2021/04/27

2021年3月に調査を終了したケース

2021年4月1日、同年3月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、同年4月15日付で一部公開決定がなされた。

上記の期間(2021年3月)に調査を終了したのは12件で、このうち9件で調査結果が通知されている。また、残る3件中1件で調査しない旨が通知され、2件は申立人による苦情取り下げにより、調査は終了している。


ところで、今回公開を受けた案件は、”眠れるオンブズマン”こと原俊彦オンブズマン(「眠れるオンブズマン」の愛称の由来は、このエントリー及びこのエントリーを参照されたい)が、申立人の苦情の内容や市の調査対象部局による説明を理解する能力に乏しいことが顕著に現れている点で、きわめて興味深い。

まず、オンブズマンが申立人の苦情の内容をどの程度理解しているかについてである。第2020-66号は、紙媒体(及びweb)による一般向けの情報提供に関与している(と思われる)申立人が、札幌芸術文化劇場の職員から、記事の「校正」を申し入れられたことに端を発する苦情である。

調査を担当した原俊彦オンブズマンは、「本件における『校正』の依頼が、憲法21条第1項及び第2項に抵触する事前検閲を意図したものであるという申立人の主張について、その事実を確認できませんでした。」と判断している。

しかしながら、そもそもの申立人の主張は、校正の申し出が「事前抑制の禁止」に抵触しかねない、あるいは、「検閲及び事前抑制の禁止に抵触するおそれがある」というものである。したがって、申立人は、オンブズマンがいうような「事前検閲を意図したものである」という主張を行っているわけではないことからすると、オンブズマンが、申立人の苦情を正確に理解しているとは言い難いように思われる。

もっとも、憲法21条2項が禁ずる「検閲」が何を意味するかについては、論者の間でも見解の対立が存する。また、申立人の主張に揺らぎがあるのも事実であり、申立人は、市の担当部局に対し、憲法21条2項が「事前抑制」を禁じているという主張が記載されたメールを送信する一方で、苦情申立ての趣旨には、憲法21条1項及び2項が「検閲及び事前抑制の禁止」を規定するという主張が記載されている。したがって、申立人が「検閲」と「事前抑制」の関係をどのように考えているのかは、必ずしも明らかではない(「検閲」を禁ずる旨の憲法の規定は21条2項である)。

これに対し、オンブズマンは、申立人が「事前抑制」という用語を使用しているにもかかわらず、何故にか「事前検閲」という用語を使用している。オンブズマンが「事前検閲」という用語を使用した理由は不明であるとともに(「事前抑制」と取り違えたのであろうか?)、オンブズマンがいう「事前検閲」の意味するところも不明である。

また、オンブズマンは、「写真のクレジット表記やトリミングの有無を確認する」ことは、憲法21条1項及び2項に抵触しないと判断するが、公的機関が「著作権保護」の目的であれ、表現活動について事前に確認することは、なお「事前抑制の原則禁止」との関係が問われることになると思われる(たとえば、「著作権権侵害」を理由として出版差し止めを求める訴訟であればどうか)。したがって、オンブズマンの判断は、申立人が苦情を申し立てた、「地方公共団体やそれに準ずる団体」が事前に「校正」を求めることへの疑義に対する回答としては、不十分であるといわざるを得ない。

なお、当ブログ開設者は、本件において札幌文化芸術劇場は、公的機関としての立場で確認を求めたのではなく、著作権者に代理して事前に著作権が侵害されていないことの確認を求めたと解する余地があると考えている。

次に、市の説明の理解についてである。第2020-75号は、保育所入所選考に際する「利用調整基準」についての苦情である。

調査を担当した原俊彦オンブズマンは、「市の説明によれば、保育所等の申込児童数が、利用の要請を行った施設の利用定員を上回る場合には、国の通知(※当ブログ開設者注・いわゆる「留意事項通知」を指すと思わる。)に従い、保育の必要性の高い順に利用調整を行うこととされており、さらに、国による基準の他に、詳細な利用調整基準については、各自治体に一定の裁量があるということです。」と述べるが、苦情等調査結果通知書の「市の回答」には、このような説明は記載されていない。

すなわち、市の回答は、①保育所入所選考に際する優先事項の対象事項が「留意事項通知」に例示されていること、②札幌市の「利用調整基準」は、原則として「留意事項通知」に基づいて作成した上で、適宜、優先利用の項目や指数、利用調整基準表の構成等を制定及び改正している、というものである。このような説明が、何故に、オンブズマンのいうような、「国の通知に従い、保育の必要性の高い順に利用調整を行うこととされて」いる、となるのであろうか(また、市町村が保育の必要性の高い児童が優先的に利用できるよう調整する旨を規定するのは児童福祉法施行規則であって、「国の通知」ではない)。

この点、上記のようなオンブズマンの説明では、「留意事項通知」には法的拘束力があり、各自治体はこの通知に従う義務があるかのような印象を与えるが、「留意事項通知」には、当該通知が地方自治法245条の4第1項が規定する「技術的助言」であることが明記されており、法的拘束力がないことは明らかである(それに従うか否かは、各自治体の判断に委ねられる)。

のみならず、「留意事項通知」記載の優先事項の対象事項が「例示」であることは、市の回答においても言及されている以上、市が「利用調整基準」を作成するにあたって、「留意事項通知」とは異なる事項を優先事項の対象事項とすることが許容されるのは、理の当然である。

そして、本件苦情の申立人は、「留意事項通知」と札幌市の「利用調整基準」の齟齬を主張しているのであるから、それぞれがどのような法的性格のものであるかを踏まえておけば、オンブズマンが陥った「国の基準に従って利用調整を行う」という誤解を避けることができたと思われる。この点、「留意事項通知」は、前述したように「技術的助言」であることは前述した。そして、市の「利用調整基準」が行政手続法2条8号ロに定める「審査基準」である(この点は、市こども未来局の担当課に確認ずみ)。

したがって、当ブログ開設者の理解では、札幌市における保育所入所選考に際する利用調整は、札幌市が行政庁として定める「審査基準」(行政手続法5条1項)である「利用調整基準」に基づいてなされるものである(「国の基準に従って利用調整を行う」わけではない)。また、札幌市が「審査基準」たる「利用調整基準」を定めるに際しては、「技術的助言」(地方自治法245条の4第1項)である「留意事項通知」を活用した、ということになる。しかしながら、非常に残念なことなのだが、原俊彦オンブズマンには、こうした構造が理解できなかったのであろう。

以上の次第で、2件の結果通知書におけるオンブズマン判断を見てきたが、オンブズマン調査が原俊彦オンブズマンの手にかかると、どういうわけか、申立人はそんな主張はしていないという主張を行ったことになり、市もそんな説明は行っていないという説明を行ったことになったわけである。

もっとも、こうした原俊彦オンブズマンの判断も、申立人の苦情や市の説明について、市民が主体的・自律的に考え、理解するための格好の材料を提供しているという評価も可能であるかもしれない。札幌市オンブズマンの「無用の用」である。

このほか、原俊彦オンブズマンが担当した案件では、前述の第2020-66号において、通知書に「著作権」や「著作権法」についての言及があるにもかかわらず、【参照条文】には著作権法の規定が記されていない。どうやらオンブズマンは、条文を参照することもなく、著作権や著作権法について言及している模様である。

また、第2020-69号では、申立人が主張する所得証明書の提出日が1年以上前のことであるとして、オンブズマンは、「これ以上の事実関係を調査することができ」ない旨の判断を行っている。

しかしながら、「申立ての原因となった事実から1年を経過しているとき」(札幌市オンブズマン条例16条1項2号)には、その事項はオンブズマンによる「調査の対象外」となるのであり、「これ以上の事実関係」に至るまでの程度であっても、当該事項を調査することはこの規定に抵触することになる。

どうやらオンブズマンは、調査を実施する・しないという判断と、どの程度まで詳細な調査を実施するかという判断の区別がついていない模様である。この点、同条例同号後段は、「正当な理由があるときは、この限りでない」(同号後段)と規定している。たとえ詳細さを欠く調査であるとしても、すでに1年を経過している事実を調査するのであれば、オンブズマンは、その事実を調査する「正当な理由」を説明する必要があると思われる。

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①第2020−66号
 札幌文化芸術劇場hitaruから、媒体に掲載する記事の内容について「校正」を求められたことが、憲法21条1項及び2項(検閲及び事前抑制の禁止)に抵触するおそれがあるほか、校正を断って以来、取材を拒否されるようになった等の苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

②第2020−69号
 申請したはずの児童手当が支給されていなかったこと及び申請時に提出した所得証明書がその後どのように使われたか教えてほしいとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

③第2020−70号
 市立幼稚園の担任の教諭の言動に関する幼稚園の対応及び市幼児教育センターが文書による対応に応じてくれないこと等について、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

④第2020−71号
 生活保護の受給者が、厳しい就労支援をやめてほしいとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

⑤第2020−72号
 市民活動サポートセンターで利用しようとしたスキャナーが不調であったが、職員の誰もが利用方法がわからなかったとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

⑥第2020−74号
 市道のロードヒーティングが十分稼働していなかった結果事故が生じたとして、今後の事故防止対策をとることや金銭補償等を求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

⑦第2020−75号
 次女が認可保育所に入所できない旨の通知を受けたが、札幌市における認可保育所の選考及び利用調整の基準は正当性及び平等性に欠けるとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

⑧第2020−78号
 マイナンバーカードの発行手続き住所変更を同時に行った際、電子証明書暗証番号を変更する必要がある旨の説明を受けなかったことから、確定申告に不備が生じたとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

⑨第2020−81号
 市立高校に通学する高校生が、道路交通法に違反する危険な自転車運転をしているとして高校に改善を求めてきたにもかかわらず改善がなされないとして、指導の改善と徹底を求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)
⑩第2020−82号
 区役所の駐車場を利用した際に2時間無料になると説明を受けたにもかかわらず料金の支払いを求められたとして、苦情が申し立てられたケース。申立人の申立て取り下げにより、調査は終了している。(担当オンブズマン:田村智幸)
⑪第2020−85号
 札幌市の関係者による違法・悪質な行為が継続しているとして、苦情が申し立てられたケース。申立人の主張する行為が誰の行為であるのか特定できず、市の職員の行為であるか判然としないため、「市の機関の業務の執行に関する事項及び当該業務に関する職員の行為」に該当するとは判断できないないとして、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:原俊彦)

⑫第2020−86号
 新型コロナウイルス感染症の集中対策期間に飲食店の時短営業を行ったが、支援金について問い合わせ、回答を待っているうちに申請期間を過ぎたところ、申請期間の経過を理由に申請が受け付けてもらえなかったとして、苦情が申し立てられたケース。その後、担当課から申請期限を過ぎた場合の申請の受け付けについて検討するという回答があったとして、申立人が苦情申立てを取り下げたことにより、調査は終了した。(担当オンブズマン:田村智幸)

2021/04/07

2021年2月に調査を終了したケース(案件追加・第2020-発1号)

2021年3月1日、同年2月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、同年3月31日付で一部公開決定がなされた。

また、この一部公開決定に際し、オンブズマンが自己の発意により実施した調査に関する文書が公開対象に含まれていなかったことから、同年6月15日付で公開請求を行い、同月23日付で、全部公開決定がなされた。

上記の期間(2021年2月)に調査を終了した案件は、苦情申立てに基づく調査は8件で、このうち5件で調査結果が通知されている。また、残る3件中2件で調査しない旨が通知され、1件は申立人による苦情取り下げにより、調査は終了し
ている。このほか、オンブズマンの自己の発意に基づく調査が1件終了している。

さて、この2021年2月末をもって、房川樹芳オンブズマンの2期4年にわたる任期が満了した。このブログでは、房川樹芳オンブズマンが担当した案件に疑義を呈したこともあるが(たとえばこのエントリー)、そんな房川樹芳オンブズマンが、苦情調査として最後に調査結果を通知した案件が、第2020-67号である(発意調査の第2020-発1号も房川樹芳オンブズマンが担当)。

この案件は、申立人が市職員の対応について苦情を申し立てたケースであるが、「市の回答」及び「オンブズマン判断」によると、申立人による数々のカスタマーハラスメントというべき言動があった模様である。市職員が対応に苦慮した模様がうかがえるほか、こうしたケースにおいて、市がどのように組織的な対応を行っているかが可視化されており興味深い。

ところで、今回の公開分の写しの交付を受けた際、市の担当者に確認したところ、2021年4月からは、札幌市総務局オンブズマン事務局に配置されていた次長(課長職)が異動した後、そのポストに人員が補充されていないということであった(ポストが廃止されたのか空席となっているのかは不明)。

また、2020年度中も、オンブズマン事務局に2名配置されている係長職の1名が保健所での業務を担当していたということであり、コロナ禍の渦中にある現在、オンブズマン事務局は従来よりも手薄な人員での業務を余儀なくされている模様である。

2020年度のオンブズマン調査は2021年2月末の時点において、調査結果を通知せずに調査を終了した案件が全体の37.1%という高率となっているが(この割合は、2018年度は2月終了分までで16.9%、2019年度は2月終了分までで27.6%と、近年上昇傾向を示している)、オンブズマン事務局の人員体制が手薄になったため、オンブズマンが調査を実施しない案件の割合が高まったといった疑念を生じさせないような制度運用が期待されるところである。

この点、札幌市オンブズマン条例は、調査対象外の事項として、苦情申立人が「申立ての原因となった事実についての利害を有しないとき」と規定しているが(同条例16条1項1号)、制度の発足に際し当時の桂信夫市長は、「苦情申し立てに当たっての制約につきましても、市民の権利利益を擁護するというオンブズマン制度の目的に照らして、できる限り広く取り扱うことにしたい」という議会答弁を行っている(平成12年第4回定例会12月5日-02号)。

のみならず、当ブログ開設者が照会したところ、オンブズマン事務局から「札幌市オンブズマン室においては、オンブズマン制度に関し、現在も平成12年第4回定例議会における市長答弁と同様の運用を行っております。」という、オンブズマン事務局長名の文書回答を受けた(2020年10月9日付・札オ第10071号)。

札幌市オンブズマン条例は、市民の権利利益を擁護することを目的の一つとして掲げているところ(札幌市オンブズマン条例1条)、当ブログ開設者は、市民が適切な説明を受けることもまた、「市民の利益」の一つであると考えている。オンブズマンが調査の過程において市の担当部局から説明を受けることは、申立人にとって「適切な説明を受ける」利益をもたらすことはもちろん、ひいては、市民全般が「適切な説明を受ける」ことにつながっていくと思われる。

なお、当ブログ開設者が苦情を申し立てるため担当の原俊彦オンブズマンと面談した際(2020年7月22日)、「オンブズマンの申し合わせにより、『申立人の利害』は限定的に解することになった」という趣旨の説明を受けた(記憶がある)。そこで、申し合わせの内容等についてオンブズマン事務局に照会したところ、オンブズマン事務局長名の文章回答(2020年10月26日付・札オ10075号)には、「原オンブズマン確認したところ、『お問い合わせいただいた内容の説明はしておらず、そのような申し合わせをした事実もない』という回答を受けた」旨記されていたことも、指摘しておきたい(申し立てた苦情は、「調査しない旨」の通知を受け調査が終了している・第2020-20号)。

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①第2020−62号
 自宅前の道路で下水道工事がなされた際の振動でブロック塀にクラック(ひび割れ)が生じたとして、市に補償することを求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)


②第2020−64号
 市交通局から賃借していた施設を返還する際に原状回復を求められたことが、他の施設を返却した際の取扱いと異なるとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

③第2020−65号
 国民健康保険に加入する以前の期間について保険料の納付を求められたことに納得がいかないとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

④第2020−67号
 区役所広聴課の職員の対応が横柄かつ高圧的であるとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:房川樹芳)

⑤第2020−68号
 市営住宅入居者の代理人が、滞納していた賃料を支払っているにもかかわらず、市の担当職員から納付を求められるとともに、その際の対応がひどいものであったとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:房川樹芳)

⑥第2020−73号
 市の会計年度任用職員だった申立人が、在職中に受けたパワハラや不当な人事評価等について、苦情が申し立てられたケース。本件苦情が「職員の自己の勤務内容に関する事項」に該当するとして、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:房川樹芳)

⑦第2020−76号
 区役所窓口でSAPICAへのチャージを依頼した際(敬老者優待乗車証か障がい者交通費助成のいずれかと思われる)、職員からつじつまの合わない説明を受けたとして、苦情が申し立てられたケース。申立人の苦情取り下げにより、調査は終了している。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

⑧第2020−77号
 市営住宅の敷金減免について、市民に広く周知することを求めて苦情が申し立てられたケース。申立人が「申立ての原因となった事実についての利害を有さない」として、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

⑨第2020ー発1号(追加案件)
 札幌市における街路灯の安全対策について(担当オンブズマン:房川樹芳)

2021/02/25

新オンブズマン就任(2021年)

2021年2月24日、以下の議案が札幌市議会に提出され、同日、議会の同意を得た。これにより、新たに田村智幸氏(弁護士)がオンブズマンに就任するとともに、八木橋眞規子氏(札幌簡易裁判所民事調停委員)が再任された。田村氏は、2017年3月にオンブズマンに就任した房川樹芳氏(弁護士)の後任である。

これにより、2021年3月1日以降は、2020年3月1日に就任したオンブズマン1期目の原俊彦氏(大学名誉教授)とあわせ、3名体制で札幌市オンブズマンの職務が遂行されることになる。

なお、当ブログ開設者は、新たに”代表オンブズマン”に互選される(札幌市オンブズマン条例12条1項)のが誰になるか、注目している。これまで、札幌市オンブズマン制度において、女性が代表オンブズマンに選任されたケースは存在しないが、
オンブズマン2期目の八木橋眞規子オンブズマンは、3名の中で最も経験が長いのみならず、市と申立人とのコミュニケーションギャップに着目するなど、札幌市オンブズマンの新たな役割を切り拓こうとしている点で、”代表オンブズマン”に値すると考えるからである。

どのような選択がなされるか、乞うご期待である。

2021/02/17

2021年1月に調査を終了したケース

2021年2月1日、同年1月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、同年2月15日付で一部公開決定がなされた。

上記の期間(2021年1月)に調査を終了したのは4件で、全4件で調査結果が通知されている。


このうち、特に興味深いのが、第2020−54号である。この案件では、通所サービスの事業所を利用していた申立人が、事業所職員の対応について市に不満を訴えたにもかかわらず、市が適切な対応をせず、市職員の対応もひどいものであるとして、苦情を申し立てた。

当初の事業所への不満が市の対応への苦情に転化して行ったのは、おそらく、”市が自分の味方になってくれるはず”と考えた申立人にとって、市が自分の思うような対応をしてくれないだけでなく、市職員から事実関係を確認するためにいろいろ尋ねられたことによって、あたかも自身が責められているという感情を抱くことになったためではないかと推察する。

このような場合、オンブズマンは、市職員の申立人への対応が適切であったかどうかという、”過去”についての判断に力点を置くよりも、これから市職員は何をできるのかという、”将来”へ向けての見解を示したうえで、市職員が業務を遂行する上で、事実関係を確認するためには申立人の協力が必要不可欠である旨、やさしく申立人に説いて聞かせるという「オンブズマン判断」が適切ではなかったかと考える。

この点、この案件の担当オンブズマンは、しばしば、市職員に「市民に寄り添った対応」を要請する判断を示していることからすると、当ブログ開設者は、今回のこのオンブズマンの判断は、「らしくない」という印象を抱いた次第である。今回の調査結果により、不満の対象がどんどん横滑りしていく申立人の不満が、今度はオンブズマンに向けられることになりはしないか懸念する。

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①第2020-54号
 申立人がかつて通所していた就労支援A型事業所に対し市が指導を行うことに要望したにもかかわらず指導がなされないばかりか、対応した市職員の一連の対応も納得できるものではないとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

②第2020-58号
 申立人と別居し生活保護を受給している申立人の娘の転居に際し、移送費が支給されるに至るまでの市の一連の対応について、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

③第2020-61号
 真駒内駅前地区の土地利用再編について、地域の代表者等が意見を表明する「地域協議会」のメンバーの選出方法について、市に納得のできる説明を求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

④第2020-63号
 市営住宅の入居者が家賃の減免決定を受けたことから、敷金についても減免前の金額で納付がなされるべきであり、実際に道営住宅には敷金減免の制度があるとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:房川樹芳)

2021/02/11

2020年12月に調査を終了したケース

2021年1月1日、2020年12月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、2021年2月3日付で一部公開決定がなされた。今回の請求分も2020年12月1日請求分と同様に、決定期間が延長されている。

上記の期間(2020年12月)に調査を終了したのは10件で、このうち7件で調査結果が通知された。また、残る3件のうち、1件は調査しない旨、1件は調査終了が通知され、1件は申立人の取り下げにより、調査が終了している。

今回の公開分にも、興味深い事案が複数あるため、以下、そのうちの3件を確認していく。

まず、第2020−41号である。この案件は、市のまちづくりセンターにチラシの配布・配架を要請した際の市の対応に関する苦情である。苦情が申し立てられたのち、市は対応の不備を認め、具体的に対処しており、申立人にとっては苦情を申し立てた成果があったと思われる案件である。

ところが、担当の原俊彦オンブズマンは、何を思ったか、申立人の苦情に対し、①「配架を断られ、突き返された」事実は確認できませんでした、とか、②「団体の貴重なガソリン代が無駄になる」ことはなかったものと思われます、というように、申立人の主張を否定する判断を行なっている。

当ブログ開設者は、原俊彦オンブズマンのこのような判断は、市の対応の当否に関する判断を何ら左右するものではないうえ、苦情の文言を額面通りにしか受け止めずに、徒に申立人の神経を逆撫でするものであると考えている

こうした判断がなされたのは、オンブズマンが、“申立人と市の主張のどちらが正しいか”を判断する必要がある、と考えているためなのかもしれないが、“市政の改善”を図るためには、市の対応の当否を判断すれば足りると思われる。そのため、この案件おける原俊彦オンブズマンの職務に取り組む姿勢には、大いに疑問を抱かざるを得ない。

もっとも、あえて申立人に対し挑発的な判断を示すことは、先日のエントリーで論じたように、市民の自主的・自律的な行動を促進する可能性を秘めている。だとすれば、原俊彦オンブズマンは、札幌市オンブズマンの新たな像を提示しているのかもしれない。

次に、第2020−55号である。この案件では、申立人は、札幌アイヌ協会の関係者による話し合いが市の会議室を利用してなされた際、その場に立ち会った市職員が録音したテープの提供を求めている。市は、オンブズマンに対し、「録音テープには個人情報が含まれていることから、申立人に公開することはできません」と回答するとともに、担当の房川樹芳オンブズマンは、市の回答を鵜呑みにする判断を行なっている。

しかしながら、録音テープに個人情報が含まれており、その個人情報が非公開情報に該当するとしても、札幌市情報公開条例8条1項は、「非公開情報に係る部分を容易に区分して除くことができるときは、当該非公開情報に係る部分以外の部分を公開しなければならない」と規定しているのであり、「録音テープに個人情報が含まれている」ことが、当然に公開しないことを正当化するわけではない(もちろん、録音データの場合には、紙ベースのデータの場合と異なり、非公開情報を「容易に区分して除くことができる」とは言い難い可能性はある)。

また、公文書公開請求は、決定に不服がある場合、審査請求や取り消し訴訟を行うことができるところ、この案件では、市もオンブズマンも、申立人に対し、この制度(公文書公開請求)を知らせていないのであり、「市民の知る権利」(札幌市情報公開条例1条)への配慮が不十分であると思われる。

最後に、第2020-57号である。この案件を担当した原俊彦オンブズマンは、当ブログ開設者が申し立てた苦情(第2020−20号)を担当したオンブズマンであるが、上記のエントリーで紹介したように、「札幌市オンブズマンは、ろくろく文章を書くこともままならない人物が利用する制度である」という発言を行った人物である(ただし、その後の照会に対し、オンブズマン事務局からはそうした発言を行なった事実はない、という回答を受けている)。

当ブログ開設者は、この第2020−57号の苦情申立書を見て、まさに原俊彦オンブズマンが適任であるという印象を抱いたが、それは、この案件の苦情申立書には、わずか1行にも満たない記述がなされるのみだったからである。もっとも、苦情等調査結果通知書に記載された”苦情申立の趣旨”には、詳しい事実関係についての記述もなされており、申立書の記述を埋め合わせるために、申立人からの聴き取りがなされたものと思われる。いずれにせよ、原俊彦オンブズマンの発言にしたがうならば、まさにこのような事例を担当することこそ、オンブズマンたる面目躍如であろう。

ところで、今回、全7件の苦情等調査結果通知書を掲載したうち、4件が原俊彦オンブズマンの担当である。原俊彦オンブズマンは、8月28日付の苦情等調査結果通知書(第2000−28号)を担当したのち、9、10、11月の3か月にわたり、調査結果を通知する案件を担当していなかった。”眠れるオンブズマン”も、ようやくお目覚めの時を迎えたようである。

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①第2020−41号
 市教委が後援する講習のチラシの配布・配架を市の施設に要請したところ、配架を拒否されたとして、その根拠の説明と謝罪を求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

②第2020−43号
 水道工事に際しての歩道の誘導が不十分であるとともに、その後の市の一連の対応について苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

③第2020−48号
 生活保護受給者に賃貸していたアパートの所有者が、当該保護受給者の退去後に残された荷物を市が処分することを求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)


④第2020−51号
 不動産業者が取扱物件に隣接する公園のフェンスが倒れそうであるとして、市に対応を求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

⑤第2020−52号
 市が生活保護受給者に対し「通院移送費」が支給されるように適切な対応をしていないことや、保護変更申請に対し30日経過しても未だ決定がなされていないこと等について、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:房川樹芳)
⑥第2020−53号
 生活保護が廃止されことに対し、苦情が申し立てられたケース。申立人がオンブズマンと面談した際、新たな情報を提供するとともに、新たな苦情申立てとする旨の申し出があったために調査は中止された。(担当オンブズマン:原俊彦)
⑦第2020−55号
 市民文化局市民生活部アイヌ施策課の会議室で行われた札幌アイヌ協会の関係者が出席した話し合いの模様を録音したテープの提供を求めるとともに、申立人が市議と接触したことについて市職員から論難されたとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:房川樹芳)
⑧第2020−57号
 生活保護を廃止されたことや自動車を処分するよう指示されたこと等が不満であるとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)
⑨第2020−59号
 生活保護受給者が入居する住宅の家主が入居者の家賃を市から代理納付を受けていたところ、退去日が延期されために市に家賃を請求したが本人に請求するようにという回答を受けたとして、苦情が申し立てられたケース。申立人の苦情取り下げにより、調査は終了している。(担当オンブズマン:房川樹芳)
⑩第2020−60号
 札幌駅北口で行われている再開発事業に対し、市の補助金の支出を一時停止することを求めて苦情が申し立てられたケース。申立人が利害を有さないとして、調査しない旨が通知されている。(担当オンブズマン:房川樹芳)