2025/07/20

2025年3月に処理を終了した案件

 2025年4月1日、同年3月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行っところ、決定期間延長の上、同年5月15日に一部公開決定がなされた。

上記の期間(2025年3月)に処理が完了したのは12件である。このうち苦情申立に基づく案件が11件、オンブズマンの発意に基づく調査が1件である。調査結果が通知されたのは、オンブズマンの発意に基づく調査を含む9件である。また、残る3件は苦情について調査しない旨が通知された。

今回、公開を受けた案件も前回公開された分と同様に、「カスタマーハラスメント」を想起させる事案が見受けられる(第2024-81号)。また、オンブズマンに苦情を申し立てるよりも、子どもの権利救済機関である「子どもアシストセンター」に相談・救済申し立てをしたほうが適切ではないかと思われる事案もある(第2024-69号第2024-72号)。いずれも、オンブズマン調査のあり方を考えるうえで興味深い案件である。

また、オンブズマンマン調査のあり方については、今回公開された発意調査(第2024-発1号)は課題が残ると当ブログ開設者は考えている。それというのも、当ブログ開設者は、調査を担当したオンブズマンが調査を行ったという外形を整えるだけで役割を果たしたと考えているのではないか、という疑念を抱いているからである。

まず、今回実施された発意調査は、市職員の対人コミュニケーション能力を向上させるべく、市がどのような研修を行っているかという担当オンブズマン神谷奈保子の問題意識に基づいている。そして、調査における市の回答は、どのような研修を行っているかという「枠組み」についての説明がなされている。

その一方で、実際に研修を受けた職員の実数や(人数が明示されているのは「海外事例調査助成事業」により派遣された人数のみである)、研修を実施することでどのような「成果」が得られたかといった点については、必ずしも明らかになったとはいえない。この点、当ブログ開設者は、本件調査がたとえば研修を受けた職員が抱いた「感想」などに付いて言及していれば、「成果」の一端が垣間見えたと考えている。しかしながら、残念なことに、調査担当オンブズマンはそうした発想を欠いたようだ。

ただし、市が職員に対し行っている研修であれ本件発意調査であれ、単に「実施した」という形式を整えるためになされているとすれば、研修や調査から得られる成果を問うことは必要ないのかもしれない。だとすると、本件発意調査をきっかけとして市の研修のあり方に興味を抱いた市民が引き続き、その点を注視する必要があるだろう。そしてまた、そのことこそが「市民の意向が的確に反映された市政運営に資する」(札幌市オンブズマン条例1条)と思われる。

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①第2024-69号
 中学校に通う申立人を含む複数の生徒の行為が被害生徒に対する「いじめ」と認定されたが、申立人のみが当該被害生徒への「謝罪の会」に参加できなかったとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:梶井祥子)

②第2024-72号
 申立人の子である中学生を複数の生徒の行為に関し中学校が「いじめ対策委員会」を設置したが、この委員会を含む中学校の一連の対応に疑問があるとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:梶井祥子)

③第2024-77号
 市税を滞納している申立人が、市税事務所が執拗に給与調査をしてくるとともに、分割納付を認めないことを不服として苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:梶井祥子)

④第2024-79号
 市営住宅の住民が、新旧の自治会が併存状態であるとともに、共益費の未納額が累積する混乱状態にあるとして、市に混乱状態を解消するために対処することを求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:梶井祥子)

⑤第2024-80号
 区保健福祉部の職員が申立人の承諾を得ず診断書を取り寄せたとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

⑥第2024-81号
 申立人が区役所を訪問した際、保健福祉部の職員と1時間くらい話をしているうちに事実に反する理由で110番通報されたとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

⑦第2024-82号
 区役所の保健福祉部の職員から障害年金の年金番号で障害者手帳の更新が行えると聞いたとして、更新のために提出した診断書の返還を求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

⑧第2024-83号
 司法書士の過誤により登記上持ち分があるとされる不動産に賦課される固定資産税が未納であるとして差し押さえ通知が送られてきたことから、当該不動産に対する課税されることを不服として苦情が申し立てられたケース。。(担当オンブズマン:梶井祥子)

⑨第2024-92号
 市税を滞納している申立人が、市税事務所が嫌がらせとも思える給与調査を実施するとともに、分割納付認めないとして苦情が申し立てられたケース。申立人はすでに本件苦情と同趣旨の申し立てを行っており、「調査することが相当でない特別の事情」があるとして調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:梶井祥子)

⑩第2024-93号
 市職員の守秘義務違反や申立人に対するストーカー行為についての調査を求めて苦情が申し立てられたケース。「苦情申し立ての原因となった事実のあった日から1年を経過している」として調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

⑪第2024-98号
 市長が議会の予算特別委員会において行った答弁が申立人の陳情の趣旨と異なっていたとして、答弁の訂正を求めて苦情が申し立てられたケース。「議会に関する事項」はオンブズマンの所轄外の事項であるとして、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:梶井祥子)

⑫第2024-発1号
 札幌市が職員の対人コミュニケーションのスキルを向上させるためにどのような研修を行っているか等について、オンブズマンが自己の発意により調査を実施したケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

2025/07/18

2025年2月に処理を完了した案件

 2025年3月25日、同年2月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、決定期間延長の上、同年5月8日に一部公開決定がなされた(当ブログ開設者としては3月1日に請求を行った「つもり」でいたのだが、同月25日に写しの交付を受けた際(2025年1月終了分)未請求であることが判明した)。

上記の期間(2025年2月)に処理が完了したのは8件で、このうち4件で調査結果が通知された。また、残る4件のうち1件で調査しない旨が通知され、3件で苦情申立てが取り下げられた。

今回、公開を受けた案件においては、札幌市の「カスタマーハラスメント」対策の一端が垣間みえるのが興味深い(ただし、通知書を読了したあと味はよくない)。第2024-71号がそれであり、おそらく第2024-70号も同じ申立人からの苦情と思われる。

どちらの案件も担当オンブズマンは田村智幸で、オンブズマン判断において「本件においてオンブズマンが思うこと」と題し自己の見解を披露している。苦心の跡がしのばれるが、「市民の方々とやり取りをする際にも、『カスハラ』と縮めることなく、『カスタマーハラスメント』と正式名称を用いてお話する方が市民の誤解を招かないのではないか」という見解は疑問である。

むしろ、「カスハラ」であれ「カスタマーハラスメント」であれ、身に覚えのない市民にとっては「レッテル貼り」されることこそが、不満の原因になるだろうからである。ここで必要なことは、市民の具体的な態度が適切さに欠けるため、市職員の業務遂行に支障が生じているという説明であると当ブログ開設者は考えている(第2024-71号)。

次に、第2024-68号は、障害者施設で勤務する申立人が、当該施設においては法令で作成が義務づけられている「支援作成計画書」が作成されていない旨を市の担当部署に通報したにもかかわらず、適切な権限が行使されないという苦情である。

この案件の担当オンブズマンも田村智幸だが、同オンブズマンは「本件において、担当課に不備があったと認めることはできない」と判断する一方で、同オンブズマンは申立人の通報が「法令違反を指摘するものであり、決して優先順位は低くない」という見解も示している。

そうであるならば、オンブズマン判断が「不備があったと認めることはできない」というのは言い過ぎで、「迅速に対応できないやむを得ない事情があった」という程度に留めておくのが適切だったであろうと当ブログ開設者は考えている。

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①第2024-68号
 申立人が勤務する福祉施設においては利用者の支援計画書が作成されいないことを所管部局に公益通報したにもかかわらず、適切な監督権限が行使されないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

②第2024-70号
 申立人が私費を投じて排雪した自宅前に道路を除雪した際の雪を堆積することや、そのことについて市に連絡した際の職員の対応について苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

③第2024-71号
 自宅前の雪山に道路の雪を堆積された件で担当部署の電話対応について苦情を伝えるため市民の声を聞く課を落とすれたが、その際、対応した職員に「カスハラ」と認定されたことに納得がいかないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

④第2024-76号
 生活保護受給者がケースワーカーが事前連絡もなく家庭訪問するとともに、その際、受給者のプライバシーへの配慮もなかったとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑤第2024-78号
 福祉除雪の事業者が歩道部分に排雪していたため社会福祉協議会に苦情を申し立てたものの形式的な謝罪のみであったとして、業者への指導を求めて苦情が申し立てられたケース。苦情申し立て後社会福祉協議会から連絡があり解決したとして、苦情申し立てが取り下げられた。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

⑥第2024-84号
 自宅前を除雪していた除雪車が安全確認もせずに猛スピードでバックしていたとして区、苦情が申し立てられたケース。どこに連絡してよいかわからずオンブズマンに連絡したとして、苦情申し立てが取り下げられた。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

⑦第2024-87号
 オンブズマンの苦情等調査結果通知書が届いたが「市の回答」に事実に反する虚偽の回答があったため担当職員に問い合わせたところ、当該職員の対応が二転三転したとして苦情が申し立てられたケース。オンブズマンは再調査はできない等の説明をしたところ、苦情申し立てが取り下げられた。(担当オンブズマン:梶井祥子)

⑧第2024-89号
 申立人の給与の差し押さえをする旨市税事務所から連絡があった旨を勤務先会社からきいたが、市税事務所が事前に「第三者」に情報を提供することは守秘義務に違反するのではないかと主張して苦情が申し立てられたケース。申立人はすでに同旨の別件の苦情を申し立てているとして、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:梶井祥子)

2025/03/26

2025年1月に処理を完了した案件

 2025年2月1日、同年1月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、決定期間延長のうえ、同年3月19日付で一部公開決定がなされた。

上記の期間(2025年1月)に処理を完了したのは7件で、このうち3件で調査結果が通知された。残る4件のうち1件の苦情は取下げ、2件が調査しない旨、1件が調査中止が通知され処理を完了した。

なお、今回公開分から、「調査終了」の文言は調査結果を通知した場合に限定し、申し立ての取り下げ等「調査終了」以外の場合を含めて「処理を完了」の文言を用いることにする。

さて、今回公開された案件は、なんとも「ねちっこい」申立人の苦情が複数あり興味深い。まず、第2024-74号は予約図書の取り置き期限の延長を求めての「3度目」の苦情申し立てである。第2024-75号は町内会における助成金の不正を主張するおそらく「2度目」の苦情申し立てである。どちらもあまり後味はよろしくない。

また、第2024-61号は学校で使用する教材(おそらく情報通信端末)に不具合が生じたことに端を発する苦情である。そもそもの発端から1年以上学校とのやり取りを経たうえで、ようやく苦情申し立てに至っている。

この事案、非公開とされた箇所が多く、どのようなやりとりがなされたのか不明な点が多いものの、「学校のメールアドレスを教えほしい」という申立人の要望に対し、「文字ではなく、直接の口頭のやり取りにより保護者の考えていることや抱いている気持ちをより感じて理解できると考えている」という学校サイドの説明が興味深い。

おそらく、メールの場合は一方的に送信することが可能であり、アドレスを公開することでその対応に追われるのを避けたいというのが学校サイドの本音であろう。苦し紛れにも見える「慎重な説明」は、過剰に申立人を刺激しないように配慮したものと思われる。ただし、そうした配慮が奏功したかは不明である。

ところで、札幌市では国の「GIGAスクール構想」の下、小学校・中学校では1人1台の情報端末が貸与されている模様である(くわしくはここ)。これに対し、札幌市立の高校では2022年4月から端末の「購入」が求められているようである。

この点、自前の端末が利用可能であれば新規に端末を購入するための金銭負担が不要になる一方で、その場合には端末を接続する技術的仕様が問題になる、ということが本件苦情により可視化されたと思われる。今回の苦情を契機として、保護者等に対しこれらの事情についての適切な説明がなされることを期待する。

【おしらせ】
当ブログではこれまで、毎月1日に前月に処理を完了した案件について公文書公開請求をしてきたところ、当ブログ解説者の過誤により2025年2月に処理を完了した案件については、同年3月25日付の請求となった。そのため、当ブログにおけるそれらの案件の紹介は5月半ば以降になると思われる。この点、お詫びするとともに読者諸賢にはご了解いただきたい。

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①第2024-61号
 申立人の子が通う学校で使用する教材(情報通信端末と思われる)に不具合が生じたところ、特定の業者からの購入を強要する等、学校及び教育委員会の対応に問題があるとして苦情が申し立てられた事例。(担当オンブズマン:神谷菜保子)

②第2024-64号
 給湯ボイラーの減圧弁が不調になった原因が水道工事が行われた際の断水が原因であると思われるため水道局に減圧弁の交換を要請したが、水道局が交換に応じないとして苦情が申し立てられた事例。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

③第2024-66号
 申立人は生活保護を受給する親族に所有する住宅を貸与し親族が受給する保護費から賃料名義で貸与した金銭の返還を受けているところ、申立人の関知しないところで保護課が当該親族の転居を進めたことに納得がいかないとして苦情が申し立てられた事例。(担当オンブズマン:梶井祥子)


④第2024-67号
 生活保護を受給する申立人が証券口座を新規に開設した際に口座に振り込まれた金額を収入申告したところ、その金額が控除が全くなされないままに収入認定されたことを不服として苦情が申し立てられた事例。当該取り扱いについて北海道知事に対する審査請求がなされているとして調査が中止された。(担当オンブズマン:田村智幸)


⑤第2024-73号
 体育館でバドミントンをする際の利用料についての不満を伝えているにもかかわらず、市民文化局地域振興部区政課は一方的な主張を繰り返すだけでこちらの話に耳を傾けないとして苦情が申し立てられた事例。オンブズマンは申立人が求める金額の引き下げを強制する権限がないことを説明したところ、苦情申し立てが取り下げられた。(担当オンブズマン:神谷奈保子)
⑥第2024-74号
 貸し出し予約をした図書の取り置き期限の延長ができないという図書館の説明に納得がいかないとして苦情が申し立てられた事案。同旨の苦情については第2024‐50号で調査結果を通知し、再調査を求める苦情についても第2024-65号で再調査をしない旨を通知しているとして、本件についても調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:梶井祥子)

⑦第2024-75号
 市が支給する町内会への助成金について一部の町内会で横領が行われていることから市に調査を求めて苦情が申し立てられた事案。当該不正については申立人に利害がなく、申立人が2023年度に申し立てた事案(おそらく第2023-43号)及び本件の内容に照らしても助成金に不正が行われている事情は伺われないとして調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:田村智幸)

2025/03/04

2024年12月に調査を終了したケース

 2025年1月1日、2024年12月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、決定期間延長のうえ、2025年2月14日付で一部公開決定がなされた。

上記の期間(2024年12月)に処理が終了したのは5件で、全5件で調査結果が通知された。

今回、公開を受けた案件のうち、もっとも興味深い案件は、国民健康保険料の滞納により差し押さえを受けた際に事前の連絡がなかったとして苦情が申し立てられた第2024-63号である。この案件における市の回答は、法に基づいた適正な業務の執行が行われているか、明確性に欠けるきらいがあると思われる。

すなわち、国民健康保険法79条の2は、「市町村が徴収する保険料・・・(中略)・・・は、地方自治法第231条の3第3項に規定する法律で定める歳入」である旨を規定する。

そして、地方自治法231条の3第3項は、「普通地方公共団体の歳入(以下この項及び次条第一項において「分担金等」という。)につき第一項の規定による督促を受けた者が同項の規定により指定された期限までにその納付すべき金額を納付しないときは、当該分担金等並びに当該分担金等に係る前項の手数料及び延滞金について、地方税の滞納処分の例により処分することができる」旨が規定されている。

さらに、同条1項は、「普通地方公共団体の歳入を納期限までに納付しない者があるときは、普通地方公共団体の長は、期限を指定してこれを督促しなければならない」旨規定し、地方税法は一般に「滞納者が督促を受け、その督促状を発した日から起算して十日を経過した日までにその督促に係る・・・(中略)・・・地方団体の徴収金を完納しないとき」には、「滞納者の財産を差し押えなければならない」旨を規定しているのである。

なお、地方税法は一般に「納期限後二十日以内に、督促状を発しなければならない」ことを規定するところ、札幌市国民健康保険条例では、「納期限後30日以内までに督促状を発しなければならない」とされている(同条例21条)。

以上の次第で、徴収金の滞納者が督促を受けてもなお徴収金を完納しない場合、「滞納者の財産を差し押さえなければならない」というのが法令の規定である。

ところが、市の回答では、「差押えという強力な権限の行使にあたっては、滞納者の実情を踏まえ、合理的な判断の下、適切に行う必要があ」(る)とともに、「「差押えをしなければならない日」を迎えたすべての滞納者に対し差押えをすることは非現実的でもある」という説明がなされるのみである。

本来ならば、督促後の財産差押えが法令上義務づけられている以上、その義務の履行しないことが正当化されるためには法令上の根拠が必要になると思われるのだが、市の回答ではこの点の説明が欠けているわけである。

この点、思い出されるのが、市税を滞納し「差押通知書」の送付を受けた申立人が苦情を申し立てた第2023-4号である。この案件では、「申立人に納付誠意がないと判断し、財産の差押えをすべく、最終通告として・・・(中略)・・・差押予告書・・・(中略)・・・を申立人に発送」したという市の回答がなされている。

この回答を契機として、当ブログ開設者は、徴収金の滞納者に「納付誠意」がある場合には、地方税法が規定する「換価の猶予」(同法15条の5(職権)及び同法15条の6(申請))が適用されている可能性があると考えるようになった。

そうすると、本件の国民健康保険法の場合も同様に、督促後に徴収金が期限までに納付されずに「滞納者の財産を差し押さえなければならない」はずのケースにおいて、職権で「換価の猶予」がなされている可能性があると思われる。

ただし、前述の第2023-4号及び本件・第2024-63号のいずれの案件においても、直ちに差押えに踏み切らない取扱いが地方税法の定める「換価の猶予」である旨の市の回答がなされているわけではない。当ブログ開設者が市の回答は明確性に欠けると感じる所以である。

また、「換価の猶予」はその期間の上限が1年とされるなど厳格な要件が定められている(地方税法15条の5第1項及び同法15条の6第1項)ことから、これらの要件を潜脱すべく法令に定めのない「事実上の運用」がなされている可能性もある(「換価の猶予」については過去にこのエントリーでも言及した)。

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①第2024-56号
 自宅とは別に所有する土地・建物が面する道路を建築基準法42条2項に規定する道路として指定することを求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)


②第2024-57号
 スポットクーラーの購入費用を保護費として支給することを検討しないという保護下の説明に納得がいかないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

③第2024-59号
 申立人が居住するマンション前の歩道が通学路となっているため市に歩道を除雪するよう求めたところ、今季は車道への影響を見ることとし来季に判断するという電話での回答があったが、文書での回答がなされておらず、回答内容にも疑義があるとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:梶井祥子)

④第2024-60号
 市から路線測量の業務を受託した事業者が業務外の古タイヤ片付け作業を行ったにも関わらず委託業務成績評定の標定点が低かったことに納得がいかないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑤第2024-63号
 国民健康保険の保険料を滞納していた申立人がこれまで納付相談をしてきたにもかかわらず、事前連絡もなく預金口座を差し押さえられたとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:梶井祥子)

2025/02/28

新オンブズマン就任(2025年)

2025年2月28日、以下の議案が札幌市議会に提出され、同日、議会の同意を得た。これにより、新たに樋川恒一氏(弁護士)がオンブズマンに就任するとともに、神谷奈保子氏(民事調停委員)が再任された。樋川氏は、2021年3月にオンブズマンに就任した田村智幸氏(弁護士)の後任である。

これにより、2025年3月1日以降は、2024年3月1日に就任したオンブズマン1期目の梶井祥子氏(大学教授)とあわせ、3名体制で札幌市オンブズマンの職務が遂行されることになる。

ところで、樋川氏は北海道労働委員会公益委員を務めていた経歴がある。「不当労働行為」の審査をするのが労働委員会の役割の一つであるところ、使用者の正当な理由のない団体交渉拒否は「不当労働行為」である。その際、適切な説明を行わない「不誠実交渉」もそれに当たるとされている。

こうした制度において委員を務めていた樋川氏の経歴からすると、オンブズマンの職務を遂行するうえで、「市民が適切な説明を受ける利益」について意を配ることができるのではないかと、当ブログ開設者は期待する。

なお、上記の「市民が適切な説明を受ける利益」とは、適切なタイミングに適切な内容の説明を受けることであると当ブログ開設者は考えている。また、内容の適切さについては、その取扱がどのような法的根拠に基づいているのか(「法律(条例)に基づく行政の原理」)、さらに、その取扱が他の事例と比較しておかしな点はないか(「法の下の平等(憲法14条)」)という観点からチェックしてこそ、法律専門家たる弁護士の肩書を持つオンブズマンの面目躍如と考えている。

この点、前任の田村智幸氏は弁護士としての強みを発揮することができなかったきらいがあるかもしれない。たとえば、児童扶養手当の支払が一時差しとめされたことに対する苦情(第2023-6
)において、「別生計であることを確認する前に職権で直ちに支給停止できることについては、明確な法令上の根拠や規定を見出すことはできませんでした」として、法的根拠を明らかにすることをしなかった。

しかしながら、児童扶養手当法15条は届出義務懈怠時の手当の支払の一時差しとめを規定する。田村智幸氏は、「オンブズマンとしては、職権で直ちに支給停止できることについて、法令上の根拠に基づいて行われていることの説明を得たかった」という泣き言もこぼしているが、このような対応は、「法令に精通しなければならない」(弁護士法2条参照)はずの弁護士の法律専門家としての信用や品位を毀損する(弁護士法56条1項参照)おそれがあると当ブログ開設者は考えている。

もっとも、前々任の房川樹芳氏も、市が管理する街路灯の安全対策についての発意調査(第2020-発1号)では、参照条文等に「法令」を示していない。したがって、弁護士の肩書を有するオンブズマンのうち、田村智幸氏だけがことさらに法令上の根拠を明示していない、というわけではないことは指摘しておくべきであろう。樋川氏が同じ轍を踏まないことを望む次第である。