2018/07/28

札幌市オンブズマン苦情処理日数の状況(オンブズマン別・平成29年度まで)

前回のエントリーでは、年度別の処理状況を紹介したが、このエントリーでは、オンブズマン別の処理状況を紹介する。

繰り返しの説明になるが、札幌市オンブズマンの制度が発足したのは、平成13年3月であり、それ以来、各オンブズマンが任用されるのは、任用される年度の3月1日付となっている。そのため、任用される初年度の任用期間は、その年度の3月の1か月間に限られる。そこで、以下の表では、任用初年度は2年度目と合算した13か月間に申し立てられた苦情の処理状況について計上した。

これに対し、最終年度については、4月から翌年2月末までの11か月間に申し立てられた苦情の処理状況について計上し、それ以外の年度については、4月から翌年3月までの12か月間に申し立てられた苦情の処理状況について、計上してある。

また、「取扱件数」のうち、「結果通知処理件数」に計上した件数は、「苦情等調査結果通知書」が発送された案件についてのものである。そして、「平均処理日数」及び「30日以内処理率」のデータは、この苦情等調査結果通知が発送された案件についてのものである(申立人による苦情の取り下げや、調査しない旨の通知により調査が終了した案件は、処理日数の算定対象から除外している)。

①廣岡得一郎(弁護士・平成13年3月1日〜平成17年2月28日)

取扱件数
結果通知
処理件数
結果通知
平均処理
日数
結果通知
30日以内
処理率
平成12/13年度
57
39
43.67
56.4%
平成14年度
33
27
28.85
66.7%
平成15年度
32
29
26.38
53.8%
平成16年度
28
18
29.11
66.7%
通算
150
113
33.37
64.6%

②長井敬子(札幌地方・簡易裁判所民事調停委員、人権擁護委員・平成13年3月1日〜平成17年2月28日)

取扱件数
結果通知
処理件数
結果通知
平均処理
日数
結果通知
30日以内
処理率
平成12/13年度
62
42
38.29
47.6%
平成14年度
41
32
31.88
68.8%
平成15年度
39
26
33.73
38.5%
平成16年度
23
20
33.10
55.0%
通算
165
120
34.73
52.5%

③三谷鉄夫(北海道大学名誉教授・平成13年3月1日〜平成16年2月29日)

取扱件数
結果通知
処理件数
結果通知
平均処理
日数
結果通知
30日以内
処理率
平成12/13年度
58
39
49.54
53.8%
平成14年度
37
29
32.45
62.1%
平成15年度
32
26
29.50
53.8%
通算
127
94
38.72
56.4%

④佐藤譲治(元会社役員・平成16年3月1日〜平成20年2月29日)

取扱件数
結果通知
処理件数
結果通知
平均処理
日数
結果通知
30日以内
処理率
平成15/16年度
36
31
31.55
64.5%
平成17年度
35
30
22.73
96.7%
平成18年度
39
33
23.42
93.9%
平成19年度
30
26
24.00
92.3%
通算
140
120
25.48
86.7%

⑤文仙俊一(弁護士・平成17年3月1日〜平成21年2月28日)

取扱件数
結果通知
処理件数
結果通知
平均処理
日数
結果通知
30日以内
処理率
平成16/17年度
41
36
27.44
75.0%
平成18年度
38
32
27.03
90.6%
平成19年度
37
28
24.50
89.3%
平成20年度
33
29
31.14
75.9%
通算
149
125
27.54
82.4%

⑥杉野目康子(翻訳家、元北海道教育委員・平成17年3月1日〜平成21年2月28日)

取扱件数
結果通知
処理件数
結果通知
平均処理
日数
結果通知
30日以内
処理率
平成16/17年度
36
29
24.55
72.4%
平成18年度
38
27
25.59
92.6%
平成19年度
39
31
24.90
87.1%
平成20年度
31
29
34.48
69.0%
通算
144
116
27.37
80.2%

⑦前野正明(元会社役員・平成20年3月1日〜平成24年2月29日)

取扱件数
結果通知
処理件数
結果通知
平均処理
日数
結果通知
30日以内
処理率
平成19/20年度
48
46
31.70
78.3%
平成21年度
43
36
38.36
38.9%
平成22年度
46
37
34.12
45.9%
平成23年度
35
27
45.78
18.5%
通算
172
146
36.56
49.3%

⑧岩本勝彦(弁護士・平成21年3月1日〜平成25年2月28日)

取扱件数
結果通知
処理件数
結果通知
平均処理
日数
結果通知
30日以内
処理率
平成20/21年度
54
43
32.40
58.1%
平成22年度
43
37
35.54
51.4%
平成23年度
46
43
35.77
39.5%
平成24年度
42
36
25.56
80.6%
通算
185
159
32.49
56.6%

⑨井上宏子(消費生活アドバイザー・平成21年3月1日〜平成25年2月28日)

取扱件数
結果通知
処理件数
結果通知
平均処理
日数
結果通知
30日以内
処理率
平成20/21年度
46
39
38.54
35.9%
平成22年度
41
35
34.69
51.4%
平成23年度
40
37
37.78
35.1%
平成24年度
33
25
27.28
80.0%
通算
160
136
35.27
47.8%

⑩相澤重明(札幌家庭裁判所家事調停委員・平成24年3月1日〜平成28年2月29日)

取扱件数
結果通知
処理件数
結果通知
平均処理
日数
結果通知
30日以内
処理率
平成23/24年度
46
39
34.13
53.8%
平成25年度
42
35
31.11
57.1%
平成26年度
46
39
34.15
51.3%
平成27年度
31
26
36.92
23.1%
通算
165
139
33.90
48.2%

⑪三木正俊(弁護士・平成25年3月1日〜平成29年2月28日)

取扱件数
結果通知
処理件数
結果通知
平均処理
日数
結果通知
30日以内
処理率
平成24/25年度
50
43
29.63
72.1%
平成26年度
43
35
34.57
45.7%
平成27年度
51
40
32.35
55.0%
平成28年度
25
22
33.55
31.8%
通算
169
140
32.26
58.5%

⑫吉田かよ子(北星学園大学教授・平成25年3月1日〜平成27年2月28日)

取扱件数
結果通知
処理件数
結果通知
平均処理
日数
結果通知
30日以内
処理率
平成24/25年度
48
40
29.13
75.0%
平成26年度
34
28
32.96
50.0%
通算
82
68
30.71
64.7%

⑬岩田雅子(札幌地方・簡易裁判所民事調停委員・平成27年3月1日〜現職)

取扱件数
結果通知
処理件数
結果通知
平均処理
日数
結果通知
30日以内
処理率
平成26/27年度
46
41
30.76
63.4%
平成28年度
34
31
34.26
58.1%
平成29年度
28
20
36.25
35.0%
通算
108
92
33.13
55.4%

⑭杉岡直人(北星学園大学教授・平成28年3月1日〜現職)
取扱件数
結果通知
処理件数
結果通知
平均処理
日数
結果通知
30日以内
処理率
平成27/28年度
42
36
34.81
47.2%
平成29年度
27
24
37.71
20.8%
通算
69
60
35.97
36.7%

⑮房川樹芳(弁護士・平成29年3月1日〜現職)
取扱件数
結果通知
処理件数
結果通知
平均処理
日数
結果通知
30日以内
処理率
平成28/29年度
34
29
35.38
51.7%
通算
34
29
35.38
51.7%

続いて、年度別の処理状況と同様に、各オンブズマンの処理日数区分ごとの度数分布の表を作成した。

(表1)
   
20日
以内
 21日〜
30日
 31日〜
45日
46日〜
60日
61日〜
90日
91日
以上
30日
以内
処理率
30日
処理率
件数
処理率
件数
処理率
件数
処理率
件数
処理率
件数
処理率
件数
処理率
廣岡
23
20.4%
50
55.6%
24
21.2%
9
8.0%
2
1.8%
5
4.4%
64.6%
35.4%
長井
16
13.3%
47
39.2%
39
32.5%
7
5.8%
8
6.7%
3
2.5%
52,5%
47.5%
三谷
18
19.1%
35
37.2%
24
25.5%
5
5.3%
7
7.4%
5
5.3%
56.4%
43.6%
佐藤
22
18.3%
82
68.3%
12
10.0%
3
2.5%
1
0.8%
0
0.0%
86.7%
13.3%
文仙
20
16.0%
83
66.4%
17
13.6%
3
2.4%
1
0.8%
1
0.8%
82.4%
17.6%
杉野目
25
21.6%
68
58.6%
14
12.1%
6
5.2%
3
2.6%
0
0.0%
80.2%
19.8%
前野
13
8.9%
59
40.4%
40
27.4%
22
15.1%
10
6.8%
2
1.4%
49.3%
50.7%
岩本
20
12.6%
70
44.0%
48
30.2%
15
9.4%
6
3.8%
0
0.0%
56.6%
43.4%
井上
13
9.6%
52
38.2%
47
34.6%
17
12.5%
5
3.7%
2
1,5%
47.8%
52.2%
相澤
7
5.0%
60
43.2%
52
37.4%
18
12.9%
2
1.4%
0
0.0%
48.2%
51.8%
三木
7
5.0%
69
49.3%
52
37.1%
10
7.1%
2
1.4%
0
0.0%
54.3%
45.7%
吉田
3
4.4%
41
60.3%
21
30.9%
2
2.9%
1
1.5%
0
0.0%
64.7%
35.3%
岩田
5
5.4%
46
50.0%
28
30.4%
12
13.0%
1
1.1%
0
0.0%
55.4%
44.6%
杉岡
1
1.7%
21
35.0%
28
46.7%
7
11.7%
3
5.0%
0
0.0%
36.7%
63.3%
房川
0
0.0%
15
44.1%
9
26.5%
5
14.7%
0
0.0%
0
0.0%
51.7%
48.3%
通算
193
11.6%
798
48.2%
455
27.5%
141
8.5%
52
3.1%
18
1.1%
59.8%
40.2%

(表1)よりもさらに、度数分布を細かく区分し、平均処理日数の短い順に並べたのが、以下の(グラフ1)である。

(グラフ1)

以上のデータからは、現役のオンブズマンが、年数を重ねるほど、処理に時間を要するようになっている状況が読み取れる。そのような現象が、たまたま偶然のことなのか、それとも、何らかの事情によるものなのか、興味深いところである。

札幌市オンブズマンには、市の業務に関する苦情を受け付け、簡易迅速に処理することが期待されている(札幌市オンブズマン条例4条1号参照)。現実に生じている遅滞化傾向を真摯に受け止め、対策を講じていくことが求められているように思われる。

2018/07/27

札幌市オンブズマン苦情処理日数の状況(年度別・平成29年度まで)

平成30年7月に入り、札幌市オンブズマンの平成29年度活動状況報告書(リンク先はpdfファイル:3.2MB)が公表された。そこには、苦情処理日数の状況の表が掲載されているものの、日数の度数分布の区分が粗すぎるほか、当該年度の処理状況が掲載されているのみで、過去の処理状況との比較も困難である。そこで、オンブズマン事務局に各案件の処理日数のデータ提供を依頼し、以下の表及びグラフを作成した。

なお、以下の(表1)の「結果通知処理件数」とは、「苦情申立件数」のうち、オンブズマンが「苦情等調査結果通知」を発送し、調査を終了した案件の件数である(したがって、申立人による苦情の取り下げや、調査を実施しない旨の通知により調査を終了した案件は件数から除外される)。また、「処理日数」は原則として、苦情申し立てから「苦情等調査結果通知書」の発送までに要した日数である(申立人に苦情の内容を確認するために要した日数は算定から除外している模様)。

ところで、札幌市オンブズマンの制度が発足したのは、平成13年3月である。そのため、平成12年度に制度が運用されたのは、わずか1か月間となっていることから、この期間の処理状況は、便宜的に平成13年と合算することとした。したがって、制度発足当初の平成12/13年度に限り、13か月間に申し立てられた案件の処理状況を計上した(以後の各年度は、当該年度の12か月間に申し立てられた案件の処理状況を計上している。そのため、案件によっては、調査終了が翌年度となったものも存在している)。

なお、平成29年度における処理状況の顕著な特徴は、2年連続で10件単位で取り扱い件数が減少し、過去最低を記録したことである。また、平成23年度以来、6年ぶりに30日以内の処理率が40%を割ったことも見逃せない(制度発足以来の全期間を通算した30日以内の処理率も60%を割ることになった)。件数が減少しながら処理が遅滞する傾向が強まることは、「簡易迅速に苦情を処理する」という札幌市オンブズマンの制度目的に照らし、由々しき事態であるように思われる。

(表1)
 
苦情申立
件数
結果通知
処理件数
結果通知
平均処理
日数
結果通知
30日以内
処理率
平成12/13年度
177
120
43.69
52.5%
平成14年度
111
88
31.14
65.9%
平成15年度
113
83
30.07
54.2%
平成16年度
93
74
30.78
63.5%
平成17年度
103
88
24.78
83.0%
平成18年度
115
92
25.32
92.4%
平成19年度
111
90
24.40
88.9%
平成20年度
117
108
32.45
73.1%
平成21年度
133
109
36.62
44.0%
平成22年度
130
109
34.79
49.5%
平成23年度
125
111
38.94
32.4%
平成24年度
135
110
29.16
71.8%
平成25年度
122
104
29.84
68.3%
平成26年度
129
107
33.45
51.4%
平成27年度
130
109
33.05
47.7%
平成28年度
100
88
35.36
45.5%
平成29年度
82
67
35.76
38.8%
全期間
通算
2026
1657
32.65
59.8%

また、以下の(表2)は、制度発足以来の処理日数の度数分布を取りまとめたものである。平成28年度は、処理日数の割合のピークが「21日~30日」であったのが、平成29年度は、「31日~45日」にシフトしているように、前年と比べて処理が遅滞化していることは明らかである。

(表2)
   
20日
以内
 21日〜
30日
 31日〜
45日
46日〜
60日
61日〜
90日
91日
以上
30日
以内
処理率
30日
処理率
件数
処理率
件数
処理率
件数
処理率
件数
処理率
件数
処理率
件数
処理率
12/13
年度
20
16.7%
43
35.8%
26
21.7%
10
8.3%
9
7.5%
12
10.0%
52.5%
47.5%
14
年度
20
22.7%
38
43.2%
17
19.3%
5
5.7%
7
8.0%
1
1.1%
65.9%
34.1%
15
年度
13
15.7%
32
38.6%
33
39.8%
5
6.0%
0
0.0%
0
0.0%
54.2%
45.8%
16
年度
7
9.5%
40
54.1%
21
28.4%
4
5.4%
2
2.7%
0
0.0%
63.5%
36.5%
17
年度
20
22.7%
53
60.2%
15
17.0%
0
0.0%
0
0.0%
0
0.0%
83.0%
17.0%
18
年度
21
22.8%
64
69.6%
5
5.4%
1
1.1%
0
0.0%
1
1.1%
92.4%
7.6%
19
年度
21
23.3%
59
65.6%
7
7.8%
2
2.2%
1
1.1%
0
0.0%
88.9%
11.1%
20
年度
7
6.5%
72
66.7%
15
13.9%
8
7.4%
4
3.7%
2
1.9%
73.1%
26.9%
21
年度
7
6.4%
41
37.6%
34
31.2%
20
18.3%
7
6.4%
0
0.0%
44.0%
56.0%
22
年度
14
12.8%
40
36.7%
35
32.1%
14
12.8%
5
4.6%
1
0.9%
49.5%
50.5%
23
年度
6
5.4%
30
27.0%
51
45.9%
15
13.5%
8
7.2%
1
0.9%
32.4%
67.6%
24
年度
20
18.2%
59
53.6%
20
18.2%
10
9.1%
1
0.9%
0
0.0%
71.8%
28.2%
25
年度
8
7.7%
63
60.6%
28
26.9%
4
3.8%
1
1.0%
0
0.0%
68.3%
31.7%
26
年度
1
0.9%
54
50.5%
39
36.4%
10
9.3%
3
2.8%
0
0.0%
51.4%
48.6%
27
年度
8
7.3%
44
40.4%
45
41.3%
12
11.0%
0
0.0%
0
0.0%
47.7%
52.3%
28
年度
0
0.0%
40
45.5%
33
37.5%
13
14.8%
2
2.3%
0
0.0%
45.5%
54.5%
29
年度
0
0.0%
26
38.8%
31
46.3%
8
11.9%
2
3.0%
0
0.0%
38.8%
61.2%
全期間
通算
193
11.6%
798
48.2%
455
27.5%
141
8.5%
52
3.1%
18
1.1%
59.8%
40.2%

また、以下の(グラフ1)は、(表2)よりも度数分布を細かく区分し、度数分布の経年変化を示したものである。うぐいす色とうす紫色の境界(30日以内と31日以上の境目)が、平成24年以来、一貫して右肩下がりであることが一目瞭然である。

(グラフ1)

札幌市オンブズマンには、市の担当部局に何らかの改善、対応を求める役割が期待されている。それにもかかわらず、オンブズマンが自らの業務に関しては漫然と遅滞化するに任せたままであるならば、制度に対する信頼が大きく傷つけられるように思われる。

なお、オンブズマン別の処理日数の状況については、このエントリーで紹介している。

2018/07/25

平成30年6月に調査を終了したケース

平成30年7月1日、同年6月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、7月17日に一部公開決定がなされた。

上記の期間(平成30年6月)に調査を終了した案件は全9件で、このうち6件で、調査結果が通知されている。また、2件が調査しない旨の通知、1件が申立人の取り下げにより、調査が終了している。

①第30−1号
 自宅周辺の歩道の修繕のあり方及びその件に関する職員の対応について苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:房川樹芳)

②第30−2号
 児童相談所の職員の対応について苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:岩田雅子)

第30−3号
 除籍謄本を請求した際の委任状の取扱い及び職員の対応について苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:杉岡直人)

④第30−4号
 固定資産税の延滞金の取扱いについて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:杉岡直人)

⑤第30−5号
 児童相談所が子どもを一時保護したことに関し苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:房川樹芳)

⑥第30−7号
 札幌市住宅エコリフォーム補助制度の適用を申請したが対象外とされたことについて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:岩田雅子)
 なお、同制度について詳しくはここを確認されたい。

⑦第30−8号
 障害程度区分認定に関し、区保健福祉課の職員の対応について苦情が申し立てられたケース。苦情申し立ての原因となった事実が1年以上前のことであるとして、苦情について調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:杉岡直人)

⑧第30−9号
 保健所に設置された医療安全支援センターの対応等について苦情が申し立てられたケース。苦情申し立ての原因となった事実が1年以上前のことであるとして、苦情について調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:杉岡直人)

⑨第30−16号
 障害児相談支援費の不正受給に関し、返還の意思があるにもかかわらず行政処分を言い渡されたとして苦情が申し立てられたケース。申立人が苦情申し立てを取り下げたことで、調査が終了している。(担当オンブズマン:房川樹芳)

 今回公開された結果通知書のうち、特に注目されるのが、①第30-1号である。それは、オンブズマンの判断が、理論的正当性・妥当性を欠くように思われるからである。

 すなわち、本件調査においてオンブズマンは、道路に瑕疵があった場合に市が道路を管理する責任を国家賠償法2条1項から導くとともに、道路に瑕疵があった場合には、直ちに補修しないと国賠法2条1項の責任が問われることになると論じている。
  しかしながら、国賠法2条1項は、営造物の瑕疵により「損害」が発生した場合における国及び公共団体の賠償責任の規定である。したがって、この条項から市に道路を管理する責任が生じるという理論的根拠は不明である。

 また、道路に瑕疵があった場合には、直ちに補修しないと国賠法2条1項の責任が問われる、という理論も、国賠法2条1項から道路を管理する責任が導かれるという前述のオンブズマンの理論を前提とするならば、「直ちに補修しない」ことを条件とするまでもなく、道路を補修する責任が生じるのではないか。あるいは、ここでいう「国賠法2条1項の責任」が賠償責任を意味するならば、損害の発生を条件とせずに賠償責任が生じることになるのであり、いずれにせよ、理論的妥当性に欠けると思われる。

 さらに、本件調査におけるオンブズマン判断は、一般論として、道路に瑕疵があった場合の道路管理の責任を論じているにもかかわらず、今回の苦情に対する個別具体的な判断においては、”瑕疵”の存否について一切論じていない。したがって、一般論と具体的判断の間には齟齬があると言わざるを得ない。

 ところで、道路法42条1項は、道路の管理者が道路を適切に維持管理する責務を規定している(同項は、道路を常時良好な状態に保つように維持、修繕することを要請している。)。これに対し、オンブズマンのいうように、「道路に瑕疵があった場合に道路を管理する責任が生じる」のでは、日常的な道路管理の水準を引き下げるおそれがあるように思われる。道路に瑕疵が生じてから管理するのでは、対応が遅きに失するのではないか、ということである。

 以上の次第で、この案件におけるオンブズマンの判断は、①国賠法2条1項から導かれる責任の具体的意味内容(道路管理責任か賠償責任か)、②市が道路管理の責任を負う法的根拠(国賠法2条1項か道路法42条1項か)、③求められる道路管理の水準(瑕疵の補修か「常時良好な状態に保つ」か)の3点において、理論的正当性・妥当性を欠くと当ブログ開設者は考えている。
 換言すると、道路の瑕疵により損害が発生した場合の始末のつけ方の問題と、日常的な道路管理がどのように行われるべきかという問題を区別して論じる必要があるにもかかわらず、この案件では、オンブズマンが前者の問題から後者の問題を論じようとしため、その判断が理論的「瑕疵」を抱えることに陥った、ということである(オンブズマンは道路管理の「瑕疵」に関する裁判例を縷々引用するけれど、本件に関連するのは、求められる道路管理の水準という「傍論」である)。

 したがって、オンブズマンはむしろ、まず一般論として、①道路は常時良好な状態に保つよう維持、修繕がなされるべきところ、そこには人員・予算等の制約が伴うこと、②道路の維持修繕には、道路の劣化が進行してから修繕が行われる「事後対応型」と、点検を定期的に行い致命的欠陥が発現する前に速やかに対策を講じる「予防保全型」があること、③道路の管理者による点検には限界があることから、それを補う市民による通報が期待される、ということを論じたうえで、そのことを前提に、今回の市の対応について、実施された道路改修の適切さと(①のレベルの対応)、道路の修繕を要望した市民への対応の適切さ(③のレベルの対応)について、判断を示すべきであったと思われる。

 かつて、その苦情申し立て、ちょっと待った!と題するエントリーで、「オンブズマンに苦情を申し立てるには、それに先だち、オンブズマンが十分な調査を行うことができるか、・・・(中略)・・・等、慎重に検討することが求められるであろう」と書いたことがあるが、残念ながら、オンブズマンの調査能力に対するこうした懸念は、単なる杞憂ではなかったようである。