上記の期間(2024年11月)に処理が終了したのは8件で、このうち5件で調査結果が通知された。また、残る3件のうち2件は調査しない旨が通知され、1件は苦情申立てが取り下げられた。
今回、公開を受けた案件のうちもっとも興味深い案件は、児童手当の申請手続きについての周知が不十分であるとして苦情が申し立てられた第2024-52号である。
この案件の申立人は、「所得上限限度額」を超過したため2022年度から児童手当の受給資格を喪失していたが、所得額が減ったために2024年度から児童手当が再度支給されると考えていた模様である。しかし、10月になっても何の通知もないことから区役所に問い合わせたところ、6月に申請が必要であった旨の説明を受けたため、申請が必要である旨対象者に通知するべきであるとして苦情が申し立てられた。
ところで、児童手当の支給を受けようとするときは、住所地の市町村長の認定を受けなければならず(児童手当法7条1項)、認定を受けた場合には、認定の請求をした日の属する月の翌月から児童手当が支給されることになる(同法8条2項)。そして、この案件の申立人は、「認定の請求」をしていなかったことから児童手当が支給されなかったわけである。
しかし、話はそれだけでは終わらない。児童手当は2024年10月から「所得上限限度額」を撤廃する等の制度改正がなされることになった(くわしくはこのサイトを参照されたい)。そのため札幌市では、「申請が必要と思われる方へのご案内」を新たに支給要件に該当する可能性がある者に対し発送したところ、申立人はこの案内を受けて申請を行ったことから、2024年9月分から児童手当が支給されることになった。
めでたし、めでたし・・・・、ではない。申立人は「たまたま」制度改正に伴う案内が送付されたために児童手当の請求につながったが、仮に制度改正がなければ、そのまま請求しないままだった可能性はじゅうぶんにある。
これに対し、市は受給資格を失った者については所得調査の同意を得ておらず、個別に申請勧奨を行うことはできない旨の説明をする。しかし、今般の制度改正に際しては新たに支給要件に該当する可能性があれば「申請が必要と思われる方へのご案内」を発送しているのであり、必ずしも説得的な説明とは思われない。
この点、市は通常の制度運用時には「法の不知を法は保護せず」の原則に忠実に申請の必要性について個別の案内はしない(ただし、資格喪失時の通知にはその旨の記載あり)一方で、制度改正時には(申請の必要性を含む)制度周知の必要性があると考えているのかもしれない。
この点、市は通常の制度運用時には「法の不知を法は保護せず」の原則に忠実に申請の必要性について個別の案内はしない(ただし、資格喪失時の通知にはその旨の記載あり)一方で、制度改正時には(申請の必要性を含む)制度周知の必要性があると考えているのかもしれない。
しかし、今般の制度改正にともなう案内が発送されたことで、本件の申立人のように児童手当の認定請求をしていなかった者からの申請につながったならば、通常の制度運用時における制度の周知方法について、なお検討の必要性があることを示唆しているように思われる。
以上の次第で、この案件は市民に向けた制度や手続きの周知のあり方を考える上で興味深い材料であると当ブログ開設者は考えている。
そのほかの事案では、第2024-48号において申立人が自らを「善良な札幌市民」と称していることが目を引いた。今後、当ブログ開設者が札幌市に問い合わせをする際には、「口うるさくて煩わしい市民からの問い合わせで恐縮ですが」と一言断るべきか、現在、思案しているところである。
以上の次第で、この案件は市民に向けた制度や手続きの周知のあり方を考える上で興味深い材料であると当ブログ開設者は考えている。
そのほかの事案では、第2024-48号において申立人が自らを「善良な札幌市民」と称していることが目を引いた。今後、当ブログ開設者が札幌市に問い合わせをする際には、「口うるさくて煩わしい市民からの問い合わせで恐縮ですが」と一言断るべきか、現在、思案しているところである。
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①第2024-48号
長きにわたり市民の声を聞く課に対し多数の要望をしてきた申立人が、同課から問題人物として警察に通報されたことをはじめとする一連の対応について納得できないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)
②第2024-50号
図書館で予約した図書の取り置き期限の延長が認められずに予約が取り消されたことに納得がいかないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:梶井祥子)
③第2024-51号
自宅に隣接する市有地の桜の木の枝が越境する等管理が不十分であるとして対応を求めたにもかかわらず十分な対応がなされないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)
④第2024-52号
所得制限のため支給停止となっていた児童手当を再度受給するには申請が必要であるということであるが、申請が必要である旨の案内が不十分であるとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)
⑤第2024-54号
申立人に断りもなく窓口で対応した職員が申立人の障害者手帳にセロハンテープを貼ったことを契機として手帳が破損したとして、手帳の修復を求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:梶井祥子)
⑥第2024-58号
町内会の活動実態が不明で会計報告もなされていないところ、市の担当部署に相談しても「町内会は自治組織であり町内会組織へ踏み込んだ調査及び指導ができない」という回答であったとして苦情が申し立てられたケース。本件申し立てが「市の直接的な機関でない町内会への苦情」であるとして調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:梶井祥子)
⑦第2024-62号
自宅畑の横に産業廃棄物処理業者が廃棄物を堆積しているとして担当課に指導を要望した際には対応する旨の回答を得たがその後も改善されないとして苦情が申し立てられたケース。申立後に再度担当課に確認したところ業者に指導する旨の回答を得たとして、苦情申し立てが取り下げられた。(担当オンブズマン:神谷奈保子)
⑧第2024-65号
第2024-50号の申立人が当該調査が不十分であるとして再度の調査を求めて苦情が申し立てられたケース。「オンブズマンの行為に関する事項」はオンブズマンの所轄外であり、一度オンブズマンが行った調査は再調査できないとして調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:梶井祥子)