3条6号)に該当する苦情であるとして、オンブズマンの所轄外の事項に該当すると判断することになる。したがって、この場合には「再度」の苦情申立てではなく、「新たな苦情」という側面に着目しての処理となる。

次に、②申立人の利害の存否である。この論点は、調査結果に対する不満であることが必ずしも明確でない苦情の場合には、調査結果を通知した苦情と実質的に同一の苦情が申し立てられているならば、「苦情申立て1回制の原則」から、「申立ての原因となった事実についての利害を有しない」(札幌市オンブズマン条例16条1項1号)として、オンブズマンによる調査対象外の事項に該当すると判断することになる。

なお、①オンブズマンの行為該当性と②申立人の利害の存否の両者は必ずしも排他的な関係ではない。申立人がオンブズマンの調査について不満を抱き苦情を申し立てたが、終了した調査と実質的に同一の苦情であり、再度苦情を申し立てる「利害」も存しないということは、十分に考えられる。

この場合には、いずれかの理由を選択するか、双方の理由によって、調査しない旨を根拠づけることになる。

(2)オンブズマンが調査結果を通知しなかったケース

オンブズマンが調査結果を通知しなかった場合には、②申立人の利害の存否について「苦情申立て1回制の原則」により、再度苦情を申し立てる利害が失われたと結論づけることには困難である。なぜならば、申立人による苦情申し立ては、オンブズマンから調査結果を通知されることを前提になされるのであり、オンブズマンが調査を実施しない「事実」に関しては、なお申立人の「利害」は失われていないと評価できるからである。

この場合、申立人の苦情において、オンブズマンが調査を実施しなかったということへの不服が明確に示されているならば、①オンブズマンの行為該当性を理由として、オンブズマンの所轄外の事項に該当すると判断することになる。

これに対し、調査を実施しなかったことへの不満であることが必ずしも明確でない苦情の場合には、調査結果を通知せずに調査を終了した苦情と実質的に同一の苦情であるならば、調査結果を通知せずに調査を終了した苦情と同一の理由により、再度、調査を終了することになる。

なお、このような対応は、「オンブズマンが同じことを繰り返すこと」が、オンブズマンが調査を実施しない理由とはならないことを意味している。

以上の次第で、申立人から再度の苦情申立てがなされた場合、すでに終了している調査において調査結果が通知されているか否かにより、取扱いに差が生じることになる。これは、「申立ての原因となった事実」には、オンブズマンが調査結果を通知したか否かという事情を含めて考えることを意味している。


3 第2021-92号の案件処理について

田村智幸オンブズマンが担当された2022年1月25日付の苦情について調査しない旨の通知書(第2021-92号)について、以下、わたくしの考えるところを述べる。

まず、オンブズマンは「本件苦情申立ては、前回苦情申立てと同様の内容と捉えることができます」と苦情の内容を把握する。そして、「オンブズマンの行為」という所轄外の行為についてオンブズマンが調査を行わないことについて、「オンブズマンの出した結果を再び審理することになると、同じことを何度も繰り返すことになり、いつまでも問題が解決しない」という理由により根拠づける。

しかしながら、「同じことを何度も繰り返す」ことが問題であるとして、先に申し立てた第2021-87号の苦情では「調査をしない旨」が通知されているように、調査は実施されていない。したがって、今回の苦情調査を行ったとしても、「同じことを繰り返す」ことにはならない。

また、「オンブズマンの出した結果を再び審理する」ことをオンブズマンは問題視するが、ここでいう「結果」が第2021-87号の苦情を「調査をしない」というオンブズマンの対応であるとするならば、今回の調査は第2021-87号の調査終了後になされた「初回」の苦情申立てであり、「結果を再び」調査することにはなるわけではない。のみならず、オンブズマンが把握した本件苦情の内容は、「前回苦情申立てと同様の内容」なのであり、「調査をしない」という前回苦情に対するオンブズマンの対応について苦情が申し立てられたと、オンブズマンが把握しているわけでもない。

この点、電話照会に対応したオンブズマン事務局の小早川氏から、「第2021-87号を担当したオンブズマンが調査しないと判断した内容と、今回申し立てられた苦情の内容は同様のものであり、同じことを繰り返すことになる」という説明を受けた(とわたくしは理解した)。そうだとすると、苦情内容の「同一性」を理由として調査をしないということを意味している。したがって、苦情について調査しない旨の通知書(第2021-92号)に記載されたように、第2021-87号において、苦情について調査しないという「オンブズマンの出した結果」について、再び審理することになるわけではない。

このように、苦情について調査しない旨の通知書(第2021-92号)は、オンブズマンが把握する苦情の内容と、調査しない理由との間に齟齬があると言わざるを得ない。

以上の次第で、今回の苦情についてオンブズマンが調査を実施しないならば、第2021-87号の調査において「調査しない」と判断した、「オンブズマンの行為」についての苦情であり、条例が規定する調査対象外の事項である旨の理由づけをすることが、直接かつ適切な事案の処理であったと思われる。


以上


2022/01/20

2021年12月に調査を終了したケース

 2022年1月1日、前年12月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、2022年1月17日付で一部公開決定がなされた。

上記の期間(2021年12月)に調査を終了したのは12件で、このうち7件で調査結果が通知されている。また、残る5件のうち3件は調査をしない旨が通知され調査を終了し、1件は申立人の取り下げ、1件は申立人の取り下げによる調査中止により、調査が終了している。

さて、今回の交付分は、読みごたえのある案件が数多く見られた。なかでも、田村智幸オンブズマンの担当分は、調査の「前提」として、オンブズマンが何を調査するのか明確にしたうえで、実体的な中身を判断している。「田村スタイル」とでも呼ぶべきこうした調査スタイルは、すでに第2021-27号の調査(この案件は、新幹線のトンネル工事の汚染土の処理についての住民に向けた説明のあり方に関する苦情である)でも見られたところであるが、札幌市オンブズマンの調査のあり方として望ましいものであると、当ブログ開設者
は考えている。

とりわけ、自立支援医療の診療報酬に関する案件の第2021-59号は、市が指定医療機関に対し、法令に基づいていかなる権限が認められているかという「制度」の概要を丹念に確認している。このような調査は、「制度ベース」の調査とでも呼ぶことができようか。そして、「制度ベース」の調査で確認した内容は、今後の調査(今回の調査の内容であれば、自立支援医療に関する苦情が申し立てられた場合)において、調査担当者が制度を理解する助けになると思われる。

のみならず、「制度ベース」の調査で得られた成果は、単に申立人の苦情を表面的になぞる「苦情ベース」の調査の場合と異なり、調査対象部局にとっても、市民に向けた制度説明のテンプレートとして活用できる可能性を秘めている。札幌市オンブズマン制度のあり方として、「制度ベース」の調査スタイル(「田村スタイル」はその一例である)が広く定着することを期待したい。

次に、第2021-77号は、市立札幌病院で妻が出産した申立人による面会が制限されていることについての苦情である。この申立人はおそらく、第2021-72号の申立人と同一人物であると思われる(この案件は、面会が制限される理由について説明を受けられないという苦情であった)が、第2021-72号と同様に「調査しない旨」が通知されている(第2021-72号の調査を実施しなかったことの適否については、このエントリーで言及している)。

この案件では、先に申し立てられた苦情(第2021−72号)を調査しなかった以上、面会制限自体に関する今回の苦情(第2021-77号)についても調査しないと判断したのであろう思われる。しかしながら、札幌市オンブズマン条例は、「オンブズマンは、専門的又は技術的な事項について、特に必要があると認めるときは、専門的機関に対し、調査、鑑定、分析等の依頼をすることができる」(19条3項)と規定している。したがって、オンブズマンが専門的知見を有さないとしても、そのことだけでは、調査を実施しない理由とはならないであろう(ただし、この点は第2021-72号も同様)。

また、こうした場合、オンブズマンが医療機関の専門的な対応についての判断はできないとしても、なお、医療機関がどのような説明をしているか、調査結果通知書に記載することで、申立人に取り次ぐことはできるであろう。この点、オンブズマンは「判断」を示すことが役割であると考えているならば、そうした呪縛から解放される必要があるのかもしれない。

ところで、この案件を担当したオンブズマンは、申立人がその他の病院と市立札幌病院の対応の違いを主張していることに対し、「その他の病院は市の機関ではない」として、オンブズマンの所轄事項ではないと判断している。

しかしながら、この案件は、「その他の病院」の対応について申し立てられた苦情ではなく、市の機関たる市立札幌病院の対応についての苦情である。このような場合、その他の病院の対応は、市立札幌病院の対応の当否を検討する上で、考慮要素の一つとなると思われる。したがって、その他の病院が「市の機関ではない」ことを理由として調査を実施しないことは、オンブズマンがオンブズマンの所轄事項についての理解を欠くか、単に手抜きをしたかのいずれかであると思われる。

このほか、新型コロナワクチン接種の問合せセンター(第2021-67号)や、マイナンバーカードコールセンター(第2021-71号)の対応について、苦情が申し立てられているのが興味深い。いずれのケースも、市民向けの電話対応を委託した民間業者の対応についての苦情である。これらの苦情をふまえ、市には今後、①市民向けの説明のあり方や、②市と委託業者間の連携のあり方等、共通すると思われる課題について、部局を超えての情報共有を期待したい。

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①第2021-29号
 生活保護の受給者が、担当ケースワーカーが交代すると聞いて新担当ケースワーカーに電話したが、その際の対応に納得がいかないとして、苦情が申し立てられたケース。オンブズマンとの面談を希望していたが、体調が回復しないとして、いったん苦情申し立てが取り下げられた。(担当オンブズマン:田村智幸)

②第2021-58号
 生活保護受給者が、市営住宅の駐車場を解約した際の還付金、子どもが部活動で使用する物品の購入代金、過去に保護を受給していた際の過払い金の返還、交通事故の事故報告書の提出等、担当ケースワーカーの対応がきついとして、ケースワーカーの交代を求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

③第2021-59号
 自立支援医療の指定医療機関による診療報酬の取扱いが適正ではないとして市の担当部局に対応を求めているにもかかわらず、指定医療機関に対し適切な権限行使がなされていないとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

④第2021-67号
 新型コロナワクチンの接種券を申し込んだにもかかわらず届かないため、再三にわたり問い合わせをしたにもかかわらず、未だに届いていないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑤第2021-68号
 自宅に隣接する建物の消防法令違反について、消防局に対応を求めているにもかかわらず、違反状態が是正されないとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

⑥第2021-69号
 衆議院議員選挙の期日前投票の際にヘルパーとして同伴したが、家族ではないことを理由として投票所への入場を断られたとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑦第2021-70号
 市営住宅の駐車場で隣のスペースに駐車する車の駐車位置を改善することを求め、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

⑧第2021-71号
 マイナンバーカードコールセンターに健康保険証としての利用について問い合わせたが、説明内容が高齢者に対する配慮が欠けているとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

⑨第2021-77号
 市立札幌病院で妻が出産したが、新型コロナ感染症対策を理由として生まれた子どもへの面会が制限されているとして、苦情が申し立てられたケース。調査することが相当でない特別の事情がある等を理由として、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:原俊彦)

⑩第2021-79号
 生活保護受給者が、障害者手帳が郵送されたために適切な障害者加算が受けられなかったとして、苦情が申し立てられたケース。調査開始後申し立てが取り下げられたため、調査中止が通知された。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

⑪第2021-81号
 違法建築物が長年にわたり放置されている件で、市に対応の方針についての回答を求め、苦情が申し立てられたケース。過去に同趣旨の苦情が申し立てられているところ、オンブズマンの行為はオンブズマンの所轄外であるとして、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑫第2021-85号
 金融機関、警察、裁判所等が、申立人個人に関する事項について、申立人の承諾もなく取り扱っているとして、苦情が申し立てられたケース。苦情申し立て内容がオンブズマンの所轄事項に該当しないとして、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:田村智幸)

2021/12/22

2021年11月に調査を終了したケース

 2021年12月1日、同年11月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、同年12月14日付で一部公開決定がなされた。

上記の期間(2021年11月)に調査を終了したのは9件で、このうち6件で調査結果が通知されている。また、残る3件は調査をしない旨が通知され、調査が終了している。

さて、このエントリーはおそらく、2021年最後になると思われる。そこで、今回は公開を受けた案件についてコメントする前に、2021年に「公文書公開制度」をめぐって強く印象に残ったケースについて、言及することにしたい。

当ブログ開設者はこれまで、「公文書公開制度」は、文書に記載された「内容」を明らかにする制度であると考えていた。しかしながら、開示を受けた文書の「形状」も問題になりうるということで、認識を新たにした。すなわち、2021年8月6日に広島で開催された平和祈念式典で、菅義偉首相(当時)が挨拶文の一部を読み飛ばした一件である。

メディアでは、挨拶文の「原稿がのりでくっついてて剝がれなかった」旨の報道もなされたが、その後、公文書公開請求に基づいて公開された挨拶文の「原本」には、糊付けの跡は見られなかったという報道がなされたことは記憶に新しい(【総理の挨拶文】のり付着の痕跡はなかった(上))。公開を受けた挨拶文の原本は、「丁寧で細やかな仕事ぶり」だったそうだ。

ここでは、菅義偉首相(当時)の読み飛ばしを問題にしたいのではない。当ブログ開設者は、挨拶文の原本を作成した担当者の丁寧な仕事ぶり、さらに、式典終了後に挨拶文の「原本」を取得した広島市が、公文書公開請求に基づいて文書を公開したことに、大いに感銘を受けたのである。「こんな情報公開請求ははじめてですよ」と語る広島市職員も、内部で検討の後、挨拶文の「原本」が「公文書」に該当すると判断し、公開に至ったそうだ。

このように、公開を受けた文書の「形状」が、菅義偉首相(当時)があいさつ文を読み飛ばした理由について行った説明に、疑念を生じさせたわけである。「こんなこともあるのか!」と、当ブログ開設者は大いに驚くとともに、あまりに興味深い事態に強い印象が残った次第である。

願わくば、当ブログも読者諸氏にとって、何某かの有益な知見をもたらすものでありたい。今後も、当面は公文書公開請求を継続していくつもりである。もっとも、止めるにしても、年度末の3月終了分まで公開請求するか、翌年度に持ち越した前年度中の申立て分まで請求するか、決めかねているという事情もあるのだが。

次に、今回公開を受けた案件についてである。第2021-72号は、申立人の妻が市立病院で出産したところ、コロナ禍により申立人のみならず、出産した妻も出産した子に会えずにいるという苦情である。調査担当のオンブズマンは「感染対策の当否が判断できない」として、調査することが適当でない特別の事情があることを理由に調査を実施しなかった。

しかしながら、申立人の苦情の趣旨は、「納得のいく説明が受けられない」ということである。したがって、病院が申立人に対し、これまでどのような説明を行ってきたのかという経緯については、必ずしも医学的知見を有さなくとも、調査することは可能であろう。説明自体行っていないのか、説明が不十分なのか、十分に説明をしたが申立人の理解を得られていないのか等々、様々な事情があり得るところ、全く説明が行われていないのであれば、まずは説明するようにとオンブズマンが自らの見解を示すことは、十分可能なはずである。

のみならず、説明内容についても、専門的知見を欠くオンブズマンにとっても、説得力あると感じられるものかどうかという一定の見解を示すことは、高度の専門性を有する医療分野の専門家にとって、専門的知見を有さない市民に向けた説明がいかにあるべきかを検討する一要素になりうると思われる。

この点、当ブログ開設者は、現在の札幌市オンブズマン制度では、苦情申立人が「適切な説明を受ける利益」を過度に軽視していると考えている。この案件における調査しないという判断も、こうした「適切な説明を受ける利益」を軽視していることの反映に他ならないように思われる。

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①第2021-48号
 NPO法人が市の担当課から過度な圧迫、行政指導を受けたことから、NPO法人の理事長や職員が体調を害したとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

②第2021-56号
 生活保護受給者が、保護費返還決定書が届いたものの、自分だけが返還を求められることに納得がいかないとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

③第2021-57号
 生活保護の受給者が、住環境が悪いため転居したいが転居費用が支給されないこと等について、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

④第2021-60号
 日本年金機構から送付された年金振込通知書に記載された後期高齢者医療保険料の特別徴収額と、札幌市から通知された後期高齢者医療保険料の特別徴収額に違いがあることや、同一年度の各期で特別徴収される保険料額に差があることに納得がいかないとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

⑤第2021-61号
 パートナーシップ除雪制度による除雪作業は危険であり、無駄な制度であるとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

⑥第2021-63号
 生活保護受給者が、療養上の理由による転居について保護費の支給が受けられることになったが、保護費の支給日が実際の転居手続に間に合わないこと等について、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

⑦第2021-66号
 生活保護を受給していた叔母が交通事故に遭ったが、加害者が加入していた保険会社から保険金が支払われるまで生活保護の支給が継続したことについて、高額な治療費が税金が財源の生活保護費から支払われてよいものか真実が知りたいとして、苦情が申し立てられたケース。申立の原因となった事実から1年以上の期間が経過しているとして、調査しない旨が通知され、調査は終了している。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑧第2021-72号
 申立人の妻が市立病院で出産したところ、申立人のみならず、出産した妻も出産した子に会えずにいるところ、納得のいく説明をお願いしても全く返事がないとして、苦情が申し立てられたケース。「感染対策の当否が判断できない」ために調査することが適当でない特別の事情があるとして、調査しない旨が通知され、調査は終了している。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑨第2021-74号
 申立人の兄が生活保護を不正に受給している旨を再三保護課に知らせているにもかかわらず、兄に対する生活保護が支給され続けたとして、苦情が申し立てられたケース。申立人の兄に対する生活保護支給について申立人には利害がないとして、調査しない旨が通知され、調査は終了している。(担当オンブズマン:田村智幸)

2021/11/22

2021年10月に調査を終了したケース

 2021年11月1日、同年10月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、同年11月12日付で一部公開決定がなされた。

上記の期間(2021年10月)に調査を終了したのは9件で、このうち4件で調査結果が通知されている。また、残る5件のうち、4件は申立人の取り下げにより(このうち調査中止が通知されたものは2件)、1件は調査をしない旨が通知され、調査が終了している。

今回、
公開を受けた案件についてのコメントする前に、当ブログ開設者は札幌市オンブズマンに苦情を申し立てる申立人には、2つのタイプがあると考えていることについて言及しておきたい。

第1のタイプは、苦情を申し立てると何らかの改善がなされるかもしれないという、”期待”に基づいて苦情を申し立てるタイプである(「オンブズマンなどお飾りの制度にすぎない」として、はなから制度を信用・信頼していない場合には、苦情を申し立てることはないだろう)。そして、こうしたタイプの申立人(「改善指向型」とよぶことができようか)による苦情の調査では、申立人が理解・納得できるような説明がなされることに、調査の意義があると考えている。

第2のタイプは、社会的に孤立した申立人(ただし、申立人自身がそのことを認識しているわけではない)が、オンブズマンに苦情を申し立てることで、社会との接点を持とうとするタイプである。

こうしたタイプの申立人(「承認指向型」とよぶことができようか)の苦情の場合には、第1のタイプの申立人の場合とは異なり、オンブズマンが申立人の苦情をきちんと受け止めていることが、申立人にきちんと伝わるよう工夫することが、調査に際して必要になってくると思われる。その限りでは、必ずしも論理的・明確な説明をすることが、調査として適切であるとは限らない、ということである。

さて、このような私見を披露したのは、今回、公開を受けた案件のうち、第2021-52号が第2のタイプの申立人による苦情であろうと思われたからである。苦情の内容は苦情等調査結果通知書で確認して頂くとして、ああいう場合はどうなる、こういう場合はどうなると、仮定の話を延々と続ける申立人に、調査担当オンブズマンも閉口した模様である。ただし、調査担当オンブズマンが申立人の感情をいたずらに害さないように配慮した形跡が伺えるのであり、今後も、調査担当のオンブズマンを問わず、同様の配慮がなされることを期待したい。

次に、第2021-55号についてもコメントしておきたい。この案件は、過去にオンブズマンが調査を実施した後の市の対応について、苦情が申し立てられたケースである。調査担当のオンブズマンは、申立人に「直接的・具体的な利害がない」として、調査を実施しなかった(札幌市オンブズマン条例16条1項1号参照)。

ところで、札幌市オンブズマン制度発足した当時、当時の桂市長は、「苦情申し立てに当たっての制約につきましても,市民の権利利益を擁護するというオンブズマン制度の目的に照らして,できる限り広く取り扱うことにしたい」という議会答弁を行っている。そして、当ブログ開設者がオンブズマン事務局に照会したところ、現在も当該市長答弁と同様の運用を行っている旨の回答を得ている(オンブズマン事務局長名による2020年10月9日付文書)。

この点、この案件において担当オンブズマンは、前述のように「直接的・具体的な利害がない」として調査を実施しなかったが、こうした限定は、「できる限り広く取り扱う」という市長答弁や、市長答弁と同様の運用を行っているというオンブズマン事務局長回答と相容れないと思われる。のみならず、申立人がオンブズマン調査が終了した後の市の対応について、「直接的・具体的な利害がない」と言えるのかについても、当ブログ開設者は大いに疑問を抱いている。

この案件の調査担当オンブズマンについて、当ブログ開設者は申立人の苦情や市の回答を理解することもままならないのではないか、という疑念を抱いているが、「札幌市オンブズマン制度」の何たるかについても理解を欠いているのかもしれない。「眠れるオンブズマン」に過度の期待は禁物ということなのだろう。

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①第2021-49号
 事業者である申立人の施設に保健所が2度にわたり立ち入り調査を実施したことについて、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

②第2021-50号
 道路工事や維持管理作業を受託している(と思われる)事業者から、市の担当課の職員の発言をはじめとする一連の対応について、苦情が申し立てられたケース。苦情申し立ての取り下げにより、調査は終了している。(担当オンブズマン:原俊彦)

③第2021-52号
 生活保護の受給者が、保護課への相談回数が多いことを理由として相談回数が制限されたとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

④第2021-53号
 生活保護を受給する伯母が入院した際、その旨を担当ケースワーカーに連絡したところ、伯母が死亡した場合の対応について問い合わせを受けたが、こうした問い合わせは配慮に欠けるとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

⑤第2021-54号
 市民動物園会議の市民委員に応募したが応募結果の連絡がなく、その旨問い合わせたところ応募を受け付けていないという回答を受けた申立人が、現行の書類の郵送及び持参という応募方法の改善を求め、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑥第2021-55号
 オンブズマンによる苦情調査(第2021-15号)において、市教育委員会が札幌市の小学校で防犯カメラの運用を取りやめるという回答をして以後の対応について、苦情が申し立てられたケース。苦情申立ての内容が申立人に直接的・具体的な利害関係がないとして、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:原俊彦)

⑦第2021-62号
 申立人の中学生の息子に対するスクールカウンセラー、校長及び児童相談所の対応に不満があるため、オンブズマンの調査で息子の気持ちを明らかにしてほしいして苦情が申し立てられたケース。苦情申立ての取り下げにより、調査は終了している。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑧第2021-64号
 マンション出入り口前に設置されていたカーブミラーが撤去されたことにつき、納得のいく説明をしてほしいとして苦情が申し立てられたケース。苦情申立ての取り下げにより、調査は終了している。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑨第2021-65号
 児童手当の支給申請の期限について説明がなかったにもかかわらず、申請が期限に遅れたことを理由に10月分の児童手当が支給されなかったとして、苦情が申し立てられたケース。苦情申立ての取り下げにより、調査は終了している。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)


2021/11/02

2020年度の活動状況報告書から考える

今さらながらの感があるが、2021年7月14日に、2020年度(令和2年度)の『札幌市オンブズマン活動状況報告書』が、代表オンブズマン原俊彦オンブズマンから札幌市長に交付された。その時の模様が、以下の写真である。


2020年に2019年度の活動状況報告書が交付された際は、以下の写真のように、3名のオンブズマン立ち合っていたところ、新型コロナ感染拡大のためであろうか、代表オンブズマン1名のみが、市長に活動状況報告書を交付する場に臨席した模様である。


昨年の写真では、まるで居眠りしているかのような姿勢だったオンブズマン、今年はようやくお目覚めを迎えたものの、まだ眠気が抜けきらないかのごとく見えるのは、ご愛敬といえようか。

ところで、この2020年度の活動状況報告書、例年であれば、単年度のオンブズマンの活動状況を紹介する内容であるが、2020年度の活動状況報告書は、制度発足20周年記念号と題し、過去のオンブズマンの活動状況や、歴代のオンブズマンからの寄稿文などが掲載されている。

このうち、歴代のオンブズマンからの寄稿文は、制度発足10周年以降にオンブズマンの職にあった元オンブズマンに寄稿を依頼した模様であるが、井上宏子・元オンブズマンからの寄稿文の掲載はなかった。そこで、すでに落命しているならば寄稿のしようもないと思い、オンブズマン事務局に問い合わせたが、そうした事情は確認できなかった。

当ブログ開設者は、井上宏子・元オンブズマンの健筆に接することができず、実に残念に思っている。もしかすると、存命であっても、すでに文章を執筆できるだけの事理弁識能力を持ち合わせていないのかもしれない。井上宏子・元オンブズマンが、ご健勝であられることを願っている。

そのほか、元オンブズマンの寄稿文の中では、2021年2月末でオンブズマンを退任した、房川樹芳・元オンブズマンの寄稿文の内容も、実に興味深いものであった。房川樹芳・元オンブズマンの言行不一致ぶりが、読み取れるように思われたからである。

それによると、房川樹芳・元オンブズマンは、苦情調査の進め方について以下のように述べている。苦情が申し立てられた後、「市の担当部署から聴取することになりますが、結構、詳細に回答してくれていると感じました。その上で、1か月位を目途として判断します。まずは法規の確認。次に、類似の裁判例がないかの調査。さらに問題点の改善ができないかを考え、双方が納得できるような判断を心がけたつもりです」。

ここでは、「法規の確認」という文言が用いられているが、この2020年度の活動状況報告書に掲載されている房川樹芳・元オンブズマンが同年度に実施した「街路灯の安全対策」についての発意調査は、国の「通知」を参照する一方で、「法規」は全く参照されていない。これは、房川樹芳・元オンブズマンが担当した調査は、苦情調査と発意調査では調査の進め方が異なっていたか、房川樹芳・元オンブズマンが「法規」の語を理解していないかのいずれかであろう。

また、2020年度の活動状況の紹介では、活動状況報告書に担当者名は記載されていないものの、原俊彦オンブズマンが担当した第2020-75号の要約が興味深い(活動状況報告書76頁)。

この案件は、このエントリーでもその問題点を指摘したところであるが、苦情等調査結果通知書の「オンブズマン判断」に記載されていた内容の一部が、活動状況報告書における「オンブズマン判断」の要約からは、見事なまでに削除されている。字数の都合で削除したというよりは、誤りであることが明白であり、さすがにそのまま掲載するわけにはいかなかったのであろう。

以上、当ブログ開設者の感じた点を縷々述べてきたが、札幌市オンブズマン制度も、制度の存在意義を再検討する時期に来ているように思われる。すなわち、これまでは、オンブズマン制度を通じた「市政の改善」とは、オンブズマンの指摘を踏まえ、市が対応を改めるということであった。このような「改善」がなされることは、制度の積極的な存在意義ということができる。

その一方で、必ずしも市政のその分野に詳しくないオンブズマンにも理解できるように、調査対象部局がオンブズマン向けの説明を工夫するならば、このような説明の工夫も「市政の改善」と評価できると思われる。市民一般に向けた説明の改善につながるからである。このような「改善」についても、オンブズマン制度の消極的な存在意義として、正面から認めていく時期にあると、当ブログ開設者は考えている。