2021/08/23

札幌市オンブズマン苦情処理日数の状況(年度別・2020年度まで)

2021年7月に入り、札幌市オンブズマンの2020年度活動状況報告書が公表された。そこで、オンブズマン事務局に各案件の処理日数のデータ提供を依頼し、提供を受けたデータに基づいて、以下の表及びグラフを作成した。

ところで、(表1)の「結果通知処理件数」とは、「苦情申立件数」のうち、オンブズマンが「苦情等調査結果通知」を発送し、調査を終了した案件の件数である。これらの案件においける「処理日数」とは、原則として苦情申し立てを受理した日から、「苦情等調査結果通知書」の発送までに要した日数である(したがって、申立人に苦情の内容を確認するために要した日数は算定から除外されている)。

また、札幌市オンブズマンの制度が発足した初年度の2000年度は、3月から制度がスタートし、運用されたのがわずか1か月間にとどまっている。そのため、この期間の処理状況は便宜的に2001年度と合算し、2000/01年度の13か月間に申し立てられた案件の処理状況を合算して計上してある。そして、以後の各年度は、当該年度の12か月間に申し立てられた案件の処理状況を計上した(したがって、調査終了が翌年度となった案件は、申立時点を基準として処理状況を計上している)。

さて、2020年度における札幌市オンブズマンの苦情処理の状況であるが、2019年度から取扱件数が激減し、2年ぶりに100件を切っている(90件)。また、「苦情申立件数」に対する「結果通知処理件数」の割合(66.7%)が、制度発足当初を除くと過去最低を記録するとともに、「結果通知処理件数」自体も過去最低の60件となっている。

なお、「苦情申立件数」に対する「結果通知処理件数」の割合は、2019年度に77.0%を記録するまでは、2005年度から2018年度にかけて80%台を維持していたことからすると、ここ2年の札幌市オンブズマンは、調査を実施すること自体に後ろ向きである、という評価が可能かもしれない。

また、2020年度は、申立人が「苦情申立ての原因となった事実についての利害を有しない」(札幌市オンブズマン条例16条1項1号)として調査が実施されなかった件数が10件であった。この件数は、2016年度から2020年度にかけて、0件-2件-1件-2件-10件と推移しており、2020年度は激増したことが見てとれる。

この点、当ブログ開設者は、第2020-20号の苦情を申し立てるために原俊彦オンブズマンと面談した際、「オンブズマンの申し合わせにより、『申立人の利害』は限定的に解することになった」、という趣旨の説明を受けたことがある。当ブログ開設者は、オンブズマンとしては、調査を実施する件数を絞り込む意図を有しているのだと理解したが、札幌市オンブズマンの制度発足時、市長がオンブズマン制度の運用について、「市民の権利利益を擁護するというオンブズマン制度の目的に照らして、できる限り広く取り扱うことにしたい」という議会答弁を行っている。

そこで、当ブログ開設者は、この市長答弁と原俊彦オンブズマンの発言の整合性を問うべくオンブズマン事務局に照会した。これを受け、オンブズマン事務局が原俊彦オンブズマンに確認したところ、申立人の利害を限定的に解することになったという説明はしておらず、そのような申し合わせをした事実もない、という回答を得たということであった。

当ブログ開設者は、オンブズマンが調査を実施することで得られる知見は、市民にとっても有益であり、できる限りオンブズマンは調査を実施することが望ましいと考えているが、札幌市オンブズマンも制度が発足して20年が経過しており、現在の運用のあり方が適切か、検討すべき時期にある可能性は否定できない。とりわけ、調査対象を絞り込み、精度の高い調査を実施するという対応は、十分に検討するに値すると思われる。

(表1)
 
苦情申立
件数
結果通知
処理件数
結果通知
平均処理
日数
結果通知
処理日数
中央値
結果通知
30日以内
処理率
2000/01年度
177
120
43.69
29
52.5%
2002年度
111
88
31.14
28
65.9%
2003年度
113
83
30.07
30
54.2%
2004年度
93
74
30.78
28
63.5%
2005年度
103
88
24.78
26
83.0%
2006年度
115
92
25.32
25.5
92.4%
2007年度
111
90
24.40
23
88.9%
2008年度
117
108
32.45
28
73.1%
2009年度
133
109
36.62
32
44.0%
2010年度
130
109
34.79
32
49.5%
2011年度
125
111
38.94
37
32.4%
2012年度
135
110
29.16
28
71.8%
2013年度
122
104
29.84
28
68.3%
2014年度
129
107
33.45
30
51.4%
2015年度
130
109
33.05
31
47.7%
2016年度
100
88
35.36
31.5
45.5%
2017年度
82
67
35.76
33
38.8%
2018年度
77
66
*40.06
*37
15.2%
2019年度
122
94
38.84
37
23.4%
2020年度
90
60
34.50
34
38.3%
全期間
通算
2315
1877
*33.28
*30
55.7%
*を付したデータは、2018年度の案件のうち1件について推定値に基づくことを示している。

次に、年度別の平均処理日数をグラフ化したものが、以下の(グラフ1)である。2018年度の処理の遅滞をピークとして、以後は平均処理日数が短縮化する傾向に転じたことが見て取れる。こうした傾向が今後も継続するか否か、調査そのもののクオリティとあわせて、引き続き、状況を観察する必要があると思われる。

(グラフ1)

次に、以下の(表2)は、制度発足以来の処理日数の度数分布を取りまとめたものである。4年ぶりに処理日数が20日以内の案件があるほか、2018年度と比較した場合には、「21日~30日」の割合が増加する一方で、「31日~45日」の割合が10%以上低下しており、処理日数の短縮を読み取ることができる。

(表2)
   
20日
以内
 21日〜
30日
 31日〜
45日
46日〜
60日
61日〜
90日
91日
以上
30日
以内
処理率
30日
処理率
件数
処理率
件数
処理率
件数
処理率
件数
処理率
件数
処理率
件数
処理率
2000/01
年度
20
16.7%
43
35.8%
26
21.7%
10
8.3%
9
7.5%
12
10.0%
52.5%
47.5%
2002
年度
20
22.7%
38
43.2%
17
19.3%
5
5.7%
7
8.0%
1
1.1%
65.9%
34.1%
2003
年度
13
15.7%
32
38.6%
33
39.8%
5
6.0%
0
0.0%
0
0.0%
54.2%
45.8%
2004
年度
7
9.5%
40
54.1%
21
28.4%
4
5.4%
2
2.7%
0
0.0%
63.5%
36.5%
2005
年度
20
22.7%
53
60.2%
15
17.0%
0
0.0%
0
0.0%
0
0.0%
83.0%
17.0%
2006
年度
21
22.8%
64
69.6%
5
5.4%
1
1.1%
0
0.0%
1
1.1%
92.4%
7.6%
2007
年度
21
23.3%
59
65.6%
7
7.8%
2
2.2%
1
1.1%
0
0.0%
88.9%
11.1%
2008
年度
7
6.5%
72
66.7%
15
13.9%
8
7.4%
4
3.7%
2
1.9%
73.1%
26.9%
2009
年度
7
6.4%
41
37.6%
34
31.2%
20
18.3%
7
6.4%
0
0.0%
44.0%
56.0%
2010
年度
14
12.8%
40
36.7%
35
32.1%
14
12.8%
5
4.6%
1
0.9%
49.5%
50.5%
2011
年度
6
5.4%
30
27.0%
51
45.9%
15
13.5%
8
7.2%
1
0.9%
32.4%
67.6%
2012
年度
20
18.2%
59
53.6%
20
18.2%
10
9.1%
1
0.9%
0
0.0%
71.8%
28.2%
2013
年度
8
7.7%
63
60.6%
28
26.9%
4
3.8%
1
1.0%
0
0.0%
68.3%
31.7%
2014
年度
1
0.9%
54
50.5%
39
36.4%
10
9.3%
3
2.8%
0
0.0%
51.4%
48.6%
2015
年度
8
7.3%
44
40.4%
45
41.3%
12
11.0%
0
0.0%
0
0.0%
47.7%
52.3%
2016
年度
0
0.0%
40
45.5%
33
37.5%
13
14.8%
2
2.3%
0
0.0%
45.5%
54.5%
2017
年度
0
0.0%
26
38.8%
31
46.3%
8
11.9%
2
3.0%
0
0.0%
38.8%
61.2%
2018
年度
0
0.0%
10
15.2%
40
60.6%
14
21.2%
2
3.0%
0
0.0%
15.2%
84.9%
2019
年度
3
3.2%
19
20.2%
46
48.9%
20
21.3%
6
6.4%
0
0.0%
23.4%
76.6%
2020
年度
1
1.7%
22
36.7%
30
50.0%
7
11.7%
0
0.0%
0
0.0%
38.3%
61.7%
全期間
通算
197
10.5%
849
45.2%
571
30.4%
182
9.7%
60
3.2%
18
1.0%
55.7%
44.3%

さらに、以下の(グラフ2)は、(表2)よりも度数分布を細かく区分し、度数分布の経年変化を示した。

(グラフ2)

2020年度の札幌市オンブズマンは、前年度よりも取り扱い件数を大きく減らすとともに、苦情処理の平均処理日数をやや短縮している。当ブログ開設者は昨年、「取り扱い件数が少ないと作業効率が低下し、処理日数の遅滞化をもたらす」と記したが、2020年度は、この分析とは異なる傾向が示されたことになる。

しかしながら、処理日数の短縮は、オンブズマンが困難な調査を忌避したり、調査の水準を犠牲にすることでも実現可能である。2021年度も引き続き、札幌市オンブズマンの苦情調査の内容はもちろん、苦情の取扱件数及び処理日数にも注目していきたい。

※なお、オンブズマン別の処理日数の状況については、このエントリーで紹介している。

2021/08/22

2021年7月に調査を終了したケース

 2021年8月1日、同年7月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、同年8月13日付で一部公開決定がなされた。

上記の期間(2021年7月)に調査を終了したのは10件で、このうち9件で調査結果が通知されている。また、残る1件は、調査をしない旨が通知され調査が終了している。

このうち、第2021-18号は、「宅地造成」に対する市の規制権限のあり方について、苦情が申し立てられた案件である。2021年7月に熱海市で発生した大規模な土石流災害は、盛り土が原因であった旨が報道されている。
本件調査の市の回答は、都市計画法が定める「開発行為」に対する規制についての言及があり、興味深い。

また、第2021-22号は、市の業務を受託する民間企業において、複数の従業員が市の現業職の採用試験に合格した結果、業務に支障が生じるようになったことを契機とする苦情である。
市は現業職について民間への業務委託をすすめると回答している点が興味深いものの、市から業務を受託する事業者の場合には、労働条件の改善にも自ずと限界がある。「官製ワーキングプア」の問題が叫ばれ久しい。札幌市では公契約条例を制定できなかった経緯もあり、民間事業者への業務委託における労働条件の制約については、市民も常に念頭に置いておく必要があると思われる。

なお、第2021-24号及び第2021-33号は、当ブログ開設者が申し立てた苦情である。このうち、第2021-24号の苦情等調査結果通知書の訂正がなされた顛末については、このエントリーで紹介した。また、第2021-33号は、調査しない旨が通知書が送付されてきた案件であるが、そこに記載された「調査しない理由」の妥当性について、別途、検討する機会を設けたいと考えている。

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①第2021-11号
 生活保護の受給者が、ケースワーカーによる家庭訪問がない理由についての市の説明が矛盾していること等について、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

②第2021-16号
 生活保護受給者が、課長からひどい対応を受けたとして部長への電話の取り次ぎを求めても十分な対応がなされない等、市職員の一連の対応について苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

③第2021-18号
 申立人が居住する地区で始まった宅地造成工事が市の許可の対象ではないということであるが、今後、雨水処理や冬季の除雪等で問題で生じる不安があるとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

④第2021-19号
 インターネットを通じた取り引きから生じた「消費者トラブル」について、市の消費者センター及び市の担当部局の対応が適切ではなかったとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

⑤第2021-20号
 申立人は、自らが利用する就労継続支援A型事業所が適切ではない行為をしているとして、指導権限のある市の担当部局に相談したが、その際の職員の対応について苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

⑥第2021-22号
 札幌市が現業職の採用に際し、試験により採用された者に特定の企業の4名が含まれていた結果、当該企業は事業の遂行に支障が生じたことから、今後、職員を採用する際には、特定の企業の事業の遂行に支障が生じないような対策と配慮をお願いしたいとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑦第2021-23号
 歩行中にカラスに襲われ負傷したことから市に駆除を求めたにもかかわらず、市が駆除しないとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

⑧第2021-24号
 札幌市オンブズマンが実施した調査に関する文書の公文書公開請求において、公開対象公文書に漏れがあったことから、漏れが生じた理由の説明と、再発防止を求めて苦情が申し立てられた例。
 なお、この案件は当ブログ開設者が申し立てた苦情であるが、苦情等調査結果通知書の差し替えが行われている。差し替え前の通知書はこちら。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

⑨第2021-26号
 生活保護受給者が、ケースワーカーが交代した理由について問い合わせても適切な回答がなされない等、保護課の一連の対応について、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑩第2021-33号
 札幌市オンブズマンが実施した調査に関する文書の公文書公開請求において、公開対象公文書に漏れがあったことから、漏れが生じた理由の説明と、再発防止を求めて苦情が申し立てられた例。
 この案件も、当ブログ開設者が申し立てた苦情であるが、第2021-24号とは前提とする事実が異なるという申立人の主張に対し、第2021-24号の苦情等調査結果通知書が訂正されたことにより、本件苦情が第2021-24号と同一の苦情であるとして調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:田村智幸)