2024/05/28

2024年3月に調査を終了したケース

2024年4月1日、同年3月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、決定期間延長のうえ、同年5月15日付で一部公開決定がなされた。

上記の期間(2024年3月)に調査を終了したのは8件で、このうち6件で調査結果が通知された。また、残る2件中1件では調査しない旨が通知され、1件では苦情申立てが取り下げられた。

さて、今回公開された調査結果通知書のうち2件のオンブズマン判断で、興味深い見解が提示されている。すなわち、第一の案件である第2023-59号のオンブズマン判断では、「本件苦情申立てによって、市民の苦情に対し市がその考え方を示すことができたことは、オンブズマン制度の意義である「オンブズマンによる調査を通じてお互いの考え方などを知り、当事者間の理解が深まること」に繋がったといえるのではないでしょうか」という言及がある(苦情等調査結果通知書5頁、調査担当オンブズマンは神谷奈保子)。

また、第二の案件である第2023-63号のオンブズマン判断では、「本件苦情申立てによって、市がその考え方を示すことができたことはオンブズマン制度の意義でもあります。申立人におかれましては、オンブズマンによる調査を通じてお互いの考え方を知り、当事者間の理解をさらに深めて頂ければ」という言及がある(苦情等調査結果通知書12頁、調査担当オンブズマンは梶井祥子)。

いずれの事案でも、調査担当のオンブズマンは、苦情に対し市が見解を示すことや、当事者間の理解が深まることが札幌市オンブズマン制度の意義である、と考えているようである。当ブログ開設者は、札幌市オンブズマンが調査の「オンブズマン判断」において制度の意義について言及した例を寡聞にして知らないが、オンブズマン自らがこうした見解を積極的に披歴したことは評価に値すると考えている。

もっとも、このような見解が札幌市オンブズマン制度の理解として適切であるかについては、なお議論の余地があると思われる。そこでここでは、札幌市オンブズマン条例が規定する「目的」について確認しておきたい。

この点、札幌市オンブズマン条例1条は、①市民の権利利益の擁護、②市政の監視及び③市政の改善を図るという直接的な目的と、それらを通じて、❶開かれた市政の推進、❷市民の市政に対する理解と信頼の確保及び❸市民の意向が的確に反映された市政運営に資する、という究極的な目的を規定する。

このうち、前段の直接的な目的として①市民の権利利益の擁護と規定することの意義は、同条例が(苦情の申立人が)「申立ての原因となった事実についての利害を有しないとき」(札幌市オンブズマン条例16条1項1号)を調査の対象外と規定しているように、苦情申立てに基づくオンブズマン調査の対象事項を画定する機能があると考えている(なお、当ブログ開設者は、実体的な取り扱いとは別に、「適切な説明を受けること」自体にも独自の「市民の権利利益」があると考えている)。

次に、オンブズマンが調査を実施することが②市政の監視であり、オンブズマンが必要に応じて市に何らかの対応を要請することで、③市政の改善が図られることになる。つまり、札幌市オンブズマンの制度は、苦情の申立て→オンブズマン調査→市政の改善、というサイクルを想定しているわけである(なお、札幌市オンブズマンは苦情申立てによらずに、「自己の発意」に基づいて調査を実施する権限も認められている。札幌市オンブズマン条例4条2号)。

また、こうしたサイクルを前提とするならば、市民が苦情を申し立てるチャンネルとしてのオンブズマン制度は、❶市民に開かれた市政を実現するためのルートの一つであることを意味している。そして、オンブズマンによる調査結果が申立人に示されるとともに、苦情申立てを契機としてオンブズマンからの要請に市が適切に対応するならば、❷市民の市政に対する理解と信頼の確保につながることも期待できる(かもしれない)。

このように、苦情申立て→オンブズマン調査→市政の改善というサイクルは、❸市民の意向が的確に反映された市政の実現という、住民自治の実質化を図ることを意味している。当ブログ開設者は、この住民自治の実質化こそが札幌市オンブズマン制度の究極的な目的であると考えている。

この点、札幌市自治基本条例20条2項は「オンブズマンの設置」を規定する。同条例は「市民自治によるまちづくりを実現すること」をその目的として規定している(同条例1条)ことからすると、札幌市オンブズマンが住民自治の実質化を図るための制度の一つであることを裏付けていると思われる。

以上のような制度理解を前提とすると、札幌市オンブズマン制度の意義は「苦情に対し市が見解を示すこと」や、「当事者間の理解が深まること」にとどまらないであろう。調査のプロセスで市が見解を示すだけでなく、その適否について判断することがオンブズマン調査には期待されている。

したがって、調査を担当するオンブズマンは、「市民の意向が的確に反映された市政の実現」に資するべく、申立人の苦情や前提となる制度を的確に理解したうえで、市に対し適切な要請・要望を行うことが求められるのである(*)。

(*)行政作用には、法律(条例)に基づく行政の原理や、法の下の平等といった原理原則が適用になる。個別事案の処理においても、こうした原理原則を考慮する必要がある。調査を担当するオンブズマンは、「その取扱いはどのような根拠に基づくか」ということや、「その取扱いは他の事案と比較して適切といえるか」、といった点についても、常に問題意識を持つ必要がある。

(追記︰苦情について調査しない旨が通知された第2023-85号について、その理由の適否をこのエントリーで検討した。)

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①第2023-54号
 生活保護受給者が自己の居住する住宅は通常の家賃に加えて「事務手数料」がかかるとして転居希望を伝えたことに端を発する担当ケースワーカーの一蓮の対応について苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

②第2023-55号
 建設局総務部用地取得課から理不尽な対応を受けている件で「市長宛のメール」でそのことを訴えたにもかかわらず、市民の声を聞く課は対応を用地取得課に丸投げし改善へ向けた具体的対応をしないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

③第2023-56号
 生活保護受給者が住宅扶助を月額の定額ではなく暦日数に基づく金額を支給されたとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

④第2023-59号
 証明書発行のため区役所を訪れた際、提示した身分証明書以外の証明書の提示を求められたことから車に運転免許証を取りに行くことにしたところ、対応した職員から再度番号札を取るように言われたことに(※再度順番待ちが必要となるため)納得がいかないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

⑤第2023-60号
 生活保護受給者が、引っ越しの要望をしても適切な対応がなされないほか、本人の体調にかかわりなく強引に家庭訪問しようとするとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑥第2023-63号
 生活保護受給者が医療扶助の「治療具材の給付」として眼鏡レンズを交換したものの、眼科医が発行した眼鏡レンズの処方箋に不備があり、そのため実生活に支障が生じているが、担当のケースワーカーにそのことを訴えても適切な対応がなされないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:梶井祥子)
⑦第2023-68号
 申立人の(おそらく)子が学校で加害行為を受けたり、不登校になっていることについて市教育委員会が十分な対応をしてくれないとして苦情が申し立てられたケース。苦情の内容(A)は申立ての原因となった事実からすでに1年を経過しており、別の内容(B)は同趣旨の苦情についてすでに調査しない旨の通知ずみであるとして、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:梶井祥子)
⑧第2023-71号
 認可外保育所通園中の第一子について「施設等利用給付認定新2号認定」の認定書類を提出した際、当初、第二子の育児休業中であるため対象外であると誤った説明を受けたとして苦情が申し立てられたケース。区から謝罪と改善策を検討する旨の説明を受けたとして申立てが取り下げられた。(担当オンブズマン:田村智幸)

2024/04/01

札幌市経済観光局産業振興部経済企画課から回答あり

前回のエントリーに記したとおり、田村智幸オンブズマンが担当した「発意調査」を契機として、市の担当部局に問い合わせをした。問い合わせのきっかけとなったのが、当該発意調査に登場する二つの用語、「第2次札幌市まちづくり戦略ビジョン」および「ものづくり基盤技術振興基本法」である。

これらの用語に関連し、当ブログ開設者は、2024年3月14日に「第2次札幌市産業振興ビジョン」が公表されたこと、札幌市では「札幌市中小企業振興条例」において中小企業振興の基本理念等が規定されていること、さらに、産業振興部各課の所管事務について把握した。

以上の当ブログ開設者が把握した内容や上記・発意調査の結果によると、札幌市では、ものづくり産業における担い手確保や人材育成のために実施される諸施策は、「ものづくり産業」を対象とする施施策と、「中小企業」を対象とする諸施策が重畳的に実施されているようであった。

しかしながら、上記・発意調査では、こうした施策の構造が必ずしも明確ではないように感じられた。そこで、調査の意義をより明確にすべく、担当部局に問い合わせた次第である。以下、照会内容と回答内容を嚙み合わせる形で紹介する。

まず、照会するに至った経緯について、以下の説明をした。

 わたくし、札幌市オンブズマンの活動に興味があり、定期的にオンブズマンが実施した調査に関する文書の公文書公開請求を実施しています。今般、経済観光局長あての苦情等調査結果通知書(2024年2月22日付・第2023-発1号)の写しの交付を受けたのですが(担当オンブズマンン・田村智幸)、市が2023年度に実施した「ものづくり産業における担い手確保等に資する施策」の内容は、大変、興味深い内容でした。
 しかしながら、同調査は、「ものづくり産業」に限定されない、中小企業振興施策の一環としての(ものづくり産業をも含む)「担い手確保」という視点が欠けているように感じられました。
 そこで、たいへん恐縮ですが、以下の点について、ご教示をお願いする次第です。なお、以下の(5)(6)がもっとも関心がある点ですが、より理解が深まると考え(1)~(4)についてもあわせてお尋ねいたします。
 なお、問い合わせの内容が「ものづくり産業の振興」と「中小企業支援」の双方に関わることから、まずは経済企画課あてにメッセージを送るのが適切と考えました。

照会事項(1) 札幌市の産業振興施策の大まかな枠組みについて
 札幌市の産業振興施策は、中小企業を対象としており、その際、中小企業の業種(産業)に対応した個別の施策を講じるのが基本的な構造である、という理解でよいでしょうか。

回答(1) 担当:経済企画課
 本市においては、中小企業が9割以上を占めていることから、中小企業を中心とした施策が多くなっておりますが、大企業を対象とした施策も展開しております。
 なお、特に札幌市が強みを持つ産業への重点的な支援に加え、全産業を高度化させるための業種横断的な支援を両輪で実施しているところです。

照会事項(2) 産業振興課の業務内容について
 Webサイト(https://www.city.sapporo.jp/org/address/keizai_kanko.html)には産業振興課の「主な業務内容」として「ものづくり産業の振興に関すること」とあるところ、ここにいう「ものづくり産業」は具体的にどのような産業を指すのか、ということがお尋ねしたい点です。
 この点、上記調査の市の回答には、「ものづくり産業(製造業・建設業)」という記述がある一方で、ものづくり基盤技術振興基本法2条2項(および同法施行令2条)が規定する「ものづくり基盤産業」には建設業が含まれていないようです。そこで、産業振興課が想定している「ものづくり産業」の具体的内容についてのご教示をお願いする次第です。

回答(2) 担当:産業振興課
 産業振興課においては、ものづくり基盤技術振興基本法に定義されている製造業のほか、建設業法に定義されている建設業も含めた「ものづくり産業」への支援を実施しています。

照会事項(3) ものづくり基盤技術振興法5条が規定する「国の施策に準じた施策」について
 ものづくり基盤技術振興法5条は、「地方公共団体は、ものづくり基盤技術の振興に関し、国の施策に準じた施策及びその地方公共団体の区域の特性を生かした自主的な施策を策定し、及びこれを実施する責務を有する」旨規定しています。
 今般の調査における「市の回答」で紹介されている諸施策は、上記・ものづくり基盤技術振興法5条が規定する「国の施策に準じた施策」及び「地方公共団体の特性を生かした自主的な施策」に位置づけられると理解してよろしいでしょうか。

回答(3) 担当:産業振興課
 お見込みのとおりです。

照会事項(4) ものづくり基盤技術振興法9条が規定する「ものづくり基盤技術基本計画」に準じた計画について
 ものづくり基盤技術振興法9条1項は、政府に「ものづくり技術基盤基本計画」の策定を義務づけており、この計画には「ものづくり労働者の確保等に関する事項」(同条2項3号)や「ものづくり基盤技術に係る学習の振興に関する事項」(同条2項5号)等、ものづくり産業の担い手確保や人材育成に関連する事項が含まれています。
 ところで、「札幌市産業振興ビジョン」(第1次、改訂版及び第2次)という行政計画がありますが、この「札幌市産業振興ビジョン」は、市における「ものづくり産業の担い手確保や人材育成等の企業支援」をその趣旨として含んでいる、という理解でよろしいでしょうか(ただし、「ものづくり産業」それ自体が「重点」とはされていないようですが)。
 また、「札幌市産業振興ビジョン」とは別に、札幌市が「ものづくり産業」における担い手確保や人材育成に関する計画を策定しているならば、当該計画についてご教示をお願いします。

回答(4) 担当:経済企画課、産業振興課
 令和6年3月に策定した第2次札幌市産業振興ビジョンにおいては、横断的戦略の一つとして「札幌経済を担う人材への支援」を設定し、その中で「中小・小規模企業の採用力強化と担い手の確保・育成」を基本施策の一つに掲げ、製造業や建設業といった特に人手不足が深刻な業界における人材の確保・育成を支援することとしております。

照会事項(5) 札幌市産業振興ビジョン(第1次、改訂版及び第2次)の位置づけについて
 札幌市産業振興ビジョン」(第1次、改訂版及び第2次)は、札幌市中小企業振興条例4条1項が規定する「中小企業振興施策を総合的に策定」したものという理解でよろしいでしょうか。

回答(5) 担当:経済企画課
 お見込みのとおりです。

照会事項(6) 中小企業振興施策の一環としての「担い手確保」に関する札幌市の施策について
 中小企業は一般に労働力不足という課題を抱えているようです。そこで、札幌市において、(ものづくり産業に限定されない)中小企業における担い手確保や人材育成に関する施策が行われているならば、その概要についてご教示をお願いいたします。
 また、そのような施策が行われている場合、当該施策は札幌市中小企業振興条例8条2号が定める「中小企業者等の事業活動に必要な人材の育成及び確保」に位置づけられるという理解でよいかについても、あわせてご教示をお願いします(同号が規定する「人材」とは「起業家や経営者」を想定しており、「労働者」は想定されていないという印象もあるためです)。

回答(6) 担当:経済企画課
 上述のとおり、第2次札幌市産業振興ビジョンにおいては、横断的戦略の一つとして「札幌経済を担う人材への支援」を設定し、業種横断的に人材への支援を行うこととしております。本項目では、「企業活動の源となる人材の確保と育成」「多様な人材の活躍促進」「道外・海外からの人材の呼び込み」の3つの柱を掲げ、企業への支援、就労者等への支援、道外・海外からの呼び込みの観点から、人材への支援を行っております。
 また、ご質問の2点目についてはお見込みのとおりであり、企業が経済活動を行う上で人材は重要な経営資源であると認識しており、上述のとおり、就労者等も対象とした施策を展開しております。

・・・以上の次第であるが、まず、年度末の忙しい時期であろうに迅速に回答を頂戴したことに驚いた。担当された市職員の方に、記して感謝したい。この回答により、札幌市における「ものづくり産業の担い手確保や人材育成等のために実施される諸施策」は、「ものづくり産業」を対象とする諸施策と「中小企業」を対象とする諸施策が重畳的に実施されていると理解して差し支えないことが確認できたと考えている(なお、ものづくり産業の他にも特定の産業の振興施策を規定する法令が存在する可能性もあるが、この点は未確認)。

ところで、前回のエントリーでは、ものづくり技術基盤振興法が国の責務等について規定していることを紹介したが、このエントリーの締めくくりとして、中小企業基本法も「基本計画」の策定を除き、同様の規定を有していることを指摘しておきたい。

すなわち、中小企業基本法は、同法が定める基本理念にのっとり、国が中小企業に関する施策を総合的に策定し及び実施する責務について規定する(同法4条)。

その上で、政府は同法5条が規定する「基本方針」に基づき中小企業に関する施策を講ずること、中小企業に関する施策を実施するため必要な法制上、財政上及び金融上の措置を講じなければならないこと(同法9条)、定期的に中小企業の実態を明らかにするため必要な調査を行い、その結果を公表しなければならないこと(同法10条)、毎年、国会に、中小企業の動向及び政府が中小企業に関して講じた施策に関する報告を提出しなければならないことが規定されている(同条11条1項。同条2項も参照。なお、同条が規定する報告が「中小企業白書」である。)。

また、国が講ずる基本的施策については、同法第二章が詳細な規定を置いている(第1節から第4節の4節構成で12条から26条)。

さらに、地方公共団については、基本理念にのっとり、中小企業に関し、国との適切な役割分担を踏まえて、その地方公共団体の区域の自然的経済的社会的諸条件に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有することが規定されている(同法6条。このほか、国と地方公共団体の関係については同法27条も参照されたい)。

そして、札幌市においては、上述の札幌市中小企業振興条例に基づき諸施策が実施されている。これに対し、「ものづくり産業」を対象とする市条例は制定されていない模様である。

なお、第2次札幌市産業振興ビジョンには、札幌市中小企業振興条例が「市は条例で定める基本理念にのっとり、中小企業振興施策を総合的に策定し、及び実施しなければならない。この場合において、中小企業者等の実態を的確に把握するとともに、中小企業者等の意見を適切に反映するよう努めなければならない」と明記されていることが、同ビジョンが策定された事情の一つとして挙げられている(同条例4条1項)

2024/03/28

2024年2月に調査を終了したケース

2024年3月1日、同年2月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、同年3月15日付で一部公開決定がなされた。

上記の期間(2024年2月)に調査を終了したのは6件である。このうち5件が苦情申し立てに基づく調査、残る1件がオンブズマンの発意に基づく調査で、全6件で調査結果が通知されている。なお、担当者に確認したところ、2023年度に実施された発意調査は今回公開された1件のみということである。

さて、今回公開された調査結果通知書のうち、以下の2件が興味深い。1件目が、自立支援医療の受給者が登録薬局を1か所から2か所に増やしてほしいと要望したことを契機とする市職員の一連の対応についての苦情である(第2023-48号)。2件目が、ものづくり産業における担い手の確保や人材育成等の企業支援策についてのオンブズマンの自己の発意による調査である(第2023-発1号)。いずれの案件も田村智幸オンブズマンが担当した。

まず、第2023-48号である。当ブログ開設者は、市民にとって適切なタイミングで適切な内容の説明を受けることは重要な利益であると考えている。本件事案は、(実体的な結論とは別に)「説明の適切さ」を考えるうえで興味深い。

すなわち、この案件では、申立人からの問い合わせを受けた後、「やむを得ない事情」があれば複数登録が可能である旨の説明がなされるまで日数を要している。さらに、職員が申立人に登録医療機関および登録薬局を尋ねた事情や、職員が複数の薬局の登録を受けているとされる申立人の知人の居住地について尋ねた事情について、本件調査によりようやく明らかにされた模様である。

このように、職員が行った説明は、内容の適切さとは別に説明が後手後手に回った点で「適切」さに欠けたと当ブログ開設者は考えている。もっとも、説明が先走りすぎるのも問題で、今回のようなケースでは「複数登録が認められる」と市民が誤解するおそれもある。説明不足や説明過剰を招かぬよう相手に応じた説明を行うことは、実際のところ難易度が高いことは間違いない。

ところで、申立人が利用する登録医療機関および登録薬局はそもそも申立人に尋ねるまでもなく、市が保有する情報を確認すれば把握できるのではないか、という疑問がある(市は当然、登録医療機関および登録薬局の情報を保有しているはずである)。

ただし、市の回答によると、申立人は登録医療機関および登録薬局を明らかにすることに難色を示したということである。申立人は薬局の対応に不満を抱いていること自体を薬局に知られたくないと考えていたのであろうか。そうした事情がないならば、本件においては申立人の同意を得たうえで、市が把握する情報を利用して登録医療機関および登録薬局に照会するという対応も可能だったと思われる。

以上の次第で、当ブログ開設者は、本件苦情に係る職員の対応は大いに改善の余地があったと考えている。それでも、いかなる場合に「やむを得ない事情」として取り扱うかについての市の見解が明らかになった点は、本件苦情調査の成果であろう。本件苦情を契機として、今後は市民に対し(複数登録について)適切な説明がなされることを期待したい。

次に、ものづくり産業における担い手の確保や人材育成等の企業支援策についての発意調査(第2023-発1号)である。市の回答にある諸施策は非常に興味深い内容であり、その点を明らかにした点で意義ある調査であると思われる。

もっとも、札幌市の産業振興施策は、「ものづくり産業」という特定の産業に着目した施策のみならず、「中小企業」という事業規模に着目した施策も実施されているというのが当ブログ開設者の理解である。

そうすると、「中小企業」対象の施策が「ものづくり産業」における担い手の確保や人材育成等につながるケースもあるのではなかろうかということで、経済観光局産業振興部にその旨問い合わせた。有益な回答が得られた場合には当ブログで紹介したい(追記:照会および回答の内容はこのエントリーで紹介している)。

ところで、この案件を担当した田村智幸オンブズマンによると、「ものづくり基盤技術振興基本法では、第4条で「国の責務」、第5条で「地方公共団体の責務」、第6条で「ものづくり事業者の責務」が並列に記載されているだけで、各自の役割や相互の連携・補完を定める文言はな(い)」そうである。

しかしながら、同法は政府に対し、法制上等の措置を講じることを義務づけ(同法7条)、政府が講じた施策に関する報告書を国会に提出することを義務づけ(同法8条。2023年度版ものづくり白書)、政府にものづくり基盤技術基本計画の策定を義務づけている(同法9条1項。同条2項は同計画に定める事項を規定)。また、同法の第三章は、国が講ずる「基本的施策」について規定している(同法10条~18条)。

したがって、同法は少なくとも国(政府)の役割については、明確に規定していると思われる(たとえば、同法12条は「ものづくり労働者の確保等」のため国が必要な施策を講ずる旨規定する)。

そして、同法5条は地方公共団体の責務として、「国の施策に準じた施策及びその地方公共団体の区域の特性を生かした自主的な施策を策定し、及びこれを実施する」旨規定する。これらの規定が意味するところは、ものづくり基盤技術の振興に関し、国が第一義的に責務を負い、地方公共団体は田村智幸オンブズマンのいう「補完」的な責務を負う趣旨であると思われる。

たしかに、市の回答には「現状では、ものづくり産業の担い手確保等について、国・都道府県・市町村の役割を明確に規定している法令等はな(い)」とある。

しかしながらこの回答は、田村智幸オンブズマンが「国・道・政令指定都市それぞれが果たすべき役割や国・道においてこれに取り組んでいる施策との連携・関係性を踏まえ、市としてどのような施策を実行し検討しているのか調査する必要があると考え」て調査を実施したと言明することに対応するものである。

したがって、前述の「市の回答」の意味するところは、都道府県と市町村については、国が講ずる基本的施策を規定する「ものづくり基盤技術振興基本法」第三章のような法令等は存在しないという趣旨であると理解すべきであろう。

また、田村智幸オンブズマンによると、「ものづくり産業の発展のための施策の総合かつ計画的な推進を強力に図り、担い手の育成を力強く進めていくためには、国が司令塔とな(る)」必要があるそうだ。

しかしながら、国と地方との関係は地域主権改革により、国が地方に優越する上下の関係から対等なパートナーシップの関係へと転換されている。地方自治法においても、245条が「普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与」について規定するとともに、同法245条の2は「関与の法定主義」を規定している。また、同法245条の3は「関与の基本原則」を規定している。

したがって、田村智幸オンブズマンがいう「国が司令塔となる」トップダウン型の施策の推進様式がこれらの規定と整合するか、当ブログ開設者は疑念を抱いている(ただし、地方自治法が定める「国の関与」の諸規定は、個別法に根拠となる規定がなくとも地方自治法が「国の関与」の根拠となることを意味している)。

なお、本件の調査結果が通知された3週間後、2024年3月14日に「第2次札幌市産業振興ビジョン」が公表された。本件調査も、ずいぶん間が悪いタイミングで実施されたものである(なお、「第2次札幌市産業振興ビジョン」は、田村智幸オンブズマンがその「基本的な方向に沿って札幌市の様々な施策が実行・計画されていると承知している」という「第2次札幌市まちづくり戦略ビジョン」(ビジョン編戦略編資料編)の方向性に沿った、産業振興部門の個別計画である)。

さて、縷縷述べてきたが、上記2件のオンブズマン調査はいずれも、当ブログ開設者の興味関心を強く喚起する内容であった。今後も札幌市オンブズマンには、市の業務を市民に可視化する役割を期待している。

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①第2023-48号
 自立支援医療の受給者が登録薬局を1か所から2か所に増やしてほしいと要望したことを契機とする市職員の一連の対応に対し苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

②第2023-50号
 生活保護受給者が保護課に非常食の貸与を申し入れた際の職員の対応等について苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

③第2023-51号
 要介護認定の申請をしたところ「自立」と認定されたことおよび「自立」と認定されたにも関わらず「介護保険負担割合証」が送られてきたとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

④第2023-52号
 区役所の設備運転保守管理業務を受託する事業者に雇用され業務責任者として就労してきた申立人が市民対応時のトラブルを理由に退職に追い込まれたとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

⑤第2023-53号
 保健福祉局の担当職員から誤った情報を提供されたり侮辱する発言をされたとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑥第2023-発1号
 札幌市において実施されているものづくり産業における担い手確保や人材育成等の企業支援について、オンブズマンが自己の発意により調査を実施したケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

2024/03/02

2024年1月に調査を終了したケース

2024年2月1日、2024年1月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、同年2月14日付で一部公開決定がなされた。

上記の期間(2024年1月)に調査を終了したのは4件で、このうち2件で調査結果が通知された。また、残る2件のうち1件は調査しない旨が通知され、1件は申立てが取り下げられた。

今回公開された調査結果通知書のうち、市道を走行中にタイヤが破損したとして苦情が申し立てられた第2023-46号が興味深い。この案件では、市は賠償することを認めたものの、申立人は市が主張する過失割合に納得がいかないとして苦情が申し立てられた。

ところで、道路管理の瑕疵により自動車が損傷したとして賠償を求めた案件は過去にもある。ある意味、典型的な苦情といえるかもしれない。当ブログでも紹介しているところ(第28-13号第29-80号第30-57号第2019-119号第2019-121号第2020-74号の6件。ただし確認もれの可能性あり)、これらの案件ではいずれも市は「賠償しない」という見解であった。

これに対し本件では、市は4割の過失を認めている。しかし、申立人はそれでは納得がいかないとして、100%の賠償のほか、破損したタイヤと同一の製品を探すことも求めて苦情を申し立てた。この点、当ブログ開設者は、申立人の主張はあまりスジがよろしくないという印象を受けた次第である(ただし、どのような主張をしようともそれは当事者本人の自由であることはいうまでもない)。

ところで、調査を担当した田村智幸オンブズマンは、「オンブズマンは、オンブズマン条例に基づき、中立公正な立場において市の業務に対する苦情について、市の対応の不備等を指摘する立場にありますが、本来的に司法手続きで判断されるべきことについて司法の判断を先取りするような意見を述べることはでき」ないとして、「過失割合の妥当性や市の道路管理責任について、オンブズマンの判断を述べること」をしなかった。当ブログ開設者は、このような田村智幸オンブズマンの判断は、具体的な過失割合について言質を取られることを避けようとした結果であろうと考えている。

しかしながら、田村智幸オンブズマンもいうように、札幌市オンブズマンは市の業務について、市の対応の不備等を指摘することをその役割とする。したがって、市が業務の一環として「今回の事例おける過失割合は4割である」と主張することについて、オンブズマンがその不備(のありなし)を指摘することは何ら妨げられるものではない、と当ブログ開設者は考えている。

つまり、司法機関は紛争解決のために最終判断を下すのに対し、オンブズマンは市の対応に改善の必要があるならばその点の指摘をするにとどまる。また、その指摘も強制力はなく、市がその指摘に応じるか否かは市の判断に委ねられている。そして、「過失割合」についてのオンブズマンの指摘を市が受け入れたとしても、市と申立人の間で合意が成立するとは限らない。オンブズマンが何を述べようとも、「司法の判断を先取り」することにはならないというのが、当ブログ開設者の考えるところである。

また、田村智幸オンブズマンは本件について「本来的に司法手続きで判断されるべきこと」であると述べているが、司法手続きの利用こそが紛争解決の「本来的」なあり方だと考えているならば、そうした評価は当事者合意に基づく自主的な解決の意義を著しく過小評価していると思われる。

むしろ考えるべきは、オンブズマンが沈黙することは結果として市の対応を黙認することになり、そうしたオンブズマンの姿勢が田村智幸オンブズマンのいう「中立公正な立場」といえるのか、ということであろう。

この点、市の対応に不備はないとオンブズマンが判断した場合、申立人からするとオンブズマンは市をひいきしており「中立公正な立場」ではないように感じられるかもしれない。しかしながら、少なくとも「不備はない」と判断する理由が明示される点はオンブズマンが「沈黙」した場合と決定的な違いがある。田村智幸オンブズマンは「紛争解決の落とし所」について見解を示すことを回避したが、オンブズマンの役割は市の主張の妥当性について見解を示すことなのではなかろうか。

以上、縷々述べてきたが、田村智幸オンブズマンと当ブログ開設者では札幌市オンブズマンの「制度観」に違いがあるのかもしれない。すなわち、田村智幸オンブズマンは、札幌市オンブズマンは行政と市民間の紛争を解決するADR(裁判外紛争解決手続)として理解する一方で、当ブログ開設者は、札幌市オンブズマンは住民自治の実質化を図るための制度であり、苦情を媒介とする行政と市民間のコミュニケーションチャンネルである、と考えているということである。この点については、機会があれば再論したい。

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①第2023-37号
 生活保護の受給者から通院時のタクシー代支給に関する担当ケースワーカーの対応をはじめとする一連の市職員の対応について苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

②第2023-46号
 市道を軽自動車で走行中にタイヤが破損したことに関し市の過失割合に関する説明に納得がいかず市職員の一連の対応にも問題があるとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

③第2023-47号
 有料老人ホームを運営する法人が市本庁の生活保護担当課から指導を受け無料低額宿泊所を開設したにもかかわらず、保護の実施機関である区の保護課から生活保護受給者の入居を認めないという連絡があったとして苦情が申し立てられたケース。調査開始後に苦情申し立てが取り下げられ調査が中止された。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

④第2023-49号
 生活保護受給者が親族の死亡により遺産を相続したところ遡及して保護費の返還を求められたとして苦情が申し立てられたケース。申し立ての取り下げにより調査は実施されなかった。(担当オンブズマン:原俊彦)

2024/03/01

新オンブズマン就任(2024年)

2024年2月29日、以下の議案が札幌市議会に提出され、同日、議会の同意を得た模様。これにより、新たに梶井祥子氏(大学教授)がオンブズマンに就任した。梶井氏は、2020年3月にオンブズマンに就任した原俊彦氏(大学名誉教授)の後任である。

これにより、2024年3月1日以降は、2021年3月1日に就任したオンブズマン2期目の田村智幸氏(弁護士)、2023年3月1日に就任したオンブズマン1期目の神谷奈保子氏(民事調停委員)とあわせ、3名体制で札幌市オンブズマンの職務が遂行されることになる。