2017/07/30

札幌市オンブズマン苦情処理日数の状況(年度別・平成28年度まで)

(※最新の年度別の処理状況は、このエントリーで紹介している。)

札幌市オンブズマンの平成28年度活動状況報告書(リンク先はpdfファイル:3MB)が公表されたのが、6月の末。そこに掲載された苦情処理日数の状況は、大まかな日数区分ごとの処理状況が掲載されているのみである。また、過去の処理状況との比較も困難であることから、オンブズマン事務局から提供を受けたデータに基づいて、以下の表を作成した。

作成した表は、各年度に申し立てられた苦情に対し、オンブズマンが「苦情等調査結果通知書」により申立人および市の担当部局に調査結果を通知した案件の処理日数のデータである。したがって、申立人が苦情を取り下げたり、オンブズマンが調査を実施しない旨を申立人に通した事案等については、平均処理日数や処理率の算定からは除外してある。

また、制度が発足したのは平成13年3月であり、平成12年度のデータは、平成13年3月の1か月の間に苦情が申し立てられた案件のものである。以後の各年度は当該年度12か月の間に苦情が申し立てられた案件のものである。したがって、苦情が申し立てられた時点をベースに件数を計上しているため、調査終了が翌年度に及ぶ案件も存在する。

さて、前置きはこのくらいにして、平成28年度の処理状況、平成27年度と比較した顕著な特徴は、苦情申立件数および結果通知処理件数の大幅な減少である。また、結果通知の平均処理日数が5年ぶりに「35日」の大台に乗ったことも見逃せない。さらに、平成24年度以降、一貫して結果通知の30日以内処理率が低下する傾向からすると、平成29年度に申し立てられた案件の処理が終了した時点において、全期間を通算した30日以内処理率が60%を割ることが危惧されるところである(今年度の調査担当者の奮起が期待される)。

(表1)
 
苦情申立
件数
結果通知
処理件数
結果通知
平均処理
日数
結果通知
30日以内
処理率
平成12年度
49
28
46.64
57.1%
平成13年度
128
92
42.79
51.1%
平成14年度
111
88
31.14
65.9%
平成15年度
113
83
30.07
54.2%
平成16年度
93
74
30.78 
63.5%
平成17年度
103
88
24.78
83.0%
平成18年度
115
92
25.32 
92.4%
平成19年度
111
90
24.70
88.9%
平成20年度
117
108
32.45
73.1%
平成21年度
133
109
36.62
44.0%
平成22年度
130
109
34.79
49.5%
平成23年度
125
111
38.94
32.4%
平成24年度
135
110
29.16
71.8%
平成25年度
122
104
29.84
68.3%
平成26年度
129
107
33.45
51.4%
平成27年度
130
109
33.05
47.7%
平成28年度
100
88
35.36
45.5%
全期間
通算
1944
1590
32.52
60.7%

ところで、前述の平成28年度札幌市オンブズマン活動状況報告書では、処理日数の区分の細分化が図られ、31〜60日が一つの区分にされていたのが、31〜45日と46〜60日に区分された(それ以外は、30日以内および61日以上という30日単位の区分である)。

そこで、以下の(表2)では、多少なりとも詳細なデータを提供すべく、30日以内の区分についても、20日以内と21〜30日に区分するとともに、61日以上の区分についても、61〜90日と91日以上に区分することにした。

(表2)
   
20日
以内
 21日〜
30日
 31日〜
45日
46日〜
60日
61日〜
90日
91日
以上
30日
以内
処理率
30日
処理率
件数
処理率
件数
処理率
件数
処理率
件数
処理率
件数
処理率
件数
処理率
12
年度
5
17.9%
11
39.3%
4
14.3%
1
3.6%
4
14.3%
3
10.7%
57.1%
42.9%
13
年度
15
16.3%
32
34.8%
22
23.9%
9
9.8%
5
5.4%
9
9.8%
51,1%
48.9%
14
年度
20
22.7%
38
43.2%
17
19.3%
5
5.7%
7
8.0%
1
1,1%
65.9%
34.1%
15
年度
13
15.7%
32
38.6%
33
39.8%
5
6.0%
0
0.0%
0
0.0%
54.2%
45.8%
16
年度
7
9.5%
40
54.1%
21
28.4%
4
5.4%
2
2.7%
0
0.0%
63.5%
36.5%
17
年度
20
22.7%
53
60.2%
15
17.0%
0
0.0%
0
0.0%
0
0.0%
83.0%
17.0%
18
年度
21
22.8%
64
69.6%
5
5.4%
1
1.1%
0
0.0%
1
1.1%
92.4%
7.6%
19
年度
21
23.3%
59
65.6%
7
7.8%
2
2.2%
1
1.1%
0
0.0%
88.9%
11.1%
20
年度
7
6.5%
72
66.7%
15
13.9%
8
7.4%
4
3.7%
2
1,9%
73.1%
26.9%
21
年度
7
6.4%
41
37.6%
34
31.2%
20
18.3%
7
6.4%
0
0.0%
44.0%
56.0%
22
年度
14
12.8%
40
36.7%
35
32.1%
14
12.8%
5
4.6%
1
0.9%
49.5%
50.5%
23
年度
6
5.4%
30
27.0%
51
45.9%
15
13.5%
8
7.2%
1
0.9%
32.4%
67.6%
24
年度
20
18.2%
59
53.6%
20
18.2%
10
9.1%
1
0.9%
0
0.0%
71.8%
28.2%
25
年度
8
7.7%
63
60.6%
28
26.9%
4
3.8%
1
1.0%
0
0.0%
68.3%
31.7%
26
年度
1
0.9%
54
50.5%
39
36.4%
10
9.3%
3
2.8%
0
0.0%
51.4%
48.6%
27
年度
8
7.3%
44
40.4%
45
41.3%
12
11.0%
0
0.0%
0
0.0%
47,7%
52.3%
28
年度
0
0.0%
40
45.5%
33
37.5%
13
14.8%
2
2.3%
0
0.0%
45.5%
54.5%
期間
通算
193
12.1%
772
48.6%
424
26.7%
133
8.4%
50
3.1%
18
1.1%
60.7%
39.3%

(表2)よりもさらに、度数分布を細かく区分したのが以下の(グラフ1)である。各年度ごとの処理件数の違いを捨象し、トータル100%になるよう短い処理日数の度数から順に、下から積み上げた(また、各年度には当該年度の平均処理日数を記した)。

制度発足以来、20日以内に処理した案件がはじめて0になったこと、30日以内の処理率が4年連続で低下していること、31日以上の区分においても処理が遅滞化している傾向などが看取できよう。

(グラフ1)

市の業務に関する苦情を受け付け、簡易迅速に処理することが札幌市オンブズマンの職務の一つであることからすると(札幌市オンブズマン条例4条1号参照)、処理の遅滞化傾向は、制度の根幹に関わる由々しき問題であるように思われる。

のみならず、オンブズマンには、市の担当部局に何らかの改善、対応を求める役割が期待されている。にもかかわらず、オンブズマンが自らの業務に関しては漫然と遅滞化するに任せたままであるならば、市の担当部局に対するオンブズマンの説得力は、著しく毀損されるであろう。

今年度、平成29年度もすでに4か月が経過しようとしているが、引き続き、札幌市オンブズマンの苦情処理日数の状況に注目していきたい。

なお、オンブズマン別の処理日数の状況については、このエントリーで。

2017/07/28

平成29年6月に調査を終了したケース

平成29年7月1日、同年6月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、7月18日に一部公開決定がなされた。

上記の期間(平成29年6月)に調査を終了した案件は全10件で、うち8件において調査結果が通知されている。また、残る2件は、苦情について調査しない旨が通知されている。

①第29-4号
 市内のダンスホール経営者が、区民センターを利用して低料金で社交ダンスパーティーを開催する団体による区民センターの利用は営利目的であるとして、営利目的の利用料の徴収等を求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:杉岡直人)

②第29-8号
 市・道民税を滞納している市民が、到底納付できない金額での納付約束をさせられたり、差押えを通告する等の市職員の対応に納得がいかないとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:岩田雅子)

③第29-9号
 盗難にあった生活保護費の再支給が認められなかったこと、盗難に伴い支給された保険金が収入として認定されること、保険金が支給されたことを申告しなかったとして保護が停止されたことに納得がいかないとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:房川樹芳)

④第29-10号
 死亡した母親の相続人が複数いるにもかかわらず、申立人が相続人の代表者に選任され、納税できないときは申立人の財産が差し押さえされるという説明を受けたことから、申立人を代表者に選任した理由と根拠を明らかにすることを求め、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:房川樹芳)

⑤第29-11号
 生活保護費の支給額が少ないこと、自ら申請すべき年金の申請手続きが知らぬ間に行われていたこと、保護の停止に伴い医療費を10割負担しなければならないこと等について、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:岩田雅子)

⑥第29-12号
 公園の利用に際し、職員が利用行為に干渉してきたことや、利用料の徴収時の対応に納得がいかないとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:杉岡直人)

⑦第29-13号
 転居に伴う保護費の支給について生活保護受給者から苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:岩田雅子)

⑧第29-14号
 市長宛の手紙に対する市の回答文書が訴えた内容に対応していないとして、苦情が申し立てられたケース。申立人の苦情は、オンブズマンによる調査がすでに実施されているとして、調査をしない旨が通知されている。(担当オンブズマン:房川樹芳)

⑨第29-15号
 生活保護費の支給額が居宅基準から入院基準に切り替わって減額されたことに納得がいかないとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:房川樹芳)

⑩第29-16号
 何某かの給付金が本来支給される期日に支給されなかったとして、苦情が申し立てられたケース。本件苦情がオンブズマンの所轄事項に該当しないとして、調査をしない旨が通知されている。(担当オンブズマン:杉岡直人)

2017/06/20

平成29年5月に調査を終了したケース

平成29年6月1日、同年5月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、6月15日に一部公開決定がなされた。

上記の期間(平成29年5月)に調査を終了した案件は全10件で、このうち、オンブズマンの自己の発意による調査が1件である。

なお、今回の公文書公開請求から、オンブズマンがどのような論点を調査しようとしたかを確認するため、調査実施通知書についても公開請求を行うことにした。今後、必要に応じてその内容についても、当ブログにおいて紹介したいと考えている。

①第28−93号
 市長に対し不満を訴えたにもかかわらず、市の環境事業部廃棄物課から回答文書が寄せられたこと及び回答文書の内容に納得がいかないとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:岩田雅子)

②第28−96号
 市が所管するスポーツ施設で事故が生じた場合に市が負うべき責任について文書で問い合わせたが、回答文書の記述では問い合わせに対する回答がなされていないとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:房川樹芳)


③第28−97号
 市が設置するスキー場(管理運営は指定管理者が実施)においてスキー大会が開催された際、大会参加者がリフト利用時にスキー板をもって乗車していたが、スキー板が落下したときの危険性を考慮して、そうした扱いをやめさせてほしいとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:房川樹芳)

④第28−98号
 固定資産税を滞納していたために土地と家屋を差し押さえされたことから、差し押さえを解除することを求めたが、差し押さえが解除されないこと等について、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:房川樹芳)

⑤第28−99号
 市が設置するプールの利用条件の緩和について市と折衝してきたところ、今後、その対応を担当することになった職員はこれまでの対応の経緯から信用できないとして、これまでの経緯について納得のできる説明をしてほしいとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:岩田雅子)

⑥第29−1号
 勤務先の会社を退職したことから健康保険を脱退し、国民健康保険に加入することになったが、保険証が届く前に医療機関を受診し、その際に医療費を全額自己負担せざるを得なかったとして、健康保険脱退前から国民健康保険の保険証を交付するよう求め、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:杉岡直人)

⑦第29−2号
 市が設置するプールにおいて、監視員による監視が十分に行き届いていないとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:岩田雅子)

⑧第29−5号
 札幌市の公衆wi-fiが地下歩行空間や札幌市役所本庁舎1階でつながらず、不便を被っているとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:杉岡直人)

⑨第29−7号
 札幌地域ポイントが事前の告知がないままにポイント付与が終了したことは会員の信頼を裏切るものであり、断じて許されるものではないとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:杉岡直人)

⑩第28−発2号
 札幌市における、避難行動要支援者名簿作成等への取り組み状況及びその課題について、オンブズマンが自己の発意により調査を実施したケース。(担当オンブズマン:杉岡直人)

2017/06/11

平成29年4月に調査を終了したケース

平成29年5月1日、同年4月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、5月29日に一部公開決定がなされた。

決定対象となった文書のうち、苦情調査に関するものは13件で、うち10件において調査結果が通知されている。また、残る3件のうち1件は申立人が苦情申立てを取下げたことにより調査が終了し、2件は苦情について調査しない旨が通知されている。

①第28−80号
 さっぽろ健康スポーツ財団が管理する市のプールにおける安全管理に疑問があるとして、市のスポーツ部と話し合いを行ってきたが、市の財団に対する指導及び監視には実効性になお疑問があるとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:杉岡直人)

②第28−84号
 市は障害者就労支援施設において「心理的虐待」が行われている旨を認定したが、「身体的虐待」が行われていることを追加認定するとともに、市の当該施設に対する指導がより実効性のあるものとすること等を求め、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:房川樹芳)

③第28−85号
 他者から財産権を委譲された物品を適法に廃棄することができずに困っているため、適法に物品を廃棄できる方法を回答してほしいとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:房川樹芳)

④第28−86号
 滞納している法人市民税の納付に関し、市税事務所職員の一連の対応に納得がいかないとして、苦情が申し立てられたケース。
  なお、公開された以下の文書においては、申立人の住所地を管轄する市税事務所の名については黒塗りされているが、中央市税事務所の名については、市税の特別徴収について全市を管轄しているとして(申立人の住所地という個人情報に関わらない)、黒塗りされていない。(担当オンブズマン:岩田雅子)

⑤第28−87号
 生活保護費から年金受給額が差し引かれるようになったことについて、その内訳がわからず、保護費が減額されていることはおかしいとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:岩田雅子)

⑥第28-88号
 自宅アパートでガス漏れ事故が生じた際、現場を訪問した消防局職員が居住者である申立人に対し状況説明をしなかったことについて、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:岩田雅子)

⑦第28−89号
 生活保護受給者がインフルエンザに罹患したために通院する際、担当ケースワーカーから移送費としてタクシー代を支給することはできないという説明を受けたことについて、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:房川樹芳)

⑧第28−90号
 除雪作業により自宅カーポート前に段差が生じたため除雪センターに問い合わせたところ、玄関ポストに伝言メモが置かれていたものの、その説明だけでは納得がいかないとして、苦情が申し立てられたケース。
 なお、「除雪」と「排雪」ではその意味するところを異にするが、本件苦情のきっかけとなったのは、通常の除雪作業ではなく、「除雪パートナーシップ制度」を利用した「排雪作業」の模様である。(担当オンブズマン:杉岡直人)

⑨第28−94号
 児童会館職員の対応及び利用時間がわずかに有料時間帯にかかったとして直ちに利用料負担を求められたことについて、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:房川樹芳)

⑩第28−95号
 延滞している市税について、本税については4回分割で納付し、延滞金については本税を納付した後、改めて相談することになっていたところ、2回目以降の本税の納付が滞ったとして預金の差し押さえを受けたことについて、本税のみならず延滞金についても差し押さえを受けたことに納得がいかないとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:岩田雅子)

⑪第28−100号
 身体障害者交通費助成が誕生月によって不公平になっているとして苦情申立てがなされたが、申立人自身が不利益を受けているわけではなく、利害関係がないと判断し、申立てが取り下げられたケース。(担当オンブズマン:杉岡直人)

⑫第29−3号
 生活保護受給者が転居により生じた大型ごみを処分する際、当該ごみ処分が一般廃棄物の処理としては適法になされていないにもかかわらず、市が当該ごみ処分の費用を支出しているとして、苦情申立てがなされたケース。当該苦情申立てにつき、申立人に利害関係がないとして、調査を実施しない旨が通知された。(担当オンブズマン:房川樹芳)

⑬第29−6号
 (ア)職員が生活保護受給者に対し、年金受給について問い合わせた際の対応が威圧的であったこと、(イ)自宅アパートでガス漏れ事故が生じた際に現場を訪問した消防局職員が居住者である申立人に対し状況説明をしなかったこと、(ウ)本件苦情を申し立てる際に受け付けた職員が専門用語を知らなかったことついて、苦情申立てがなされたケース。当該苦情申立てにつき、(ア)(イ)については、すでに同趣旨の苦情申立てに対する調査が終了していること、(ウ)については、申立人に利害関係がないとして、調査を実施しない旨が通知された。(担当オンブズマン:岩田雅子)

2017/05/01

その苦情申し立て、ちょっと待った!

「札幌市オンブズマン」とは、札幌市が設置したいわゆる「行政オンブズマン」の制度である。このブログでは、ブログ開設者自らが公文書公開請求を行った、札幌市オンブズマンの「苦情等調査結果通知書」等について、札幌市オンブズマンの活動に興味を持つ人々へ向け、その内容を提供している。

いうまでもないことであるが、札幌市オンブズマンの役割の一つに、市民から申し立てられた苦情について調査することがある。そして、調査の結果、オンブズマンが市に対し何らかの改善を要請した場合、市がそのことを受けて一定の改善を図る(場合もある)、というのが制度の一般的なイメージであろう。

しかしながら、すべてのケースにおいて、苦情申立人の要望が叶えられるわけではない。また、オンブズマンがむしろ、申立人の足を引っ張った、とでもいうべき案件も存在する。さらに、”簡易迅速”を謳いながら、調査にどれだけの日数を要するかは、実際に苦情を申し立ててみないとわからない(過去の処理日数の状況については、年度別オンブズマン別に紹介している)。

以上のことからすると、オンブズマンに苦情を申し立てるには、それに先だち、オンブズマンが十分な調査を行うことができるか、さらには、そもそも苦情申し立てにおける要望に実現可能性があるか等、慎重に検討することが求められるであろう。その苦情申し立て、ちょっと待った!、という所以である。

そこで、以下では、札幌市オンブズマンが申立人の足を引っ張ったとでもいうべき案件について紹介する。読者諸氏には、この制度の利用する際の考慮要素としていただきたい。

さて、平成28年度における札幌市オンブズマンの調査には、札幌市オンブズマンの調査に関する公文書公開請求を行った者が、札幌市オンブズマンに対し苦情を申し立てた案件がある。当ブログの読者諸氏にとっては、当ブログ開設者自身が行った苦情申し立てであることについては、改めて説明するまでもないであろう。第28-58号及び第28-71号の2件がそれである。

このうち、第28−58号は、一部公開決定の対象となった苦情等調査結果通知書の公開に際し、交付された電磁的記録の作成方法について、苦情を申し立てた案件である(なお、一部公開決定の場合には、公開対象公文書に非公開情報が含まれているため、当該部分が黒塗りの上、公開されることになる)。

この案件において、オンブズマンは、「電磁的記録の一部公開の場合には、用紙に出力されたものの交付とするとした市の判断には合理性があると認めます」、「電磁的記録の一部公開の場合には電磁的記録を用紙に出力したものの交付によることとしていることが現時点で直ちに問題があるということはできません」、という判断を行っている。

しかしながら、市は、「一部公開決定の対象となる文書は用紙に出力したものの交付とする」と説明しておきながら、実際には、一部公開決定の対象となった文書について、一旦用紙に出力したものをスキャナーで読み込み、pdf化した電磁的記録として、申立人たる当ブログ開設者に提供しているのである。

このように、市の回答は、一般論としての説明と実際の対応に齟齬があるところ、上述のオンブズマンの判断は、こうした齟齬を見逃している。のみならず、申立人たる当ブログ開設者が、提供を受けた電磁的記録の作成方法について苦情を申し立てているという点も一顧だにしていない。そのため、オンブズマンの判断自体、的はずれなものとなっている。

すなわち、申立人たる当ブログ開設者の要求は、用紙に出力したものをスキャンしたデータではなく、デジタルデータを直接pdfファイルに変換したものを提供することである。したがって、苦情の要点は、市が一旦用紙に出力したものをスキャンしたデータとして提供することの当否である。このような苦情に対し、オンブズマンは、「用紙に出力したものの交付とするとした市の判断には合理性がある」という判断を示しているが、全くもって苦情に対する答えになっていない。そうであるならば、オンブズマンが申立人の足を引っ張ったと評することも許されるであろう。

なお、この案件の苦情申し立ての後、申立人たる当ブログの開設者が市の担当部局に照会したところ、公文書公開請求に基づいて電磁的記録たる公文書の一部公開決定をした場合において、当該電磁的記録たる公文書をいったん用紙に出力し非公開部分を黒塗りしたうえでスキャンしたpdfファイルを提供することは、公開対象となる文書の公開が原則として義務付けられる「公文書公開請求」に対する対応としてではなく、担当部局が任意に実施する「情報提供」として行っている、ということであった。

続いて、第28-71号は、以下の3点に関する市の説明、すなわち、①公文書公開請求に対し一部公開決定がなされた場合に非公開部分を黒塗りとすること、②非公開情報が含まれていない電磁的記録たるwordファイルをpdf化すること、③一部公開決定の対象となった文書を「情報提供」として電磁的記録を交付すること、について疑義があるとして、苦情を申し立てた案件である。

なお、この苦情申し立てに際しては、第28-58号において示されたオンブズマンの判断が的はずれであったことから、再度そうした事態が生じることを懸念し、「この苦情は、公文書公開請求がなされた場合、紙ベースで管理している公文書について、電磁的記録化して交付することを求めるものではない」旨、苦情申し立ての趣旨を補足する文書を提出した。

以上のような苦情申し立てに対し、市がどのような回答をし、オンブズマンがどのような見解を示したかについては、苦情等調査結果通知書(第28-71号)で確認していただくとして、ここで問題としたいのは、以下のようなオンブズマンの見解である。

「オンブズマンとしては、本件対応のような公文書公開方法が、制度上、明確な位置付けがないということについては、違和感を覚えました。」

ここでいう「本件対応のような公文書公開方法」とは、電磁的記録たる公文書が一部公開決定された場合、いったん用紙に出力し非公開部分を黒塗りした上で、スキャンした電磁的記録を開示請求者に交付する取り扱いのことを意味している。そして、オンブズマンは、そうした対応が「制度上、明確な位置付けがない」と述べるのである。

ところで、電磁的記録には、そのままの形では視認できないという特性がある。そのため、電磁的記録たる公文書を公開する場合には、紙ベースの公文書の場合とは異なった取扱いが必要となる。札幌市においても、そのことを前提に、公文書が電磁的記録である場合の公開方法等の諸規定が定められている。

すなわち、「公文書公開制度」においては、文書、図画、写真又はフィルムの公開方法として、「閲覧又は写しの交付」が定められているところ(札幌市情報公開条例15条1項)、電磁的記録たる公文書の「写しの交付」については、「用紙に出力したものの交付」(札幌市情報公開条例施行規則7条3号ウ)、「フロッピーディスクに複写したものの交付」(同号エ)及び「光ディスクに複写したものの交付」(同号オ)という方法が定められている。

また、市の説明によると、電磁的記録媒体への「複写」(同施行規則7条3号エ、オ)とは、電磁的記録たる公文書を電磁的記録のまま交付することを意味する、ということである(なお、このような説明の当否が、申立人たる当ブログ開設者の苦情における論点③である)。したがって、いったん用紙に出力したものをスキャンして改めて電磁的記録化した場合については、公文書公開制度における公文書の公開方法、すなわち、電磁的記録媒体への複写には含まれない、ということになる。

とはいえ、そうであるからこそ、市は札幌市情報公開条例が定める「情報提供」(同条例20条1項)として、申立人たる当ブログ開設者に電磁的記録を提供しているのである。この点、市の担当部局の説明によると、電磁的記録を用紙に出力しスキャンしてpdf化したものを提供するという方法は、札幌市情報提供推進要綱が定める、「その他各部長が適当と認める方法」(同要綱3条4号)による、ということである(同要綱は、情報提供の方法として、「公文書の閲覧又は写しの交付」(同要綱3条2号)についても規定しているが、ここでいう「写しの交付」とは用紙を交付することを意味しており、pdf化したスキャンデータの交付は、同号の定める「写しの交付」には該当しないということであった)。

以上をふまえると、オンブズマンが、一部公開決定の対象となった文書について、いったん用紙に出力したものをスキャンしてpdf化するという市の対応が、「制度上、明確な位置付けがない」と述べるのは、いささか早計であったといわざるをえない(なお、札幌市情報公開条例は、公文書公開制度の根拠規定であるが、前述のように「情報提供」の根拠規定でもあり、その名称が「公文書公開条例」ではないことの意義は、案外大きいという思いを当ブログ開設者は抱いている)。

むしろ、オンブズマンが判断すべきは、このような「情報提供」として対応することの当否ではなかったか。そして、札幌市の公文書公開制度において、電磁的記録たる公文書をいったん用紙に出力したのち、スキャンすることにより再度電磁的記録化することが公開方法として定められていない以上、次善の策として、市が「情報提供」として対応することは許容される、ということになるのではないか。

これに対し、オンブズマンはこのような検討を行うことなく、市の対応が「制度上、明確な位置付けがない」として、紙ベースの公文書を電磁的記録化することの根拠を模索し(肯定)、その論理を電磁的記録たる公文書の場合にも、当てはめようとするのである。

しかしながら、このような検討は、電磁的記録たる公文書には紙ベースの公文書とは異なった特性があり、電磁的記録たる公文書の公開方法については、すでに規定があることを看過している点に致命的な問題がある。

また、前述のように、この案件において申立人たる当ブログ開設者は、「この苦情は、公文書公開請求がなされた場合、紙ベースで管理している公文書について、電磁的記録化して交付することを求めるものではない」旨、苦情申し立ての趣旨を補足する文書を提出している。

ところが、オンブズマンは、そのような申立人たる当ブログ開設者の意向を全く無視し、文書、図画、写真又はフィルムの写しの交付について、「コピー機による写しだけでなく、スキャナによって読み取ってできた電磁的記録をCD-Rに複写したものも含むと解釈することはできないか」について、検討を行っているのである。

その上で、「文書の写しの交付に代えてスキャナで読み取ってPDF化したものを交付することが、市の情報公開制度で明確に位置付けられることが、市民の知る権利の観点からも望ましい」と結論づけるのである。

このようなオンブズマン判断は、申立人たる当ブログ開設者が、あえて「紙ベースで管理している公文書について、電磁的記録化して交付することを求めるものではない」旨、苦情申立ての趣旨を補足していることと相容れないのみならず、申立人たる当ブログ開設者の苦情が、電磁的記録たる公文書の公開方法についてのものであることからすると、的はずれである。

むしろ、市がすでに「情報提供」で対応しているところ、オンブズマンがあえて「公文書公開」で対応することを求めるのであれば、現在の「情報提供」による対応が許容されないという判断があって、はじめて「公文書公開」での対応を求めることが正当化されるであろう。

そこで、この点を含め数点にわたり、担当オンブズマンに照会したところ、この点に関すると思われる回答は、「情報公開制度については、様々な課題があることを前提とし、今後の在り方の方向性を示した部分もあることをご理解ください」というものであった。

・・・・・ということは、オンブズマンとしては、市が現在、「情報提供」で対応していることは適切ではない、ということを含意しているのであろうか。残念ながら、その意図するところは明らかでない。

現行の制度の枠内で、解釈・運用を変更し改善を図ろうとする場合と比較し、制度枠組みそのものを変更し改善を図ろうとすることは、後者の方がより困難が伴うであろうことは、容易に想像できる。本件において申立人たる当ブログ開設者が指向したのは、電磁的記録たる公文書の写しの交付を電磁的記録媒体への複写により実施するという、現行制度の枠内での運用の変更である。

これに対しオンブズマンは、紙媒体たる公文書の電磁的記録媒体への複写という、現行制度では予定していない取扱いを新たに実施することを指向しているのであり、現行制度の枠内での運用の変更と比べると、その実現には、より困難が伴うであろうことは容易に想像できる。したがって、ここでもまた、オンブズマンが申立人の足を引っ張ったと評することが許されるであろう。

以上、紹介した第28-58号及び第28-71号の苦情は、公文書公開制度及びより広い意味での情報公開制度に関する、技術的性格の強い苦情である。そのため、直ちに一般化することは困難かもしれないが、申立人たる当ブログ開設者としては、オンブズマンの判断が「的はずれ」であるとともに、「足を引っ張られた」との印象を抱かざるをえなかった。読者諸氏に対しては、このことだけはお伝えしておきたい。