2022/02/21

オンブズマン再任(2022年)

2022年2月21日、以下の議案が札幌市議会に提出され、同日、議会の同意を得た。これにより、原俊彦氏(大学名誉教授)がオンブズマンとして2期目の委嘱がなされ(任期は2024年2月29日まで)、2022年3月1日以降も引き続き1年間、八木橋真紀子氏(オンブズマン2期目2年目・民事調停委員)、田村智幸氏(オンブズマン1期目2年目・弁護士)と3名の体制で、札幌市オンブズマンの職務が遂行される。


ところで、当ブログ開設者は、原俊彦氏のオンブズマン1期目の「功績」は、オンブズマンは安易に調査に着手せず、市民自ら対応できることは自ら行動するという、市民の自律性・主体性の確立を促す一方で、満足に文章を書くこともままならない市民の苦情(※1)については、オンブズマンが調査を実施して手厚く支援するという、新たな札幌市オンブズマン像を打ち出した点にあると考えている。


また、原俊彦氏が調査を実施した案件についても、判断が明らかに間違っていたり、見当が外れている案件が数多ある。そのため、原俊彦氏にオンブズマンを委嘱するのが適切か疑問なしとしないものの(※2)、結果として、市民に対し、安易にオンブズマンを頼ることなく、市民自らの主体的な行動を促すことにつながっている可能性がある。

さらに、市民にとっては、原俊彦氏が何を理解していないかを探求することによって、制度への理解を深めることが期待できるとともに、調査対象となる市の担当部局にとっても、原俊彦氏にも理解できるような説明を心がけることは、市民一般に向けた説明能力の向上をもたらすことが期待できる。

このように、原俊彦氏のオンブズマン1期目の「功績」は、満足な調査をすることままならぬ人物(※3)がオンブズマンに委嘱されると、かえって、市民の主体的な行動を促すのみならず、市民が制度への理解を深めたり、市の担当部局が市民に向けた説明を改善する等の効果をもたらす可能性が浮き彫りになったことである。

もっとも、このような原俊彦氏の「功績」は、オンブズマンに期待される役割が適切に果たされた成果といえるのかということや、原俊彦氏の「功績」が支払われたオンブズマン報酬・月額55万円×24か月の総額1,320万円(税引前)に釣り合っているかについては、別途検討の必要性がある。ただし、他の人物にオンブズマンに委嘱していたならばより多くの成果がえられたという保障はなく、市民としては、札幌市が上記の額を負担することについては、甘受せざるをえないように思われる。

当ブログ開設者はこれまで、原俊彦氏を”眠れるオンブズマン”と呼んできた。オンブズマン2期目の原俊彦氏が、これまで同様に眠り続けたとしても、そのことで市民や市の担当部局への効果が期待できるならば、(やむを得ないが)それでよし。三年寝太郎よろしく突然目覚めるや否や、市民のための力仕事に尽力するならば、それもまたよし、である。オンブズマン原俊彦氏の2期目から、目を離すことができない。

(※1)
「文章を書くこともままならない市民」というのは、2020年7月28日に当ブログ開設者が苦情申立てのためオンブズマンと面談した際(その案件が、第2020-20号である)、担当の原俊彦オンブズマンが行った発言である。曰く、「オンブズマンとは、ろくに文章を書くこともままならない市民が利用する制度」であるそうだ。
 ただし、後日オンブズマン事務局に照会した回答によると、「そのような発言をした事実は確認できなかった」との由。原俊彦オンブズマンが自己の発言を記憶する能力を欠くか、適切さを欠く発言であることがあまりにも明らかであるため、発言した事実を否定せざるを得なかったかのいずれかであろう。

(※2)
各月の公開分を紹介する際、原俊彦氏の担当案件を含めて、各案件の看過できない問題点を指摘してきた。このほか、原俊彦氏のオンブズマンとしての適格性については、第2021-87号及び第2021-92号の「苦情申立ての趣旨」も参照されたい。

(※3)「満足な調査をすることままならぬ人物」とは、いうまでもないことだが、「文章を書くこともままならない市民」という原俊彦氏の発言に対する当てこすりである。こうしたオンブズマンでも適切な調査が実施できるように、場合によっては、苦情申立人自らオンブズマンに対し、噛んで含めるような説明をすることが必要かもしれない。

2022/02/19

2022年1月に調査を終了したケース

 2022年2月1日、同年1月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、2022年2月14日付で一部公開決定がなされた。

上記の期間(2022年1月)に調査を終了したのは9件で、このうち4件で調査結果が通知されている。また、残る5件のうち3件は調査をしない旨が通知され、2件は申立人の取り下げによる調査中止により、調査が終了している。

さて、今回の公開された案件のうち、最も興味深いのは、札幌市文化芸術活動再開支援事業の支援金についての苦情(第2021-75号)である。事業の詳細は、札幌市の担当部局(市民文化局文化部文化振興課)のサイト及び同事業の事務局のサイトで確認して頂くとして、
札幌市がこのような「文化芸術活動の復興」を目的とする事業を実施していることに驚いた。

ところで、この案件では、支援金の交付決定通知を受けているにもかかわらず、事後的に決定が誤りであったとして、支援金が支給されなかったことについて苦情が申し立てられた。その後、オンブズマンによる調査の過程で、支援金の支払いがなされるに至っており、その限りでは、めでたし、めでたしである。

しかしながら、この調査では、①支援金の支払い先が実演や展示のイベントが開催される施設であること(したがって、本件の苦情申立てを行ったのはイベントの主催者であると思われるが、支援金の直接の支払先ではない)、②申請から支払いに至るプロセスが、申請→支援金交付決定→イベント終了後の実績報告→支援金の支払い、となること、③イベントの主催者が手続きを行う相手方は施設であること、④施設が市(実際は委託先の事務局)に申請を行うとともに、前述したように支援金の支払い先となること等、支援金支払いの制度枠組みについての説明が必ずしも十分ではない。

そのためでもあるのか、オンブズマン判断は、支援金交付決定が適切になされたかについて論ずる一方で、いったん交付決定を行った支援金を事後的に支給しないことの当否については、全く論じられていない。すなわち、交付決定に問題があったとしても、そのことが直ちに交付決定後の支援金不支給を正当化することにはならない、という視点が完全に欠落しているということである。

つまり、交付決定後に交付金を支給しないならば、交付決定自体を取り消したり、実績報告後になされる実際の交付金の支給額を0円として決定する等、次のステップの手続きが必要になるはずである。したがって、この案件では、すでに交付決定がなされている以上、もともとの交付決定が適切でなかったとすれば、その後始末をどのようにつけるのが適切であるかが論じられる必要がある。この点が論じられてはじめて、将来的な改善策として、そもそもの交付決定が適切になされるための方策が論じられるべきであろう。

もっとも、この案件を担当したのは、原俊彦オンブズマンである。今回紹介する別件の苦情(いずれも当ブログ開設者が申し立てた案件)、第2021-87号及び第2021-92号では、いずれも具体的なオンブズマン名は記されていないものの、原俊彦オンブズマンがいかにオンブズマンとしての適格性を欠くのか、申立人の主張が苦情申立ての趣旨において滾々と繰り広げられている。この第2021-75号も、オンブズマンとしての適格性に疑問を抱かせるエピソードの一つに位置づけることができるもしれない.

このほか、第2021-92号における「調査しない」という判断の理由づけが適切ではない旨、このエントリーで論じている。あわせて参照していただけると幸いである。

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①第2021-73号
 生活保護の受給者が、通院のための自動車の利用を認めないという判断およびそのことに伴う市職員の一連の対応に納得がいかないとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

②第2021-75号
 コンサートの実施に当たり、札幌市文化芸術活動再開支援事業の支援金を申請し、いったんは交付決定通知を受けたが、コンサート実施後に他の助成金を受給していることを理由として支援金が支給されなかったことについて、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

③第2021-76号
 生活保護受給者が、担当ケースワーカーが保護停止の事例を挙げて不安をあおる等の対応をすることが不満であり、担当者の交代を求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

④第2021-78号
 有料道路障害者割引の適用を受けるために必要な車載器番号が変更されたにもかかわらず、割引申請の更新の都度、市の担当者が旧番号を申請書類に記載したために長らく割引を受けてこられなかったとして、この間の経緯の説明を求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑤第2021-80号
 シルバー人材センターの派遣事業として児童館に派遣された申立人が館長からパワハラを受け、そのことについて市の担当課に対処を求めたにもかかわらず、引き続き就労できるよう働きかける等の十分な対応がなされないとして、苦情が申し立てられたケース。その後、申立人による苦情申立ての取り下げにより、調査は中止されている。(担当オンブズマン:原俊彦)

⑥第2021-87号
 2022年2月末をもって1期目の任期を満了するオンブズマンについて2期目の任用予定の有無を照会したところ、任用予定をブラックボックス化した回答しかなされなかったとして、手続きをブラックボックス化する理由の説明を求めて苦情が申し立てられたケース。苦情について調査しない旨が通知され、調査は終了している。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

⑦第2021-88号
 滞納していた国民健康保険の保険料について、就職したことにより毎月の賃金から天引きされると思っていたが、その後、滞納分の保険料について一括納付を求められたことを契機として、滞納分の取扱いについて職員から適切な説明がなされたなかったこと等について、苦情が申し立てられたケース。その後、申立人の苦情取り下げにより、調査は中止されている。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑧第2021-92号
 2022年2月末で任期を満了するオンブズマンについて、2期目の任用予定の存否及び委嘱過程をブラックボックス化する理由の説明を求めて苦情が申し立てられたケース。苦情について調査しない旨が通知され、調査は終了している。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑨第2021-93号
 市が行った違法建築物の調査について、調査結果及び調査内容について報告してほしいとして、苦情が申し立てられたケース。苦情について調査しない旨が通知され、調査は終了しているた。(担当オンブズマン:原俊彦)

2022/01/28

苦情について調査しない旨の通知書(第2021-92号)及びオンブズマン調査のあり方についての意見書

 思うところあって、札幌市オンブズマンに苦情を申し立てた(2件)ところ、いずれも、「苦情について調査しない旨の通知書」が送付されてきた。どのような苦情を申し立てたかについては、2022年1月に調査を終了した案件についての公文書公開を受けた際、紹介するとして(ここで紹介)、今回申し立てた苦情のうちの1件及びオンブズマン調査のあり方について、当ブログ開設者の考えるところを札幌市オンブズマン室宛に送信した。以下、その本文を紹介する。


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1 オンブズマンの独立性及び公正中立性について

一般に「オンブズマン」の制度においては(ここでいうオンブズマンとは、いわゆる民間のオンブズマンのことではなく、行政オンブズマン、議会オンブズマン等の「公的オンブズマン」を想定している)、オンブズマンは、独立の地位で公正中立の立場から調査を実施するのであり、その活動は何人からも干渉・介入されてはならない。このことは、札幌市オンブズマンの制度についても同様であり、オンブズマンが独立の地位であるために、「オンブズマンの行為」が事後的にオンブズマンによる調査対象にもならない(札幌市オンブズマン条例3条6号)ことが規定されている。

また、ここでいう「オンブズマンの行為」とは、元々はオンブズマンが申立人と面談した際の対応のように、①オンブズマンの具体的な言動を指していたと思われるが、現在の札幌市オンブズマン制度の運用においては、調査結果や調査を実施しない等判断等、②オンブズマンの調査活動も含む概念であると理解されているようである。

ところで、札幌市においてオンブズマンの委嘱を受けた者は、自らの自覚と責任の下、オンブズマン条例の定める目的実現のため、その職務に精励することが期待されている。そのために、①オンブズマンの(オンブズマンによっても干渉されない)活動領域はどの程度まで確保されるべきか、その前提として、②オンブズマンが中立性を確保できる活動領域の限界について、原理原則に即した検討が必要になると思われる(ここではとりわけ、オンブズマン事務局との関係を想定している)。


2 申立人による再度の苦情申立てについて

札幌市オンブズマン条例は、オンブズマンの職務について、「市の業務に関する苦情の申立てを受け付け、簡易迅速に処理すること」(4条1号)を規定する。この規定は、オンブズマンが簡易迅速に苦情を処理する必要上、申立人が同一の苦情について再度の申立てをすることを認めない根拠となりうると思われる。

すなわち、オンブズマンが苦情を簡易迅速に処理する必要上、申立人は同一の苦情について申し立てをすることができるのは1度限りであり、いったんオンブズマンが調査結果を通した場合には、実質的に同一の苦情申立てについては、「申立ての原因となった事実についての利害を有しない」(札幌市オンブズマン条例16条1項1号)と判断するわけである。

ただし、それはあくまで、「同一の苦情」について申し立てられた場合についてであり、調査が終了した後、新たな事情の下、苦情を申し立てることが妨げられるものではない。

そして、この「苦情申立て1回制の原則」とでも呼ぶべき取扱いは、オンブズマンが調査結果を通知したケース及びオンブズマンが調査結果と通知しなかったそれぞれのケースにおいて、以下のような根拠づけられる。

(1)オンブズマンが調査結果を通知したケース

オンブズマンが調査結果を通知したケースにおいては、①オンブズマンの行為該当性と②申立人の利害の存否という、二つの論点から、調査を実施しないという判断を根拠づけることができる。

まず、①オンブズマンの行為該当性についてである。この論点は、オンブズマンが実施した調査結果に納得がいかないとして再度苦情が申し立てられたケースについて処理する場合の正当化根拠である。この場合、オンブズマンが実施した調査という「オンブズマンの行為」(札幌市オンブズマン条例3条6号)に該当する苦情であるとして、オンブズマンの所轄外の事項に該当すると判断することになる。したがって、この場合には「再度」の苦情申立てではなく、「新たな苦情」という側面に着目しての処理となる。

次に、②申立人の利害の存否である。この論点は、調査結果に対する不満であることが必ずしも明確でない苦情の場合には、調査結果を通知した苦情と実質的に同一の苦情が申し立てられているならば、「苦情申立て1回制の原則」から、「申立ての原因となった事実についての利害を有しない」(札幌市オンブズマン条例16条1項1号)として、オンブズマンによる調査対象外の事項に該当すると判断することになる。

なお、①オンブズマンの行為該当性と②申立人の利害の存否の両者は必ずしも排他的な関係ではない。申立人がオンブズマンの調査について不満を抱き苦情を申し立てたが、終了した調査と実質的に同一の苦情であり、再度苦情を申し立てる「利害」も存しないということは、十分に考えられる。

この場合には、いずれかの理由を選択するか、双方の理由によって、調査しない旨を根拠づけることになる。

(2)オンブズマンが調査結果を通知しなかったケース

オンブズマンが調査結果を通知しなかった場合には、②申立人の利害の存否について「苦情申立て1回制の原則」により、再度苦情を申し立てる利害が失われたと結論づけることには困難である。なぜならば、申立人による苦情申し立ては、オンブズマンから調査結果を通知されることを前提になされるのであり、オンブズマンが調査を実施しない「事実」に関しては、なお申立人の「利害」は失われていないと評価できるからである。

この場合、申立人の苦情において、オンブズマンが調査を実施しなかったということへの不服が明確に示されているならば、①オンブズマンの行為該当性を理由として、オンブズマンの所轄外の事項に該当すると判断することになる。

これに対し、調査を実施しなかったことへの不満であることが必ずしも明確でない苦情の場合には、調査結果を通知せずに調査を終了した苦情と実質的に同一の苦情であるならば、調査結果を通知せずに調査を終了した苦情と同一の理由により、再度、調査を終了することになる。

なお、このような対応は、「オンブズマンが同じことを繰り返すこと」が、オンブズマンが調査を実施しない理由とはならないことを意味している。

以上の次第で、申立人から再度の苦情申立てがなされた場合、すでに終了している調査において調査結果が通知されているか否かにより、取扱いに差が生じることになる。これは、「申立ての原因となった事実」には、オンブズマンが調査結果を通知したか否かという事情を含めて考えることを意味している。


3 第2021-92号の案件処理について

田村智幸オンブズマンが担当された2022年1月25日付の苦情について調査しない旨の通知書(第2021-92号)について、以下、わたくしの考えるところを述べる。

まず、オンブズマンは「本件苦情申立ては、前回苦情申立てと同様の内容と捉えることができます」と苦情の内容を把握する。そして、「オンブズマンの行為」という所轄外の行為についてオンブズマンが調査を行わないことについて、「オンブズマンの出した結果を再び審理することになると、同じことを何度も繰り返すことになり、いつまでも問題が解決しない」という理由により根拠づける。

しかしながら、「同じことを何度も繰り返す」ことが問題であるとして、先に申し立てた第2021-87号の苦情では「調査をしない旨」が通知されているように、調査は実施されていない。したがって、今回の苦情調査を行ったとしても、「同じことを繰り返す」ことにはならない。

また、「オンブズマンの出した結果を再び審理する」ことをオンブズマンは問題視するが、ここでいう「結果」が第2021-87号の苦情を「調査をしない」というオンブズマンの対応であるとするならば、今回の調査は第2021-87号の調査終了後になされた「初回」の苦情申立てであり、「結果を再び」調査することにはなるわけではない。のみならず、オンブズマンが把握した本件苦情の内容は、「前回苦情申立てと同様の内容」なのであり、「調査をしない」という前回苦情に対するオンブズマンの対応について苦情が申し立てられたと、オンブズマンが把握しているわけでもない。

この点、電話照会に対応したオンブズマン事務局の小早川氏から、「第2021-87号を担当したオンブズマンが調査しないと判断した内容と、今回申し立てられた苦情の内容は同様のものであり、同じことを繰り返すことになる」という説明を受けた(とわたくしは理解した)。そうだとすると、苦情内容の「同一性」を理由として調査をしないということを意味している。したがって、苦情について調査しない旨の通知書(第2021-92号)に記載されたように、第2021-87号において、苦情について調査しないという「オンブズマンの出した結果」について、再び審理することになるわけではない。

このように、苦情について調査しない旨の通知書(第2021-92号)は、オンブズマンが把握する苦情の内容と、調査しない理由との間に齟齬があると言わざるを得ない。

以上の次第で、今回の苦情についてオンブズマンが調査を実施しないならば、第2021-87号の調査において「調査しない」と判断した、「オンブズマンの行為」についての苦情であり、条例が規定する調査対象外の事項である旨の理由づけをすることが、直接かつ適切な事案の処理であったと思われる。


以上


2022/01/20

2021年12月に調査を終了したケース

 2022年1月1日、前年12月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、2022年1月17日付で一部公開決定がなされた。

上記の期間(2021年12月)に調査を終了したのは12件で、このうち7件で調査結果が通知されている。また、残る5件のうち3件は調査をしない旨が通知され調査を終了し、1件は申立人の取り下げ、1件は申立人の取り下げによる調査中止により、調査が終了している。

さて、今回の交付分は、読みごたえのある案件が数多く見られた。なかでも、田村智幸オンブズマンの担当分は、調査の「前提」として、オンブズマンが何を調査するのか明確にしたうえで、実体的な中身を判断している。「田村スタイル」とでも呼ぶべきこうした調査スタイルは、すでに第2021-27号の調査(この案件は、新幹線のトンネル工事の汚染土の処理についての住民に向けた説明のあり方に関する苦情である)でも見られたところであるが、札幌市オンブズマンの調査のあり方として望ましいものであると、当ブログ開設者
は考えている。

とりわけ、自立支援医療の診療報酬に関する案件の第2021-59号は、市が指定医療機関に対し、法令に基づいていかなる権限が認められているかという「制度」の概要を丹念に確認している。このような調査は、「制度ベース」の調査とでも呼ぶことができようか。そして、「制度ベース」の調査で確認した内容は、今後の調査(今回の調査の内容であれば、自立支援医療に関する苦情が申し立てられた場合)において、調査担当者が制度を理解する助けになると思われる。

のみならず、「制度ベース」の調査で得られた成果は、単に申立人の苦情を表面的になぞる「苦情ベース」の調査の場合と異なり、調査対象部局にとっても、市民に向けた制度説明のテンプレートとして活用できる可能性を秘めている。札幌市オンブズマン制度のあり方として、「制度ベース」の調査スタイル(「田村スタイル」はその一例である)が広く定着することを期待したい。

次に、第2021-77号は、市立札幌病院で妻が出産した申立人による面会が制限されていることについての苦情である。この申立人はおそらく、第2021-72号の申立人と同一人物であると思われる(この案件は、面会が制限される理由について説明を受けられないという苦情であった)が、第2021-72号と同様に「調査しない旨」が通知されている(第2021-72号の調査を実施しなかったことの適否については、このエントリーで言及している)。

この案件では、先に申し立てられた苦情(第2021−72号)を調査しなかった以上、面会制限自体に関する今回の苦情(第2021-77号)についても調査しないと判断したのであろう思われる。しかしながら、札幌市オンブズマン条例は、「オンブズマンは、専門的又は技術的な事項について、特に必要があると認めるときは、専門的機関に対し、調査、鑑定、分析等の依頼をすることができる」(19条3項)と規定している。したがって、オンブズマンが専門的知見を有さないとしても、そのことだけでは、調査を実施しない理由とはならないであろう(ただし、この点は第2021-72号も同様)。

また、こうした場合、オンブズマンが医療機関の専門的な対応についての判断はできないとしても、なお、医療機関がどのような説明をしているか、調査結果通知書に記載することで、申立人に取り次ぐことはできるであろう。この点、オンブズマンは「判断」を示すことが役割であると考えているならば、そうした呪縛から解放される必要があるのかもしれない。

ところで、この案件を担当したオンブズマンは、申立人がその他の病院と市立札幌病院の対応の違いを主張していることに対し、「その他の病院は市の機関ではない」として、オンブズマンの所轄事項ではないと判断している。

しかしながら、この案件は、「その他の病院」の対応について申し立てられた苦情ではなく、市の機関たる市立札幌病院の対応についての苦情である。このような場合、その他の病院の対応は、市立札幌病院の対応の当否を検討する上で、考慮要素の一つとなると思われる。したがって、その他の病院が「市の機関ではない」ことを理由として調査を実施しないことは、オンブズマンがオンブズマンの所轄事項についての理解を欠くか、単に手抜きをしたかのいずれかであると思われる。

このほか、新型コロナワクチン接種の問合せセンター(第2021-67号)や、マイナンバーカードコールセンター(第2021-71号)の対応について、苦情が申し立てられているのが興味深い。いずれのケースも、市民向けの電話対応を委託した民間業者の対応についての苦情である。これらの苦情をふまえ、市には今後、①市民向けの説明のあり方や、②市と委託業者間の連携のあり方等、共通すると思われる課題について、部局を超えての情報共有を期待したい。

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①第2021-29号
 生活保護の受給者が、担当ケースワーカーが交代すると聞いて新担当ケースワーカーに電話したが、その際の対応に納得がいかないとして、苦情が申し立てられたケース。オンブズマンとの面談を希望していたが、体調が回復しないとして、いったん苦情申し立てが取り下げられた。(担当オンブズマン:田村智幸)

②第2021-58号
 生活保護受給者が、市営住宅の駐車場を解約した際の還付金、子どもが部活動で使用する物品の購入代金、過去に保護を受給していた際の過払い金の返還、交通事故の事故報告書の提出等、担当ケースワーカーの対応がきついとして、ケースワーカーの交代を求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

③第2021-59号
 自立支援医療の指定医療機関による診療報酬の取扱いが適正ではないとして市の担当部局に対応を求めているにもかかわらず、指定医療機関に対し適切な権限行使がなされていないとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

④第2021-67号
 新型コロナワクチンの接種券を申し込んだにもかかわらず届かないため、再三にわたり問い合わせをしたにもかかわらず、未だに届いていないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑤第2021-68号
 自宅に隣接する建物の消防法令違反について、消防局に対応を求めているにもかかわらず、違反状態が是正されないとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

⑥第2021-69号
 衆議院議員選挙の期日前投票の際にヘルパーとして同伴したが、家族ではないことを理由として投票所への入場を断られたとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑦第2021-70号
 市営住宅の駐車場で隣のスペースに駐車する車の駐車位置を改善することを求め、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

⑧第2021-71号
 マイナンバーカードコールセンターに健康保険証としての利用について問い合わせたが、説明内容が高齢者に対する配慮が欠けているとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

⑨第2021-77号
 市立札幌病院で妻が出産したが、新型コロナ感染症対策を理由として生まれた子どもへの面会が制限されているとして、苦情が申し立てられたケース。調査することが相当でない特別の事情がある等を理由として、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:原俊彦)

⑩第2021-79号
 生活保護受給者が、障害者手帳が郵送されたために適切な障害者加算が受けられなかったとして、苦情が申し立てられたケース。調査開始後申し立てが取り下げられたため、調査中止が通知された。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

⑪第2021-81号
 違法建築物が長年にわたり放置されている件で、市に対応の方針についての回答を求め、苦情が申し立てられたケース。過去に同趣旨の苦情が申し立てられているところ、オンブズマンの行為はオンブズマンの所轄外であるとして、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑫第2021-85号
 金融機関、警察、裁判所等が、申立人個人に関する事項について、申立人の承諾もなく取り扱っているとして、苦情が申し立てられたケース。苦情申し立て内容がオンブズマンの所轄事項に該当しないとして、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:田村智幸)

2021/12/22

2021年11月に調査を終了したケース

 2021年12月1日、同年11月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、同年12月14日付で一部公開決定がなされた。

上記の期間(2021年11月)に調査を終了したのは9件で、このうち6件で調査結果が通知されている。また、残る3件は調査をしない旨が通知され、調査が終了している。

さて、このエントリーはおそらく、2021年最後になると思われる。そこで、今回は公開を受けた案件についてコメントする前に、2021年に「公文書公開制度」をめぐって強く印象に残ったケースについて、言及することにしたい。

当ブログ開設者はこれまで、「公文書公開制度」は、文書に記載された「内容」を明らかにする制度であると考えていた。しかしながら、開示を受けた文書の「形状」も問題になりうるということで、認識を新たにした。すなわち、2021年8月6日に広島で開催された平和祈念式典で、菅義偉首相(当時)が挨拶文の一部を読み飛ばした一件である。

メディアでは、挨拶文の「原稿がのりでくっついてて剝がれなかった」旨の報道もなされたが、その後、公文書公開請求に基づいて公開された挨拶文の「原本」には、糊付けの跡は見られなかったという報道がなされたことは記憶に新しい(【総理の挨拶文】のり付着の痕跡はなかった(上))。公開を受けた挨拶文の原本は、「丁寧で細やかな仕事ぶり」だったそうだ。

ここでは、菅義偉首相(当時)の読み飛ばしを問題にしたいのではない。当ブログ開設者は、挨拶文の原本を作成した担当者の丁寧な仕事ぶり、さらに、式典終了後に挨拶文の「原本」を取得した広島市が、公文書公開請求に基づいて文書を公開したことに、大いに感銘を受けたのである。「こんな情報公開請求ははじめてですよ」と語る広島市職員も、内部で検討の後、挨拶文の「原本」が「公文書」に該当すると判断し、公開に至ったそうだ。

このように、公開を受けた文書の「形状」が、菅義偉首相(当時)があいさつ文を読み飛ばした理由について行った説明に、疑念を生じさせたわけである。「こんなこともあるのか!」と、当ブログ開設者は大いに驚くとともに、あまりに興味深い事態に強い印象が残った次第である。

願わくば、当ブログも読者諸氏にとって、何某かの有益な知見をもたらすものでありたい。今後も、当面は公文書公開請求を継続していくつもりである。もっとも、止めるにしても、年度末の3月終了分まで公開請求するか、翌年度に持ち越した前年度中の申立て分まで請求するか、決めかねているという事情もあるのだが。

次に、今回公開を受けた案件についてである。第2021-72号は、申立人の妻が市立病院で出産したところ、コロナ禍により申立人のみならず、出産した妻も出産した子に会えずにいるという苦情である。調査担当のオンブズマンは「感染対策の当否が判断できない」として、調査することが適当でない特別の事情があることを理由に調査を実施しなかった。

しかしながら、申立人の苦情の趣旨は、「納得のいく説明が受けられない」ということである。したがって、病院が申立人に対し、これまでどのような説明を行ってきたのかという経緯については、必ずしも医学的知見を有さなくとも、調査することは可能であろう。説明自体行っていないのか、説明が不十分なのか、十分に説明をしたが申立人の理解を得られていないのか等々、様々な事情があり得るところ、全く説明が行われていないのであれば、まずは説明するようにとオンブズマンが自らの見解を示すことは、十分可能なはずである。

のみならず、説明内容についても、専門的知見を欠くオンブズマンにとっても、説得力あると感じられるものかどうかという一定の見解を示すことは、高度の専門性を有する医療分野の専門家にとって、専門的知見を有さない市民に向けた説明がいかにあるべきかを検討する一要素になりうると思われる。

この点、当ブログ開設者は、現在の札幌市オンブズマン制度では、苦情申立人が「適切な説明を受ける利益」を過度に軽視していると考えている。この案件における調査しないという判断も、こうした「適切な説明を受ける利益」を軽視していることの反映に他ならないように思われる。

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①第2021-48号
 NPO法人が市の担当課から過度な圧迫、行政指導を受けたことから、NPO法人の理事長や職員が体調を害したとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

②第2021-56号
 生活保護受給者が、保護費返還決定書が届いたものの、自分だけが返還を求められることに納得がいかないとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

③第2021-57号
 生活保護の受給者が、住環境が悪いため転居したいが転居費用が支給されないこと等について、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

④第2021-60号
 日本年金機構から送付された年金振込通知書に記載された後期高齢者医療保険料の特別徴収額と、札幌市から通知された後期高齢者医療保険料の特別徴収額に違いがあることや、同一年度の各期で特別徴収される保険料額に差があることに納得がいかないとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

⑤第2021-61号
 パートナーシップ除雪制度による除雪作業は危険であり、無駄な制度であるとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

⑥第2021-63号
 生活保護受給者が、療養上の理由による転居について保護費の支給が受けられることになったが、保護費の支給日が実際の転居手続に間に合わないこと等について、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

⑦第2021-66号
 生活保護を受給していた叔母が交通事故に遭ったが、加害者が加入していた保険会社から保険金が支払われるまで生活保護の支給が継続したことについて、高額な治療費が税金が財源の生活保護費から支払われてよいものか真実が知りたいとして、苦情が申し立てられたケース。申立の原因となった事実から1年以上の期間が経過しているとして、調査しない旨が通知され、調査は終了している。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑧第2021-72号
 申立人の妻が市立病院で出産したところ、申立人のみならず、出産した妻も出産した子に会えずにいるところ、納得のいく説明をお願いしても全く返事がないとして、苦情が申し立てられたケース。「感染対策の当否が判断できない」ために調査することが適当でない特別の事情があるとして、調査しない旨が通知され、調査は終了している。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑨第2021-74号
 申立人の兄が生活保護を不正に受給している旨を再三保護課に知らせているにもかかわらず、兄に対する生活保護が支給され続けたとして、苦情が申し立てられたケース。申立人の兄に対する生活保護支給について申立人には利害がないとして、調査しない旨が通知され、調査は終了している。(担当オンブズマン:田村智幸)