この発意調査にかかる文書について公文書公開請求を行ったのは、当該調査は2021年2月に終了しており、本来ならば2021年3月1日付の公開請求に基づいて公開されていなければならなかったにもかかわらず(決定期日は同月31日付)、公開対象から漏れていたからである。
公開対象に漏れがあったことは、2021年5月に調査を終了した案件に関する文書の写しの交付を受けた際、当ブログ開設者が担当職員に確認して判明した。そこで、公開対象公文書に漏れが生じた理由の説明を求めて、オンブズマンに対し苦情を申し立てたところである。申し立て後の顛末については、オンブズマンが調査を実施したか否かも含めて、後日、紹介することができると思われる。
さて、遅ればせながら公開されたこの調査、担当は房川樹芳オンブズマンで、札幌市における街路灯の安全対策について実施したものである。
この調査の市の回答によると、驚くことに、2019年から2020年にかけて、街路灯の折損事故が3件生じているということである。
のみならず、事故が生じた街路灯はいずれも、2014年から2019年にかけて実施された1巡目の定期点検の結果、健全性が判定区分Ⅰ(健全)~判定区分Ⅳ(緊急措置段階)の四段階の区分のうち、判定区分II(予防保全段階)及びⅢ(早期措置段階)であったということである。このような事態は、判定が適切になされていたか疑念を生じさせる、衝撃的な事実である。
また、市の回答によると、判定区分Ⅳとされた街路灯については速やかに撤去することとしている、という原則が示されているものの、1巡目の定期点検において判定区分Ⅳとされた件数がどのくらいあったのか、さらに、現状においてすでに措置を終えているのか等については、特に言及されていない。
この点、2020年9月から実施されている2巡目の定期点検は、判定区分Ⅲ及びⅡから「先行実施」しているということであるが、判定区分Ⅳとされた街路灯が残置しているにもかかわらず、判定区分Ⅲ及びⅡを「先行」して点検している、という趣旨に読めなくもない。
さらに、市の回答は、折損事故発生後の緊急点検に基づいて措置を講じたことについての言及はあるものの、前述したように、1巡目の定期点検に基づいてどのような措置を講じたかについての言及がないため、読む者に対し、市の対応が、いかにも後手を踏んでいるかのような印象を与えるものになっている。
オンブズマンとしては、実際に折損事故が生じた事例から講じるべき措置を論ずれば足りると考え、このような市の回答に疑問を抱かなかったのかもしれないが、将来へ向け効率的な対策を講じようとするならば、折損事故が生じる前に講じられた措置の適否についても、検討する必要があったのではないかと思われる。
ところで、この調査では、末尾の【参照条文】に、法令が一切引用されていない。そこで、当ブログ開設者が確認した法令の規定について、以下に、備忘録代わりに記しておく。発意調査の内容を理解する助けになると思われる。
まず、道路法42条1項は、道路管理者が「道路を常時良好な状態に保つように維持し、修繕」することを定め、同条2項が、「道路の維持または修繕に関する技術的基準その他必要な事項」(同法42条2項)については、政令で定める旨を規定する。
そして、道路法施行令35条の2第1項2号は、「道路の点検は、(中略)道路の附属物について、道路構造等を勘案して、適切な時期に、目視その他適切な方法により行うこと」を規定する。なお、「道路上の街灯で道路管理者の設けるもの」(道路法2条2項2号)は、上記の「道路の附属物」(同法2条2項)に該当する。
また、同条3号は、「前号の点検その他の方法により道路の損傷、腐食その他の劣化その他の異状があることを把握したときは、道路の効率的な維持及び修繕が図られるよう、必要な措置を講ずること」が規定されている。
このように、法令は、道路管理者に対し、道路の維持及び修繕を義務づけ、道路の附属物の点検もその中に位置付けられているわけである。
さらに、道路法施行令35条の2第2項は、「道路の維持または修繕に関する技術的基準その他必要な事項」について、国土交通省令で定める旨を規定する。
そして、道路法施行規則4条の5の6は、「道路の附属物のうち、損傷、腐食その他の劣化その他の異状が生じた場合に道路の構造又は交通に大きな支障を及ぼすおそれがあるもの(中略)の点検は、(中略)点検を適正に行うために必要な知識及び技能を有するものが行うこととし、近接目視により、五年に一回の頻度で行うことをを基本」とする旨規定する(同条1号)。
その上で、「点検を行ったときは、(中略)健全性の診断を行い、その結果を国土交通大臣が定めるところにより分類」し(同条2号)、「診断の結果並びに(中略)令第35条の2第1項第3号の措置を講じたときは、その内容を記録し、(中略)これを保存する」ことが規定されている。
また、トンネル等の健全性の診断結果の分類に関する告示(平成26年国土交通省告示第426号)が、健全性の診断結果について、以下の区分に分類することを規定している(「トンネル等」に道路の附属物が該当することは、道路法施行規則4条の5の6第1号が規定)。
Ⅰ 健全 構造物の機能に支障が生じていない状態。
Ⅱ 予防保全段階 構造物の機能に支障が生じていないが、
予防保全の観点から措置を講ずることが望ましい状態。
Ⅲ 早期措置段階 構造物の機能に支障が生じる可能性があり、
早期に措置を講ずべき状態。
Ⅳ 緊急措置段階 構造物の機能に支障が生じている、
又は生じる可能性が著しく高く、
緊急に措置を講ずべき状態。
なお、今回の発意調査を担当した房川樹芳オンブズマンは、かつて、「道路に「瑕疵」があった場合の道路を管理する市の責任については、国家賠償法2条1項に規定されています。」という珍説を展開したことがある(第30-1号)。そこで、当ブログ開設者は、国家賠償法は賠償責任の規定であり、道路管理者が道路を維持管理する責任は道路法が根拠であることを指摘した(このエントリー)。
今回の発意調査も、房川樹芳オンブズマンは、道路管理者たる札幌市が道路を維持管理する際の根拠となる法令の大枠を明らかにしておく、という発想を欠いたようであるが、この点を明らかにしておけば、今後、札幌市オンブズマンが道路に関する調査を実施する際の礎を提供することができたと思われる。
それにしても、房川樹芳オンブズマンにとっては、道路に関する調査は鬼門のようである。とはいえ、房川樹芳オンブズマンが今回の調査も含めて道しるべを残すことで、今後、同じ轍を踏むオンブズマンが現れなくなるならば、房川樹芳オンブズマンが実施した道路に関する調査にも意義があったと評価できるようになるかもしれない。
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①2020-発1号
街路灯の安全対策について(担当オンブズマン:房川樹芳)