2021/06/30

2020年度に実施された発意調査について

2021年6月15日、2020年度にオンブズマンが実施した発意調査にかかる調査実施通知書及び苦情等調査結果通知書等について公文書公開請求を行ったところ、同月23日付で発意調査にかかる文書について、全部公開決定がなされた(同時に請求した他の文書については一部公開決定)。

この発意調査にかかる文書について公文書公開請求を行ったのは、当該調査は2021年2月に終了しており、本来ならば2021年3月1日付の公開請求に基づいて公開されていなければならなかったにもかかわらず(決定期日は同月31日付)、公開対象から漏れていたからである。

公開対象に漏れがあったことは、2021年5月に調査を終了した案件に関する文書の写しの交付を受けた際、当ブログ開設者が担当職員に確認して判明した。そこで、公開対象公文書に漏れが生じた理由の説明を求めて、オンブズマンに対し苦情を申し立てたところである。申し立て後の顛末については、オンブズマンが調査を実施したか否かも含めて、後日、紹介することができると思われる。

さて、遅ればせながら公開されたこの調査、担当は房川樹芳オンブズマンで、札幌市における街路灯の安全対策について実施したものである。

この調査の市の回答によると、驚くことに、2019年から2020年にかけて、街路灯の折損事故が3件生じているということである。

のみならず、事故が生じた街路灯はいずれも、2014年から2019年にかけて実施された1巡目の定期点検の結果、健全性が判定区分Ⅰ(健全)~判定区分Ⅳ(緊急措置段階)の四段階の区分のうち、判定区分II(予防保全段階)及びⅢ(早期措置段階)であったということである。このような事態は、判定が適切になされていたか疑念を生じさせる、衝撃的な事実である。

また、市の回答によると、判定区分Ⅳとされた街路灯については速やかに撤去することとしている、という原則が示されているものの、1巡目の定期点検において判定区分Ⅳとされた件数がどのくらいあったのか、さらに、現状においてすでに措置を終えているのか等については、特に言及されていない。

この点、2020年9月から実施されている2巡目の定期点検は、判定区分Ⅲ及びⅡから「先行実施」しているということであるが、判定区分Ⅳとされた街路灯が残置しているにもかかわらず、判定区分Ⅲ及びⅡを「先行」して点検している、という趣旨に読めなくもない。

さらに、市の回答は、折損事故発生後の緊急点検に基づいて措置を講じたことについての言及はあるものの、前述したように、1巡目の定期点検に基づいてどのような措置を講じたかについての言及がないため、読む者に対し、市の対応が、いかにも後手を踏んでいるかのような印象を与えるものになっている。

オンブズマンとしては、実際に折損事故が生じた事例から講じるべき措置を論ずれば足りると考え、このような市の回答に疑問を抱かなかったのかもしれないが、将来へ向け効率的な対策を講じようとするならば、折損事故が生じる前に講じられた措置の適否についても、検討する必要があったのではないかと思われる。

ところで、この調査では、末尾の【参照条文】に、法令が一切引用されていない。そこで、当ブログ開設者が確認した法令の規定について、以下に、備忘録代わりに記しておく。発意調査の内容を理解する助けになると思われる。

まず、道路法42条1項は、道路管理者が「道路を常時良好な状態に保つように維持し、修繕」することを定め、同条2項が、「道路の維持または修繕に関する技術的基準その他必要な事項」(同法42条2項)については、政令で定める旨を規定する。

そして、道路法施行令35条の2第1項2号は、「道路の点検は、(中略)道路の附属物について、道路構造等を勘案して、適切な時期に、目視その他適切な方法により行うこと」を規定する。なお、「道路上の街灯で道路管理者の設けるもの」(道路法2条2項2号)は、上記の「道路の附属物」(同法2条2項)に該当する。

また、同条3号は、「前号の点検その他の方法により道路の損傷、腐食その他の劣化その他の異状があることを把握したときは、道路の効率的な維持及び修繕が図られるよう、必要な措置を講ずること」が規定されている。

このように、法令は、道路管理者に対し、道路の維持及び修繕を義務づけ、道路の附属物の点検もその中に位置付けられているわけである。

さらに、道路法施行令35条の2第2項は、「道路の維持または修繕に関する技術的基準その他必要な事項」について、国土交通省令で定める旨を規定する。

そして、道路法施行規則4条の5の6は、「道路の附属物のうち、損傷、腐食その他の劣化その他の異状が生じた場合に道路の構造又は交通に大きな支障を及ぼすおそれがあるもの(中略)の点検は、(中略)点検を適正に行うために必要な知識及び技能を有するものが行うこととし、近接目視により、五年に一回の頻度で行うことをを基本」とする旨規定する(同条1号)。

その上で、「点検を行ったときは、(中略)健全性の診断を行い、その結果を国土交通大臣が定めるところにより分類」し(同条2号)、「診断の結果並びに(中略)令第35条の2第1項第3号の措置を講じたときは、その内容を記録し、(中略)これを保存する」ことが規定されている。

また、トンネル等の健全性の診断結果の分類に関する告示(平成26年国土交通省告示第426号)が、健全性の診断結果について、以下の区分に分類することを規定している(「トンネル等」に道路の附属物が該当することは、道路法施行規則4条の5の6第1号が規定)。

Ⅰ 健全     構造物の機能に支障が生じていない状態。
Ⅱ 予防保全段階 構造物の機能に支障が生じていないが、
         予防保全の観点から措置を講ずることが望ましい状態。
Ⅲ 早期措置段階 構造物の機能に支障が生じる可能性があり、
         早期に措置を講ずべき状態。
Ⅳ 緊急措置段階 構造物の機能に支障が生じている、
         又は生じる可能性が著しく高く、
         緊急に措置を講ずべき状態。

なお、今回の発意調査を担当した房川樹芳オンブズマンは、かつて、「道路に「瑕疵」があった場合の道路を管理する市の責任については、国家賠償法2条1項に規定されています。」という珍説を展開したことがある(第30-1号)。そこで、当ブログ開設者は、国家賠償法は賠償責任の規定であり、道路管理者が道路を維持管理する責任は道路法が根拠であることを指摘した(このエントリー)。

今回の発意調査も、房川樹芳オンブズマンは、道路管理者たる札幌市が道路を維持管理する際の根拠となる法令の大枠を明らかにしておく、という発想を欠いたようであるが、この点を明らかにしておけば、今後、札幌市オンブズマンが道路に関する調査を実施する際の礎を提供することができたと思われる。

それにしても、房川樹芳オンブズマンにとっては、道路に関する調査は鬼門のようである。とはいえ、房川樹芳オンブズマンが今回の調査も含めて道しるべを残すことで今後、同じ轍を踏むオンブズマンが現れなくなるならば、房川樹芳オンブズマンが実施した道路に関する調査にも意義があったと評価できるようになるかもしれない。

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①2020-発1号
 街路灯の安全対策について(担当オンブズマン:房川樹芳)

2021/06/19

2021年5月に調査を終了したケース

2021年6月1日、同年5月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、同年6月14日付で一部公開決定がなされた。

上記の期間(2021年5月)に調査を終了したのは8件で、このうち5件で調査結果が通知されている。また、残る3件は、調査をしない旨が通知され調査は終了している。

興味深い案件は複数あるが、一番の注目は、おなじみの”眠れるオンブズマン”こと原俊彦オンブズマンが担当した、第2021-10号である。

この案件は、生活保護の受給者が過支給分の保護費の減額や担当職員の一連の説明について、苦情を申し立てた事例である。そして、申立人は、転居に際し、引っ越し移送費の支給には「3社の見積もりが必要である」旨、職員から後になって説明を受けたという主張を行なっている。

これに対し、担当の原俊彦オンブズマンは、「仮に後からであっても、A職員から3社の見積もりが必要であるという説明がなされたことには問題がない」と述べている。市民としては、事前に受けた説明に基づいて具体的に行動するのであり、「事後的に説明をするのでも問題ない」という原俊彦オンブズマンの判断は、たとえ仮定の話であっても、不意打ちを容認するに等しい。このような判断からは、原俊彦オンブズマンが、「市職員の市民に対する説明」を軽視していることが顕著であると思われる。

この点、当ブログ開設者は、市職員の理解が必ずしも十分でないケースを別とすれば、市職員にとっては、市民に対し事前に説明しても、市民の理解がついてこないことが悩みの種であろうと推測する。市職員には、オンブズマンがどのような判断をなそうとも、市民の理解を得られるように、適時に適切な説明を行うことを期待する。 

次に、戸籍の訂正に関する事務について苦情が申し立てられた第2021−4号も興味深い(担当は田村智幸オンブズマン)。ただし、非公開とされた部分が多く、事実関係の詳細が不明であるほか、戸籍の訂正がどのような場合に、どのような手続きで実施されるかという一般論についての記述もないため、戸籍制度についての知見を獲得するという観点からは、不満の残る調査内容となっている。

このほか、所有するアパートが、隣接する市営住宅の長期にわたる工事により外壁の損傷被害を受けたとして苦情が申し立てられた第2021-13号が興味深い。

この案件では、建築や工事に関する専門的知識せず、簡易迅速な調査を職務とするオンブズマンが工事の影響の有無について判断を述べることは適当ではないとして、調査しない旨が通知されている(担当は八木橋眞規子オンブズマン)。

しかしながら、札幌市オンブズマン条例19条3項は、「オンブズマンは、専門的又は技術的な事項について、特に必要があると認めるときは、専門的機関に対し、調査、鑑定、分析等の依頼をすることができる。」と規定している。したがって、オンブズマンが「専門知識」を有さないことは、調査を実施しないことを正当化しない。

また、条例に専門的機関への依頼の規定があるからには、「簡易迅速な調査」という要請がこの依頼を妨げることにもならない。そのため、調査を実施しないというオンブズマンの判断は、職務に対する熱意に欠けるという疑念を生じさせると思われる。

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①第2021−2号
 市営住宅の入居者が、連日怒鳴り声が聞こえるとして相談していることについて、管理人、住宅管理公社及び市の担当課の一連の対応について、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

②第2021−4号
 戸籍訂正の手続きについて、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)
③第2021−5号
 自宅前の除雪について、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

④第2021−6号
 投票事務の不採用通知を受けたが、欠員が生じた場合の追加募集について問い合わせた際の職員の対応について、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

⑤第2021−10号
 生活保護の受給者から、転居費用、職業訓練校への交通費及び同校へ通学することで支給される給付金に関する説明等、市職員の一連の対応について苦情が申し立てられたケース(担当オンブズマン:原俊彦)

⑥第2021−12号
 産業廃棄物処分業の許可に関する北海道の対応について、苦情が申し立てられたケース。「市の機関の業務の執行」に該当しないとして、調査しない旨が通知されている。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

⑦第2021−13号
 所有するアパートが隣接する市営住宅の長期にわたる工事により外壁の損傷被害を受けたとして、苦情が申し立てられたケース。建築や工事に関する専門的知識を有しないオンブズマンが工事の影響の有無について判断を述べることは適当ではなく、「調査することが相当でない特別の事情があると認めるとき」に該当するとして、調査しない旨が通知されている。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)
⑧第2021−14号
 札幌市の保育所等の利用調整基準が、国の通知に「基づいたうえで」制定されるという説明のうち、「基づいたうえで」の具体的に意味するところの説明を求めて苦情が申し立てられたケース。調査しない旨が通知され、調査は終了している。
 なお、この案件は当ブログ開設者が申し立てた案件である。調査しないというオンブズマン判断の当否については、別エントリーで検討している。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

2021/05/31

「調査しない旨の通知書」が届く

当ブログ開設者は、2021年5月13日に札幌市オンブズマンに苦情を申し立てたが、同月26日付の「調査しない旨の通知書」が届いた。残念ながら今回申し立てた苦情については、オンブズマン調査が実施されなかった。

申し立てた苦情は、当ブログ開設者による問い合わせに対する市の回答に不明確な点があるので、更なる説明を求めるものである。また、問い合わせの内容は、札幌市における保育所等の利用調整に関する市の説明ついてである。

ところで、当ブログ開設者が今回の苦情申し立ての前提にある問い合わせを行ったのは、公開を受けた札幌市オンブズマンの調査に関係する文書に記載された内容では飽き足らず、興味を覚えた点があったからである。また、このような問い合わせは、すでに過去、何度か行ってきた(たとえばこのエントリー)。

今回の問い合わせのきっかけとなった、2021年3月に調査を終了した案件(調査結果通知書第2020-75号)も、興味深い事例であった。この案件は、保育所等の利用調整基準についての苦情であるが、オンブズマン判断において要約された「市の説明」の内容は正鵠を欠くと思われたことから、市の担当部局に対し、「市はオンブズマン判断にあるような説明は行っていない」ことを確認するために問い合わせをした。

これに対し、担当部局からの文書回答は、「オンブズマン判断にあるような説明は行っていない」という内容ではなく、「どのような説明を行ったか」という内容であった。そして、上記の結果通知書記載の「市の回答」を引用した文書回答は、保育所等の利用調整基準(※当ブログ開設者注・法的性格は「審査基準」(行政手続法2条8号ロ))は、いわゆる留意事項通知(※当ブログ開設者注・法的性格は国が自治体へ通知した技術的助言(地方自治法245条の4第5項))に「基づいた上で」制定したというものであったが、「基づいた上で」の意味するところが必ずしも明確ではないように思われた。

そこで、上記利用調整基準を制定・変更する際の手順等の説明を求めて、オンブズマンに苦情を申し立てたところ、「調査しない旨の通知」が届いたわけである。

もっとも、オンブズマンが「調査しない」と判断することは、ありえないではないだろうと考えていた。それというのも、調査を実施したならば、苦情申立ての契機となった案件(第2020-75号)を担当したオンブズマンが「市の説明」を理解できていなかったことが明らかになり、面目が丸つぶれになると思われたからである。

案の定、オンブズマンは調査を行わないと判断したが、こうした判断は、オンブズマンが制度への理解を深めるせっかくの機会を放棄したことを意味する。今回の苦情の担当オンブズマンは、「聞くは一時の恥」(+別案件を担当したオンブズマンの面目をつぶす)よりも、「知らぬは一生の恥」を選択したのかもしれない。

以上の次第で、当ブログ開設者はオンブズマンが調査しないのもむべなるかなと思うものの、オンブズマンが調査しない理由については、適切さを欠く点があったと考えている。

もっとも、オンブズマンにとっては、苦情を調査しない理由は二の次、三の次で、苦情申立ての契機となった案件(第2020-75号)を担当したオンブズマンの面目をつぶさないことを何よりも優先したのかもしれない。そうであるならば、調査しない理由の適否を論ずること自体、野暮の極みということになろうが、以下に指摘しておきたい。

第一の点は、オンブズマンが、「申立人が保育所等の利用に関連する当事者ではない」ために、「市の文書回答の説明の不足が、申立人の直接的の不利益になっているとは考えられない」と述べている点である。

この点、当ブログ開設者は、苦情申立書に保育所等の利用の有無について記述しておらず、苦情申立後、オンブズマンから保育所利用の有無についての問い合わせを受けたわけでもない。それにもかかわらず、オンブズマンは、当ブログ開設者が「保育所利用の当事者ではない」と断言している。いったい、オンブズマンはどのようにして、当ブログ開設者が保育所等の利用をしていない「事実」を把握したのであろうか。

そこで、オンブズマン事務局に問い合わせたところ、「申立書の記載に基づいている。苦情は、問い合わせに対する文書回答についてのものなので、保育所の利用をしていないと判断した」という回答を受けた。どうやらオンブズマンは、「事実」を確認することもなく、申立書に「保育所等を利用している」旨の記述がないことをもって、「保育所利用の当事者ではない」と決めつけたらしい。

市職員がこのような「思い込み」を前提に市民に対応したならば、オンブズマンに対する苦情申し立ての契機となりそうなものであり、当ブログ開設者は、オンブズマンは当ブログ開設者に対し保育所利用の有無について確認するのが、最も適切な対応であったと考えている。また、仮にそのことが煩わしいならば、せめて、「苦情申立書の記述からすると、苦情申立人が保育所等を利用している事情はうかがえないため・・・」等、当ブログ開設者が保育所等の利用をしていないことを断言しない工夫がなされてしかるべきであった。

第二の点は、自治事務に対する国の関与についてである。市の文書回答にある、”審査基準が技術的助言に「基づいて」制定された”とする記述についての説明を求めることには、実際の保育所等の利用関係の存否にとどまらない、「自治事務に対する国の関与」のあり方を確認するという、独自の意義があると考えている。

すなわち、札幌市が「審査基準」を制定する際において、国の技術的助言をどのように利用するかということと、札幌市特有の事情をどのように反映させるかということは、合わせ鏡の関係にあるからである。

そして、「まちづくりの主体」である市民(札幌市自治基本条例8条2項)にとっては、「市民の意向が的確に反映された市政運営」(札幌市オンブズマン条例1条)のためには、市政運営において、札幌市特有の事情ができる限り考慮されることが望ましいであろう(※ただし、「特有の事情」を考慮することにより、他の自治体に見劣りする制度運用が正当化される余地が生じることには留意する必要がある)。

この点、「審査基準」を制定する処分庁は、どのような事情のもとで「審査基準」を制定したのか、説明する責任を負うことになると思われる。しかしながら、当ブログ開設者には、今回の市の文書回答は、記載された内容の意味するところが不明確に感じられた。そこで、文書回答の記載の意味するところの説明を求めて、今回の苦情を申し立てるに至ったわけである。

残念ながら、オンブズマン調査が実施されることはなかったが、オンブズマンには、「まちづくりの主体」である「市民の意向が的確に反映された市政運営」という発想自体、そもそも希薄なのだろう。

これに対し、調査しない理由が「調査するのが相当でない特別の事情がある」(同条例16条2項)とされたのは、当ブログ開設者にとっては、せめてもの救いかもしれない。「(申立人が)苦情申立ての原因となった事実についての利害を有しない」(同条1項1号)とされたわけではないからである。とはいえ、今回の調査が、「オンブズマンの負担が過重になる恐れがある」として、「調査をするのが相当でない特別の事情がある」といえるかどうかは、別途論ずる必要があると思われる。

この点、当ブログ開設者は、オンブズマンに委嘱された者が「行政に関し優れた識見を有する」(同条例8条2項)ならば、「オンブズマンの負担が過重になる」ことにはならないであろうと考えている。その意味では、今回の「調査をしない」というオンブズマン判断は、札幌市オンブズマンという制度の建前と実態が大きく乖離した現状を示す、格好の証左なのかもしれない。

なお、「調査しない旨の通知書」は、このリンクから確認できる。

2021/05/26

オンブズマン室の専門調査員を募集中

オンブズマン室専門調査員とは、「オンブズマンの職務の遂行を補佐するため」置くことができると規定されている職種である(札幌市オンブズマン条例28条1項)。このたび、札幌市オンブズマンの公式webサイトに、オンブズマン室の専門調査員を募集する旨が掲載された。

求める人材は、「法学、行政学等、行政に関する知識を有する方で、大学院の在籍者又は修了者若しくは 同等の知識を有するとオンブズマン事務局長が特に認める方」だそうだ。

勤務条件は、1週あたり3日の勤務日(勤務時間7時間)で、月額129,471円の給与(含・地域手当)+諸手当となっている。時給に換算すると、(月額129,471円)÷(年間52週×3日×7時間/12)≒1,423円となる(1か月平均の所定勤務時間は91時間)。

また、諸手当としては、「時間外勤務手当」と「期末手当」が明記されている。なお、「期末手当」についての関連規定を確認したところ、6月1日及び12月1日に在職する場合、過去6か月勤続した場合には、期末基礎手当基礎額(給与+地域手当)×1.25の額が支給される模様である(6か月に満たない場合は、期間に応じて段階的に減額される)。

以下に、サイトに掲載された募集要項の画像データを貼付する。

2021/05/24

2021年4月に調査を終了したケース

2021年5月1日、同年4月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、同年5月17日付で一部公開決定がなされた。

上記の期間(2021年4月)に調査を終了したのは10件で、このうち8件で調査結果が通知されている。また、残る2件は、申立人による申立ての取り下げにより、調査は終了している。


今回もまた、いくつかの興味深い案件が公開対象となったが、最も注目に値するのが、第2020−79号である。この案件は、障がいのある娘が短期入所を利用するに際し、聴き取りが行われないまま支給量が決定されたというものである。

担当の原俊彦オンブズマンは、「不適切な事務処理」があったとは考えていないようだが、この案件では、いったん支給量が決定されたのち、遡って再度、支給量の再認定がなされている。このことは、申請時点で適切な聴き取りがなされないまま支給量が決定されたからこそ、再認定する必要が生じたことを意味すると思われる。

また、原俊彦オンブズマンは、「具体的な利用日数を聞き取らなかったとしても、それが直ちに問題であるとは言え」(ない)とも述べているが、支給決定を受けるための「申請があったとき」には、市町村の職員が障害児の保護者に面接して調査するのが原則である(障害者総合支援法20条2項)。

その際、「障害福祉サービスの利用に関する意向の具体的内容」が調査事項とされている(障害者総合支援法施行規則8条3号)のだが、原俊彦オンブズマンは、サービスを何日利用するかは、「サービスの利用に関する意向の具体的内容」に該当しないというのだろうか。

さらに、原俊彦オンブズマンは、相談支援事業所が作成した「サービス等利用計画案」に記載された利用日数をもって、市が「サービスの利用に関する意向」を把握したと考えているようだが、サービス等利用計画案を作成する相談支援事業所が利用日数の要望を把握することは、上記の障害者総合支援法20条2項が規定する「面接」とは異なる手続きである。

このように、この案件の調査担当の原俊彦オンブズマンの判断は、市が対応の拙さを糊塗するために行った説明をそっくり鵜呑みにした代物であるように思われる。この案件の処理には7週間を要しているが、下手の考え休むに似たりとでもいうべきか。”眠れるオンブズマン”原俊彦のネーミングも、あながち的外れではないのかもしれない(”眠れるオンブズマン”の由来は、このエントリー及びこのエントリーを参照されたい)。

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①第2020−79号
 障がいのある娘が短期入所を利用するに際し、利用日数や利用の仕方等について聴き取りが行われないまま利用量が決定されたことをはじめとして、職員の一連の対応について苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

②第2020−80号
 新たに戸籍を作成した際に名前の漢字を間違えられたが、2年ほど前に札幌市に転入した際には住民票の住所の表記を間違えられたこともあることから、入力ミスが発生した原因の説明と、再発防止を求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

③第2020−83号
 芸術の森の木工房をグループで利用する際に危険な行為があったとして、後日、代表者に対する注意がなされたが、注意をするのであればその場で行うべきであるし、安全管理は施設の側の責任であり利用者に責任を負わせるのは適切ではないとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

④第2020−84号
 パートナーシップ除雪の際の誘導が適切ではなかったこと及びその件についての問い合わせを2週間以上放置されたことについて、苦情が申してられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

⑤第2020−87号
 生活保護受給者から委任を受けて市に対応を求めているにもかかわらず、市は文書、メール以外では対応をしないと主張することをはじめとする、市職員の対応について苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

⑥第2020−88号
 札幌市が独自に実施しているパーソナルアシスタンス制度(※市の制度紹介)において、障がい者のヘルパーとして仕事をしているが、契約先の障がい者から不当な取り扱いをされているとして、制度を利用する際のルールの確立を求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

⑦第2020−89号
 死亡した生活保護受給者が入居していたアパートの大家が、保護課が受給者に対する支援が不十分だったこと及び受給者が滞納していた家賃の支払いを求めて、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑧第2020−90号
 NPO法人が法人事務所の住所変更を市に届け出ようとした際の職員の対応について、苦情が申し立てられたケース。申し立ての取り下げにより、調査は終了している。(担当オンブズマン:原俊彦)
⑨第2021−1号
 新型コロナウイルスの感染拡大に伴う飲食店への営業時間の短縮要請を受け、第五次対策協力支援金の申請をしようとしたものの、申請期限を過ぎているとして申請を受け付けてもらえなかったとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)
⑩第2021−3号
 知人のアパートに勝手に出入りしていた生活保護受給者が、知人が死亡したのち、申立人に対し荷物の処分料を請求してきたので支払ったが、後になっておかしいと思ったとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)