2024/06/29

2024年4月に調査を終了したケース

2024年5月1日、同年4月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、決定期間延長のうえ、同年6月14日付で一部公開決定がなされた。

上記の期間(2024年4月)に調査を終了したのは13件で、このうち10件で調査結果が通知された。また、残る3件はすべて苦情申立ての取り下げにより、調査が中止された。なお、今回の公開分で、2023年度に苦情が申し立てられた案件(全71件)はすべて公開された。

さて、今回公開された案件には、理不尽とも思える主張を繰り返す申立人からの苦情が2件あるところ、調査対象部局の対応は対照的である。

まず、子どもが学校でいじめを受けているが教育委員会が適切に対応してくれないという苦情(第2023−62号)である。この案件で教育委員会は、「申立人の困り感の解消につながる取組について学校と検討」したり、「申立人の困り感に寄り添いつつも、これまでの先入観に因われず学校と連携」する等、慈悲深く対応する姿勢を見せている。

これに対し、市民活動サポートセンターに入居するNPO法人等の活動についての指摘や問い合わせをした際の担当者の対応についての苦情(第2023−66号)では、調査対象部局の市民文化局は、「不当要求行為やその他カスタマーハラスメント行為等に当たると判断される場合には、関連部局と共有を図りながら、本市として毅然とした対応を行って」いく姿勢を明確にした。

このように、調査対象部局の対応は極めて対照的であるが、教育委員会としては「子どもの権利」を考慮すると、その親を無下に取り扱うことはできないと考えたのであろうと当ブログ開設者は考えている。

次に、道路用地の取得に関する市の一連の対応について苦情が申し立てられた案件(第2023−58号)も興味深い。この案件では、用地の任意買収および土地収用手続の利用という業務の一端が垣間見える。

ところで、この案件における申立人の主張は、当ブログ開設者の理解では、①用地取得に伴う補償額が不十分である、②任意買収に応じるか否かについて最終の意思確認が不十分なまま土地収用手続きに着手しようとした、③任意買収に応じると伝えたにも関わらず土地収用手続きの対象となると説明を受けた、という3点である。

これに対し市は、①補償額は市が定めた基準による、②回答書は未記入だったものの最終の意思確認は行っている、③市と任意契約を結ぶだけでは土地収用手続きの対象から除外できない旨を伝えるのが遅れたことを詫びたうえで土地収用手続きの対象から外す方法を伝えた、と回答している。

当ブログ開設者としては、(ア)未記入の回答書を返送された市がこれまでの対応から任意買収に応じないと決めつけて次の手続きに移行したことや、(イ)任意に売却の契約を結んでも(おそらく未登記のままでは)土地収用手続の対象から除外できない旨の説明をするのが遅れたこと、さらには、(ウ)地権者が任意買収に応じる意向を明らかにしただけで補償金の額を合意できない限り土地収用手続きに移行せざるを得ないことを市が申立人に伝えたか不明であるという3点について、市の対応は適切さを欠いていたと考えている。

もっとも、調査担当の田村智幸オンブズマンは、このような問題意識を欠いたようだ。それどころか、どうやら申立人の主張を理解することもままならなかったようである。

すなわち、オンブズマンの判断によると、申立人は「任意買収も用地収用も地権者には本来必要のない手続である」と主張しているらしい(15頁9〜10行目)。しかしながら、申立人は、(当該地の相続手続をして個人名義にするという)「①の手続は、任意買収であろうと用地収用であろうと、本来地権者側には必要のない手続きであ(る)」と主張しているのである(3頁17〜19行目)。

申立人はおそらく、地権者の側で登記費用を負担するのを避けたいのであろう。そのため、登記費用は市が負担すべきであると主張していると思われる。つまり、申立人の主張はあくまで、登記の名義変更手続きに関するものである。「任意買収も用地収用も地権者には本来必要のない手続きだ」という(オンブズマンが考える)申立人の主張を前提とすると、市はこれらの手続きを利用することなく用地を取得できることになるのだろうか。

なお、不動産の相続に関しては、2024年4月1日から相続登記の義務化が図られている。相続人が登記義務を負うからには、当然、その費用も負担することになると思われる(市が費用負担する謂れはないことになろう)。

このほか、外国籍の市職員の数について問い合わせたにも関わらず回答を得られなかったという苦情(第2023-61号)も、当ブログ開設者には興味深い論点を含んでいる。

すなわち、著名な東京都保健婦事件の最高裁判決(最大判平成17.1.26裁判所HP)の判示を前提として、札幌市における職員任用時および管理職任用時の国籍要件の存否等、職員任用の実態がどのようになっているのか、ということである。質問の組み立て方を工夫すれば担当部局から回答を得られるであろうか。それとも、「個人情報」を盾に回答を拒否されるであろうか。

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①第2023-57号
 町内会の世帯数に疑念を抱きまちづくりセンター所長に情報開示を求めたが適切な情報開示がなされないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

②第2023-58号
 市が取得しようとしている道路用地の地権者(の一部)を代表して建設局総務部用地取得課と交渉している申立人が、補償額が不十分であることのほか、文書の記載が不十分であるにも関わらず任意売却に応じないと市が一方的に判断したり、地権者が本来不要な手続きを取るよう市から求められたり、任意売却に応じても土地収用手続の対象となることについて説明を受けていなかったとして、用地取得へ向けた市の一連の対応について苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

③第2023-61号
 外国籍の市職員の人数について問い合わせたところ、「個人情報になる」として教えてもらえなかったとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

④第2023-62号
 申立人の子どもが学校でいじめを受けており、その旨を教育委員会に訴えても対応してもらえないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

⑤第2023-64号
 国民健康保険料等を滞納しているとして差押予告書が送付されてきたが、滞納処分が停止されるべき生活状態であるのみならず、生活保護廃止の時点でその後の保険料の取り扱いについて適切な説明を受けていなかったとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:梶井祥子)

⑥第2023-65号
 市電の運転士が用を足すまで車両を離れ何の説明めもなく運行を遅らせたことや、ラッシュ時に運行停止した際の情報提供が不十分だったことについて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑦第2023-66号
 市民活動サポートセンターに入居するNPO法人等の不正行為等について、担当の市民文化局に問い合わせや指摘をしても担当職員が回答や面談に応じないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

⑧第2023-67号
 生活保護受給者が12時30分ころ保護課に電話したところ昼休み中の電話は避けてほしいと言われたとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:梶井祥子)

⑨第2023-69号
 生活保護受給者が不用品を売却して得た収入の取り扱いやインターネットプロバイダに支払う費用について担当ケースワーカーから受けた発言内容等について苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑩第2023-70号
 障がいのある子に支給される紙おむつ代の支給上限額の引き上げ等を求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑪第2024-1号
 昨冬に自宅の生垣が除雪の際に傷つけられたため現場の確認を依頼したが放置され、今冬もまた生垣を傷つけられたことから、生垣の原状回復を求めて苦情が申し立てられたケース。申立ての取り下げにより調査は中止された。(担当オンブズマン:神谷奈保子)
⑫第2024-6号
 子ども家庭福祉係の相談員が話す内容を理解してくれず、必要な情報も提供してくれないとして、その対応について苦情が申し立てられたケース。申立ての取り下げにより調査は中止された。(担当オンブズマン:神谷奈保子)
⑬第2024-7号
 生活保護課の担当者から冷たく事務的に対応されるとして苦情が申し立てられたケース。申立ての取り下げにより調査は中止された。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

2024/06/11

オンブズマン調査の分野別分類(2023年度・全件)

当ブログでは読者の利便性を高めるべく、過去の各年度ごとに調査を終了した案件を大まかな行政分野ごとに分類するエントリーを作成してきた。2023年度も同様に、分野別に分類したエントリーを作成した。ただし、分類は必ずしも厳格なものではなく、あくまで便宜的なものである。

 各案件番号にpdfファイルへのリンクが張り付けてあるので、より詳しい内容が知りたい場合には、ファイルを開いて確認していただきたい。 

なお、オンブズマンの自己の発意による調査が2件あるが、このうち1件は2022年度に調査に着手した案件である。年度をまたいだ2023年度に入ってから調査を終了しているため、このエントリーに掲載したものである。

<苦情分野の一覧>
◎市税に関する苦情
◎国民健康保険・介護保険に関する苦情
 〇国民健康保険関連
 〇介護保険関連
◎社会福祉に関する苦情
 〇高齢者福祉関連
 〇障がい者福祉関連
 〇児童福祉関連
 〇その他の社会福祉に関する苦情
◎生活保護に関する苦情
 〇受給者からの苦情
 〇第三者からの苦情
◎幼稚園・学校教育に関する苦情
◎社会教育施設・イベントに関する苦情
◎体育施設・イベントに関する苦情
◎その他の施設・財産管理に関する苦情
◎保健・衛生に関する苦情
◎消防・救急に関する苦情
◎除雪・道路管理等に関する苦情
◎戸籍・住民票・印鑑登録等に関する苦情
◎都市・環境問題に関する苦情
◎市民生活に関する苦情
 〇住民税非課税世帯への給付金関連
◎まちづくり・市民参加に関する苦情
◎広報・広聴に関する苦情
◎市営住宅に関する苦情
◎経済施策に関する苦情
◎交通事業に関する苦情
◎病院事業に関する苦情
◎その他の苦情
◎オンブズマンの自己の発意による調査

<苦情分野別の案件一覧>
◎市税に関する苦情
第2023-4号
 市税を滞納したことで「差押通知書」の送付を受けた申立人が差押えを待ってほしいと求めたが受け入れられず、説明を求めた職員から十分な説明も受けられなかったとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)
第2023-42号
 滞納している固定資産税を差押予告書記載の指定納付期限までにpaypayで電子納税したにもかかわらず差押調書が送付されてきたとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

◎国民健康保険・介護保険に関する苦情
〇国民健康保険関連
第2022-93号
 勤務先を退職することにともない、国民健康保険に加入した場合の保険料について相談した際に「非自発的失業軽減制度」の説明を受けなかったことから健康保険の任意継続を選択したとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)
第2023-15号
 配偶者と2人で年金収入のみの苦しい生活をしているにもかかわらず、国民健康保険の保険料の減免申請を受け付けてもらえないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智之)
〇介護保険関連
第2023-26号
 デイサービスを体験利用した際の利用報告書に事実に反する記載がなされていたことについて、居宅介護支援事業所、ケアマネージャーおよび区の担当課に苦情を申し立てても対応してもらえなかったことから、保健福祉局介護保険課に調査および指導を求めたものの、介護保険課からも納得のいく明快な説明が受けられなかったとして苦情が申し立てられたケース。事業所と申立人の関係は「市の機関の業務の執行」に該当せず、ケアマネの対応についてはすでに市から事業所に指導がなされているとして「調査することが相当でない特別の事情がある」として、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:原俊彦)
第2023-51号
 要介護認定の申請をしたところ「自立」と認定されたことおよび「自立」と認定されたにも関わらず「介護保険負担割合証」が送られてきたとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

◎社会福祉に関する苦情
〇高齢者福祉関連
第2022-81号
 介護保険施設に勤務する申立人が、勤務先が人員基準を満たしていないとして市が調査及び是正のための権限を行使することを求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)
〇障がい者福祉関連
第2022-84号
 身体障害者手帳を取得した申立人が、医療費助成について当該助成の申請日より遡って疾病の発生日とすることを求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)
第2022-85号
 申請手続きの際に保健福祉課に提出した診断書が医療機関と保健福祉課の間で行方不明になったこと及びその後の対応について苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)
第2023-5号
 申立人が勤務していた福祉サービス事業所で虐待やパワハラを受けたが、北海道社会福祉サービス運営適正化委員会から得た回答によると当該事業所を所轄する市の担当職員が事業所の運営に関与しているとして、苦情が申し立てられたケース。「北海道社会福祉サービス運営適正化委員会」は市の機関ではないためにオンブズマンの調査対象外であるとして、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:原俊彦)
第2023-16号
 申立人が通所していた事業所でいじめを受け体調を崩したこと等について市の担当課に調査・指導等の権限行使を要望した際の職員の対応及びそれ以後に市が何らの対応をしないことについて苦情が申し立てられたケース。担当課職員の対応についてはすでにオンブズマンが調査を実施している(第2022-42号)として、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:神谷奈保子)
第2023-48号
 自立支援医療の受給者が登録薬局を1か所から2か所に増やしてほしいと要望したことを契機とする市職員の一連の対応に対し苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)
〇児童福祉関連
第2023-6号
 児童扶養手当を受給する申立人が実家(二世帯住宅)に転居したところ、事実婚をしたとして「資格喪失届」が送付されてくるとともに、調査が終了するまで手当が支給されないことについて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)
第2023-32号
 札幌市外から札幌市に転入した申立人による市の児童相談所の一連の対応について苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)
第2023-71号
 認可外保育所通園中の第一子について「施設等利用給付認定新2号認定」の認定書類を提出した際、当初、第二子の育児休業中であるため対象外であると誤った説明を受けたとして苦情が申し立てられたケース。区から謝罪と改善策を検討する旨の説明を受けたとして申立てが取り下げられた。(担当オンブズマン:田村智幸)
〇その他の社会福祉に関する苦情
第2023-53号
 保健福祉局の担当職員から誤った情報を提供されたり侮辱する発言をされたとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

◎生活保護に関する苦情
〇受給者からの苦情
第2022-89号
 生活保護を受給する申立人が、ケースワーカーから収入を増やすよう指導を受けたこと等を不服として苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)
第2023-13号
 申立人が生活保護の担当職員から「妄想」という発言を再三にわたりされたことで精神的苦痛を受けたとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)
第2023-19号
 生活保護受給者が親族死亡により未支給の国民年金を受給したことにともなう保護費の取扱い等について苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)
第2023-20号
 生活保護受給者がクーラー設置費用の支給を求めたが、その際の職員の対応がけんもほろろであったとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)
第2023-21号
 生活保護受給者が、これまでケースワーカーの家庭訪問は事前に約束をして行われてきたにもかかわらず、今回事前の約束なしに家庭訪問がなされたことを不服として苦情が申し立てられたケース。
第2023-22号
 生活保護受給者が家賃の更新料の支払いおよび障害者加算を求めた際の職員の対応について苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)
第2023-31号
 生活保護受給者に対する市職員の電話での対応や病状調査票に係る対応等について、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)
第2023-34号
 生活保護受給者がこれまで「稼働収入」として取り扱われていた収入が「臨時収入」とする取扱いに変更されたことにより控除額が減額されたことについて(その結果、支給される保護費の額が減少することになると思われる)苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)
第2023-37号
 生活保護の受給者から通院時のタクシー代支給に関する担当ケースワーカーの対応をはじめとする一連の市職員の対応について苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)
第2023-40号
 生活保護受給者がこれまでとことなりケースワーカーが事前の約束なしに家庭訪問をするようになったとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)
第2023-49号
 生活保護受給者が親族の死亡により遺産を相続したところ遡及して保護費の返還を求められたとして苦情が申し立てられたケース。申し立ての取り下げにより調査は実施されなかった。(担当オンブズマン:原俊彦)
第2023-50号
 生活保護受給者が保護課に非常食の貸与を申し入れた際の職員の対応等について苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)
第2023-54号
 生活保護受給者が自己の居住する住宅は通常の家賃に加えて「事務手数料」がかかるとして転居希望を伝えたことに端を発する担当ケースワーカーの一蓮の対応について苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)
第2023-56号
 生活保護受給者が住宅扶助を月額の定額ではなく暦日数に基づく金額を支給されたとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)
第2023-60号
 生活保護受給者が、引っ越しの要望をしても適切な対応がなされないほか、本人の体調にかかわりなく強引に家庭訪問しようとするとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)
第2023-63号
 生活保護受給者が医療扶助の「治療具材の給付」として眼鏡レンズを交換したものの、眼科医が発行した眼鏡レンズの処方箋に不備があり、そのため実生活に支障が生じているが、担当のケースワーカーにそのことを訴えても適切な対応がなされないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:梶井祥子)
〇第三者からの苦情
第2022-83号
 申立人と関係のある「本人」が生活保護を受給しているところ、申立人が依頼しても「本人」の安否確認をしない等、保護課の対応に問題があるとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)
第2023-17号
 申立人企業が所有する賃貸物件はペット禁止であるにもかかわらず生活保護受給者がペット連れで入居したことについて、保護課が転居費用を保護費として支給することができないと説明することや、ペット禁止の物件であることを認識しながら転居を認めたこと等に納得がいかないとして、市に納得のいく説明を求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)
第2023-47号
 有料老人ホームを運営する法人が市本庁の生活保護担当課から指導を受け無料低額宿泊所を開設したにもかかわらず、保護の実施機関である区の保護課から生活保護受給者の入居を認めないという連絡があったとして苦情が申し立てられたケース。調査開始後に苦情申し立てが取り下げられ調査が中止された。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

◎幼稚園・学校教育に関する苦情
第2022-86号
 就学指定先が変更される前に申立人の関係者が通っていた小学校における「いじめ」に関し、一連の学校の対応について苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)
第2022-92号
 子どもが通う小学校でいじめのようなことがあり、学校及び教育委員会に対応を求めているが十分ではないとして苦情が申し立てられたケース。オンブズマンとの面談の日程が決まらないとして、苦情申し立てが取り下げられた。(担当オンブズマン:田村智幸)
第2023-28号
 申立人の子息が何某かの不始末をしでかしたこと(詳細は不明)にともなう学校の対応について苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)
・第2023-68号
 申立人の(おそらく)子が学校で加害行為を受けたり、不登校になっていることについて市教育委員会が十分な対応をしてくれないとして苦情が申し立てられたケース。苦情の内容(A)は申立ての原因となった事実からすでに1年を経過しており、別の内容(B)は同趣旨の苦情についてすでに調査しない旨の通知ずみであるとして、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:梶井祥子)

◎社会教育施設・イベントに関する苦情
第2023-33号
 市立図書館から予約図書の連絡をハガキで通知された場合における取り置き日数について苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

◎体育施設・イベントに関する苦情
第2023-9号
 市立体育館の正面玄関前の階段に自転車用スロープの設置を要望したところ、当初設置されたスロープが狭く幅を広げる修正が必要となったことや、申立人の問い合わせに対する市の回答が不誠実であるとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

◎その他の施設・財産管理に関する苦情
第2022-88号
 札幌市内に事務所を開設する士業者が、市が所有する建物を利用する顧問先法人の解散に関し市からの問合せに再三にわたり対応を余儀なくされたり、荷物の保管を要求される等、過大な負担を負わされているとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)
第2023-23号
 WEST19の庁舎周辺部の駐輪禁止エリアを明確にすることを求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)
第2023-41号
 タクシー運転手の申立人から公園のトイレが冬季に閉鎖されることについて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)
第2023-52号
 区役所の設備運転保守管理業務を受託する事業者に雇用され業務責任者として就労してきた申立人が市民対応時のトラブルを理由に退職に追い込まれたとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

◎保健・衛生に関する苦情
第2023-8号
 福祉施設の職員が風疹ワクチンの予防接種について医療機関に問い合わせた際の医師の対応に不満を覚え保健所に相談したところ、保健所職員の対応が適切さを欠くものであったとして、保健所職員の対応について苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

◎消防・救急に関する苦情
第2023-29号
 交通事故の現場で受傷者の救護に当たった際、その後到着した救急隊から失礼な発言をされたとして苦情が申し立てられたケース。申立人が苦情申し立てを取り下げたことにより調査は終了している。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

◎除雪・道路管理等に関する苦情
第2023-1号
 地下鉄出入口周辺部にある駐輪場除雪の際の誘導が不適切で負傷したとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)
第2023-3号
 町内会が実施する除雪の騒音及び費用徴収について、苦情が申し立てられたケース。「市の機関の業務の執行」(札幌市オンブズマン条例16条1項)に該当しないとして、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:田村智幸)
第2023-38号
 自宅前の道路が舗装されたことで歩道部分に傾斜がついたことや車両乗り入れ部の平らな縁石の本数が家により違いがあるとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)
第2023-46号
 市道を軽自動車で走行中にタイヤが破損したことに関し市の過失割合に関する説明に納得がいかず市職員の一連の対応にも問題があるとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

◎戸籍・住民票・印鑑登録等に関する苦情
第2023-59号
 証明書発行のため区役所を訪れた際、提示した身分証明書以外の証明書の提示を求められたことから車に運転免許証を取りに行くことにしたところ、対応した職員から再度番号札を取るように言われたことに(※再度順番待ちが必要となるため)納得がいかないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

◎都市・環境問題に関する苦情
第2023-36号
 土砂災害警戒地域に指定された道路ののり面上端にある申立人所有地の管理について札幌市の複数の部署に相談しているが総合的な対応がなされないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

◎市民生活に関する苦情
〇住民税非課税世帯への給付金関連
第2022-94号
 住民税非課税世帯を対象とした特別給付金の申請書類が届かなかったとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)
第2023-18号
 住民税非課税世帯支援給付金の申請手続きについてコールセンターに問い合わせた際、銀行の都合で変更になった銀行名の証明書類を添付するよう説明を受けたことに納得がいかないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)
第2023-24号
 札幌市住民税非課税世帯支援給付金の支給に時間がかかりすぎているとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智之)
第2023-25号
 生活保護受給者がケースワーカーから札幌市住民税非課税世帯支援給付金の支給対象になると思われる旨の説明を受けたにも関わらず、支給対象の「非課税者」ではなく「免税者」であることを理由として支給されなかったとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

◎まちづくり・市民参加に関する苦情
第2023-14号
 市民自治推進課に対する問い合わせの回答に時間を要するとともに、オンブズマンに対し苦情を申し立てると伝えるや否や回答が寄せられたとして、回答に時間を要する対応の改善を求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智之)
第2023-43号
 全世帯数にくらべて町内会に加入する世帯数が少なすぎるのは何らかの不正が行われているからに違いないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

◎広報・広聴に関する苦情
第2023-55号
 建設局総務部用地取得課から理不尽な対応を受けている件で「市長宛のメール」でそのことを訴えたにもかかわらず、市民の声を聞く課は対応を用地取得課に丸投げし改善へ向けた具体的対応をしないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

◎市営住宅に関する苦情
第2023-2号
 入居する市営住宅に空き室が多いのは税金の無駄づかいであり、入居者にとっても班長役が短い周期で回るために負担が大きいとして、苦情が申し立てられたケース。オンブズマンとの面談日の調整が難しいとして、申し立てが取り下げられた。(担当オンブズマン:原俊彦)
第2023-12号
 市営住宅の入居者が他の入居者の問題行動を理由として新たな入居者を入居させない結果空室が増え、既入居者にとっては入居者による役割分担の負担が大きいとして、新たな入居者を入居させることを求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)
第2023-35号
 身体障害のある市営住宅の入居者が駐車場の割り当てに際し障害者への配慮に欠けるとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)
第2023-39号
 市営住宅の入居者がさまざまな嫌がらせを受けているとして苦情が申し立てられたケース。嫌がらせの主体が不明であり、調査対象とすべき機関も特定できないとして、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

◎経済施策に関する苦情
第2023-10号
 札幌市に転入した申立人がUIJターン就職移住支援事業の移住支援金を申請しようとしたが、「予備申請」が必要であることが十分周知されていないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)
第2023-27号
 札幌プレミアム商品券2023の購入手続きについて、発券場所のローソンの数が少なく、発券するための端末操作も煩雑であるとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

◎交通事業に関する苦情
第2022-87号
 ICカードを利用して路面電車と地下鉄を乗り継いだ際、利用者に周知している内容と実態に齟齬があるとして、その是正を求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)
第2023-11号
 不動産を所有する法人である申立人が、地下鉄が駅を発車するタイミングで建物が振動することが判明したとして、振動についての調査もしくは修繕を求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

◎病院事業に関する苦情
第2023-7号
 市立札幌病院に入院した際、病室を出て建物外で電子タバコを吸ったところ強制的に退院させられたことに納得がいかないとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

◎その他の苦情
第2023-30号
 市職員が勤務時間中にイントラメールで私的なやり取りをしたり、勤務時間中に調査施設を私的に利用しているとして苦情が申し立てられたケース。本件申立てに係る市の職員同士間の不適切な行為については、市の業務執行に該当するものではないとして、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:神谷奈保子)
第2023-44号
 職員が申立人の就職活動を記録する日付印の日付をボールペンで修正したことについて問い合わせた際の対応が不適切であるとして苦情が申し立てられたケース。当該対応がなされたのは札幌市ではなく、北海道労働局の施設であったとして申し立てが取り下げられた。(担当オンブズマン:神谷奈保子)
第2023-45号
 市職員が配偶者の収入が増えたことで共済組合から被扶養者として取り扱われなくなったことについて苦情が申し立てられたケース。共済組合の行う決定や処分は「市の機関の業務の執行」に該当しないとして調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

◎オンブズマンの自己の発意による調査
第2022-発2号
 札幌市における児童手当の支給状況と認定請求手続きについて、オンブズマンが自己の発意により調査を実施したケース。(担当オンブズマン:原俊彦)
第2023-発1号
 札幌市において実施されているものづくり産業における担い手確保や人材育成等の企業支援について、オンブズマンが自己の発意により調査を実施したケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

2024/06/02

「調査しない旨」を通知した案件で「調査した」とはこれ如何に

前回のエントリーでは、2024年3月に調査を終了した案件の調査結果等について紹介した。そこでは、当ブログ開設者が考える札幌市オンブズマン制度の存在意義についての見解を示したが、そのことに文字数を要した結果、各案件の具体的検討を行わなかった。そこでこのエントリーでは、改めて個別の案件のうち、苦情について調査しない旨が通知された①第2023-68号について検討を行うことにした。

この案件は、おそらく申立人の子が通う学校で加害行為を受けたり、不登校になっていることについて市教育委員会が十分な対応をしてくれないとして、苦情が申し立てられたケースである。調査担当のオンブズマンは、本件苦情の申立て内容「1」について、苦情申立てにかかる事実から1年を経過していること、また、申立て内容「2」について、すでに調査を実施した事項であることを理由として、「調査しない旨」を通知した。

こうしたオンブズマンの見解のうち、以下で論ずるのは申立て内容「2」に関する箇所である。まずは通知書の「苦情について調査しない理由」の記載を引用しておこう。

「当該内容は、申立人が令和4年8月29日付けでオンブズマンに対し申し立てられた内容と同旨と思われます。これについては、同年9月2日付け「苦情について調査しない旨の通知書❶-1.第2022-40号」において、すでに調査をしない旨を通知したとおりであり、オンブズマンがすでに調査を実施した事項については再度調査をすることができません。」(引用中の❶-1.は当ブログ開設者が付記)。

おわかり頂けたであろうか。この苦情(①第2023-68号)では、過去に申し立てられた苦情(❶-1.第2022-40号)に対し、「調査を実施しない旨」が通知されていると述べる一方で、当該苦情については「オンブズマンがすでに調査を実施した事項」であるとして、再度調査をすることができないという結論が導かれている。だとすると、オンブズマンが調査を実施しない旨を通知した当初の案件❶-1.において、オンブズマンはいかなる調査を実施したのであろうか。

また、過去に当ブログ開設者が申し立てた苦情(②第2022-58号)においても、「本件苦情申立ての原因となった事実は、❷第2022-54号において申し立てられた内容と同一であり、既に調査を行わない旨を通知しており」、「オンブズマンが既に調査を実施した苦情については、オンブズマンは調査を行うことができません。オンブズマンが調査を行わないと判断した苦情についても同様」という判断が示されている(引用中の❷は当ブログ開設者が付記)。

この案件においても同様に、「調査を行わない旨を通知」した当初の案件❷において、オンブズマンはいかなる「調査を実施した」のであろうか(なお、当ブログ開説者はこのエントリーにおいて、「苦情の実体的な中身(については調査を実施していない)と、調査しないというオンブズマン判断とを混同している」旨を指摘した)。

なお、冒頭に紹介した案件と同時期(2024年3月)に調査を終了した ア.第2023-59号や イ.第2023-63号においては、「市民の苦情に対し市が見解を示すこと」がオンブズマン制度の意義である、という見解が示されている。オンブズマンが調査を実施しない場合には、申立人に対し「市が見解を示す」というオンブズマン制度の意義は充足されないことになる。したがって、調査を実施しない場合には明確な根拠が示される必要があると思われる。

ところで、「オンブズマンが既に調査を実施した苦情」(ここでいう「調査を実施」とは、「苦情等調査結果通知書」により調査結果が通知された苦情という趣旨である)については、再度、同趣旨の苦情が申し立てられた場合において、当該苦情はオンブズマンの所轄外の事項である「オンブズマンの行為に関する事項」(札幌市オンブズマン条例16条1項)に該当するとして、調査を実施しないという運用がなされている。

このような運用状況を前提にするならば、過去に「調査しない旨」が通知された苦情と同趣旨の苦情については、「既に調査を実施した」ことを理由とするのではなく、「調査しない旨」を通知したオンブズマンの判断に対する苦情である、として処理することが考えられる。こうした対応をすることで、過去に「調査しない旨」が通知された苦情について再度苦情申立てがなされた場合において、「オンブズマンが調査を実施した」という論理的整合性を欠く説明を避けることができるわけである。

ただし、冒頭で紹介した①第2023-68号については、さらに確認しておくべき事情がある。すなわち、同案件が「既に調査をしない旨」を通知したとする❶-1.第2022-40号は、苦情申立ての内容が調査結果を通知された❶-2.第2022-11号と同旨であるとして、苦情について調査しない旨が通知されている。したがって、①第2023-68号は、すでに調査を実施した❶-2.第2022-11号の苦情と同旨であること、あるいは、調査しない旨を通知したオンブズマンの判断(❶-2.第2022-40号)に対する苦情であること、いずれの理由によっても「調査しない旨」の結論を導くことができるわけである。

それでは、このように複数回にわたり同旨の苦情を申し立てられた場合、どのように案件を取り扱うのが適切であろうか。この点、当ブログ開設者は、調査担当のオンブズマンはこれまでのオンブズマンの対応の経緯を概観したうえで、新たに申し立てられた苦情を調査しない理由を示すのが適切であると考えている。

そのほか、①第2023-68号に関しては、札幌市オンブズマンの制度枠内での対応のほか、他の諸制度との連携についても考えておく必要があると思われる。札幌市オンブズマン条例も、「市民の権利利益を擁護し、並びに市政を監視し、及び市政の改善を図る」ために「他の諸制度と有機的な連携を図ること」(同条例5条2項)を規定している。苦情の内容によっては、他の適切な機関を紹介することなどもオンブズマンに期待されるであろう。

この点、札幌市では、子どもの権利救済機関として子どもアシストセンターを開設している。同センターでは、「子どもにかかわることであれば、子どもに限らず保護者をはじめ、どなたでも相談でき(る)」とされている。申立人にとっても、オンブズマンから調査しない旨の通知という「門前払い」を食らうよりも、「相談」名目で話を聞いて機関のほうが適切な対応が期待できると思われる。

もちろん、オンブズマンが申立人と面談する際、その旨の説明を口頭で行っている可能性はある。また、申立人もすでにアシストセンターに相談している可能性もある。しかし、複数回にわたり苦情を申し立てる今回の申立人のような人物に対しては、オンブズマンの調査結果よりも、適切な機関によるサポートが必要なのではないかと当ブログ開設者は考える。

2024/05/28

2024年3月に調査を終了したケース

2024年4月1日、同年3月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、決定期間延長のうえ、同年5月15日付で一部公開決定がなされた。

上記の期間(2024年3月)に調査を終了したのは8件で、このうち6件で調査結果が通知された。また、残る2件中1件では調査しない旨が通知され、1件では苦情申立てが取り下げられた。

さて、今回公開された調査結果通知書のうち2件のオンブズマン判断で、興味深い見解が提示されている。すなわち、第一の案件である第2023-59号のオンブズマン判断では、「本件苦情申立てによって、市民の苦情に対し市がその考え方を示すことができたことは、オンブズマン制度の意義である「オンブズマンによる調査を通じてお互いの考え方などを知り、当事者間の理解が深まること」に繋がったといえるのではないでしょうか」という言及がある(苦情等調査結果通知書5頁、調査担当オンブズマンは神谷奈保子)。

また、第二の案件である第2023-63号のオンブズマン判断では、「本件苦情申立てによって、市がその考え方を示すことができたことはオンブズマン制度の意義でもあります。申立人におかれましては、オンブズマンによる調査を通じてお互いの考え方を知り、当事者間の理解をさらに深めて頂ければ」という言及がある(苦情等調査結果通知書12頁、調査担当オンブズマンは梶井祥子)。

いずれの事案でも、調査担当のオンブズマンは、苦情に対し市が見解を示すことや、当事者間の理解が深まることが札幌市オンブズマン制度の意義である、と考えているようである。当ブログ開設者は、札幌市オンブズマンが調査の「オンブズマン判断」において制度の意義について言及した例を寡聞にして知らないが、オンブズマン自らがこうした見解を積極的に披歴したことは評価に値すると考えている。

もっとも、このような見解が札幌市オンブズマン制度の理解として適切であるかについては、なお議論の余地があると思われる。そこでここでは、札幌市オンブズマン条例が規定する「目的」について確認しておきたい。

この点、札幌市オンブズマン条例1条は、①市民の権利利益の擁護、②市政の監視及び③市政の改善を図るという直接的な目的と、それらを通じて、❶開かれた市政の推進、❷市民の市政に対する理解と信頼の確保及び❸市民の意向が的確に反映された市政運営に資する、という究極的な目的を規定する。

このうち、前段の直接的な目的として①市民の権利利益の擁護と規定することの意義は、同条例が(苦情の申立人が)「申立ての原因となった事実についての利害を有しないとき」(札幌市オンブズマン条例16条1項1号)を調査の対象外と規定しているように、苦情申立てに基づくオンブズマン調査の対象事項を画定する機能があると考えている(なお、当ブログ開設者は、実体的な取り扱いとは別に、「適切な説明を受けること」自体にも独自の「市民の権利利益」があると考えている)。

次に、オンブズマンが調査を実施することが②市政の監視であり、オンブズマンが必要に応じて市に何らかの対応を要請することで、③市政の改善が図られることになる。つまり、札幌市オンブズマンの制度は、苦情の申立て→オンブズマン調査→市政の改善、というサイクルを想定しているわけである(なお、札幌市オンブズマンは苦情申立てによらずに、「自己の発意」に基づいて調査を実施する権限も認められている。札幌市オンブズマン条例4条2号)。

また、こうしたサイクルを前提とするならば、市民が苦情を申し立てるチャンネルとしてのオンブズマン制度は、❶市民に開かれた市政を実現するためのルートの一つであることを意味している。そして、オンブズマンによる調査結果が申立人に示されるとともに、苦情申立てを契機としてオンブズマンからの要請に市が適切に対応するならば、❷市民の市政に対する理解と信頼の確保につながることも期待できる(かもしれない)。

このように、苦情申立て→オンブズマン調査→市政の改善というサイクルは、❸市民の意向が的確に反映された市政の実現という、住民自治の実質化を図ることを意味している。当ブログ開設者は、この住民自治の実質化こそが札幌市オンブズマン制度の究極的な目的であると考えている。

この点、札幌市自治基本条例20条2項は「オンブズマンの設置」を規定する。同条例は「市民自治によるまちづくりを実現すること」をその目的として規定している(同条例1条)ことからすると、札幌市オンブズマンが住民自治の実質化を図るための制度の一つであることを裏付けていると思われる。

以上のような制度理解を前提とすると、札幌市オンブズマン制度の意義は「苦情に対し市が見解を示すこと」や、「当事者間の理解が深まること」にとどまらないであろう。調査のプロセスで市が見解を示すだけでなく、その適否について判断することがオンブズマン調査には期待されている。

したがって、調査を担当するオンブズマンは、「市民の意向が的確に反映された市政の実現」に資するべく、申立人の苦情や前提となる制度を的確に理解したうえで、市に対し適切な要請・要望を行うことが求められるのである(*)。

(*)行政作用には、法律(条例)に基づく行政の原理や、法の下の平等といった原理原則が適用になる。個別事案の処理においても、こうした原理原則を考慮する必要がある。調査を担当するオンブズマンは、「その取扱いはどのような根拠に基づくか」ということや、「その取扱いは他の事案と比較して適切といえるか」、といった点についても、常に問題意識を持つ必要がある。

(追記︰苦情について調査しない旨が通知された第2023-85号について、その理由の適否をこのエントリーで検討した。)

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①第2023-54号
 生活保護受給者が自己の居住する住宅は通常の家賃に加えて「事務手数料」がかかるとして転居希望を伝えたことに端を発する担当ケースワーカーの一蓮の対応について苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

②第2023-55号
 建設局総務部用地取得課から理不尽な対応を受けている件で「市長宛のメール」でそのことを訴えたにもかかわらず、市民の声を聞く課は対応を用地取得課に丸投げし改善へ向けた具体的対応をしないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

③第2023-56号
 生活保護受給者が住宅扶助を月額の定額ではなく暦日数に基づく金額を支給されたとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

④第2023-59号
 証明書発行のため区役所を訪れた際、提示した身分証明書以外の証明書の提示を求められたことから車に運転免許証を取りに行くことにしたところ、対応した職員から再度番号札を取るように言われたことに(※再度順番待ちが必要となるため)納得がいかないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

⑤第2023-60号
 生活保護受給者が、引っ越しの要望をしても適切な対応がなされないほか、本人の体調にかかわりなく強引に家庭訪問しようとするとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑥第2023-63号
 生活保護受給者が医療扶助の「治療具材の給付」として眼鏡レンズを交換したものの、眼科医が発行した眼鏡レンズの処方箋に不備があり、そのため実生活に支障が生じているが、担当のケースワーカーにそのことを訴えても適切な対応がなされないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:梶井祥子)
⑦第2023-68号
 申立人の(おそらく)子が学校で加害行為を受けたり、不登校になっていることについて市教育委員会が十分な対応をしてくれないとして苦情が申し立てられたケース。苦情の内容(A)は申立ての原因となった事実からすでに1年を経過しており、別の内容(B)は同趣旨の苦情についてすでに調査しない旨の通知ずみであるとして、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:梶井祥子)
⑧第2023-71号
 認可外保育所通園中の第一子について「施設等利用給付認定新2号認定」の認定書類を提出した際、当初、第二子の育児休業中であるため対象外であると誤った説明を受けたとして苦情が申し立てられたケース。区から謝罪と改善策を検討する旨の説明を受けたとして申立てが取り下げられた。(担当オンブズマン:田村智幸)

2024/04/01

札幌市経済観光局産業振興部経済企画課から回答あり

前回のエントリーに記したとおり、田村智幸オンブズマンが担当した「発意調査」を契機として、市の担当部局に問い合わせをした。問い合わせのきっかけとなったのが、当該発意調査に登場する二つの用語、「第2次札幌市まちづくり戦略ビジョン」および「ものづくり基盤技術振興基本法」である。

これらの用語に関連し、当ブログ開設者は、2024年3月14日に「第2次札幌市産業振興ビジョン」が公表されたこと、札幌市では「札幌市中小企業振興条例」において中小企業振興の基本理念等が規定されていること、さらに、産業振興部各課の所管事務について把握した。

以上の当ブログ開設者が把握した内容や上記・発意調査の結果によると、札幌市では、ものづくり産業における担い手確保や人材育成のために実施される諸施策は、「ものづくり産業」を対象とする施施策と、「中小企業」を対象とする諸施策が重畳的に実施されているようであった。

しかしながら、上記・発意調査では、こうした施策の構造が必ずしも明確ではないように感じられた。そこで、調査の意義をより明確にすべく、担当部局に問い合わせた次第である。以下、照会内容と回答内容を嚙み合わせる形で紹介する。

まず、照会するに至った経緯について、以下の説明をした。

 わたくし、札幌市オンブズマンの活動に興味があり、定期的にオンブズマンが実施した調査に関する文書の公文書公開請求を実施しています。今般、経済観光局長あての苦情等調査結果通知書(2024年2月22日付・第2023-発1号)の写しの交付を受けたのですが(担当オンブズマンン・田村智幸)、市が2023年度に実施した「ものづくり産業における担い手確保等に資する施策」の内容は、大変、興味深い内容でした。
 しかしながら、同調査は、「ものづくり産業」に限定されない、中小企業振興施策の一環としての(ものづくり産業をも含む)「担い手確保」という視点が欠けているように感じられました。
 そこで、たいへん恐縮ですが、以下の点について、ご教示をお願いする次第です。なお、以下の(5)(6)がもっとも関心がある点ですが、より理解が深まると考え(1)~(4)についてもあわせてお尋ねいたします。
 なお、問い合わせの内容が「ものづくり産業の振興」と「中小企業支援」の双方に関わることから、まずは経済企画課あてにメッセージを送るのが適切と考えました。

照会事項(1) 札幌市の産業振興施策の大まかな枠組みについて
 札幌市の産業振興施策は、中小企業を対象としており、その際、中小企業の業種(産業)に対応した個別の施策を講じるのが基本的な構造である、という理解でよいでしょうか。

回答(1) 担当:経済企画課
 本市においては、中小企業が9割以上を占めていることから、中小企業を中心とした施策が多くなっておりますが、大企業を対象とした施策も展開しております。
 なお、特に札幌市が強みを持つ産業への重点的な支援に加え、全産業を高度化させるための業種横断的な支援を両輪で実施しているところです。

照会事項(2) 産業振興課の業務内容について
 Webサイト(https://www.city.sapporo.jp/org/address/keizai_kanko.html)には産業振興課の「主な業務内容」として「ものづくり産業の振興に関すること」とあるところ、ここにいう「ものづくり産業」は具体的にどのような産業を指すのか、ということがお尋ねしたい点です。
 この点、上記調査の市の回答には、「ものづくり産業(製造業・建設業)」という記述がある一方で、ものづくり基盤技術振興基本法2条2項(および同法施行令2条)が規定する「ものづくり基盤産業」には建設業が含まれていないようです。そこで、産業振興課が想定している「ものづくり産業」の具体的内容についてのご教示をお願いする次第です。

回答(2) 担当:産業振興課
 産業振興課においては、ものづくり基盤技術振興基本法に定義されている製造業のほか、建設業法に定義されている建設業も含めた「ものづくり産業」への支援を実施しています。

照会事項(3) ものづくり基盤技術振興法5条が規定する「国の施策に準じた施策」について
 ものづくり基盤技術振興法5条は、「地方公共団体は、ものづくり基盤技術の振興に関し、国の施策に準じた施策及びその地方公共団体の区域の特性を生かした自主的な施策を策定し、及びこれを実施する責務を有する」旨規定しています。
 今般の調査における「市の回答」で紹介されている諸施策は、上記・ものづくり基盤技術振興法5条が規定する「国の施策に準じた施策」及び「地方公共団体の特性を生かした自主的な施策」に位置づけられると理解してよろしいでしょうか。

回答(3) 担当:産業振興課
 お見込みのとおりです。

照会事項(4) ものづくり基盤技術振興法9条が規定する「ものづくり基盤技術基本計画」に準じた計画について
 ものづくり基盤技術振興法9条1項は、政府に「ものづくり技術基盤基本計画」の策定を義務づけており、この計画には「ものづくり労働者の確保等に関する事項」(同条2項3号)や「ものづくり基盤技術に係る学習の振興に関する事項」(同条2項5号)等、ものづくり産業の担い手確保や人材育成に関連する事項が含まれています。
 ところで、「札幌市産業振興ビジョン」(第1次、改訂版及び第2次)という行政計画がありますが、この「札幌市産業振興ビジョン」は、市における「ものづくり産業の担い手確保や人材育成等の企業支援」をその趣旨として含んでいる、という理解でよろしいでしょうか(ただし、「ものづくり産業」それ自体が「重点」とはされていないようですが)。
 また、「札幌市産業振興ビジョン」とは別に、札幌市が「ものづくり産業」における担い手確保や人材育成に関する計画を策定しているならば、当該計画についてご教示をお願いします。

回答(4) 担当:経済企画課、産業振興課
 令和6年3月に策定した第2次札幌市産業振興ビジョンにおいては、横断的戦略の一つとして「札幌経済を担う人材への支援」を設定し、その中で「中小・小規模企業の採用力強化と担い手の確保・育成」を基本施策の一つに掲げ、製造業や建設業といった特に人手不足が深刻な業界における人材の確保・育成を支援することとしております。

照会事項(5) 札幌市産業振興ビジョン(第1次、改訂版及び第2次)の位置づけについて
 札幌市産業振興ビジョン」(第1次、改訂版及び第2次)は、札幌市中小企業振興条例4条1項が規定する「中小企業振興施策を総合的に策定」したものという理解でよろしいでしょうか。

回答(5) 担当:経済企画課
 お見込みのとおりです。

照会事項(6) 中小企業振興施策の一環としての「担い手確保」に関する札幌市の施策について
 中小企業は一般に労働力不足という課題を抱えているようです。そこで、札幌市において、(ものづくり産業に限定されない)中小企業における担い手確保や人材育成に関する施策が行われているならば、その概要についてご教示をお願いいたします。
 また、そのような施策が行われている場合、当該施策は札幌市中小企業振興条例8条2号が定める「中小企業者等の事業活動に必要な人材の育成及び確保」に位置づけられるという理解でよいかについても、あわせてご教示をお願いします(同号が規定する「人材」とは「起業家や経営者」を想定しており、「労働者」は想定されていないという印象もあるためです)。

回答(6) 担当:経済企画課
 上述のとおり、第2次札幌市産業振興ビジョンにおいては、横断的戦略の一つとして「札幌経済を担う人材への支援」を設定し、業種横断的に人材への支援を行うこととしております。本項目では、「企業活動の源となる人材の確保と育成」「多様な人材の活躍促進」「道外・海外からの人材の呼び込み」の3つの柱を掲げ、企業への支援、就労者等への支援、道外・海外からの呼び込みの観点から、人材への支援を行っております。
 また、ご質問の2点目についてはお見込みのとおりであり、企業が経済活動を行う上で人材は重要な経営資源であると認識しており、上述のとおり、就労者等も対象とした施策を展開しております。

・・・以上の次第であるが、まず、年度末の忙しい時期であろうに迅速に回答を頂戴したことに驚いた。担当された市職員の方に、記して感謝したい。この回答により、札幌市における「ものづくり産業の担い手確保や人材育成等のために実施される諸施策」は、「ものづくり産業」を対象とする諸施策と「中小企業」を対象とする諸施策が重畳的に実施されていると理解して差し支えないことが確認できたと考えている(なお、ものづくり産業の他にも特定の産業の振興施策を規定する法令が存在する可能性もあるが、この点は未確認)。

ところで、前回のエントリーでは、ものづくり技術基盤振興法が国の責務等について規定していることを紹介したが、このエントリーの締めくくりとして、中小企業基本法も「基本計画」の策定を除き、同様の規定を有していることを指摘しておきたい。

すなわち、中小企業基本法は、同法が定める基本理念にのっとり、国が中小企業に関する施策を総合的に策定し及び実施する責務について規定する(同法4条)。

その上で、政府は同法5条が規定する「基本方針」に基づき中小企業に関する施策を講ずること、中小企業に関する施策を実施するため必要な法制上、財政上及び金融上の措置を講じなければならないこと(同法9条)、定期的に中小企業の実態を明らかにするため必要な調査を行い、その結果を公表しなければならないこと(同法10条)、毎年、国会に、中小企業の動向及び政府が中小企業に関して講じた施策に関する報告を提出しなければならないことが規定されている(同条11条1項。同条2項も参照。なお、同条が規定する報告が「中小企業白書」である。)。

また、国が講ずる基本的施策については、同法第二章が詳細な規定を置いている(第1節から第4節の4節構成で12条から26条)。

さらに、地方公共団については、基本理念にのっとり、中小企業に関し、国との適切な役割分担を踏まえて、その地方公共団体の区域の自然的経済的社会的諸条件に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有することが規定されている(同法6条。このほか、国と地方公共団体の関係については同法27条も参照されたい)。

そして、札幌市においては、上述の札幌市中小企業振興条例に基づき諸施策が実施されている。これに対し、「ものづくり産業」を対象とする市条例は制定されていない模様である。

なお、第2次札幌市産業振興ビジョンには、札幌市中小企業振興条例が「市は条例で定める基本理念にのっとり、中小企業振興施策を総合的に策定し、及び実施しなければならない。この場合において、中小企業者等の実態を的確に把握するとともに、中小企業者等の意見を適切に反映するよう努めなければならない」と明記されていることが、同ビジョンが策定された事情の一つとして挙げられている(同条例4条1項)