当ブログ開設者は、2021年5月13日に札幌市オンブズマンに苦情を申し立てたが、同月26日付の「調査しない旨の通知書」が届いた。残念ながら今回申し立てた苦情については、オンブズマン調査が実施されなかった。
申し立てた苦情は、当ブログ開設者による問い合わせに対する市の回答に不明確な点があるので、更なる説明を求めるものである。また、問い合わせの内容は、札幌市における保育所等の利用調整に関する市の説明ついてである。
ところで、当ブログ開設者が今回の苦情申し立ての前提にある問い合わせを行ったのは、公開を受けた札幌市オンブズマンの調査に関係する文書に記載された内容では飽き足らず、興味を覚えた点があったからである。また、このような問い合わせは、すでに過去、何度か行ってきた(たとえばこのエントリー)。
今回の問い合わせのきっかけとなった、2021年3月に調査を終了した案件(調査結果通知書第2020-75号)も、興味深い事例であった。この案件は、保育所等の利用調整基準についての苦情であるが、オンブズマン判断において要約された「市の説明」の内容は正鵠を欠くと思われたことから、市の担当部局に対し、「市はオンブズマン判断にあるような説明は行っていない」ことを確認するために問い合わせをした。
これに対し、担当部局からの文書回答は、「オンブズマン判断にあるような説明は行っていない」という内容ではなく、「どのような説明を行ったか」という内容であった。そして、上記の結果通知書記載の「市の回答」を引用した文書回答は、保育所等の利用調整基準(※当ブログ開設者注・法的性格は「審査基準」(行政手続法2条8号ロ))は、いわゆる留意事項通知(※当ブログ開設者注・法的性格は国が自治体へ通知した技術的助言(地方自治法245条の4第5項))に「基づいた上で」制定したというものであったが、「基づいた上で」の意味するところが必ずしも明確ではないように思われた。
そこで、上記利用調整基準を制定・変更する際の手順等の説明を求めて、オンブズマンに苦情を申し立てたところ、「調査しない旨の通知」が届いたわけである。
もっとも、オンブズマンが「調査しない」と判断することは、ありえないではないだろうと考えていた。それというのも、調査を実施したならば、苦情申立ての契機となった案件(第2020-75号)を担当したオンブズマンが「市の説明」を理解できていなかったことが明らかになり、面目が丸つぶれになると思われたからである。
案の定、オンブズマンは調査を行わないと判断したが、こうした判断は、オンブズマンが制度への理解を深めるせっかくの機会を放棄したことを意味する。今回の苦情の担当オンブズマンは、「聞くは一時の恥」(+別案件を担当したオンブズマンの面目をつぶす)よりも、「知らぬは一生の恥」を選択したのかもしれない。
以上の次第で、当ブログ開設者はオンブズマンが調査しないのもむべなるかなと思うものの、オンブズマンが調査しない理由については、適切さを欠く点があったと考えている。
もっとも、オンブズマンにとっては、苦情を調査しない理由は二の次、三の次で、苦情申立ての契機となった案件(第2020-75号)を担当したオンブズマンの面目をつぶさないことを何よりも優先したのかもしれない。そうであるならば、調査しない理由の適否を論ずること自体、野暮の極みということになろうが、以下に指摘しておきたい。
第一の点は、オンブズマンが、「申立人が保育所等の利用に関連する当事者ではない」ために、「市の文書回答の説明の不足が、申立人の直接的の不利益になっているとは考えられない」と述べている点である。
この点、当ブログ開設者は、苦情申立書に保育所等の利用の有無について記述しておらず、苦情申立後、オンブズマンから保育所利用の有無についての問い合わせを受けたわけでもない。それにもかかわらず、オンブズマンは、当ブログ開設者が「保育所利用の当事者ではない」と断言している。いったい、オンブズマンはどのようにして、当ブログ開設者が保育所等の利用をしていない「事実」を把握したのであろうか。
そこで、オンブズマン事務局に問い合わせたところ、「申立書の記載に基づいている。苦情は、問い合わせに対する文書回答についてのものなので、保育所の利用をしていないと判断した」という回答を受けた。どうやらオンブズマンは、「事実」を確認することもなく、申立書に「保育所等を利用している」旨の記述がないことをもって、「保育所利用の当事者ではない」と決めつけたらしい。
市職員がこのような「思い込み」を前提に市民に対応したならば、オンブズマンに対する苦情申し立ての契機となりそうなものであり、当ブログ開設者は、オンブズマンは当ブログ開設者に対し保育所利用の有無について確認するのが、最も適切な対応であったと考えている。また、仮にそのことが煩わしいならば、せめて、「苦情申立書の記述からすると、苦情申立人が保育所等を利用している事情はうかがえないため・・・」等、当ブログ開設者が保育所等の利用をしていないことを断言しない工夫がなされてしかるべきであった。
第二の点は、自治事務に対する国の関与についてである。市の文書回答にある、”審査基準が技術的助言に「基づいて」制定された”とする記述についての説明を求めることには、実際の保育所等の利用関係の存否にとどまらない、「自治事務に対する国の関与」のあり方を確認するという、独自の意義があると考えている。
すなわち、札幌市が「審査基準」を制定する際において、国の技術的助言をどのように利用するかということと、札幌市特有の事情をどのように反映させるかということは、合わせ鏡の関係にあるからである。
そして、「まちづくりの主体」である市民(札幌市自治基本条例8条2項)にとっては、「市民の意向が的確に反映された市政運営」(札幌市オンブズマン条例1条)のためには、市政運営において、札幌市特有の事情ができる限り考慮されることが望ましいであろう(※ただし、「特有の事情」を考慮することにより、他の自治体に見劣りする制度運用が正当化される余地が生じることには留意する必要がある)。
この点、「審査基準」を制定する処分庁は、どのような事情のもとで「審査基準」を制定したのか、説明する責任を負うことになると思われる。しかしながら、当ブログ開設者には、今回の市の文書回答は、記載された内容の意味するところが不明確に感じられた。そこで、文書回答の記載の意味するところの説明を求めて、今回の苦情を申し立てるに至ったわけである。
残念ながら、オンブズマン調査が実施されることはなかったが、オンブズマンには、「まちづくりの主体」である「市民の意向が的確に反映された市政運営」という発想自体、そもそも希薄なのだろう。
これに対し、調査しない理由が「調査するのが相当でない特別の事情がある」(同条例16条2項)とされたのは、当ブログ開設者にとっては、せめてもの救いかもしれない。「(申立人が)苦情申立ての原因となった事実についての利害を有しない」(同条1項1号)とされたわけではないからである。とはいえ、今回の調査が、「オンブズマンの負担が過重になる恐れがある」として、「調査をするのが相当でない特別の事情がある」といえるかどうかは、別途論ずる必要があると思われる。
この点、当ブログ開設者は、オンブズマンに委嘱された者が「行政に関し優れた識見を有する」(同条例8条2項)ならば、「オンブズマンの負担が過重になる」ことにはならないであろうと考えている。その意味では、今回の「調査をしない」というオンブズマン判断は、札幌市オンブズマンという制度の建前と実態が大きく乖離した現状を示す、格好の証左なのかもしれない。
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