2023/06/10

2023年3月に調査を終了したケース

 2023年4月1日、同年3月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、決定期限延長のうえ、5月1日付で一部公開決定がなされた。

上記の期間(2023年3月)に調査を終了したのは9件で、調査結果を通知したものが7件、残る2件で調査をしない旨が通知されている。

さて、今回の公開分は、「弁護士」の肩書を有する田村智幸オンブズマンが、法律(条例)の条文一つ満足に読めないらしいことが判明したことが興味深い。おそらく「弁護士」という職業は、あくまで紛争処理屋であって、制度屋でなければ理論屋でもないのであろう。そのため、依頼人の利益を最大化するという職業的使命のためならば、都合よく話を「つまみ食い」することも厭わず、そうした行動様式が、傍からは「条文一つ満足に読めない」ように見える要因なのではないかと、当ブログ開設者は考えている。

このことが顕著に現れているのが、「無料低額診療」に関する第2022−74号である。この「無料低額診療」は、社会福祉法が定める「第二種社会福祉事業」として、経済的理由により適切な医療を受けることが困難な方々に対して、医療機関が無料又は低額な料金で診療を行う事業である(札幌市のサイトにおける同事業の紹介)。

調査担当の田村智幸オンブズマンは、「無料低額診療事業に対して、都道府県が監督権限に基づき助言・指導・調査・是正等を行えるような根拠や規定等を見出すことはできませんでした」という見解をその判断において披歴している。

しかしながら、社会福祉法70条は、都道府県知事による社会福祉事業を経営する者に対する調査権限を規定している。また、同法72条は、都道府県知事に対し、法令違反が存する場合に社会福祉事業を経営することを制限・停止を命ずることができる旨、規定している。

こうした規定が存するにも関わらず、田村智幸オンブズマンは、「監督権限に基づき助言・指導・調査・是正等を行えるような根拠や規定等を見出すことはできませんでした」というのである。当ブログ開設者に、「条文一つ満足に読めないらしい」と思わせた理由がおわかりいただけるだろうか(なお、同法150条が規定する「大都市特例」により、同法70条及び72条の規定は指定都市に適用される)

また、この案件の調査対象部局の担当者は、当ブログ開設者が社会福祉法が規定する市の権限について問い合わせた際、オンブズマン判断のこの箇所は「言葉足らずである」とコメントしていたが、当ブログ開設者はオンブズマンが「言葉足らず」だったのではなく、前提たる「制度」への理解が足らなかったものと考えている。

すなわち、田村智幸オンブズマンは、「無料低額診療事業は税優遇があるものの、医療費の負担そのものは医療機関の持ち出しとされているようです」とも述べている。このような書きぶりは、当ブログ開設者には医療機関が100%医療費を負担するかのように読める。しかしながら、受診者が公的医療保険の適用を受ける場合には、医療機関には保険者から診療報酬が支払われるのであり、医療機関が負担することになるのは、受診者の本人負担分に限られる。したがって、医療機関による医療費の負担は、全額が「医療機関の持ち出し」になるわけではない。

そして、この案件では、苦情申立人と調査対象部局の双方とも、公的医療保険の適用を当然の前提とする主張及び回答を行っている。そのため、上記の田村智幸オンブズマンの判断は、公的医療保険制度への理解を欠くことが顕著であると思われる。当ブログ開設者としては、田村智幸オンブズマンが国民健康保険に関する苦情調査を担当することがないよう願わずにはいられない。

結局、この案件では、社会福祉法に基づく権限行使を求める申立人の苦情に対しては、①市が権限を行使するような法令違反は存在しないこと、また、②医師による投薬が1ヶ月とされたことが不満ならば、その理由について受診した医療機関に尋ねるべきこと(保険医療機関及び保険医療養担当規則療担規則20条2号イが、「投薬は、必要があると認められる場合に行う」旨規定していることが手がかりになるだろうか?)が、申立人に示されるべきであった(その法的性格は、医療法6条の13第1項1号が定める「助言」である)と当ブログ開設者は考えている。しかしながら、ついぞ調査担当の田村智幸オンブズマンから、そのような指摘がなされることはなかった。

次に、第2022-91号も、調査担当の田村智幸オンブズマンが「条文一つ満足に読めない」と思わせる案件である。この案件は、市立病院で医療過誤があったとして、損害賠償を請求したいと考えた申立人が、「医師賠償責任保険加入についても調査をお願いする」として、苦情が申し立てられた模様である。苦情申立ての趣旨の大部分が非開示とされており、申立人の主張を読み取ることはできないが、おそらく賠償も求めているものと思われる。

この案件の調査を担当した田村智幸オンブズマンは、札幌市オンブズマン条例16条2項が「調査することが相当でない特別の事情があると認めるとき」を調査対象外事項として規定する趣旨を検討する。それによるとこの規定は、「高度に専門的な知識が求められる行為に関しては、オンブズマンが判断を示すことは困難であることを踏まえ、設けられている」のだそうだ。そして、この見解にしたがい調査を実施しなかった。

しかしながら、札幌市オンブズマン条例19条3項は、「専門的又は技術的な事項について、特に必要があると認めるときは、専門的機関に対し、調査、鑑定、分析等の依頼をすることができる」と規定する。したがって、調査担当のオンブズマンに専門的・技術的な知見を欠く場合についても、制度上は手当てがなされている(ただし、実際に専門的機関に依頼した事例は存在しないようである)。

また、『「札幌市オンブズマン条例」の解釈と運用(逐条解説)』においても、条例16条2項について、「例えば医療行為に係るものなど、高度に専門的な事項で条例19条3項の規定による専門的機関による調査等の依頼によっても解決する見込みがなく、調査能力の充実した裁判所等に速やかに判断を仰ぐべき場合など」が例示されている。

このように、条例が制定された当初、札幌市オンブズマンに苦情が申し立てられた事項が高度に専門的なものであったとしても、そのことだけで当然にオンブズマンによる調査の対象外となるわけではなかったことは明らかである。したがって、上記の田村智幸オンブズマンによる条例16条2項の理解は、条例制定過程における議論を無視し条例19条3項の規定を死文化するとともに(※)、オンブズマン調査の対象外となる事項を過度に拡大するものであると思われる。

ただし、当ブログ開設者も、この案件の処理に関しては、申立人が提訴する意向を有していることや、医療行為の当否に関しては裁判所の判断に委ねるのが適切であると思われることからすると、「簡易迅速」を旨とするオンブズマンが「調査対象外」と結論づけることに異論はない。

その一方で、市立病院が医療過誤の賠償にどのような備えをしているかについては、なおオンブズマン調査の対象となりえるであろう。申立人も、「医師賠償責任保険加入についても調査をお願いする」との主張を行っているように、公立病院における国賠法適用の有無や医師個人の責任等について(最高裁は医療行為について「公権力の行使」に当たらないと判示している模様・最判昭和57.4.1)、札幌市の見解を確認しておくことには、一定の意義があるであろう。

以上の次第で、当ブログ開設者は、田村智幸オンブズマンの判断はいささか適切さに欠けることがままあると考えている。その反面、そうした適切さに欠ける判断は、その裏とりをすることで、当ブログ開設者の札幌市行政への理解が深まるという効果を有している。そうであるならば、「弁護士」の肩書を有する田村智幸オンブズマンが「条文一つ満足に読めない」などと揶揄するよりも、田村智幸オンブズマンのご高説をありがたく拝聴し、自らの見識を深めることに徹するのが今後の当ブログ開設者のとるべき態度かもしれない。

(※)なお、条例19条3項の規定については、条例が制定された当時、オンブズマンが専門的知見を欠くことで専門的機関に対する調査等の依頼をすることすらままならない、という事態は想定していなかった可能性がある。この点、条例制定後に調査等の依頼が行われたケースが存在しない模様である事情も考慮すると、札幌市オンブズマン制度の実態は、オンブズマンが調査等を適切に依頼できるだけの専門的知見を欠く一方で、調査等の依頼のしくみも、「簡易迅速」を旨とするオンブズマン制度との相性がよくないのではないかと、当ブログ開設者は考えている。

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①第2022-69号
 生活保護を受給する申立人が、担当のケースワーカーの一連の対応や窓口を訪問した際に元警察官が同席したこと等に不満を覚え、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

②第2022-73号
 スポーツ局が実施したPRステッカーの入札において、仕様書の記載を見て入札を断念したが納品された現物は仕様書記載の規格と食い違いがあるとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

③第2022-74号
 無料低額医療により医療機関を受診した申立人が、薬が1か月しか処方されなかったことを不服として、札幌市に社会福祉法による調査と指導等を求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

④第2022-75号
 札幌市から除雪業務を受託した事業者の「除雪センター」及び札幌市の「土木センタ―」が申立人からの問合せに適切な対応をしないとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

⑤第2022-76号
 インターネットから申し込んだキャンペーンについて消費者センターに相談した際の職員の対応に納得がいかないとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑥第2022-80号
 生活保護受給者が、非常食の支給が途中で打ち切られたこと等を不服として苦情が申してられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

⑦第2022-82号
 生活保護受給者が、金銭の借り入れが確認できたので保護を打ち切らなければならないと通告されたが、結局何も見つからず、その後の職員の対応も誠実さを欠くとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

⑧第2022-90号
 除雪センターの弁護士から届いた内容証明郵便の記載内容が、市民が適切な行政サービスを受けられないかのような記載であるとして、苦情が申立られたケース。発端が同じような近接した時期に起こった事案についてすでに調査を完了しており、この案件でオンブズマンが新たな見解を示すとは考えにくいとして、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:原俊彦)

⑨第2022-91号
 市立病院で医療過誤があった件について、損害賠償をを請求するつもりであり、市立病院の医師賠償責任保険加入についても調べてほしいとして、苦情が申し立てられたケース。医療行為に関する高度な専門的知見を欠くオンブズマンには調査が困難であるとして、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:田村智幸)

2023/04/29

2023年2月に調査を終了したケース

 2023年3月1日、同年2月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、3月15日付で一部公開決定がなされた。

上記の期間(2023年2月)に調査を終了したのは6件で、このうち苦情申し立てに基づくものが5件、オンブズマンの自己の発意に基づくもの(いわゆる「発意調査」)が1件となっている。また、苦情申立に基づく調査のうち、3件で調査結果が通知され、残る2件のうち1件で調査をしない旨、1件で調査中止が通知されている。

さて、今回公開分の発意調査(第2022-発1号)は、札幌市オンブズマンが2年ぶりに実施したものである。調査を担当したのは、この2月に通算4年の任期を満了した八木橋オンブズマンである。八木橋オンブズマンが発意調査を実施するのは4年の任期で初であり、「置き土産」といえるかもしれない。なお、調査内容については、調査結果通知書の本体でご確認いただきたい。

また、今回公開分では、調査手続きの観点から第2022-70号が興味深い。この案件は、札幌市の業務を受託した企業の従業員が、市職員から「パワハラ」を受けたとして苦情が申し立てられた案件である。ただし、「パワハラ」を受けたと主張する本人の「代理人」として、同僚から苦情が申し立てられている。

調査を担当オンブズマンによると、「なかなか連絡がつかない申立人自身の本件調査の継続の意思確認に少々時間を要した」とのことであるが、申立人の「顕在化した問題を調査中止で収めることは希望しない」意思が確認できたとして、調査結果が通知されている。

この点、調査対象部局内においても、「代理人による苦情申立てであるが、申立人がこの内容を承知しているか疑問である」という主張が存在したことが、「市の回答」部分に記載されている。そのため、当ブログ開設者は、代理人による苦情申立てがなされた後、当初は苦情申立に消極的だった申立人が「翻意」したという心象を抱いている。

したがって、本来ならば本件については申立人の意思が不明確であることを理由としていったん調査を終了し、別途、申立人の意思が明確な苦情申立がなされたならば、改めてオンブズマンは調査に着手すべきであったと考えている。ただし、「簡易迅速」という札幌市オンブズマン制度の趣旨に照らすと、そこまで厳格な手続きを求めることが適切かは、検討する余地はあるだろう。

なお、本件では申立人(代理人)の主張を受け、市の回答において「パワハラの成否」について言及されている。その趣旨は「市職員の申立人への対応は適切さを欠いたものの、パワハラではない」というものである。

このような説明は、「募ったが募集していない」という時の首相の国会答弁へのオマージュかもしれないが、対応の適否と「パワハラ」の成否を区分して論じることに実益があるとは思われない。調査担当のオンブズマンは、市にこうした弁明の余地を認めずに、市職員の申立人への対応の適否についてのみ論ずれば十分であったと思われる。

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①第2022-70号
 札幌市の業務を受託した企業の従業員が当該業務の遂行過程において、市職員から怒鳴りつけられる等のパワハラ行為を受けたとして、当該職員への処分等の対処を求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

②第2022-71号
 水道料金の不払いを理由として給水停止の通知を受けたことを不服として、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

③第2022-77号
 札幌市に寄付をするに際し特定の日付を希望日として伝えていたにもかかわらず、市からの連絡が途絶えたことにより当該特定の日付で寄付することができなかったとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

④第2022-78号
 中通りにある有料駐車場付近の除雪に関し苦情が申し立てられたケース。申立人が「申立ての原因となった事実についての利害を有しない」(札幌市オンブズマン条例16条1項1号)として、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:原俊彦)

⑤第2022-79号
 申立人の関係者が生活保護を受給しているところ、申立人が保護課に対し当該受給者への対応を求めても適切な対応がなされなかったとして苦情が申し立てられたケース。申立人の苦情申立ての取り下げにより、調査は中止された。(担当オンブズマン:原俊彦)

⑥第2022-発1号
 札幌市がIT技術の活用を推進していくなかで、高齢者等新たな技術への対応が困難と考えられる市民に対しどのように対処していくかについて、オンブズマンが自己の発意により調査を実施したケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

2023/03/15

2023年1月に調査を終了したケース

2023年2月1日、同年1月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、公開決定期限延長のうえ、2023年3月3日付で一部公開決定がなされた。

記の期間(2023年1月)に調査を終了したのは10件で、このうち7件で調査結果が通知されている。また、残る3件のうち2件で調査をしない旨、1件で調査中止が通知されている。

今回公開された案件のうち「調査しない旨」が通知された2件(第2022-67号,第2022-72号)は、いずれも「調査しない」ことの理由づけ(及び調査しないという結論)が適切か、大いに議論の余地があると思われる。

まず、第2022-67号である。この案件は、申立人所有地に道路工事に伴う産業廃棄物が放棄されていた件について市に回答を求めているが、未だ納得のいく回答が得られないという趣旨の苦情である(と当ブログ開設者は理解した)。そして、この案件担当の田村智幸オンブズマンは、申立ての原因となった工事から1年以上経過しており、その後のやり取りの内容も工事の申請経緯等を抜きに判断できないとして、調査を実施しなかった。

しかしながら、本件苦情は、2022年4月に行った照会に対する回答がこれまでの回答と変わらない点を不服として、申立人は苦情を申し立てているのである。「工事から1年以上経過している」ことを理由として調査を実施しないという判断は、市に対する問い合わせ及びそれへの回答という一連の行為の意義について、過小評価しているといわざるを得ない。

この点、当ブログ開設者は田村智幸オンブズマンが再任されるに際し、このエントリーに「市の業務の実体的側面に限らず、制度・手続き・説明といった側面からも、適切な調査が実施されることを期待したい」と記したが、あながち的外れではなかったようである。

また、この案件の苦情申立ての趣旨によると、市は申立人に対し「最終回答」を行っている模様である。本件の調査が実施されていれば、オンブズマンに苦情を申し立てても市の「最終回答」が変わらない、ということが示されたと思われる。こうして一度は調査を実施し、それでも再度申立人が苦情を申し立てるならば、「すでに調査を実施した」ことを理由として調査を実施しないことも正当化されると思われる。

次に、第2022-72号である。この案件は、虐待致死事件について高齢者虐待防止法に基づく通報を行ったが棄却されたことを不服として、市が(施設の?)運営法人に対し適切な処分を行うことを求める苦情である。調査担当の原俊彦オンブズマンは、2020年1月に申立人の関係者が入院しなかったことの経緯の調査を抜きに判断することはできないとして、「申立ての原因となった事実のあった日から1年を経過している」という理由で調査を実施しなかった。

しかしながら、苦情申立ての趣旨によると、通報を行ったのは2022年12月のことであり、オンブズマンへの苦情申立ては1年以内になされている(苦情申立ては2023年1月)。

また、申立人は、通報への対応という「市の機関の業務の執行」について、「申立人が違法と思料する根拠法令の検討をせず、申立外の法令のみを審査基準として審査した」ことを不服として、苦情を申し立てているのである。したがって、「入院しなかったことの経緯の調査を抜きに判断できない」というオンブズマン判断もまた、申立人のいう「論点ずらし」であろう。

すなわち、①高齢者虐待防止法による通報がなされた場合に市はどのような対応をするのか、とりわけ、②どのような法令に基づいてどのような権限を行使することができるのか、という点が明らかになれば、おのずと、③申立人が違法と思料する根拠法令の検討をしなかった事情が明らかになったと思われる。

この案件を担当した原俊彦オンブズマンは、今回公開分の別件(第2022-60号)では、申立人が構成した論点を調査対象と調査対象外に振り分け、専門的な医学的判断に関わらない部分のみ調査を実施するという巧みな技を披露していた。この案件において同様の技巧が披露されなかったことは、実に残念である。

なお、今回、2022年4月1日に申し立てられた第2022-1号が、ようやく公開された。この案件は、オンブズマン事務局職員の説明によると、第2021-83号の苦情がいったん取り下げられた後、再度、同内容の申し立てがなされた案件である。ただし、「調査実施通知書」の日付は2022年11月24日であり、再度の苦情申立がなされた後も、しばらく塩漬けの状態が継続した模様である。

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①第2022-1号
 生活保護受給者が、市側の都合で長らく家庭訪をしなかったにもかかわらず、訪問日を強制的に決定するとともに、訪問日には体調不良であったにもかかわらず訪問が強行され、資産報告書及び預金通帳の写しの提出も強制されたとして苦情が申し立てられたケース。なお、本件は第2021-83号の申立人がいったん申し立てを取り下げた後、再度苦情を申し立てた案件である。(担当オンブズマン:田村智幸)

②第2022-56号
 申立人の所有地に隣接する市有地に盛土がされ豪雨等による流出が懸念され、その旨を市に指摘しても適切な対応がなされないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

③第2022-60号
 申立人の関係人が市立札幌病院で治療を受けた際、担当医が院内での他の診療科に紹介をしなかったことや治療に際し医療過誤があったとして病院から医療事故調査の申立てをすること等を求めて苦情が申し立てられたケース。なお、本件苦情申立人は、第2022-61号の申立ても行っている模様である。(担当オンブズマン:原俊彦)

④第2022-61号
 申立人の関係人が市立札幌病院に入院しているところ、当該関係人が他の病院に転院することを病院職員が妨害しているとして苦情が申し立てられたケース。なお、本件苦情の申立人は、第2022-60号の申立ても行っている模様である。(担当オンブズマン:原俊彦)

⑤第2022-62号
 生活保護受給者が転居費用の支給や担当ケースワーカーの交代を求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑥第2022-63号
 市立中学校の正門前に居住する申立人が、生徒を送迎する違法駐車の車両により迷惑を受けているが改善されないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

⑦第2022-64号
 生活保護受給者が、転居にともない家賃が安くなったにもかかわらず適時に住宅扶助の金額が変更されず、過支給となったために分割での返還を余儀なくされたとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

⑧第2022-67号
 申立人の土地が産業廃棄物の保管場所となっていることについて、業者が道路占有を申請する際に地番を誤認するとともに、当該誤認を市が十分確認しなかったためであるとして、これまで市に説明を求めてきたが納得のいく回答が得られず、2022年4月に再度質問したがこれまでの回答と変わらなかったとして苦情が申し立てられたケース。苦情申立ての原因となった工事が平成30年の出来事であり、「申し立ての原因となった事実のあった日から1年を経過している」として、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑨第2022-68号
 肺炎球菌ワクチンの接種について保健所に問い合わせたにもかかわらず、適切な情報提供を受けられなかったとして苦情が申し立てられたケース。調査に着手したものの、問い合わせがなされたのが2021年6月のことであり、「申立の原因となった事実のあった日から1年を経過している」として、調査中止が通知された。(担当オンブズマン:原俊彦)

⑩第2022-72号
 申立人の関係人の虐待致死事件に関し市に高齢者虐待防止法に基づく通報を行ったところ、市は介護保険法に違反する事実は認められないとして申立てを棄却したが、その結論は不当であり、市が事業者に対し適切な処分を行うことを求めて苦情が申し立てられたケース。申立人は当該関係人が2020年1月に入院して適切な医療を受けていれば死亡しなかったと主張しているところ、「申し立ての原因となった事実のあった日から1年を経過している」として、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:原俊彦)

2023/03/06

審査請求が認められる

すでに2022年8月に調査を終了したケースのエントリーに記載したが、第2022-22号の苦情等調査結果通知書で非公開とされた箇所の一部の公開を求めて審査請求したところ、審査庁たる札幌市長は2023年3月3日付の裁決において請求を認容した。「札幌市情報公開・個人情報保護審査会」への諮問すら行われない、いわば「完全勝利」である(札幌市情報公開条例17条1項2号参照)。

全文参照

まず、裁決までの経緯を振り返っておく。2022年9月1日付で行った公文書公開請求に対し、同月27日付でなされた一部公開決定において、苦情等調査結果通知書第2022-22号が公開された(当初公開分)。この案件は、敬老優待乗車証のチャージのために郵便局を訪れた際の職員の対応に不満を覚えた申立人が、市に対応を求めたものの適切な対処がなされないとして苦情が申し立てられた事案である。

そして、当初公開された上記通知書においては、市とチャージ業務について業務委託契約を締結した日本郵便北海道支社の業務マニュアルを引用した箇所が非公開とされていたことから、当ブログ開設者が当該箇所の公開を求めて審査請求をしたところ、公開を命ずる裁決が出されるとともに、裁決書と合わせて、苦情等調査結果通知書第2022-22号が送られてきた(裁決後の通知書)。

なお、この裁決では、上記マニュアルを引用した箇所について、「本件非公開部分を公開しても申立人と郵便局員とのやり取りの内容が明らかになるものとは認められず、特定の個人を識別することはできない」として、条例7条1号に定める非公開情報(いわゆる「個人情報」)には該当しないと判断されている(同号は「非公開情報」として「個人に関する情報で、特定個人を識別することができるもの」を規定する)。

ここでのポイントは、特定個人識別性がないことを理由として非公開情報ではないと判断している点である。この点、当ブログ開設者による、マニュアルを引用した箇所は「個人に関する情報」には該当しないという主張は、残念ながら採用されなかった。

また、裁決は条例7条1号の非公開情報該当性を否定するとともに、条例7条5号オ(いわゆる「事務事業情報」)該当性も否定した(同号オは「事務又は事業の性質上、公にすることにより、当該事務又は事業の適正な遂行に著しい支障を及ぼすと認められるもの」を非公開情報と規定する)。

以上の次第で、今回の裁決は、オンブズマンによる「苦情等調査結果通知書」について、通知書の記載内容は「個人に関する情報」であるが、「特定個人識別性」が認められない限り条例7条1号が規定する非公開情報(いわゆる「個人情報」)には該当しないことを明確にした点で、大きな意義があると思われる。

その一方で、条例7条5号オが規定する非公開情報(いわゆる「事務事業情報」)該当性に関しては、条例7条1号が規定する非公開情報該当性と結びつけた判断をしている。しかしながら、こうした判断が適切かどうかは、なお議論の余地があると思われる。特定個人識別性がある箇所を非公開にしたとしても、自らが申し立てた苦情(について記載された文書)が公文書公開の対象となること自体、苦情申立を忌避する理由となると思われるからである。

また、今回の審査請求においては、審査請求書に「苦情等調査結果通知書を公開することによりオンブズマンがいかにずさんな調査を行っているかが明らかになり、「市民のオンブズマン制度への信頼を失わせ」る可能性がある」旨も記載した。裁決書記載の「審査請求書による請求人の主張」においては見事なまでに無視されたが、その理由は定かでない。

2023/03/01

新オンブズマン就任(2023年)

2023年2月28日、以下の議案が札幌市議会に提出され、同日、議会の同意を得た。これにより、新たに神谷奈保子氏(民事調停委員)がオンブズマンに就任するとともに、田村智幸氏(弁護士)が再任された。神谷氏は、2019年3月にオンブズマンに就任した八木橋眞規子氏(民事調停委員)の後任である。

これにより、2023年3月1日以降は、2020年3月1日に就任したオンブズマン2期目の原俊彦氏(大学名誉教授)とあわせ、3名体制で札幌市オンブズマンの職務が遂行されることになる。

ところで、今回再任された田村智幸氏について、当ブログ開設者は2021年9月に調査を調査を終了したケースのエントリーにおいて、「オンブズマンがその手腕を惜しむことなく発揮することを期待したい」と記したことがある。しかし、1期目の2年が満了する現時点では、田村智幸氏の手腕を買いかぶっていたと感じている。

それというのも、その後田村智幸氏が担当した調査には、「市の回答」を鵜呑みにして裏とりをしていなかったり、申立人の主張をオンブズマンの都合で改変したり、場合によっては申立人が主張していない内容をあたかも主張しているかのごとく捏造したと疑われる案件も散見されるからである(なお、第2022-58号は当ブログ開設者が苦情を申し立てた案件であるが、苦情申立ての趣旨において田村智幸氏を名指しでの調査の問題点を指摘している。ご関心の向きに一読を推奨する)。

こうした調査は、田村智幸氏が札幌市オンブズマンとしての職務を遂行するに際し、「市民の意向が的確に反映された市政運営に資する」(札幌市オンブズマン条例1条)ことよりも、苦情を申し立てる口うるさい市民に穏便にお引取りいただくよう、調査をしたという体裁を取り繕うことがオンブズマンの役割であると考えているためではないかと、当ブログ開設者は考えている。

市民の意向が的確に反映された市政運営に資するべく、オンブズマン2期目の田村智幸氏には札幌市オンブズマンの制度の理念に忠実に、市の業務の実体的側面に限らず、制度・手続き・説明といった側面からも、適切な調査が実施されることを期待したい。