2021/11/22

2021年10月に調査を終了したケース

 2021年11月1日、同年10月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、同年11月12日付で一部公開決定がなされた。

上記の期間(2021年10月)に調査を終了したのは9件で、このうち4件で調査結果が通知されている。また、残る5件のうち、4件は申立人の取り下げにより(このうち調査中止が通知されたものは2件)、1件は調査をしない旨が通知され、調査が終了している。

今回、
公開を受けた案件についてのコメントする前に、当ブログ開設者は札幌市オンブズマンに苦情を申し立てる申立人には、2つのタイプがあると考えていることについて言及しておきたい。

第1のタイプは、苦情を申し立てると何らかの改善がなされるかもしれないという、”期待”に基づいて苦情を申し立てるタイプである(「オンブズマンなどお飾りの制度にすぎない」として、はなから制度を信用・信頼していない場合には、苦情を申し立てることはないだろう)。そして、こうしたタイプの申立人(「改善指向型」とよぶことができようか)による苦情の調査では、申立人が理解・納得できるような説明がなされることに、調査の意義があると考えている。

第2のタイプは、社会的に孤立した申立人(ただし、申立人自身がそのことを認識しているわけではない)が、オンブズマンに苦情を申し立てることで、社会との接点を持とうとするタイプである。

こうしたタイプの申立人(「承認指向型」とよぶことができようか)の苦情の場合には、第1のタイプの申立人の場合とは異なり、オンブズマンが申立人の苦情をきちんと受け止めていることが、申立人にきちんと伝わるよう工夫することが、調査に際して必要になってくると思われる。その限りでは、必ずしも論理的・明確な説明をすることが、調査として適切であるとは限らない、ということである。

さて、このような私見を披露したのは、今回、公開を受けた案件のうち、第2021-52号が第2のタイプの申立人による苦情であろうと思われたからである。苦情の内容は苦情等調査結果通知書で確認して頂くとして、ああいう場合はどうなる、こういう場合はどうなると、仮定の話を延々と続ける申立人に、調査担当オンブズマンも閉口した模様である。ただし、調査担当オンブズマンが申立人の感情をいたずらに害さないように配慮した形跡が伺えるのであり、今後も、調査担当のオンブズマンを問わず、同様の配慮がなされることを期待したい。

次に、第2021-55号についてもコメントしておきたい。この案件は、過去にオンブズマンが調査を実施した後の市の対応について、苦情が申し立てられたケースである。調査担当のオンブズマンは、申立人に「直接的・具体的な利害がない」として、調査を実施しなかった(札幌市オンブズマン条例16条1項1号参照)。

ところで、札幌市オンブズマン制度発足した当時、当時の桂市長は、「苦情申し立てに当たっての制約につきましても,市民の権利利益を擁護するというオンブズマン制度の目的に照らして,できる限り広く取り扱うことにしたい」という議会答弁を行っている。そして、当ブログ開設者がオンブズマン事務局に照会したところ、現在も当該市長答弁と同様の運用を行っている旨の回答を得ている(オンブズマン事務局長名による2020年10月9日付文書)。

この点、この案件において担当オンブズマンは、前述のように「直接的・具体的な利害がない」として調査を実施しなかったが、こうした限定は、「できる限り広く取り扱う」という市長答弁や、市長答弁と同様の運用を行っているというオンブズマン事務局長回答と相容れないと思われる。のみならず、申立人がオンブズマン調査が終了した後の市の対応について、「直接的・具体的な利害がない」と言えるのかについても、当ブログ開設者は大いに疑問を抱いている。

この案件の調査担当オンブズマンについて、当ブログ開設者は申立人の苦情や市の回答を理解することもままならないのではないか、という疑念を抱いているが、「札幌市オンブズマン制度」の何たるかについても理解を欠いているのかもしれない。「眠れるオンブズマン」に過度の期待は禁物ということなのだろう。

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①第2021-49号
 事業者である申立人の施設に保健所が2度にわたり立ち入り調査を実施したことについて、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

②第2021-50号
 道路工事や維持管理作業を受託している(と思われる)事業者から、市の担当課の職員の発言をはじめとする一連の対応について、苦情が申し立てられたケース。苦情申し立ての取り下げにより、調査は終了している。(担当オンブズマン:原俊彦)

③第2021-52号
 生活保護の受給者が、保護課への相談回数が多いことを理由として相談回数が制限されたとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

④第2021-53号
 生活保護を受給する伯母が入院した際、その旨を担当ケースワーカーに連絡したところ、伯母が死亡した場合の対応について問い合わせを受けたが、こうした問い合わせは配慮に欠けるとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

⑤第2021-54号
 市民動物園会議の市民委員に応募したが応募結果の連絡がなく、その旨問い合わせたところ応募を受け付けていないという回答を受けた申立人が、現行の書類の郵送及び持参という応募方法の改善を求め、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑥第2021-55号
 オンブズマンによる苦情調査(第2021-15号)において、市教育委員会が札幌市の小学校で防犯カメラの運用を取りやめるという回答をして以後の対応について、苦情が申し立てられたケース。苦情申立ての内容が申立人に直接的・具体的な利害関係がないとして、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:原俊彦)

⑦第2021-62号
 申立人の中学生の息子に対するスクールカウンセラー、校長及び児童相談所の対応に不満があるため、オンブズマンの調査で息子の気持ちを明らかにしてほしいして苦情が申し立てられたケース。苦情申立ての取り下げにより、調査は終了している。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑧第2021-64号
 マンション出入り口前に設置されていたカーブミラーが撤去されたことにつき、納得のいく説明をしてほしいとして苦情が申し立てられたケース。苦情申立ての取り下げにより、調査は終了している。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑨第2021-65号
 児童手当の支給申請の期限について説明がなかったにもかかわらず、申請が期限に遅れたことを理由に10月分の児童手当が支給されなかったとして、苦情が申し立てられたケース。苦情申立ての取り下げにより、調査は終了している。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)


2021/11/02

2020年度の活動状況報告書から考える

今さらながらの感があるが、2021年7月14日に、2020年度(令和2年度)の『札幌市オンブズマン活動状況報告書』が、代表オンブズマン原俊彦オンブズマンから札幌市長に交付された。その時の模様が、以下の写真である。


2020年に2019年度の活動状況報告書が交付された際は、以下の写真のように、3名のオンブズマン立ち合っていたところ、新型コロナ感染拡大のためであろうか、代表オンブズマン1名のみが、市長に活動状況報告書を交付する場に臨席した模様である。


昨年の写真では、まるで居眠りしているかのような姿勢だったオンブズマン、今年はようやくお目覚めを迎えたものの、まだ眠気が抜けきらないかのごとく見えるのは、ご愛敬といえようか。

ところで、この2020年度の活動状況報告書、例年であれば、単年度のオンブズマンの活動状況を紹介する内容であるが、2020年度の活動状況報告書は、制度発足20周年記念号と題し、過去のオンブズマンの活動状況や、歴代のオンブズマンからの寄稿文などが掲載されている。

このうち、歴代のオンブズマンからの寄稿文は、制度発足10周年以降にオンブズマンの職にあった元オンブズマンに寄稿を依頼した模様であるが、井上宏子・元オンブズマンからの寄稿文の掲載はなかった。そこで、すでに落命しているならば寄稿のしようもないと思い、オンブズマン事務局に問い合わせたが、そうした事情は確認できなかった。

当ブログ開設者は、井上宏子・元オンブズマンの健筆に接することができず、実に残念に思っている。もしかすると、存命であっても、すでに文章を執筆できるだけの事理弁識能力を持ち合わせていないのかもしれない。井上宏子・元オンブズマンが、ご健勝であられることを願っている。

そのほか、元オンブズマンの寄稿文の中では、2021年2月末でオンブズマンを退任した、房川樹芳・元オンブズマンの寄稿文の内容も、実に興味深いものであった。房川樹芳・元オンブズマンの言行不一致ぶりが、読み取れるように思われたからである。

それによると、房川樹芳・元オンブズマンは、苦情調査の進め方について以下のように述べている。苦情が申し立てられた後、「市の担当部署から聴取することになりますが、結構、詳細に回答してくれていると感じました。その上で、1か月位を目途として判断します。まずは法規の確認。次に、類似の裁判例がないかの調査。さらに問題点の改善ができないかを考え、双方が納得できるような判断を心がけたつもりです」。

ここでは、「法規の確認」という文言が用いられているが、この2020年度の活動状況報告書に掲載されている房川樹芳・元オンブズマンが同年度に実施した「街路灯の安全対策」についての発意調査は、国の「通知」を参照する一方で、「法規」は全く参照されていない。これは、房川樹芳・元オンブズマンが担当した調査は、苦情調査と発意調査では調査の進め方が異なっていたか、房川樹芳・元オンブズマンが「法規」の語を理解していないかのいずれかであろう。

また、2020年度の活動状況の紹介では、活動状況報告書に担当者名は記載されていないものの、原俊彦オンブズマンが担当した第2020-75号の要約が興味深い(活動状況報告書76頁)。

この案件は、このエントリーでもその問題点を指摘したところであるが、苦情等調査結果通知書の「オンブズマン判断」に記載されていた内容の一部が、活動状況報告書における「オンブズマン判断」の要約からは、見事なまでに削除されている。字数の都合で削除したというよりは、誤りであることが明白であり、さすがにそのまま掲載するわけにはいかなかったのであろう。

以上、当ブログ開設者の感じた点を縷々述べてきたが、札幌市オンブズマン制度も、制度の存在意義を再検討する時期に来ているように思われる。すなわち、これまでは、オンブズマン制度を通じた「市政の改善」とは、オンブズマンの指摘を踏まえ、市が対応を改めるということであった。このような「改善」がなされることは、制度の積極的な存在意義ということができる。

その一方で、必ずしも市政のその分野に詳しくないオンブズマンにも理解できるように、調査対象部局がオンブズマン向けの説明を工夫するならば、このような説明の工夫も「市政の改善」と評価できると思われる。市民一般に向けた説明の改善につながるからである。このような「改善」についても、オンブズマン制度の消極的な存在意義として、正面から認めていく時期にあると、当ブログ開設者は考えている。