2021/06/30

2020年度に実施された発意調査について

2021年6月15日、2020年度にオンブズマンが実施した発意調査にかかる調査実施通知書及び苦情等調査結果通知書等について公文書公開請求を行ったところ、同月23日付で発意調査にかかる文書について、全部公開決定がなされた(同時に請求した他の文書については一部公開決定)。

この発意調査にかかる文書について公文書公開請求を行ったのは、当該調査は2021年2月に終了しており、本来ならば2021年3月1日付の公開請求に基づいて公開されていなければならなかったにもかかわらず(決定期日は同月31日付)、公開対象から漏れていたからである。

公開対象に漏れがあったことは、2021年5月に調査を終了した案件に関する文書の写しの交付を受けた際、当ブログ開設者が担当職員に確認して判明した。そこで、公開対象公文書に漏れが生じた理由の説明を求めて、オンブズマンに対し苦情を申し立てたところである。申し立て後の顛末については、オンブズマンが調査を実施したか否かも含めて、後日、紹介することができると思われる。

さて、遅ればせながら公開されたこの調査、担当は房川樹芳オンブズマンで、札幌市における街路灯の安全対策について実施したものである。

この調査の市の回答によると、驚くことに、2019年から2020年にかけて、街路灯の折損事故が3件生じているということである。

のみならず、事故が生じた街路灯はいずれも、2014年から2019年にかけて実施された1巡目の定期点検の結果、健全性が判定区分Ⅰ(健全)~判定区分Ⅳ(緊急措置段階)の四段階の区分のうち、判定区分II(予防保全段階)及びⅢ(早期措置段階)であったということである。このような事態は、判定が適切になされていたか疑念を生じさせる、衝撃的な事実である。

また、市の回答によると、判定区分Ⅳとされた街路灯については速やかに撤去することとしている、という原則が示されているものの、1巡目の定期点検において判定区分Ⅳとされた件数がどのくらいあったのか、さらに、現状においてすでに措置を終えているのか等については、特に言及されていない。

この点、2020年9月から実施されている2巡目の定期点検は、判定区分Ⅲ及びⅡから「先行実施」しているということであるが、判定区分Ⅳとされた街路灯が残置しているにもかかわらず、判定区分Ⅲ及びⅡを「先行」して点検している、という趣旨に読めなくもない。

さらに、市の回答は、折損事故発生後の緊急点検に基づいて措置を講じたことについての言及はあるものの、前述したように、1巡目の定期点検に基づいてどのような措置を講じたかについての言及がないため、読む者に対し、市の対応が、いかにも後手を踏んでいるかのような印象を与えるものになっている。

オンブズマンとしては、実際に折損事故が生じた事例から講じるべき措置を論ずれば足りると考え、このような市の回答に疑問を抱かなかったのかもしれないが、将来へ向け効率的な対策を講じようとするならば、折損事故が生じる前に講じられた措置の適否についても、検討する必要があったのではないかと思われる。

ところで、この調査では、末尾の【参照条文】に、法令が一切引用されていない。そこで、当ブログ開設者が確認した法令の規定について、以下に、備忘録代わりに記しておく。発意調査の内容を理解する助けになると思われる。

まず、道路法42条1項は、道路管理者が「道路を常時良好な状態に保つように維持し、修繕」することを定め、同条2項が、「道路の維持または修繕に関する技術的基準その他必要な事項」(同法42条2項)については、政令で定める旨を規定する。

そして、道路法施行令35条の2第1項2号は、「道路の点検は、(中略)道路の附属物について、道路構造等を勘案して、適切な時期に、目視その他適切な方法により行うこと」を規定する。なお、「道路上の街灯で道路管理者の設けるもの」(道路法2条2項2号)は、上記の「道路の附属物」(同法2条2項)に該当する。

また、同条3号は、「前号の点検その他の方法により道路の損傷、腐食その他の劣化その他の異状があることを把握したときは、道路の効率的な維持及び修繕が図られるよう、必要な措置を講ずること」が規定されている。

このように、法令は、道路管理者に対し、道路の維持及び修繕を義務づけ、道路の附属物の点検もその中に位置付けられているわけである。

さらに、道路法施行令35条の2第2項は、「道路の維持または修繕に関する技術的基準その他必要な事項」について、国土交通省令で定める旨を規定する。

そして、道路法施行規則4条の5の6は、「道路の附属物のうち、損傷、腐食その他の劣化その他の異状が生じた場合に道路の構造又は交通に大きな支障を及ぼすおそれがあるもの(中略)の点検は、(中略)点検を適正に行うために必要な知識及び技能を有するものが行うこととし、近接目視により、五年に一回の頻度で行うことをを基本」とする旨規定する(同条1号)。

その上で、「点検を行ったときは、(中略)健全性の診断を行い、その結果を国土交通大臣が定めるところにより分類」し(同条2号)、「診断の結果並びに(中略)令第35条の2第1項第3号の措置を講じたときは、その内容を記録し、(中略)これを保存する」ことが規定されている。

また、トンネル等の健全性の診断結果の分類に関する告示(平成26年国土交通省告示第426号)が、健全性の診断結果について、以下の区分に分類することを規定している(「トンネル等」に道路の附属物が該当することは、道路法施行規則4条の5の6第1号が規定)。

Ⅰ 健全     構造物の機能に支障が生じていない状態。
Ⅱ 予防保全段階 構造物の機能に支障が生じていないが、
         予防保全の観点から措置を講ずることが望ましい状態。
Ⅲ 早期措置段階 構造物の機能に支障が生じる可能性があり、
         早期に措置を講ずべき状態。
Ⅳ 緊急措置段階 構造物の機能に支障が生じている、
         又は生じる可能性が著しく高く、
         緊急に措置を講ずべき状態。

なお、今回の発意調査を担当した房川樹芳オンブズマンは、かつて、「道路に「瑕疵」があった場合の道路を管理する市の責任については、国家賠償法2条1項に規定されています。」という珍説を展開したことがある(第30-1号)。そこで、当ブログ開設者は、国家賠償法は賠償責任の規定であり、道路管理者が道路を維持管理する責任は道路法が根拠であることを指摘した(このエントリー)。

今回の発意調査も、房川樹芳オンブズマンは、道路管理者たる札幌市が道路を維持管理する際の根拠となる法令の大枠を明らかにしておく、という発想を欠いたようであるが、この点を明らかにしておけば、今後、札幌市オンブズマンが道路に関する調査を実施する際の礎を提供することができたと思われる。

それにしても、房川樹芳オンブズマンにとっては、道路に関する調査は鬼門のようである。とはいえ、房川樹芳オンブズマンが今回の調査も含めて道しるべを残すことで今後、同じ轍を踏むオンブズマンが現れなくなるならば、房川樹芳オンブズマンが実施した道路に関する調査にも意義があったと評価できるようになるかもしれない。

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①2020-発1号
 街路灯の安全対策について(担当オンブズマン:房川樹芳)

2021/06/19

2021年5月に調査を終了したケース

2021年6月1日、同年5月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、同年6月14日付で一部公開決定がなされた。

上記の期間(2021年5月)に調査を終了したのは8件で、このうち5件で調査結果が通知されている。また、残る3件は、調査をしない旨が通知され調査は終了している。

興味深い案件は複数あるが、一番の注目は、おなじみの”眠れるオンブズマン”こと原俊彦オンブズマンが担当した、第2021-10号である。

この案件は、生活保護の受給者が過支給分の保護費の減額や担当職員の一連の説明について、苦情を申し立てた事例である。そして、申立人は、転居に際し、引っ越し移送費の支給には「3社の見積もりが必要である」旨、職員から後になって説明を受けたという主張を行なっている。

これに対し、担当の原俊彦オンブズマンは、「仮に後からであっても、A職員から3社の見積もりが必要であるという説明がなされたことには問題がない」と述べている。市民としては、事前に受けた説明に基づいて具体的に行動するのであり、「事後的に説明をするのでも問題ない」という原俊彦オンブズマンの判断は、たとえ仮定の話であっても、不意打ちを容認するに等しい。このような判断からは、原俊彦オンブズマンが、「市職員の市民に対する説明」を軽視していることが顕著であると思われる。

この点、当ブログ開設者は、市職員の理解が必ずしも十分でないケースを別とすれば、市職員にとっては、市民に対し事前に説明しても、市民の理解がついてこないことが悩みの種であろうと推測する。市職員には、オンブズマンがどのような判断をなそうとも、市民の理解を得られるように、適時に適切な説明を行うことを期待する。 

次に、戸籍の訂正に関する事務について苦情が申し立てられた第2021−4号も興味深い(担当は田村智幸オンブズマン)。ただし、非公開とされた部分が多く、事実関係の詳細が不明であるほか、戸籍の訂正がどのような場合に、どのような手続きで実施されるかという一般論についての記述もないため、戸籍制度についての知見を獲得するという観点からは、不満の残る調査内容となっている。

このほか、所有するアパートが、隣接する市営住宅の長期にわたる工事により外壁の損傷被害を受けたとして苦情が申し立てられた第2021-13号が興味深い。

この案件では、建築や工事に関する専門的知識せず、簡易迅速な調査を職務とするオンブズマンが工事の影響の有無について判断を述べることは適当ではないとして、調査しない旨が通知されている(担当は八木橋眞規子オンブズマン)。

しかしながら、札幌市オンブズマン条例19条3項は、「オンブズマンは、専門的又は技術的な事項について、特に必要があると認めるときは、専門的機関に対し、調査、鑑定、分析等の依頼をすることができる。」と規定している。したがって、オンブズマンが「専門知識」を有さないことは、調査を実施しないことを正当化しない。

また、条例に専門的機関への依頼の規定があるからには、「簡易迅速な調査」という要請がこの依頼を妨げることにもならない。そのため、調査を実施しないというオンブズマンの判断は、職務に対する熱意に欠けるという疑念を生じさせると思われる。

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①第2021−2号
 市営住宅の入居者が、連日怒鳴り声が聞こえるとして相談していることについて、管理人、住宅管理公社及び市の担当課の一連の対応について、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

②第2021−4号
 戸籍訂正の手続きについて、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)
③第2021−5号
 自宅前の除雪について、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

④第2021−6号
 投票事務の不採用通知を受けたが、欠員が生じた場合の追加募集について問い合わせた際の職員の対応について、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

⑤第2021−10号
 生活保護の受給者から、転居費用、職業訓練校への交通費及び同校へ通学することで支給される給付金に関する説明等、市職員の一連の対応について苦情が申し立てられたケース(担当オンブズマン:原俊彦)

⑥第2021−12号
 産業廃棄物処分業の許可に関する北海道の対応について、苦情が申し立てられたケース。「市の機関の業務の執行」に該当しないとして、調査しない旨が通知されている。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

⑦第2021−13号
 所有するアパートが隣接する市営住宅の長期にわたる工事により外壁の損傷被害を受けたとして、苦情が申し立てられたケース。建築や工事に関する専門的知識を有しないオンブズマンが工事の影響の有無について判断を述べることは適当ではなく、「調査することが相当でない特別の事情があると認めるとき」に該当するとして、調査しない旨が通知されている。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)
⑧第2021−14号
 札幌市の保育所等の利用調整基準が、国の通知に「基づいたうえで」制定されるという説明のうち、「基づいたうえで」の具体的に意味するところの説明を求めて苦情が申し立てられたケース。調査しない旨が通知され、調査は終了している。
 なお、この案件は当ブログ開設者が申し立てた案件である。調査しないというオンブズマン判断の当否については、別エントリーで検討している。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)