2023/11/24

2023年10月に調査を終了したケース

2023年11月1日、同年10月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、11月14日付で一部公開決定がなされた。

上記の期間(2023年10月)に調査を終了したのは3件で、全3件で調査結果が通知された。3名のオンブズマンが各々1件づつの担当である。以下ではそのうち2件について、当ブログ開設者の感じたところを述べる。

まず、第2023-19号である。この案件は、生活保護受給者が親族死亡により未支給の国民年金を受給したことにともなう、保護費の取扱いに関する苦情である。保護課は当初、親族死亡時に資産が発生したとして支給ずみの保護費の返還を求めたものの、その後対応を改め、未支給年金の入金時点で収入認定し保護を廃止した。こうした一連の対応の経緯について苦情が申し立てられたところ、市の保護課は、当初の説明が誤りであったことを認めた。

ところで、この案件における保護課の対応(とりわけ当初の説明が誤りであると認めたこと)について、当ブログ開設者は、対申立人向けの「方便」ではないかという印象を抱いている。

すなわち、保護課は当初、入金された未支給年金の「全額返還」(と保護の継続)というプランAを選択したものの、申立人世帯の納得を得るのが困難であると考え「保護廃止」というプランBの対応に変更したのではないか、ということである。また、そのような事情をそのまま申立人に説明することも、(たとえ事実であったとしても)申立人の気分を害する可能性は高い。

さらに、申立人世帯にとっても、保護を継続した場合には医療扶助が受給できるのに対し、保護廃止になると国民健康保険料および医療機関受診時には一部負担金という負担が生じることになる。そのため保護課としては当初、保護廃止後に入金された年金をやりくりしながら生活するのでは、生活保護受給時よりかえって生活が苦しくなるという点も考慮したのではないか、ということである。

ただし、これはあくまで当ブログ開設者の印象にすぎず、保護課の対応を過大評価しているかもしれない。また、申立人世帯にとっても、保護継続より保護廃止が可能ならばそちらを選択するという判断は、生活保護の受給の「自己決定」として尊重されるべきであると思われる(生活保護法も「申請保護の原則」を規定する・同法7条)。

ところで、案件を担当した原俊彦の判断によると、支給ずみの保護費の取扱いについて、戻入通知書による「返還」と納入通知書による「徴収」がなされたことについて、「これらの取扱いの違いについて文書と口頭で説明を受けましたが、オンブズマンにとっても両者の違いは容易に理解できるものではありませんでした」ということである。この記述からは、最終的にその違いを理解したのか未だ理解できないままなのか不明であるが、「行政に関し優れた識見を有する」(札幌市オンブズマン条例8条2項)オンブズマンにしては、あまりにも理解力が貧弱であろう。

この点、これらの通知書の「名宛人」及び「名目」の違いは、保護金品は世帯主に交付するのが原則であり(生活保護法31条3項本文および同法33条4項)、保護廃止となることで過支給となった保護費については「世帯主」に対し「戻入」の手続きが取られ、「世帯構成員」(当然ながら世帯主とは別人)の口座に未支給年金が入金され資産を保有することになったために返還が必要になった保護費については、当該世帯構成員に対し「徴収」の手続きがとられた(同法63条および77条の2第1項)、というのが当ブログ開設者の理解である。

次に、第2023-27号である。この案件では、札幌プレミア商品券2023の購入手続きについて、発券場所のローソンの数が少なく、発券するための端末操作も煩雑であるとして苦情が申し立てられた。

まず、当ブログ開設者が市の回答を一読し何より驚いたのが、発券機能を備えた端末を備えたローソンが札幌市南区内に5店舗しかないという事実である。申立人の居住区が南区ならば(公開を受けた文書からは不明)、「自宅の周りにはローソンがない」という事態も大いにありそうなことである。

それでは、ローソン以外のコンビニエンスストアはどうであろうか。市内各区の店舗数を調べたのが以下の表である(なお、表はあくまで店舗数であり、発券機能を備えた端末が未設置の店舗を含んでいる可能性がある)。参考のため、各区の人口および公的な性格を有する施設として投票所及び郵便局(簡易局を含む)の数も添えた。

それによると、南区のローソン5店舗というのは、市内の総店舗数がローソンより少ないファミリーマートの8店舗すら下回る惨状である。市は業務委託に際し「販売所は200か所以上を確保する」ことを要件としたそうであるが、購入者の利便性を確保するためにも、各区ごとに最低10か所の販売所を設置する等の要件もあわせて設定すべきであったと当ブログ開設者は考えている(条件を満たす(と思われる)コンビニエンスストアの系列が存することは下表のとおり)。今後、札幌市がコンビニエンスストアの発券機能を利用する事業を実施する機会があるならば、考慮していただきたいものである。

なお、この案件の担当オンブズマン田村智幸によると、「販売方法の選定については市の裁量が尊重されるべき」であり、「販売所について郵便局等を併用できたかについては軽々に判断できることではな(く)」、「ローソンを販売所としたことについて、市の判断に不備はない」そうであるが、販売所へのアクセス保障という視点が完全に欠落している。課題を残す判断であると思われる。


人口
(万人)
投票所
郵便局
ローソン
セイコー
マート
セブン
イレブン
ファミリー
マート
中央区
25 37 48 85 58 78 43
北区
29 48 33 30 47 48 20
東区
26 39 30 31 45 44 19
白石区
21 30 24 23 38 40 19
厚別区
12 22 13 13 15 15 6
豊平区
23 31 18 23 34 30 19
清田区
11 16 14 11 15 12 4
南区
13 33 20 5 28 18 8
西区
22 31 23 24 29 34 7
手稲区
14 24 15 14 22 17 4
全市
197 311 238 259 331 336 149

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①第2023-19号
 生活保護受給者が親族死亡により未支給の国民年金を受給したことにともなう保護費の取扱い等について苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

②第2023-27号
 札幌プレミア商品券2023の購入手続きについて、発券場所のローソンの数が少なく、発券するための端末操作も煩雑であるとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

③第2023-31号
 生活保護受給者に対する市職員の電話での対応や病状調査票に係る対応等について、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

2023/11/03

オンブズマンが苦情調査をしない条例上の根拠について

前回のエントリーで紹介した第2023-30号は、「苦情について調査しない旨」が通知された案件である。この案件では、職員の行為が「市の機関の業務の執行」(札幌市オンブズマン条例(以下、「条例」という。)3条)に該当しないという説示がなされている。しかしながら、当ブログ開設者はこの案件では、むしろ「申立人の利害の不存在」(条例16条1項1号)を理由とするべきであると考えている。

ところで、この点とは別に、当ブログ開設者はこの案件においてオンブズマンが、「条例16条第1項の規定により、調査をしないことといたしました」という説示に接し疑念を抱いた。それというのも、当ブログ開設者は、この案件では条例3条がオンブズマンが調査を実施しない根拠であり(すなわち苦情申立てに係る事実がオンブズマンの所轄外の事項である)、何故に条例16条を根拠とする旨を説示するのか、と感じたためである。

当ブログ開設者がこのように感じたのは、条例3条がオンブズマンの所轄事項を規定するとともに、条例16条が調査対象外の事項を規定し、苦情申立ての内容がオンブズマンの所轄外の事項である場合には条例3条、苦情申立ての内容が調査対象外の事項である場合には条例16条1項を根拠として、オンブズマンが調査を実施しないと理解していたからである(このほか、調査することが相当でない特別の事情がある場合については条例16条2項)。

しかしながら、今般改めて条例の規定を確認したところ、そうした理解は正鵠を得たものではないことが判明した。そこで以下において、条例の規定内容を確認しておきたい。

まず、札幌市オンブズマン条例17条1項は、オンブズマンが「前条の規定により苦情を調査しないときは、苦情申立人に対し、理由を付してその旨を速やかに通知しなければならない」と規定する。

そして、条例16条1項は、「オンブズマンの所轄事項でないもののほか」、同項各号が規定する「調査対象外の事項」に該当するものであるときには、オンブズマンが申立てに係る苦情について調査しないことを規定するのである。

この点、当ブログ開設者は、条例16条1項の「オンブズマンの所轄事項でないもののほか」という箇所を見落としていた。そのために、条例3条に基づいて調査しない場合と条例16条(1項及び2項)に基づいて苦情について調査しない場合があると誤認する結果となった。しかしながら、条例17条が前条の規定により調査しない場合の通知について規定している以上、条例16条のみが調査しない場合の根拠と考えるのが適切と思われる。

このように、札幌市オンブズマン条例は、オンブズマンが苦情について調査しないのは、①苦情がオンブズマンの所轄事項ではない場合(条例16条1項)、②所轄事項に該当するが調査対象外の事項に該当する場合(条例16条1項)、③所轄事項に該当するが調査することが相当でない特別の事情がある場合(条例16条2項)であることを規定し、苦情について調査しない場合にはその旨を申立人に通知する(条例17条1項)ことを義務づけるのである。

ただし、条例17条を読む限りでは、①条例16条以外を根拠として調査しない場合があるととともに、②その場合には申立人に対する通知は不要である、という反対解釈も成り立たないわけではない。そして、その場合には、条例3条の規定する所轄事項に該当しない苦情については、条例3条を直接の根拠として調査しないと理解するわけである。

しかしながら、前述したように条例16条1項が「オンブズマンの所轄事項でないもの」(同条例3条)についてもオンブズマンが調査しないと規定している以上、あえてこのような反対解釈をする必要性はない。のみならず、条例16条を根拠とせずにオンブズマンが調査を実施しない場合には条例17条に基づく書面通知も義務づけられないという解釈も適切ではないだろう(ただし、申立人が所在不明で通知不能な場合の対応は考えておくべきかもしれない)。

以上の次第で、申し立てられた苦情が条例3条が規定する「所轄外の事項」である場合において、「条例16条第1項の規定により、調査をしない」という第2023-30号のオンブズマンの説示も、理論的に誤りではないことが確認できた次第である。

とはいえ、この点について過去の案件を確認したところ、もう少し丁寧な言い回しがなされた案件も存在する。それらの案件では、①申し立てられた苦情が所轄外の事項であること、②条例16条1項は所轄外の事項については調査しない旨を規定していること、の2点について説示した上で、調査しないという結論を導いている。こうした論理展開が申立人に対してより懇切丁寧であることはいうまでもない。