2025/03/04

2024年12月に調査を終了したケース

 2025年1月1日、2024年12月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、決定期間延長のうえ、2025年2月14日付で一部公開決定がなされた。

上記の期間(2024年12月)に処理が終了したのは5件で、全5件で調査結果が通知された。

今回、公開を受けた案件のうち、もっとも興味深い案件は、国民健康保険料の滞納により差し押さえを受けた際に事前の連絡がなかったとして苦情が申し立てられた第2024-63号である。この案件における市の回答は、法に基づいた適正な業務の執行が行われているか、明確性に欠けるきらいがあると思われる。

すなわち、国民健康保険法79条の2は、「市町村が徴収する保険料・・・(中略)・・・は、地方自治法第231条の3第3項に規定する法律で定める歳入」である旨を規定する。

そして、地方自治法231条の3第3項は、「普通地方公共団体の歳入(以下この項及び次条第一項において「分担金等」という。)につき第一項の規定による督促を受けた者が同項の規定により指定された期限までにその納付すべき金額を納付しないときは、当該分担金等並びに当該分担金等に係る前項の手数料及び延滞金について、地方税の滞納処分の例により処分することができる」旨が規定されている。

さらに、同条1項は、「普通地方公共団体の歳入を納期限までに納付しない者があるときは、普通地方公共団体の長は、期限を指定してこれを督促しなければならない」旨規定し、地方税法は一般に「滞納者が督促を受け、その督促状を発した日から起算して十日を経過した日までにその督促に係る・・・(中略)・・・地方団体の徴収金を完納しないとき」には、「滞納者の財産を差し押えなければならない」旨を規定しているのである。

なお、地方税法は一般に「納期限後二十日以内に、督促状を発しなければならない」ことを規定するところ、札幌市国民健康保険条例では、「納期限後30日以内までに督促状を発しなければならない」とされている(同条例21条)。

以上の次第で、徴収金の滞納者が督促を受けてもなお徴収金を完納しない場合、「滞納者の財産を差し押さえなければならない」というのが法令の規定である。

ところが、市の回答では、「差押えという強力な権限の行使にあたっては、滞納者の実情を踏まえ、合理的な判断の下、適切に行う必要があ」(る)とともに、「「差押えをしなければならない日」を迎えたすべての滞納者に対し差押えをすることは非現実的でもある」という説明がなされるのみである。

本来ならば、督促後の財産差押えが法令上義務づけられている以上、その義務の履行しないことが正当化されるためには法令上の根拠が必要になると思われるのだが、市の回答ではこの点の説明が欠けているわけである。

この点、思い出されるのが、市税を滞納し「差押通知書」の送付を受けた申立人が苦情を申し立てた第2023-4号である。この案件では、「申立人に納付誠意がないと判断し、財産の差押えをすべく、最終通告として・・・(中略)・・・差押予告書・・・(中略)・・・を申立人に発送」したという市の回答がなされている。

この回答を契機として、当ブログ開設者は、徴収金の滞納者に「納付誠意」がある場合には、地方税法が規定する「換価の猶予」(同法15条の5(職権)及び同法15条の6(申請))を適用している可能性があると考えるようになった。

そうすると、本件の国民健康保険法の場合も同様に、督促後に徴収金が期限までに納付されずに「滞納者の財産を差し押さえなければならない」はずのケースにおいて、職権で「換価の猶予」がなされている可能性があると思われる。

ただし、前述の第2023-4号及び本件・第2024-63号のいずれの案件においても、直ちに差押えに踏み切らない取扱いが地方税法の定める「換価の猶予」である旨の市の回答がなされているわけではない。当ブログ開設者が市の回答は明確性に欠けると感じる所以である。

また、「換価の猶予」はその期間の上限が1年とされるなど厳格な要件が定められている(地方税法15条の5第1項及び同法15条の6第1項)ことから、これらの要件を潜脱すべく法令に定めのない「事実上の運用」がなされている可能性もある(「換価の猶予」については過去にこのエントリーでも言及した)。

-------------------------------------------------------------------------------------------------

①第2024-56号
 自宅とは別に所有する土地・建物が面する道路を建築基準法42条2項に規定する道路として指定することを求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)


②第2024-57号
 スポットクーラーの購入費用を保護費として支給することを検討しないという保護下の説明に納得がいかないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

③第2024-59号
 申立人が居住するマンション前の歩道が通学路となっているため市に歩道を除雪するよう求めたところ、今季は車道への影響を見ることとし来季に判断するという電話での回答があったが、文書での回答がなされておらず、回答内容にも疑義があるとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:梶井祥子)

④第2024-60号
 市から路線測量の業務を受託した事業者が業務外の古タイヤ片付け作業を行ったにも関わらず委託業務成績評定の標定点が低かったことに納得がいかないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑤第2024-63号
 国民健康保険の保険料を滞納していた申立人がこれまで納付相談をしてきたにもかかわらず、事前連絡もなく預金口座を差し押さえられたとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:梶井祥子)

2025/02/28

新オンブズマン就任(2025年)

2025年2月28日、以下の議案が札幌市議会に提出され、同日、議会の同意を得た。これにより、新たに樋川恒一氏(弁護士)がオンブズマンに就任するとともに、神谷奈保子氏(民事調停委員)が再任された。樋川氏は、2021年3月にオンブズマンに就任した田村智幸氏(弁護士)の後任である。

これにより、2025年3月1日以降は、2024年3月1日に就任したオンブズマン1期目の梶井祥子氏(大学教授)とあわせ、3名体制で札幌市オンブズマンの職務が遂行されることになる。

ところで、樋川氏は北海道労働委員会公益委員を務めていた経歴がある。「不当労働行為」の審査をするのが労働委員会の役割の一つであるところ、使用者の正当な理由のない団体交渉拒否は「不当労働行為」である。その際、適切な説明を行わない「不誠実交渉」もそれに当たるとされている。

こうした制度において委員を務めていた樋川氏の経歴からすると、オンブズマンの職務を遂行するうえで、「市民が適切な説明を受ける利益」について意を配ることができるのではないかと、当ブログ開設者は期待する。

なお、上記の「市民が適切な説明を受ける利益」とは、適切なタイミングに適切な内容の説明を受けることであると当ブログ開設者は考えている。また、内容の適切さについては、その取扱がどのような法的根拠に基づいているのか(「法律(条例)に基づく行政の原理」)、さらに、その取扱が他の事例と比較しておかしな点はないか(「法の下の平等(憲法14条)」)という観点からチェックしてこそ、法律専門家たる弁護士の肩書を持つオンブズマンの面目躍如と考えている。

この点、前任の田村智幸氏は弁護士としての強みを発揮することができなかったきらいがあるかもしれない。たとえば、児童扶養手当の支払が一時差しとめされたことに対する苦情(第2023-6
)において、「別生計であることを確認する前に職権で直ちに支給停止できることについては、明確な法令上の根拠や規定を見出すことはできませんでした」として、法的根拠を明らかにすることをしなかった。

しかしながら、児童扶養手当法15条は届出義務懈怠時の手当の支払の一時差しとめを規定する。田村智幸氏は、「オンブズマンとしては、職権で直ちに支給停止できることについて、法令上の根拠に基づいて行われていることの説明を得たかった」という泣き言もこぼしているが、このような対応は、「法令に精通しなければならない」(弁護士法2条参照)はずの弁護士の法律専門家としての信用や品位を毀損する(弁護士法56条1項参照)おそれがあると当ブログ開設者は考えている。

もっとも、前々任の房川樹芳氏も、市が管理する街路灯の安全対策についての発意調査(第2020-発1号)では、参照条文等に「法令」を示していない。したがって、弁護士の肩書を有するオンブズマンのうち、田村智幸氏だけがことさらに法令上の根拠を明示していない、というわけではないことは指摘しておくべきであろう。樋川氏が同じ轍を踏まないことを望む次第である。



2025/01/29

2024年11月に調査を終了したケース

 2024年12月1日、同年11月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、決定期間延長のうえ、2025年1月9日付で一部公開決定がなされた。

上記の期間(2024年11月)に処理が終了したのは8件で、このうち5件で調査結果が通知された。また、残る3件のうち2件は調査しない旨が通知され、1件は苦情申立てが取り下げられた。

今回、公開を受けた案件のうちもっとも興味深い案件は、児童手当の申請手続きについての周知が不十分であるとして苦情が申し立てられた第2024-52号である。

この案件の申立人は、「所得上限限度額」を超過したため2022年度から児童手当の受給資格を喪失していたが、所得額が減ったために2024年度から児童手当が再度支給されると考えていた模様である。しかし、10月になっても何の通知もないことから区役所に問い合わせたところ、6月に申請が必要であった旨の説明を受けたため、申請が必要である旨対象者に通知するべきであるとして苦情が申し立てられた。

ところで、児童手当の支給を受けようとするときは、住所地の市町村長の認定を受けなければならず(児童手当法7条1項)、認定を受けた場合には、認定の請求をした日の属する月の翌月から児童手当が支給されることになる(同法8条2項)。そして、この案件の申立人は、「認定の請求」をしていなかったことから児童手当が支給されなかったわけである。

しかし、話はそれだけでは終わらない。児童手当は2024年10月から「所得上限限度額」を撤廃する等の制度改正がなされることになった(くわしくはこのサイトを参照されたい)。そのため札幌市では、「申請が必要と思われる方へのご案内」を新たに支給要件に該当する可能性がある者に対し発送したところ、申立人はこの案内を受けて申請を行ったことから、2024年9月分から児童手当が支給されることになった。

めでたし、めでたし・・・・、ではない。申立人は「たまたま」制度改正に伴う案内が送付されたために児童手当の請求につながったが、仮に制度改正がなければ、そのまま請求しないままだった可能性はじゅうぶんにある。

これに対し、市は受給資格を失った者については所得調査の同意を得ておらず、個別に申請勧奨を行うことはできない旨の説明をする。しかし、今般の制度改正に際しては新たに支給要件に該当する可能性があれば「申請が必要と思われる方へのご案内」を発送しているのであり、必ずしも説得的な説明とは思われない。

この点、市は通常の制度運用時には「法の不知を法は保護せず」の原則に忠実に申請の必要性について個別の案内はしない(ただし、資格喪失時の通知にはその旨の記載あり)一方で、制度改正時には(申請の必要性を含む)制度周知の必要性があると考えているのかもしれない。

しかし、今般の制度改正にともなう案内が発送されたことで、本件の申立人のように児童手当の認定請求をしていなかった者からの申請につながったならば、通常の制度運用時における制度の周知方法について、なお検討の必要性があることを示唆しているように思われる。

以上の次第で、この案件は市民に向けた制度や手続きの周知のあり方を考える上で興味深い材料であると当ブログ開設者は考えている。

そのほかの事案では、第2024-48号において申立人が自らを「善良な札幌市民」と称していることが目を引いた。今後、当ブログ開設者が札幌市に問い合わせをする際には、「口うるさくて煩わしい市民からの問い合わせで恐縮ですが」と一言断るべきか、現在、思案しているところである。

-------------------------------------------------------------------------------------------------

①第2024-48号
 長きにわたり市民の声を聞く課に対し多数の要望をしてきた申立人が、同課から問題人物として警察に通報されたことをはじめとする一連の対応について納得できないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

②第2024-50号
 図書館で予約した図書の取り置き期限の延長が認められずに予約が取り消されたことに納得がいかないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:梶井祥子)

③第2024-51号
 自宅に隣接する市有地の桜の木の枝が越境する等管理が不十分であるとして対応を求めたにもかかわらず十分な対応がなされないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

④第2024-52号
 所得制限のため支給停止となっていた児童手当を再度受給するには申請が必要であるということであるが、申請が必要である旨の案内が不十分であるとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑤第2024-54号
 申立人に断りもなく窓口で対応した職員が申立人の障害者手帳にセロハンテープを貼ったことを契機として手帳が破損したとして、手帳の修復を求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:梶井祥子)

⑥第2024-58号
 町内会の活動実態が不明で会計報告もなされていないところ、市の担当部署に相談しても「町内会は自治組織であり町内会組織へ踏み込んだ調査及び指導ができない」という回答であったとして苦情が申し立てられたケース。本件申し立てが「市の直接的な機関でない町内会への苦情」であるとして調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:梶井祥子)

⑦第2024-62号
 自宅畑の横に産業廃棄物処理業者が廃棄物を堆積しているとして担当課に指導を要望した際には対応する旨の回答を得たがその後も改善されないとして苦情が申し立てられたケース。申立後に再度担当課に確認したところ業者に指導する旨の回答を得たとして、苦情申し立てが取り下げられた。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

⑧第2024-65号
 第2024-50号の申立人が当該調査が不十分であるとして再度の調査を求めて苦情が申し立てられたケース。「オンブズマンの行為に関する事項」はオンブズマンの所轄外であり、一度オンブズマンが行った調査は再調査できないとして調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:梶井祥子)

2024/12/23

2024年10月に調査を終了したケース

 2024年11月1日、同年10月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、決定期間延長のうえ、同年12月13日付で一部公開決定がなされた。

上記の期間(2024年10月)に処理が終了したのは7件で、このうち3件で調査結果が通知された。また、残る4件のうち3件は調査しない旨が通知され、1件は苦情申立てが取り下げられた。

今回、公開を受けた案件のうち、調査しない旨が通知されたのは3件であるが、そのうち2件は課題を残す内容であると当ブログ開設者は考えている。いずれも調査担当オンブズマンは田村智幸である。

まずは第2024-46号である。この案件は、聴覚過敏の申立人がいくつかの生活局面において音の大きさによる被害を受けているとして苦情が申し立てられた案件である。調査担当オンブズマンは申立人の苦情のうち、信号機の音については警察の管轄であり、公園のスピーカーから流れる放送についてはそのような放送をしている事実はなく、利用者の利用者のラジオの音声と思われるとして、「市の機関の業務に関する事項」に該当しないと判断した。

問題は、区役所窓口での呼出番号音声についてである。障害者差別解消法7条2項は行政機関等に「合理的配慮」を義務づけるとともに、札幌市においても同法10条の規定に基づき、「共生社会の実現に向けた札幌市職員の接遇要領」(pdf)を定め、同要領3条は「合理的配慮の不提供をしてはならない」旨を規定する。

このような前提にたてば、本件においては聴覚過敏の申立人に対し、どのような「合理的配慮」が可能であるか、オンブズマンは調査してしかるべきであったと思われる。この点、内閣府障害者施策担当による「障害者差別解消法【合理的配慮の提供等事例集】」においても、聴覚過敏の市民に対する行政対応の事例が紹介されている(54頁(ファイル59頁)・pdf)。当ブログ開設者は、札幌市においてもなんらかの「合理的配慮」が可能なのではないかと考えている。

しかしながら、残念なことに調査担当オンブズマン田村智幸は申立人への「合理的配慮」という発想を欠いたようだ。以下の理由により調査を実施しなかった。長くなるが引用する。

「本件は、申立人個人に対する市の仕事や業務に関わることでなく、■区役所の設備やサービスを問題としています。そして、それは■区役所の設備やサービスのみの問題にとどまらず、市全体の受付業務体制や施設構造に関わる問題です。
 社会には、老若男女、病気や障がいなど様々な事情を抱えて暮らしている方がおり、一般的に、公共の施設やサービスでは、あらゆる人が必要な情報を得られるよう配慮されなければなりません。申立人が提案するように現在の音声案内をなくしてしまうと、一方で困る方もいます。こういった問題をどのように解決していくかは、共生社会を目指す市の施策をもって取り組まれるべきものであると考えます。
 以上を総合すると、この点について、オンブズマンが個別具体的な利害として取り扱うことは適当でないと考えます。」

つづいて、第2024−47号である。この案件は、海外居住を考えている申立人がすでに納付した国民年金の保険料の返還を求めて苦情を申し立てた案件である。

ところで、国民年金の被保険者資格は、原則として「日本国内に住所を有する」ことである(国民年金法7条1号)。しかし、「日本国内に住所を有しない」場合も「任意加入」が認められているほか(同法5条1項3号)、海外からも年金が請求できるとされている(日本年金機構のサイト)。したがって、申立人が主張するように「海外へ移住するなら(国民年金の)保険料を払う意義がない」ことにはならないと思われる。

また、申立人は「市に年金の受給資格を譲渡する代わりに、市が掛金分の支給をしてくれてもいい」と主張する。しかしながら、年金受給権は譲渡が禁止されている(国民年金法24条)。そのため、たとえ申立人が望んでも、市に年金受給資格を譲渡することは法的に許容されないであろう。

オンブズマンが調査を実施していれば、あるいはオンブズマン自身が制度を熟知していれば、申立人は上記のような説明を受けることができたと思われるのだが、残念ながら申立人が説明を受けることはなかった。

なお、調査担当オンブズマンの田村智幸が調査を実施しなかった理由は、(年金保険料の)「返戻の可否そのものについては制度上の問題であり、オンブズマンの所轄事項として条例に規定する「市の機関の業務の執行に関する事項及び当該業務に関する職員の行為」には当たらないと考えられ」(る)、というものである。

しかしながら、上記の理由は、「制度上の問題」であれば、なぜ「市の機関の業務の執行に関する事項及び当該業務に関する職員の行為」に当たらないのかという説明になっていないと思われる。

すなわち、国民年金法は、国民年金事業は政府が管掌することを規定するものの(国民年金法3条1項)、たとえば、被保険者は資格の喪失について市町村長に届け出るとされているように(国民年金法12条1項)、手続きに関しては市町村が処理するとされている事務がある(前記・国民年金法12条1項に定める事務は「法定受託事務」とされている・国民年金法6条)。

したがって、国民年金を任意に脱退したいと考えた被保険者が納付ずみの保険料の返還を求めて市町村長に資格喪失を届出しようとした場合、受付の担当者は任意脱退は認められないとして、届出を受理できない理由を説明することになるであろう。

このような事実を前提として札幌市オンブズマンに苦情が申し立てられた場合はどうなるか。当該苦情は届出が受理されないという「制度上の問題」ではあるものの、「届出の受理」という「市の機関の業務の執行に関する事項」についての苦情として、オンブズマン調査の対象となるのではないか。

そうすると本件では、本件苦情が「制度上の問題」であることは「市の機関の業務の執行に当たらない」という調査を実施しない理由になるものではなく、むしろ調査を実施しない理由としては、申立人は年金事務所に問い合わせるのみで市(区)の保険年金課等に問い合わせた事実はない以上、「申立ての原因となった事実についての利害を有しない」(札幌市オンブズマン条例16条1項1号)とするべきであったと思われる。

また、このような理由づけの方が、苦情申し立てに「具体的利害」を求める近時の札幌市オンブズマンの制度運用とも整合的であろう(ただし、当ブログ開設者は苦情申立の「利害」を限定的に解する運用に批判的である)。

以上の次第で、今回「調査しない旨」が通知された案件のうち、田村智幸担当の上記2件は、いずれも調査担当オンブズマンが前提となる制度に関する知識が貧弱であった結果、申立人にとっての権利や利益が実現されるチャンスが失われたと当ブログ開設者は考えている。

ただし、田村智幸オンブズマンに過大な期待は禁物である(このエントリーも参照)。田村智幸オンブズマンの調査への取り組みが「平常営業」であることは、札幌市オンブズマンの制度としての安定ぶりを示しているかもしれない。

-------------------------------------------------------------------------------------------------

①第2024-40号
 グループホームに入居していた申立人が転居に際しグループホームから支給された立退料を収入認定する際の取り扱いや転居費用の支給等について苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

②第2024-42号
 生活保護の受給開始時に面談した職員の対応及び面談を実施した場所の設定等が不適切であるとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)


③第2024-46号
 聴覚過敏の申立人が信号機の音、公園のスピーカー、区役所の窓口の音声による番号案内等の音等が非常にうるさいとしてオンブズマンによる調査を求めて苦情が申し立てられたケース。信号機音及び公園のスピーカーは「市の機関の業務の執行」に該当せず、区役所窓口の音声案内には「個別具体的利害がない」として調査しない旨が通知されった。(担当オンブズマン:田村智幸)

④第2024-47号
 海外へ移住するなら国民年金の保険料を納付する意味がないとして、たとえば市に年金の受給資格を譲渡する代わりに、市が納付ずみの保険料相当額を支払う当の対応を求めて苦情が申し立てられたケース。「市の機関の業務の執行」に該当しないとして調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑤第2024-49号
 生活保護受給者が担当ケースワーカーが配慮に欠ける対応をするとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:梶井祥子)

⑥第2024-53号
 第2024-38号の申立人が当該調査における「市の回答」には事実と異なる記述があるとして再調査を求めて苦情が申し立てられたケース。再調査の申立ては「オンブズマンの行為に関する事項」に該当するとして調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:梶井祥子)

⑦第2024-55号
 公園でゲートボールをする利用者たちがわがもの顔な態度で公園を専有しているとして苦情が申し立てられたケース。オンブズマンが担当課に申立人が連絡を希望している旨を伝えることでオンブズマンによる調査を行わないことになった模様。なお、申立人が明示的に「苦情申立てを取り下げた」かは公開された文書からは不明。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

2024/12/11

2024年9月に調査を終了したケース

 2024年10月1日、同年9月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、決定期間延長のうえ、同年11月14日付で一部公開決定がなされた。

上記の期間(2024年9月)に処理を終了したのは5件で、このうち3件で調査結果が通知された。また、残る2件は調査しない旨が通知された。

今回調査結果が通知された3件のうち、2件の前提となる事実関係が興味深い。まず第2024-34号は、2度にわたり救急搬送が受けられなかったという苦情である。申立人が119番通報したが、在宅療養中の搬送対象者は同居の「キーパーソン」と主治医の間で「自宅で看取る」方針が決まっていた模様である。申立人と「キーパーソン」間の意向が一致せず、救急隊が振り回される格好になった。救急通報された他の事案の対応に影響を及ぼさなかったか懸念される。

つづいて第2024-41号は、長期にわたり国外に住所を有する人物から「所得証明書」の取得を委任された申立人が、取得窓口における「本人確認」の方法について苦情を申し立てた事案である。苦情の論点からずれるのだが、国外に住所を有し国内に住民登録をしていない人物がいかなる事情で「所得証明書」を必要としたのかということや、札幌市が取得窓口となった事情、さらにはそもそも国外に住所を有する人物の「所得」を日本国内で把捉できるのか等、苦情の前提となる事実に当ブログ開設者は興味を抱いた(ただし、残念ながら調査結果通知書からはそれらの事情は不明である)。

その一方で、今回「調査しない旨」が通知された2件は、札幌市オンブズマンのあり方を考えるうえで課題を残したように思われる。すなわち「調査しない」旨を通知するにしても、申立人にとって有益と思われる情報提供をする余地があったのではないか、と当ブログ開設者は考えるからである。その意味では、札幌市オンブズマンの「アカウンタビリティ」軽視の傾向が現れているのかもしれない。

まず、担当課が適切な権限行使をしなかったために会社乗っ取りにあったと申立人が主張する第2024-43号である。この案件の事実関係は不明であるが、調査を行うことで、①申立人から「担当課」に対する要望や問い合わせはなされたか、②「担当課」が権限行使するような事実関係にあるか、③今後「担当課」が何らかの対応をする余地はあるか等、申立人の不満に対する市の見解を明らかにすることができたと思われる。

もっとも、本件においては、申立人が「市はやるべきことをやっていない」と主張するのみで、オンブズマンが調査対象とすべき「担当課」自体が明らかでなかった可能性もある。

そうした場合、本件で調査担当オンブズマンは申立人に面談したようであるから、申立人の考える「担当課」を尋ねるなり、「通知書」で申立人に対し「担当課」に問い合わせるよう助言してもバチは当たらないと思われるのだが、調査担当のオンブズマンとしては調査しない理由を考えるのが精いっぱいだったのかもしれない。

続いて、第2024-45号は、生活保護を受給する申立人が利用する介護事業所や受けるサービスの見直しが急務であると考え、生活保護の担当課と他の課が同席しての面談を求めているにも関わらず実現しないことから、札幌市の行政の組織性、体制、姿勢等の問題点を適切に調査することを求めて苦情を申し立てた案件である。

申立人もずいぶん大きく出たものだが、調査担当オンブズマンは申立人に「申し立ての原因となった事実に利害がない」ことを理由として調査しない旨を通知した。しかし、である。オンブズマンが調査をしなかったため、「介護事業所やサービスの見直しをしたい」という申立人のそもそもの要望は手つかずのままになった。

このような場合、調査担当のオンブズマンはどのような苦情であれば調査が可能か、たとえば「介護事業所やサービスの見直し」という申立人の要望の実現可能性を調査対象部局に問い合わせる形ならば調査可能である(と当該オンブズマンが考えるならば、ではあるが)といった形で、通知書で申立人に情報提供するのが適切ではないかと当ブログ開設者は考えている。

以上の次第で、当ブログ開設者は、オンブズマンによる申立人(を含む市民)に対する「説明」や「情報提供」は、申立人自身の行動を喚起するという観点から「市民の意向が的確に反映された市政運営に資する」(札幌市オンブズマン条例1条)と考えている。換言すると、オンブズマン自身に求められる「アカウンタビリティ」ということができるかもしれない。

こうした前提に立つならば、今回調査しない旨が通知された案件においては、オンブズマンは調査「できない」あるいは調査「しない」理由を説示するよりも、どのような「苦情」であればオンブズマン制度ですくい上げることが「できる」のか申立人に対し情報提供したり、場合によってはオンブズマンが適切に調査を行えるように申立人に協力を要請するといった対応が期待されるのではなかろうか。

もっとも、現在の札幌市オンブズマンは調査に取り組む際、申立人の「利害」について、実体的な「利害」に重きを置き、適切な説明を受けるという「利害」については軽視する傾向にある。まずはこうした対応を改め、適切な説明を受けることの意義を捉え直すことが必要であると当ブログ開設者は考える。

-------------------------------------------------------------------------------------------------

①第2024-34号
 申立人が2度にわたり(おそらく親族の)傷病者の救急搬送を求めて119番通報をしたが2度とも受け入れ先が見つからずに救急搬送されなかったとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:梶井祥子)

②第2024-38号
 札幌市から中島公園テニスコートの管理の許可を受けた札幌テニス協会がテニスコートを適切に整備・管理していないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

③第2024-41号
 本人から所得証明書の取得を受任した申立人が、対応した窓口の職員が申立人の意に反して「本人確認書類」のコピーを取ったとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:梶井祥子)

④第2024-43号
 市の担当課が「会社乗っ取り」を是認して適切な権限行使をしなかったとして苦情が申し立てられたケース。「調査することが相当でない特別の事情がある」と認められるときに該当するとして調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑤第2024-45号
 生活保護受給者が利用する事業所や受けるサービスの見直しが急務と考え、保護課による自宅訪問日に各担当部局も同席することを求めたが同席を拒否されたとして、本件の原因となった事柄ではなく、札幌市の組織性、体制、姿勢等の問題点を適切に調査してほしいとして苦情が申し立てられたケース。市政全販に対する苦情は申立人が「申立ての原因となった事実についての利害を有しない」として調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:梶井祥子)