2024/06/02

「調査しない旨」を通知した案件で「調査した」とはこれ如何に

前回のエントリーでは、2024年3月に調査を終了した案件の調査結果等について紹介した。そこでは、当ブログ開設者が考える札幌市オンブズマン制度の存在意義についての見解を示したが、そのことに文字数を要した結果、各案件の具体的検討を行わなかった。そこでこのエントリーでは、改めて個別の案件のうち、苦情について調査しない旨が通知された①第2023-68号について検討を行うことにした。

この案件は、おそらく申立人の子が通う学校で加害行為を受けたり、不登校になっていることについて市教育委員会が十分な対応をしてくれないとして、苦情が申し立てられたケースである。調査担当のオンブズマンは、本件苦情の申立て内容「1」について、苦情申立てにかかる事実から1年を経過していること、また、申立て内容「2」について、すでに調査を実施した事項であることを理由として、「調査しない旨」を通知した。

こうしたオンブズマンの見解のうち、以下で論ずるのは申立て内容「2」に関する箇所である。まずは通知書の「苦情について調査しない理由」の記載を引用しておこう。

「当該内容は、申立人が令和4年8月29日付けでオンブズマンに対し申し立てられた内容と同旨と思われます。これについては、同年9月2日付け「苦情について調査しない旨の通知書❶-1.第2022-40号」において、すでに調査をしない旨を通知したとおりであり、オンブズマンがすでに調査を実施した事項については再度調査をすることができません。」(引用中の❶-1.は当ブログ開設者が付記)。

おわかり頂けたであろうか。この苦情(①第2023-68号)では、過去に申し立てられた苦情(❶-1.第2022-40号)に対し、「調査を実施しない旨」が通知されていると述べる一方で、当該苦情については「オンブズマンがすでに調査を実施した事項」であるとして、再度調査をすることができないという結論が導かれている。だとすると、オンブズマンが調査を実施しない旨を通知した当初の案件❶-1.において、オンブズマンはいかなる調査を実施したのであろうか。

また、過去に当ブログ開設者が申し立てた苦情(②第2022-58号)においても、「本件苦情申立ての原因となった事実は、❷第2022-54号において申し立てられた内容と同一であり、既に調査を行わない旨を通知しており」、「オンブズマンが既に調査を実施した苦情については、オンブズマンは調査を行うことができません。オンブズマンが調査を行わないと判断した苦情についても同様」という判断が示されている(引用中の❷は当ブログ開設者が付記)。

この案件においても同様に、「調査を行わない旨を通知」した当初の案件❷において、オンブズマンはいかなる「調査を実施した」のであろうか(なお、当ブログ開説者はこのエントリーにおいて、「苦情の実体的な中身(については調査を実施していない)と、調査しないというオンブズマン判断とを混同している」旨を指摘した)。

なお、冒頭に紹介した案件と同時期(2024年3月)に調査を終了した ア.第2023-59号や イ.第2023-63号においては、「市民の苦情に対し市が見解を示すこと」がオンブズマン制度の意義である、という見解が示されている。オンブズマンが調査を実施しない場合には、申立人に対し「市が見解を示す」というオンブズマン制度の意義は充足されないことになる。したがって、調査を実施しない場合には明確な根拠が示される必要があると思われる。

ところで、「オンブズマンが既に調査を実施した苦情」(ここでいう「調査を実施」とは、「苦情等調査結果通知書」により調査結果が通知された苦情という趣旨である)については、再度、同趣旨の苦情が申し立てられた場合において、当該苦情はオンブズマンの所轄外の事項である「オンブズマンの行為に関する事項」(札幌市オンブズマン条例16条1項)に該当するとして、調査を実施しないという運用がなされている。

このような運用状況を前提にするならば、過去に「調査しない旨」が通知された苦情と同趣旨の苦情については、「既に調査を実施した」ことを理由とするのではなく、「調査しない旨」を通知したオンブズマンの判断に対する苦情である、として処理することが考えられる。こうした対応をすることで、過去に「調査しない旨」が通知された苦情について再度苦情申立てがなされた場合において、「オンブズマンが調査を実施した」という論理的整合性を欠く説明を避けることができるわけである。

ただし、冒頭で紹介した①第2023-68号については、さらに確認しておくべき事情がある。すなわち、同案件が「既に調査をしない旨」を通知したとする❶-1.第2022-40号は、苦情申立ての内容が調査結果を通知された❶-2.第2022-11号と同旨であるとして、苦情について調査しない旨が通知されている。したがって、①第2023-68号は、すでに調査を実施した❶-2.第2022-11号の苦情と同旨であること、あるいは、調査しない旨を通知したオンブズマンの判断(❶-2.第2022-40号)に対する苦情であること、いずれの理由によっても「調査しない旨」の結論を導くことができるわけである。

それでは、このように複数回にわたり同旨の苦情を申し立てられた場合、どのように案件を取り扱うのが適切であろうか。この点、当ブログ開設者は、調査担当のオンブズマンはこれまでのオンブズマンの対応の経緯を概観したうえで、新たに申し立てられた苦情を調査しない理由を示すのが適切であると考えている。

そのほか、①第2023-68号に関しては、札幌市オンブズマンの制度枠内での対応のほか、他の諸制度との連携についても考えておく必要があると思われる。札幌市オンブズマン条例も、「市民の権利利益を擁護し、並びに市政を監視し、及び市政の改善を図る」ために「他の諸制度と有機的な連携を図ること」(同条例5条2項)を規定している。苦情の内容によっては、他の適切な機関を紹介することなどもオンブズマンに期待されるであろう。

この点、札幌市では、子どもの権利救済機関として子どもアシストセンターを開設している。同センターでは、「子どもにかかわることであれば、子どもに限らず保護者をはじめ、どなたでも相談でき(る)」とされている。申立人にとっても、オンブズマンから調査しない旨の通知という「門前払い」を食らうよりも、「相談」名目で話を聞いて機関のほうが適切な対応が期待できると思われる。

もちろん、オンブズマンが申立人と面談する際、その旨の説明を口頭で行っている可能性はある。また、申立人もすでにアシストセンターに相談している可能性もある。しかし、複数回にわたり苦情を申し立てる今回の申立人のような人物に対しては、オンブズマンの調査結果よりも、適切な機関によるサポートが必要なのではないかと当ブログ開設者は考える。

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