札幌市オンブズマンに対し、介護保険サービスや障がい者福祉サービスの利用者・家族等(以下、「サービスの利用者等」という)から、サービス提供事業者等に対する市の権限行使(事業者に対する調査や指導など)が不十分であるとして、苦情が申し立てられるケースが散見される。
そうした案件におけるオンブズマンの調査には、調査の内容が不十分であったり、オンブズマンの判断が見当はずれと思われるものも少なくない。札幌市オンブズマンが単なるお飾りではなく、実質的に意味のある制度であろうとするならば、将来へ向け、調査の進め方を改善する必要があると思われる。
したがって、現状ではせっかく苦情を申し立てても、期待外れの調査結果に終わる可能性は高い。その苦情申し立て、ちょっと待った!という所以である(なお、今回のエントリーにpart 2とあるのは、過去にその苦情申し立て、ちょっと待った!というエントリーを作成しているため)。
さて、上記のような案件の典型例が、申立人に調査しない旨が通知された第29-66号である。この案件は、申立人が、道社協の運営適正員会に苦情を申し立てたところ、事業所による回答が事実に反していたとして、「市の側から、事業所の対応についてもっと踏み込んだ調査をしてほしい」として、札幌市オンブズマンに苦情が申し立てられたものである。
このような苦情申し立てに対し、オンブズマンは、①事業所利用者間のトラブルはオンブズマンの所轄事項ではない、②運営適正化委員会は市の機関ではないためオンブズマンの所轄事項ではない、③所長との話し合いの際に市の職員が同席していたことが、申立人の不利益や権利の侵害に関係したとは思われないという理由により、調査しない旨を申立人に通知している。
しかしながら、申立人の苦情は、①利用者間のトラブルに対し市が直接介入することを求めているわけでも、②運営適正化委員会における苦情対応が不十分であるとして、市が運営適正委員会に働きかけるように求めているわけでもない。あくまで、申立人自らが直面する問題解決のため、市が事業所に対し権限を行使することを求めているのである。したがって、申立人の基本的な発想は、市が適切な権限行使をしないがため、自らが不利益を被っている、ということになるものと思われる。
また、申立人は、③話し合いの場に市の職員が立ち会ったことで権利・利益が侵害されたと主張しているわけではない(あくまで、市に適切な権限行使を求めているということは、前述したとおりである)。
この点、一般論として考えるならば、サービスの利用者等が事業者と話し合う席に市の職員が同席しようとした場合、「なぜ、市職員がこの場にいるのだ」と、不審に思う者がいるのではないか。市はいったいどのような理由で、当事者間の話し合いの場に立ち会うのだ、と。したがって、所長との話し合いに市の職員に立ち会うことは、申立人の不利益や権利の侵害には関係しないというオンブズマンの判断は、明らかに適切さを欠いているように思われる。
以上の次第で、この案件における調査をしないというオンブズマンの判断は、まるで見当はずれであり、とってつけたものであるといわざるを得ない。
それでは、この案件においてオンブズマンが行うべき調査は、どのようなものであったか。順を追って論点を設定していく必要があるが、①申立人が主張するような調査を実施する権限が市に認められるか、②(①が肯定されるとして)市に権限行使が求められるような事実関係が存するか、③(②が肯定されるとして)市は本件に関し事業者に対し何らかの具体的な対応を行ったか、ということが、調査されるべきであろう。
また、一般論として、④市にサービス利用者の苦情が寄せられた場合において、市がどのような対応をしているか、について把握しておく必要があるかもしれない。
ところで、札幌市オンブズマンの所轄事項は、「市の機関の業務の執行に関する事項及び当該業務に関する職員の行為」である。したがって、①サービスの利用者等、②サービスの事業者、③市の三当事者関係で見ていくと、オンブズマン調査の対象となるのは、①サービスの利用者等と②サービスの事業者の関係は、市の直営事業でない限り、オンブズマンの所轄外の事項となる(市の業務の執行でも、当該業務に関する職員の行為にも該当しないため)。
しかしながら、①サービスの利用者等から、②サービスの事業者が指定基準に違反しているであるとか、サービスの利用者等が施設職員から虐待されているといった情報が寄せられた場合、③市が②サービスの事業者に対し、調査を実施する等の権限を行使することは、十分に考えられるところである。
ただし、この場合には、単なる①サービスの利用者等と②サービスの事業者等の関係の問題ではなく、②サービス事業者による法令違反の嫌疑等、市が権限を行使すべき事実が存在することが前提になる。
これに対し、①サービスの利用者等が③市に対し相談を寄せたけれども、その内容であるならば、①サービスの利用者等と②サービスの事業者の二当事者間で解決が図られるべき問題である、換言するならば、市の権限行使の対象となるような問題ではない、という場合には、③市は相談を寄せた①サービスの利用者等に対し、その旨を適切に説明したか否かについては、オンブズマンの調査対象になりうるであろう。
いずれにせよ、上記の三当事者関係においてオンブズマンによる所轄事項となりうるのは、サービスの利用者等が市に相談をした場合等において市の職員の対応が適切になされたか、あるいは、サービスの事業者に対し市の権限行使が適切になされたかという、二つの局面がある、ということになる。
このことは、サービスの利用者等の視点で、どのような苦情処理のシステムが利用可能かを考えた場合、札幌市オンブズマンという制度には限界がある、ということを意味している。すなわち、サービスの利用者等がサービスの事業者に不満を抱えていても、札幌市オンブズマンには、事業者に対し直接調査をする権限は認められておらず(事業が札幌市直営の場合を除く)、調査の対象となりうるサービスの事業者に対する市の権限行使についても、その権限は法令等に定められた範囲に限定されているからである。
それでもなお、サービスの利用者等が札幌市オンブズマンに対し苦情を申し立てたいというのであれば、札幌市オンブズマンとしては、調査をしないための理由をこじつけるのではなく(この点、第29-66号では理由づけに成功しているとは思われない)、所轄事項の範囲内で適切に調査を実施することが期待される。
したがって、場合によっては、札幌市オンブズマンに苦情を申し立てようとする福祉サービスの利用者等に対し、利用可能な他の制度についての情報を提供することも重要であろう。
たとえば、介護保険サービスにおける北海道国保連への苦情申し立て、福祉サービスにおける北海道社会福祉協議会の運営適正化委員会への苦情申し立て、さらには、札幌市社会福祉協議会が独自事業として実施する福祉サービス苦情相談など、さまざまな苦情処理や相談の制度が存在しているのである。
そして、これらの制度についての情報は、札幌市オンブズマンが他の制度と適切に棲み分ける上でも、必要不可欠なものである。ただし、札幌市オンブズマンが単なるお飾りではなく、実質的に意味のある制度であろうとするならば、の話であるが・・・。