2022/04/28

2022年3月に調査を終了したケース

 2022年4月1日、同年3月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、2022年4月15日付で一部公開決定がなされた。

上記の期間(2022年3月)に調査を終了したのは12件で、このうち10件で調査結果が通知されている。また、残る2件のうち1件は調査をしない旨が通知され、1件は申立人の取り下げによる調査中止により、調査は実施されなかった。

さて、今回交付分の案件で最も興味深いのは、札幌市の指定管理施設の元職員が、当該施設においてハラスメント受けていたことを市に訴えても十分な対応がなされなかった、という苦情が申し立てられた第2021-106号である。

この案件において特に興味深いのは、以下の2点である。第1の点が、指定管理者に対する市の権限についての市の回答の内容であり、第2の点が、調査担当の原俊彦オンブズマンによる判断の視点の狭隘さである。

まず、第1の点である。市の回答によると、地方自治法244条の2第10項は、地方公共団体の長又は委員会による、指定管理者の「管理の業務」についての調査・報告・指示の権限を規定している。また、当該指定管理者における「管理業務仕様書」には、「労働関係法令の順守」が規定されている、ということである。

このことを前提に、市は申立人からのハラスメントの申出を受け、当該指定管理者に対し、ハラスメントの事実関係及び関係法令及び就業規則等に基づいた対応ができているかについて、調査・報告を行うよう指示している。これは要するに、札幌市は、指定管理者の内部的な労務管理も、当該指定管理者の「管理の業務」として、市の調査等の権限行使の対象になると考えているということである。

この点、今回の苦情の事実関係からすると、ハラスメントの時点における当該指定管理者は、未だ労働施策総合推進法が定める事業主の「措置義務」は適用となっていない模様である(中小事業主については2022年4月1日から適用)。しかしながら、市は当該指定管理者に対し、同法が規定する「措置義務」の内容に準じた調査を実施しており、このような市の対応は、かなり積極的なものであると評価することが可能であろう。

その一方で、労働関係の専門機関ではない市にとっては、法令違反について公表がなされたような事例であればともかく(たとえば、労働施策総合推進法33条2項参照)、「労働関係法令の遵守」についての判断は、困難が伴うと予想される。

で、あるならば、仕様書記載の「労働関係法理の順守」とは、指定管理者が使用者として法令遵守の義務を負う当然のことを記載したに過ぎず、将来的に市が指定管理者を選定する際、「労働関係法令の順守」の状況が考慮要素の一つとなるに過ぎない、と位置づけるのが適切という評価も可能であると思われる。

また、「指定管理者による管理を継続することが適当でないと認めるとき」には、指定の取り消しや、業務の全部または一部の停止を命じる権限も規定されているものの(地方自治法244条の2第11項)、労働関係法令の順守の状況を理由としてこれらの処分がなされるのは、よほど悪質なケースに限定されるであろう。

そして、このような理解をするならば、今回の申立人のようなケースでは、市の対応としては、指定管理者に対する調査権限を行使するよりも(※調査を実施してはいけないという趣旨ではない)、申立人に対し、労働関係法令に基づく権限を有する機関についての情報提供を行うことで当該機関への対応を促す、あるいは、個別的な労使紛争の解決機関についての情報提供を行い、労働契約の一方当事者である申立人の次の行動を促すことが、「法令順守」の実効性を高めるとともに、申立人のニーズにも沿った対応になると思われる。

続いて、第2の点である。まず、原俊彦オンブズマンは、「市は、独自の責任において事実調査を行い、必要に応じて指定管理者」を指導すべきであると述べる。その上で、「本件調査のポイントは、市が指定管理者に対して法令などの規定に従って適切に対応したかどうかにある」と論ずる。この見解によれば、「法令などの規定に従って適切に対応したか」が問われるのは「指定管理者」ではなく、「市」であることになる(※市の調査権限が適切に行使されたかを問う趣旨に読めるが、オンブズマンがどこまで自覚的であるかは不明)。そのためであろうか、指定管理者が順守すべき「労働関係法令」については、全く引用・参照されていない。

また、原俊彦オンブズマンの判断は、当該指定管理者が本件の申立人の「使用者」として労働関係法規に基づく責任を負う主体であることや、当該法令を遵守させるためのメカニズム、さらには、個別労働者が利用可能な紛争処理システムといった、諸々のしくみに対する視点が一切欠けている。おそらく、今回のようなケースにおいて、申立人が市に対応を求めるのはスジがあまりよろしくない、という問題意識も希薄なのだと思われる。

結局、原俊彦オンブズマンは、「申立人が訴えている窮状は労働関係法令の順守や雇用環境の維持向上に関わることであり、さらにもう一歩踏み込んだ、秘匿性を考慮した工夫のある調査や指示を検討し実施する余地はあった」と判断するものの、このような判断は、本件において指定管理者が順守すべき労働関係法令が具体的に何を指すのかが不明であるばかりか、指定管理者が労働関係法令を遵守することについて、市に過大な期待を寄せる無いものねだりであると、いわざるを得ないであろう。

以上が今回公開された案件のうち、最も興味深い事案についての当ブログ開設者の考えるところであるが、原俊彦オンブズマンが調査を担当した案件としては、雨水貯留池への投雪に関する苦情が申し立てられた第2021-96号の判断において言及している内容も、その妥当性は疑わしい。

すなわち、原俊彦オンブズマンは、「安全管理上、許可されるかどうかはわかりませんが」という留保の下、雨水貯留池を児童公園などと同様に周辺住宅の雪捨て場とする可能性について言及する。

しかしながら、こうした言及をするならば、本件調査において安全管理上の問題についても市に説明を求めた上で行うか、別途、オンブズマンが自己の発意による調査を実施すべきであろう。こうしたオンブズマンの要望は、調査対象部局に対する不意打ち以外の何物でもないと思われる。

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①第2021-83号
 保護課の担当者が訪問日を一方的に決めて変更予定を聞き入れず、その際、ケースワーカー以外の職員まで入室してきたとして、苦情が申し立てられたケース。申立人が申し立てを取り下げたため、調査は実施されなかった。(担当オンブズマン:田村智幸)

②第2021-94号
 国民健康保険の保険料を過払いしたが返還されなかったり、返還されるにしても返還まで時間がかかったこと等について、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

③第2021-95号
 自宅マンション前の除雪がなされた後、1階居室の窓が雪で埋まり換気ができなくなったため市に排雪を求めたが対応されず、その後の一連の対応にも問題があるとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

④第2021-96号
 市の雨水貯留池に投雪する市民がいるために市の担当課に対応を求めているが十分な対応がなされないとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

⑤第2021-97号
 生活保護の受給者が自動車使用禁止の指示書の交付を受けたことや、職員が対応した際の発言内容等について、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑥第2021-100号
 通院時のタクシー代の支給が1週間単位の事後支給であることについて生活保護受給者からの苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

⑦第2021-101号
 通所している作業所の職員が申立人にとって知られたくない個人情報を当該作業所を訪問した申立人の友人に漏洩したことについて、市の障がい福祉課による当該作業所に対する指導が不十分であるとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑧第2021-102号
 さる団体が発行する広報誌について、市の経済観光局が印刷・発送にかかる経費を負担しているところ、内容に問題がある広報紙が発行されたことについて市の対応が十分ではなかったとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

⑨第2021-103号
 さる団体が発行する広報誌において名誉を傷つける内容が記載されたにもかかわらず、当該広報誌の発行に関与する市の経済観光局の対応が十分ではないとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

➉第2021-106号
 市の指定管理施設で嘱託職員として勤務していた申立人は他の職員から嫌がらせを受けてきたところ、指定管理施設の職場環境が劣悪なことについて、市が指定管理者に対する指導を行うなど適切な対応をとることを求め、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

第2021-107号
 申立人の息子が通うデイサービスの事業者に対し指導を行うよう市に求めた際、対応した職員の対応が高圧的であったとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

⑫第2021-109号
 札幌市の市営住宅の通年募集について、電子申請を可能にすること等を求めて苦情が申し立てられたケース。札幌市外に居住し、市営住宅への入居希望者でもない申立人は「申立の原因となった事実について利害を有さない」として、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

2022/03/17

2022年2月に調査を終了したケース

 2022年3月1日、同年2月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、2022年3月14日付で一部公開決定がなされた。

上記の期間(2022年2月)に調査を終了したのは7件で、このうち5件で調査結果が通知されている。また、残る2件のうち1件は調査をしない旨が通知され、1件は申立人の取り下げによる調査中止により、調査が終了している。

さて、当ブログ開設者は、長引くコロナ禍の影響なのか、札幌市職員の士気が全体的に低下傾向にあるという印象を抱いている(今回公開分では、第2021-84号における提出書類の記載内容の見落としや、第2021-89号における情報の保存年限に関する説明の誤りがその典型例)。ただし、これはあくまで、当ブログ開設者の印象論である。

そんな中、市の回答において、新型コロナ感染症対策として業務を縮小した旨、言及する事例が現れた。国保料を延滞した市民が申し立てた、第2021-89号の案件がそれである。すなわち、この案件の市の回答では、新型コロナ対策として、感染拡大防止及び保健所応援業務のため、滞納整理業務を縮小した旨の説明がなされている。こうした事情は、職員の士気に大きく影響するであろう。

ところで、この案件の申立人は、「滞納した国保料は、新たな就職先で健保の保険料と合算して賃金から控除されていると誤解した」旨の主張をしている。そもそも、申立人のこうした誤解がなければ、国保料の滞納を解消すべく分割納付が継続されていたと思われるものの、この点はさておき、滞納整理業務の縮小がなければ、適時に納付督促を受けた申立人が国保料の滞納を早期に解消し、その結果として、延滞金が発生しない、あるいはより少額で済んだ可能性があると思われる。

また、申立人は郵送で国保の脱退手続きを行っているが、直接窓口を訪れていれば、①国保の被保険者資格を喪失しても、滞納している保険料の納付義務は引き続き残ること、②滞納している国保料の納付方法はこれまで同様であること、③国保料を滞納していると延滞金が発生する(場合がある)こと等の説明を受けていた可能性がある(窓口職員を過大評価しているであろうか?)。そして、こうした説明を受けていれば、申立人が上記のような「誤解」をすることは避けられたのであり、当ブログ開設者は、郵送で国保の脱退手続きした場合の市の対応には、なお工夫の余地があると考えている(申立人に対しては、「資格喪失についての文書」が送付された模様であるが、文書の記載内容の詳細は不明)。

以上の次第で、この案件の申立人は、新型コロナの感染拡大という「不運」に直面するとともに、市の対応にも工夫の余地があるのではないか、という2点について、この事例に特有の事情があったと思われる。しかしながら、調査担当のオンブズマンによる判断は、指摘内容に具体性を欠き、抽象論に傾いたきらいがある。これもまた、新型コロナ感染拡大による(オンブズマン自身の)士気低下の影響なのかもしれない。

このほか、第2021-91号では、オンブズマンが「専門的知見」を欠くことを理由として、「調査することが相当でない特別の事情がある」として調査しない旨が通知されている。しかしながら、当ブログ開設者は、あくまで一般論としてではあるが、こうした理由により調査しないという結論を導くことには疑問を抱いている。

ただし、この案件では、申立人がすでに市から受けた説明内容を確認した上で上記の結論を導いている。そのため、こうした具体的事情の下にあっては、同じオンブズマンが担当した第2021-72号にくらべると、結論が正当化される余地はあるかもしれない。

【追記】(2022.3.28)
第2021-89号の不明点を解消すべく、市の保健福祉局保健医療部保険企画課に問い合わせたところ、以下の趣旨の回答を得たので追記する(趣旨を明確にするため、適宜、当ブログ開設者が補足・修正している)。

①郵送で国保の脱退手続きをとった申立人に送付した「資格喪失についての文書」には、「国保の資格を喪失しても、滞納保険料がある場合には、引き続き当該保険料の納付義務は残る」といった説明の記載はなされていない。今後、今回の苦情が申し立てられた区では、同文書に「加入期間中の保険料についてご不明な点はお問い合わせください。」という文言を新たに付け加える。

②区役所窓口で国民健康保険の脱退手続きを行った場合、滞納保険料の有無を確認し、一括での納付が困難なときは、納付相談の窓口に引き継ぐことにしている。

③令和2年12月22日付けの通知では、新型コロナウイルス感染症の影響に伴う保健所等への応援業務のため、各区の裁量で催告業務を休止できることとしている。したがって、通常の状況であれば、納付催告書をより早期に発送していた。

以上の次第で、国保の脱退手続きを郵送で行うのと窓口で行う場合では対応に差があり(①②)、新型コロナの感染拡大がなければ、より早期に納付催告書を送付していた(③)、ということである。やはり、申立人には「不運」な側面があったわけである。

なお、「資格喪失についての文書」に付け加える説明は、申立人のような「誤解」を避けるには必ずしも十分ではないと思われるものの、詳しい説明はかえって読む者の理解を妨げることもある。今後、必要に応じて、適宜、改善を図ることを期待したい。

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①第2021-82号
 事業から発生する生ごみを清掃工場に搬入する際、ダンプ式の軽トラックをダンプさせず(ここでいう「ダンプ」とは荷台を傾けるという趣旨だと思われる)、手でごみを投入するという取り扱いについて、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

②第2021-84号
 特別障害者手当の返還を求められたが、当初の返還額から返還額が減額されるならば初めから減額後の金額の返還を求めるべきであるし、支給開始から2年間は何も連絡がなかったのに今になって返還を求めることにも納得がいかないとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

③第2021-86号
 まとまった降雪直後ではなく、しばらく時間がたってから不要を除雪を行ったために自宅前に雪塊が山積みになったとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

④第2021-89号
 滞納している国民健康保険の保険料を一括で納付するように納付催告書が届いたが、①就職により国保を脱退した際に滞納分の保険料の取扱いについての説明がなかったこと(申立人は健保の保険料と合算して賃金から控除されると誤認していた)、②納付催告書が送付されるまで滞納についての知らせがなかったこと、③市が取得した申立人の財産データが削除されないこと、④保険料の延滞金についての説明がなかったことについて、苦情が申し立てられたケース。なお、この苦情は、第2021-88号の申立てが取り下げられた後、改めて申し立てられた案件と思われる。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑤第2021-90号
 市が道路の拡幅を検討するに際し、地域住民の意向を無視したまま計画が進められているとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

⑥第2021-91号
 申立人の娘が救急搬送を依頼した際の搬送先病院の選定に疑問があるとして、苦情が申し立てられたケース(娘は搬送先で受診した当日に帰宅したが、その翌々日に死亡した模様)。医療機関選定の適否判断には高度の専門的知見を要するとして、「調査することが相当でない特別の事情があるとき」に該当するとして、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑦第2021-105号
 今年は降雪が多いが、市は「捨て場所がない」、「トラックが足りない」等の理由で除排雪が十分なされていないために生活に支障が生じているとして、自衛隊に災害派遣を要請し、除排雪を進めてはどうかという申立てがなされたケース。オンブズマンによる調査を要望するものではないとして、申立ての取り下げにより、調査は終了している。(担当オンブズマン:田村智幸)

2022/02/21

オンブズマン再任(2022年)

2022年2月21日、以下の議案が札幌市議会に提出され、同日、議会の同意を得た。これにより、原俊彦氏(大学名誉教授)がオンブズマンとして2期目の委嘱がなされ(任期は2024年2月29日まで)、2022年3月1日以降も引き続き1年間、八木橋真紀子氏(オンブズマン2期目2年目・民事調停委員)、田村智幸氏(オンブズマン1期目2年目・弁護士)と3名の体制で、札幌市オンブズマンの職務が遂行される。


ところで、当ブログ開設者は、原俊彦氏のオンブズマン1期目の「功績」は、オンブズマンは安易に調査に着手せず、市民自ら対応できることは自ら行動するという、市民の自律性・主体性の確立を促す一方で、満足に文章を書くこともままならない市民の苦情(※1)については、オンブズマンが調査を実施して手厚く支援するという、新たな札幌市オンブズマン像を打ち出した点にあると考えている。


また、原俊彦氏が調査を実施した案件についても、判断が明らかに間違っていたり、見当が外れている案件が数多ある。そのため、原俊彦氏にオンブズマンを委嘱するのが適切か疑問なしとしないものの(※2)、結果として、市民に対し、安易にオンブズマンを頼ることなく、市民自らの主体的な行動を促すことにつながっている可能性がある。

さらに、市民にとっては、原俊彦氏が何を理解していないかを探求することによって、制度への理解を深めることが期待できるとともに、調査対象となる市の担当部局にとっても、原俊彦氏にも理解できるような説明を心がけることは、市民一般に向けた説明能力の向上をもたらすことが期待できる。

このように、原俊彦氏のオンブズマン1期目の「功績」は、満足な調査をすることままならぬ人物(※3)がオンブズマンに委嘱されると、かえって、市民の主体的な行動を促すのみならず、市民が制度への理解を深めたり、市の担当部局が市民に向けた説明を改善する等の効果をもたらす可能性が浮き彫りになったことである。

もっとも、このような原俊彦氏の「功績」は、オンブズマンに期待される役割が適切に果たされた成果といえるのかということや、原俊彦氏の「功績」が支払われたオンブズマン報酬・月額55万円×24か月の総額1,320万円(税引前)に釣り合っているかについては、別途検討の必要性がある。ただし、他の人物にオンブズマンに委嘱していたならばより多くの成果がえられたという保障はなく、市民としては、札幌市が上記の額を負担することについては、甘受せざるをえないように思われる。

当ブログ開設者はこれまで、原俊彦氏を”眠れるオンブズマン”と呼んできた。オンブズマン2期目の原俊彦氏が、これまで同様に眠り続けたとしても、そのことで市民や市の担当部局への効果が期待できるならば、(やむを得ないが)それでよし。三年寝太郎よろしく突然目覚めるや否や、市民のための力仕事に尽力するならば、それもまたよし、である。オンブズマン原俊彦氏の2期目から、目を離すことができない。

(※1)
「文章を書くこともままならない市民」というのは、2020年7月28日に当ブログ開設者が苦情申立てのためオンブズマンと面談した際(その案件が、第2020-20号である)、担当の原俊彦オンブズマンが行った発言である。曰く、「オンブズマンとは、ろくに文章を書くこともままならない市民が利用する制度」であるそうだ。
 ただし、後日オンブズマン事務局に照会した回答によると、「そのような発言をした事実は確認できなかった」との由。原俊彦オンブズマンが自己の発言を記憶する能力を欠くか、適切さを欠く発言であることがあまりにも明らかであるため、発言した事実を否定せざるを得なかったかのいずれかであろう。

(※2)
各月の公開分を紹介する際、原俊彦氏の担当案件を含めて、各案件の看過できない問題点を指摘してきた。このほか、原俊彦氏のオンブズマンとしての適格性については、第2021-87号及び第2021-92号の「苦情申立ての趣旨」も参照されたい。

(※3)「満足な調査をすることままならぬ人物」とは、いうまでもないことだが、「文章を書くこともままならない市民」という原俊彦氏の発言に対する当てこすりである。こうしたオンブズマンでも適切な調査が実施できるように、場合によっては、苦情申立人自らオンブズマンに対し、噛んで含めるような説明をすることが必要かもしれない。

2022/02/19

2022年1月に調査を終了したケース

 2022年2月1日、同年1月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、2022年2月14日付で一部公開決定がなされた。

上記の期間(2022年1月)に調査を終了したのは9件で、このうち4件で調査結果が通知されている。また、残る5件のうち3件は調査をしない旨が通知され、2件は申立人の取り下げによる調査中止により、調査が終了している。

さて、今回の公開された案件のうち、最も興味深いのは、札幌市文化芸術活動再開支援事業の支援金についての苦情(第2021-75号)である。事業の詳細は、札幌市の担当部局(市民文化局文化部文化振興課)のサイト及び同事業の事務局のサイトで確認して頂くとして、
札幌市がこのような「文化芸術活動の復興」を目的とする事業を実施していることに驚いた。

ところで、この案件では、支援金の交付決定通知を受けているにもかかわらず、事後的に決定が誤りであったとして、支援金が支給されなかったことについて苦情が申し立てられた。その後、オンブズマンによる調査の過程で、支援金の支払いがなされるに至っており、その限りでは、めでたし、めでたしである。

しかしながら、この調査では、①支援金の支払い先が実演や展示のイベントが開催される施設であること(したがって、本件の苦情申立てを行ったのはイベントの主催者であると思われるが、支援金の直接の支払先ではない)、②申請から支払いに至るプロセスが、申請→支援金交付決定→イベント終了後の実績報告→支援金の支払い、となること、③イベントの主催者が手続きを行う相手方は施設であること、④施設が市(実際は委託先の事務局)に申請を行うとともに、前述したように支援金の支払い先となること等、支援金支払いの制度枠組みについての説明が必ずしも十分ではない。

そのためでもあるのか、オンブズマン判断は、支援金交付決定が適切になされたかについて論ずる一方で、いったん交付決定を行った支援金を事後的に支給しないことの当否については、全く論じられていない。すなわち、交付決定に問題があったとしても、そのことが直ちに交付決定後の支援金不支給を正当化することにはならない、という視点が完全に欠落しているということである。

つまり、交付決定後に交付金を支給しないならば、交付決定自体を取り消したり、実績報告後になされる実際の交付金の支給額を0円として決定する等、次のステップの手続きが必要になるはずである。したがって、この案件では、すでに交付決定がなされている以上、もともとの交付決定が適切でなかったとすれば、その後始末をどのようにつけるのが適切であるかが論じられる必要がある。この点が論じられてはじめて、将来的な改善策として、そもそもの交付決定が適切になされるための方策が論じられるべきであろう。

もっとも、この案件を担当したのは、原俊彦オンブズマンである。今回紹介する別件の苦情(いずれも当ブログ開設者が申し立てた案件)、第2021-87号及び第2021-92号では、いずれも具体的なオンブズマン名は記されていないものの、原俊彦オンブズマンがいかにオンブズマンとしての適格性を欠くのか、申立人の主張が苦情申立ての趣旨において滾々と繰り広げられている。この第2021-75号も、オンブズマンとしての適格性に疑問を抱かせるエピソードの一つに位置づけることができるもしれない.

このほか、第2021-92号における「調査しない」という判断の理由づけが適切ではない旨、このエントリーで論じている。あわせて参照していただけると幸いである。

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①第2021-73号
 生活保護の受給者が、通院のための自動車の利用を認めないという判断およびそのことに伴う市職員の一連の対応に納得がいかないとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

②第2021-75号
 コンサートの実施に当たり、札幌市文化芸術活動再開支援事業の支援金を申請し、いったんは交付決定通知を受けたが、コンサート実施後に他の助成金を受給していることを理由として支援金が支給されなかったことについて、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

③第2021-76号
 生活保護受給者が、担当ケースワーカーが保護停止の事例を挙げて不安をあおる等の対応をすることが不満であり、担当者の交代を求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

④第2021-78号
 有料道路障害者割引の適用を受けるために必要な車載器番号が変更されたにもかかわらず、割引申請の更新の都度、市の担当者が旧番号を申請書類に記載したために長らく割引を受けてこられなかったとして、この間の経緯の説明を求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑤第2021-80号
 シルバー人材センターの派遣事業として児童館に派遣された申立人が館長からパワハラを受け、そのことについて市の担当課に対処を求めたにもかかわらず、引き続き就労できるよう働きかける等の十分な対応がなされないとして、苦情が申し立てられたケース。その後、申立人による苦情申立ての取り下げにより、調査は中止されている。(担当オンブズマン:原俊彦)

⑥第2021-87号
 2022年2月末をもって1期目の任期を満了するオンブズマンについて2期目の任用予定の有無を照会したところ、任用予定をブラックボックス化した回答しかなされなかったとして、手続きをブラックボックス化する理由の説明を求めて苦情が申し立てられたケース。苦情について調査しない旨が通知され、調査は終了している。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

⑦第2021-88号
 滞納していた国民健康保険の保険料について、就職したことにより毎月の賃金から天引きされると思っていたが、その後、滞納分の保険料について一括納付を求められたことを契機として、滞納分の取扱いについて職員から適切な説明がなされたなかったこと等について、苦情が申し立てられたケース。その後、申立人の苦情取り下げにより、調査は中止されている。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑧第2021-92号
 2022年2月末で任期を満了するオンブズマンについて、2期目の任用予定の存否及び委嘱過程をブラックボックス化する理由の説明を求めて苦情が申し立てられたケース。苦情について調査しない旨が通知され、調査は終了している。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑨第2021-93号
 市が行った違法建築物の調査について、調査結果及び調査内容について報告してほしいとして、苦情が申し立てられたケース。苦情について調査しない旨が通知され、調査は終了しているた。(担当オンブズマン:原俊彦)

2022/01/28

苦情について調査しない旨の通知書(第2021-92号)及びオンブズマン調査のあり方についての意見書

 思うところあって、札幌市オンブズマンに苦情を申し立てた(2件)ところ、いずれも、「苦情について調査しない旨の通知書」が送付されてきた。どのような苦情を申し立てたかについては、2022年1月に調査を終了した案件についての公文書公開を受けた際、紹介するとして(ここで紹介)、今回申し立てた苦情のうちの1件及びオンブズマン調査のあり方について、当ブログ開設者の考えるところを札幌市オンブズマン室宛に送信した。以下、その本文を紹介する。


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1 オンブズマンの独立性及び公正中立性について

一般に「オンブズマン」の制度においては(ここでいうオンブズマンとは、いわゆる民間のオンブズマンのことではなく、行政オンブズマン、議会オンブズマン等の「公的オンブズマン」を想定している)、オンブズマンは、独立の地位で公正中立の立場から調査を実施するのであり、その活動は何人からも干渉・介入されてはならない。このことは、札幌市オンブズマンの制度についても同様であり、オンブズマンが独立の地位であるために、「オンブズマンの行為」が事後的にオンブズマンによる調査対象にもならない(札幌市オンブズマン条例3条6号)ことが規定されている。

また、ここでいう「オンブズマンの行為」とは、元々はオンブズマンが申立人と面談した際の対応のように、①オンブズマンの具体的な言動を指していたと思われるが、現在の札幌市オンブズマン制度の運用においては、調査結果や調査を実施しない等判断等、②オンブズマンの調査活動も含む概念であると理解されているようである。

ところで、札幌市においてオンブズマンの委嘱を受けた者は、自らの自覚と責任の下、オンブズマン条例の定める目的実現のため、その職務に精励することが期待されている。そのために、①オンブズマンの(オンブズマンによっても干渉されない)活動領域はどの程度まで確保されるべきか、その前提として、②オンブズマンが中立性を確保できる活動領域の限界について、原理原則に即した検討が必要になると思われる(ここではとりわけ、オンブズマン事務局との関係を想定している)。


2 申立人による再度の苦情申立てについて

札幌市オンブズマン条例は、オンブズマンの職務について、「市の業務に関する苦情の申立てを受け付け、簡易迅速に処理すること」(4条1号)を規定する。この規定は、オンブズマンが簡易迅速に苦情を処理する必要上、申立人が同一の苦情について再度の申立てをすることを認めない根拠となりうると思われる。

すなわち、オンブズマンが苦情を簡易迅速に処理する必要上、申立人は同一の苦情について申し立てをすることができるのは1度限りであり、いったんオンブズマンが調査結果を通した場合には、実質的に同一の苦情申立てについては、「申立ての原因となった事実についての利害を有しない」(札幌市オンブズマン条例16条1項1号)と判断するわけである。

ただし、それはあくまで、「同一の苦情」について申し立てられた場合についてであり、調査が終了した後、新たな事情の下、苦情を申し立てることが妨げられるものではない。

そして、この「苦情申立て1回制の原則」とでも呼ぶべき取扱いは、オンブズマンが調査結果を通知したケース及びオンブズマンが調査結果と通知しなかったそれぞれのケースにおいて、以下のような根拠づけられる。

(1)オンブズマンが調査結果を通知したケース

オンブズマンが調査結果を通知したケースにおいては、①オンブズマンの行為該当性と②申立人の利害の存否という、二つの論点から、調査を実施しないという判断を根拠づけることができる。

まず、①オンブズマンの行為該当性についてである。この論点は、オンブズマンが実施した調査結果に納得がいかないとして再度苦情が申し立てられたケースについて処理する場合の正当化根拠である。この場合、オンブズマンが実施した調査という「オンブズマンの行為」(札幌市オンブズマン条例3条6号)に該当する苦情であるとして、オンブズマンの所轄外の事項に該当すると判断することになる。したがって、この場合には「再度」の苦情申立てではなく、「新たな苦情」という側面に着目しての処理となる。

次に、②申立人の利害の存否である。この論点は、調査結果に対する不満であることが必ずしも明確でない苦情の場合には、調査結果を通知した苦情と実質的に同一の苦情が申し立てられているならば、「苦情申立て1回制の原則」から、「申立ての原因となった事実についての利害を有しない」(札幌市オンブズマン条例16条1項1号)として、オンブズマンによる調査対象外の事項に該当すると判断することになる。

なお、①オンブズマンの行為該当性と②申立人の利害の存否の両者は必ずしも排他的な関係ではない。申立人がオンブズマンの調査について不満を抱き苦情を申し立てたが、終了した調査と実質的に同一の苦情であり、再度苦情を申し立てる「利害」も存しないということは、十分に考えられる。

この場合には、いずれかの理由を選択するか、双方の理由によって、調査しない旨を根拠づけることになる。

(2)オンブズマンが調査結果を通知しなかったケース

オンブズマンが調査結果を通知しなかった場合には、②申立人の利害の存否について「苦情申立て1回制の原則」により、再度苦情を申し立てる利害が失われたと結論づけることには困難である。なぜならば、申立人による苦情申し立ては、オンブズマンから調査結果を通知されることを前提になされるのであり、オンブズマンが調査を実施しない「事実」に関しては、なお申立人の「利害」は失われていないと評価できるからである。

この場合、申立人の苦情において、オンブズマンが調査を実施しなかったということへの不服が明確に示されているならば、①オンブズマンの行為該当性を理由として、オンブズマンの所轄外の事項に該当すると判断することになる。

これに対し、調査を実施しなかったことへの不満であることが必ずしも明確でない苦情の場合には、調査結果を通知せずに調査を終了した苦情と実質的に同一の苦情であるならば、調査結果を通知せずに調査を終了した苦情と同一の理由により、再度、調査を終了することになる。

なお、このような対応は、「オンブズマンが同じことを繰り返すこと」が、オンブズマンが調査を実施しない理由とはならないことを意味している。

以上の次第で、申立人から再度の苦情申立てがなされた場合、すでに終了している調査において調査結果が通知されているか否かにより、取扱いに差が生じることになる。これは、「申立ての原因となった事実」には、オンブズマンが調査結果を通知したか否かという事情を含めて考えることを意味している。


3 第2021-92号の案件処理について

田村智幸オンブズマンが担当された2022年1月25日付の苦情について調査しない旨の通知書(第2021-92号)について、以下、わたくしの考えるところを述べる。

まず、オンブズマンは「本件苦情申立ては、前回苦情申立てと同様の内容と捉えることができます」と苦情の内容を把握する。そして、「オンブズマンの行為」という所轄外の行為についてオンブズマンが調査を行わないことについて、「オンブズマンの出した結果を再び審理することになると、同じことを何度も繰り返すことになり、いつまでも問題が解決しない」という理由により根拠づける。

しかしながら、「同じことを何度も繰り返す」ことが問題であるとして、先に申し立てた第2021-87号の苦情では「調査をしない旨」が通知されているように、調査は実施されていない。したがって、今回の苦情調査を行ったとしても、「同じことを繰り返す」ことにはならない。

また、「オンブズマンの出した結果を再び審理する」ことをオンブズマンは問題視するが、ここでいう「結果」が第2021-87号の苦情を「調査をしない」というオンブズマンの対応であるとするならば、今回の調査は第2021-87号の調査終了後になされた「初回」の苦情申立てであり、「結果を再び」調査することにはなるわけではない。のみならず、オンブズマンが把握した本件苦情の内容は、「前回苦情申立てと同様の内容」なのであり、「調査をしない」という前回苦情に対するオンブズマンの対応について苦情が申し立てられたと、オンブズマンが把握しているわけでもない。

この点、電話照会に対応したオンブズマン事務局の小早川氏から、「第2021-87号を担当したオンブズマンが調査しないと判断した内容と、今回申し立てられた苦情の内容は同様のものであり、同じことを繰り返すことになる」という説明を受けた(とわたくしは理解した)。そうだとすると、苦情内容の「同一性」を理由として調査をしないということを意味している。したがって、苦情について調査しない旨の通知書(第2021-92号)に記載されたように、第2021-87号において、苦情について調査しないという「オンブズマンの出した結果」について、再び審理することになるわけではない。

このように、苦情について調査しない旨の通知書(第2021-92号)は、オンブズマンが把握する苦情の内容と、調査しない理由との間に齟齬があると言わざるを得ない。

以上の次第で、今回の苦情についてオンブズマンが調査を実施しないならば、第2021-87号の調査において「調査しない」と判断した、「オンブズマンの行為」についての苦情であり、条例が規定する調査対象外の事項である旨の理由づけをすることが、直接かつ適切な事案の処理であったと思われる。


以上