上記の期間(2025年10月)に処理を完了したのは7件で、このうち4件で調査結果が通知された。また、残る3件のうち、1件については苦情について調査しない旨が通知され、2件については苦情申立ての取下げという取り扱いがなされている。
ところで、今回の公開分に限らないのだが、オンブズマン調査における市の回答は、「できない理由」についての説明が展開される傾向にある。しかし、そうした回答は苦情を申し立てた市民にとっては、自らの要望が拒絶されたという印象を残すことになると思われる。むしろ市は「できること」を説明したほうが苦情を申し立てた市民に対して好印象を与えると思うのだが、いかがであろうか。
しかしながら、市の回答がそのような内容にならないのは、いったん市が「できること」についての説明することで、そうした対応をする責任が生じるのを避けたいという意向が働く、あるいは、職務遂行にあたって前例踏襲をよしとする組織文化がある場合には、「できること」を考える、という発想にそもそもならないのかもしれない。
仮にそうだとすると、調査を担当したオンブズマンが改善提案をすることは、前例踏襲をよしとしない組織内部の職員に対する精神的支援(理論的支援ならばさらによし)になり、市政改善の可能性を広げると当ブログ開設者は考えているのだが、残念ながら現在(過去においても)任用されているオンブズマンにはそうした発想が欠けているようである。
今回公開分の第2025-43号もそのような案件である。この案件では、自宅前の歩道が隆起したために補修を要請し、その際、家族が身体障がい者になり歩くこともままならないことを伝えたにもかかわらず、修復内容が依頼したとおりではなかったとして苦情が申し立てられた。
この案件における市の回答は、市が道路を補修する際の原理原則について説明している点で興味深いものの、当ブログ開設者は「身体障がい者がいることを理由に特別な対応はとれないことについてご理解いただけるようにお願いしました」という記述に驚いた(なお、このような説明は、補修工事後に申立人から再度の工事の要望を受けてなされたものである)。障害者差別解消法7条2項は行政機関に「合理的配慮」を義務づけているのではなかったか。上記の市の回答は、この規定の趣旨に抵触する疑いがあるのではなかろうか。
また、調査担当オンブズマン樋川恒一の判断においても「合理的配慮」についての言及はない。しかしながら、当ブログ開設者は、市としては実際の補修工事に先だち、どのような工事を行うかという説明を申立人に行うことが適切だったのではないかと考えている。もちろん、補修工事の内容が申立人の要望に沿ったものである必要はないにせよ、事前の説明は市にできる「配慮」であろうと考えている(ただし、こうした配慮が障害者差別解消法が規定する「合理的配慮」とイコールであるかは、別途検討する必要がある)。
ところで、この2件の案件には既視感がある。それは、苦情の内容が前回のエントリー(2025年9月に処理を終了した案件)で紹介した案件と重複しているからである。
まず、今回公開された第2025-57号は、担当ケースワーカーが申立人の同意を得ることなく申立人の個人情報を社会福祉協議会に提供したとして、担当ケースワーカーの対応についての苦情が申し立てられた案件である(苦情申立日は9月19日)。
これに対し、前回公開した第2025-56号では、社会福祉協議会の対応について苦情が申し立てられ、市の機関の業務ではないとして調査しない旨が通知された(苦情申立日は2025年9月19日)。
また、今回公開された第2025-60号は、入院・通院のために必要な交通費の支給を求めるとともに、担当ケースワーカー等の対応が保護受給者の尊厳を毀損するものであるとして苦情が申し立てられた案件である(苦情申立日は9月20日)。
これに対し、前回公開した第2025-59号では、保護課から提示された「食材支給」の内容が栄養バランスを欠き健康を害する恐れがあるとして苦情が申し立てられ(「不利益を受けているとはいえない」として調査しない旨が通知された。苦情申立日は9月19日)、同じく前回公開した第2025-61号では、「食材支給」で提示された内容では栄養が不足すること、さらに、担当ケースワーカーおよび係長の対応が保護受給者の尊厳を損なうものであるとして苦情が申し立てられている(食材支給は第2025-59号で調査しない旨、ケースワーカーの対応は第2025-60号で調査を行うとして調査しない旨が通知された。苦情申立日は9月21日)。
このように、同一の申立人から3日間にわたり、立て続けに5件の苦情が申し立てられたわけである。オンブズマンの取扱件数がかさ上げされ、活発な活動を行っていると対外的にアピールすることができるという点で、札幌市オンブズマン制度にとっては「超上客」であろう。
しかしながら、オンブズマンの対応が「超上客」へのおもてなしとして適切であったかどうかは、なお、検討の必要があると思われる。それは、この申立人が立て続けに苦情を申し立てたのは、苦情を申し立てることで、かえって自らの不安を募らせたのであろうと推測できるからである。
この5件の申立てに対し(ただし、この申立人はほかにも苦情を申し立てている可能性がある)は、オンブズマンは9月29日付で3件について「調査しない旨」を通知し、10月31日付で2件の「調査結果」を通知した。しかし、このような対応は、調査結果よりも調査しない旨の通知を受けた申立人が「自らがオンブズマンから拒絶された」という不安を募らせる要因となるのではなかろうか。
もちろん、こうした懸念は当ブログ開設者の杞憂かもしれないが、たとえ申立人を待たせたとしても、5件まとめて通知を発送したほうが、「超上客」への「おもてなし」として適切ではないかと感じている(「ブルシット・ジョブ」を増やさないための配慮の余地があるのではないか、という趣旨である)。
さて、それでは具体的に調査の内容を確認していこう。第2025-57号は、担当ケースワーカーが社会福祉協議会に個人情報を提供したという苦情であるが、事実の経緯としては、申立人からケースワーカーに社協に問い合わせをしてほしいという申し出があったということである。
この点、市の回答には、「氏名等の個人情報の提示を伴った問い合わせの場合などには、本人への再確認・・・など、徹底してまいります」という記述はあるものの、「ケースワーカーは、申立人から事前に社協に相談していることを聞き取っていた」のみで、社協に問い合わせる際に申立人の個人情報を提供することについて「再確認」した旨の記述はない。
また、調査担当オンブズマン神谷奈保子も、「相談者は、社協から保護受給者の場合はケースワーカーを通して相談するようにと言われた時点で、社協がケースワーカーを通して相談者の名前や最低限の現況を確認するものと想定できるのではないかと考えます。そのため、相談者が自分の担当ケースワーカーへ社協への連絡を依頼した時点で、同意がないとは言い切れないように思います」という見解を示している。
しかしながら、行政機関による個人情報の提供は、法令に基づく場合や利用目的の範囲内の提供であれば必ずしも本人同意を要しないものの、一般論としては本人の同意を得ることが原則である。また、オンブズマンによる「同意がないとは言い切れない」という判断も、いかにも粗雑であろう。
したがって、本件のように申立人からの依頼があったような場合においても、ケースワーカーは申立人に対し、①社協に対する問い合わせは一般論としての問い合わせか、それとも申立人の具体的な事情に基づく問い合わせか、②申立人の具体的な事情に基づく問い合わせの場合には、申立人の個人情報を社協に説明することは差し支えないか、確認するのが適切であったと当ブログ開設者は考えている。
次に、第2025-60号では、入院・通院のために必要な交通費の支給を求めるとともに、担当ケースワーカー等の対応が保護受給者の尊厳を毀損するものであるとして苦情が申し立てられた。
まず、市の回答によると、担当ケースワーカーは申立人が通院する際の交通費について「どうしても9月中の通院を希望するということであれば、売却などにより活用できる資産を確認し、交通費に充てようと考える必要がある旨を説明」するとともに、「この説明の際に、室内にあった申立人のパソコンやコーヒーメーカーなどを示し」たのだそうである。
その一方で、「現実的にはこれらの資産を今すぐ売却するなどの対応が難しいことは一定の理解ができることから、そこまで求めることはしないことを併せて伝えた」というのであるが、結局のところ、伝えるべきことは「早急な通院の必要性が確認できない現時点では、・・・通院移送費の支給の検討は難しい」ということだけだったと当ブログ開設者は考えている。
また、担当ケースワーカーならば、申立人が「仮定」の話を理解できるのか、考慮する必要があると思われる。そして、実際に資産を売却しても収入申告する必要があるのみならず、収入から交通費相当額が費用として控除されない限り交通費を捻出することはできないのである。したがって、「(資産を売却すること)までは求めることはしない」のであるならば、担当ケースワーカによる資産売却を検討する必要性の説明は不要であり、その説明は申立人が不満を募らせる効果しかなかったと思われる。
この点、調査担当オンブズマン神谷奈保子は、「申立人が『人権を軽視した発言だ』と感じたことは事実であり、発言の意図が正しく伝わっていなかったと思われ、残念に思います」という見解を示している。すなわち、資産を売却を例示したこと自体は問題視していないのであるが、オンブズマン判断としては不十分であると思われる。
ところで、この2件の調査担当オンブズマン神谷奈保子は、2024年度に、「アサーティブコミュニケーション」のスキルを持った市職員を育成する視点から、市職員の対人コミュニケーションの現状について、発意調査を実施している(第2024-発1号)。
この「アサーティブコミュニケーション」とは、調査担当オンブズマンに神谷奈保子によると「自己主張しながらも他人を尊重するコミュニケーション」である。そして、神谷奈保子はライフワークとして、アサーティブコミュニケーションの在り方を研究しているのだそうである。
そうであるならば、市職員が市民に対応する際にどのような点にコミュニケーションギャップがあるのか、さらに、そのギャップを埋めるためにはどのような工夫が考えられるのかなどなど、個別の調査案件において積極的に提案してもよさそうなものであるが、担当オンブズマン神谷奈保子は市の回答を鵜呑みにするだけであった。実に残念なことである。
最後に、苦情申立ての取り下げがされた案件である。このうち、第2025-64号は、「取下げの経緯」と題する文書に「申立て取り下げの意向」が記載されている一方で、第2025-68号についてはその旨の記載がない。申立人に「通知書」が発送されておらず、申立人の苦情申立てを取り下げる意向が文書に記載されていない案件において、「申立て」はどこへ行ったのであろうか。この点について、現在、オンブズマン事務局に照会中である。回答については、当ブログで紹介する予定である。
以上でこのエントリーを完結させるつもりであったが、今回公開された調査結果のうち、言及していないもう1件についてもふれることにする。webから図書館の図書を予約したにも関わらず、その図書が別の人物に貸し出しされてしまったという苦情である(第2025-49号)。
市の回答によると、webから予約を入れても、職員が当該図書を確保し「予約を確定」するまでは、貸出時に予約が入っていることがわからないのだそうである。おそらく、予約システムと貸出システムが連携していないということなのであろう。
しかし、「予約を確定」する前に実際に図書館を訪問して貸し出しを受けようとした者を優先するにしても、「確定前予約」の存在がわかれば、「貸し出しの延長はできません」という注意を喚起することができるし、延滞防止につながると思われた。
それにしても、「予約」後に職員が図書を確保する前に、別の人物がその図書の貸し出しを受けるとは。まるで「奇跡の瞬間」に立ち会ったような気分である。
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①第2025-43号
自宅前の歩道が隆起したために補修を要請し、その際、家族が身体障がい者になり歩くこともままならないことを伝えたにも関わらず、修復内容が依頼したとおりではなかったとして苦情が申し立てられた(担当オンブズマン:樋川恒一)
②第2025-49号
図書館蔵書予約・検索システムで検索した際には「貸出中」ではなかった図書を予約したにもかかわらず、当該図書が別の人物に貸し出されたとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:樋川恒一)
③第2025-57号
生活保護を受給する申立人が、担当ケースワーカーが申立人の同意を得ることなく申立人の個人情報を社会福祉協議会に提供したことは不適切であるとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)
④第2025-60号
生活保護を受給する申立人が、入院・通院のために必要な交通費の支給を求めるとともに、担当ケースワーカー等の対応が保護受給者の尊厳を毀損するものであるとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)
⑤第2025-63号
申立人に関係する人物が緊急搬送されたことをきっかけに施設に入所し現在に至るが、当該施設職員の対応等に不満を抱いており、病院や施設を変えるように区役所職員に働きかけているものの、十分な対応がなされないとして苦情が申し立てられたケース。本件においては専門的知見に基づく対応がなされており、オンブズマンが調査・判断することは相当でないとして、「調査することが相当でない特別の事情」(札幌市オンブズマン条例16条2項)を理由に調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:梶井祥子)
⑥第2025-64号
生活保護受給者の生活品の移送を請け負ったが、その対価がいまだに支払われていないとして苦情が申し立てられたケース。(保護受給者に対する)少額訴訟の利用手続き等について無料法律相談の利用を提案したところ、苦情申し立ての意向が取り下げられた。(担当オンブズマン:樋川恒一)
⑦第2025-68号
市税事務所職員に高圧的な対応をされる一方で、後日、別の職員は穏やかで丁寧な口調で対応したことから、職員間の接遇の差が大きいので、適切な接遇がなされることを求めて苦情が申し立てられたケース。苦情内容及び申立人の要望を市税事務所に伝達する旨を申立人に伝達した(と文書に記載されるのみで、申立人の苦情申し立てを取り下げる意向を確認した旨は記載されていない)。(担当オンブズマン:樋川恒一)


















































