2020/12/28

原俊彦オンブズマンが職務に取り組む姿勢から考える

今を去ること5ヶ月前のことになる。2020年7月19日、2019年度の札幌市オンブズマンの活動状況報告書が、代表オンブズマンから札幌市長に交付される「手交式」が実施された。札幌市長のFacebookに掲載された、その模様の写真が興味深い。

以下の写真がそれである。写っている全6名のうち、向かって左側の3名が札幌市の受け取り側(3名の中央が札幌市長である)、向かって右側3名が交付側のオンブズマンである。

そして、一番右端の男性を除く5名は、机の上に腕があるのが見える。これに対し、右端の男性は、なぜかうつむき加減に背中を丸めている。腕も机の上にあるようには見えず、まるで居眠りしているかのようである。たとえ居眠りしていないとしても、見るからに姿勢が悪い(机の縁に資料の背中を載せ傾けた資料を覗き込んでいるのであろうか?)が、この人物こそ、原俊彦オンブズマンである。

このような写真を撮影するとは、カメラマンもなかなか罪作りである。また、あえてそのような写真をFacebookに掲載する札幌市長も然り。


ところで、この原俊彦オンブズマン、当ブログ開設者が申し立てた、公文書公開請求に関する審査請求手続きの教示が十分ではないとする苦情(第2020-20号)について、「申立人が受けた具体的な不利益が確認できない」ことを理由として、調査を実施しなかった(このエントリーで紹介した)。

この調査が実施されなかったため、当ブログ開設者はやむを得ず、札幌市行政情報課に対し、公文書公開請求に関する審査請求手続きを市民向けに周知する内容の改善を要望したところ、新たに、「公文書公開請求・個人情報開示請求における審査請求手続きの流れ」と題するwebページが公開されるに至った。

それまでは、「情報公開制度のあらまし」と題するwebページに、「行政不服審査法に基づいて審査請求ができる」旨の記載があるのみであった。ところが、札幌市情報公開条例16条の2が「公開決定等に係る審査請求については、行政不服審査法9条1項の規定は、適用しない」と定めていることもあり、審査請求手続きがどのように進められるのかが、きわめてわかりにくかった(当ブログ開設者は、同条3項の読み替え規定の教示を受け、不明の点が解消した)。

行政情報課としても、審査請求の手続きがわかりにくいという当ブログ開設者の主張について、もっともであると考えてくれたのであろうか、新たなwebページの公開に至ったわけである。このような対応は、「申立人が受けた具体的な不利益が確認できない」というオンブズマンの判断とは、実に対照的である(なお、当ブログ開設者の上述の苦情について、原俊彦オンブズマンが「調査しない」と判断するのであれば、「審査請求人は本件苦情を申し立てた後に意見陳述の機会が付与されており、実質的な不利益はすでに解消している」といった理由づけが適切であったと当ブログ開設者は考えている)。

以上の次第で、原俊彦オンブズマンは、当ブログ開設者が申し立てた苦情の調査を実施しないことで、オンブズマン調査を通じて市の業務の改善を図るせっかくの機会をみすみす取り逃すことになったわけだが、当ブログ開設者は、このような原俊彦オンブズマンが職務へ取り組む姿勢にも、少なからず意味があると考えている。

まず第一に、原俊彦オンブズマンが、調査にムダに時間をかけたり、中途半端な調査を実施することがなかったため、当ブログ開設者としては、速やかに行政情報課への要望を行うことができた。その結果、具体的な改善がもたらされたが、これは原俊彦オンブズマンが何が問題なのかわからないまま漫然と調査を実施したのでは得られなかった成果であると、当ブログ開設者は考えている。

第二に、「申立人が受けた具体的な不利益が確認できない」という原俊彦オンブズマンの判断は、オンブズマンが申立人の苦情を理解できなかったポイントを明瞭に示している。すなわち、手続きが「わかりにくい」という申立人の苦情について、オンブズマンは「具体的な不利益が確認できない」と判断したが、どうやら、苦情を申し立てる際には、「わかりにくい」と主張するだけでは、「申立人の利害」として十分ではないようだ。

そこで、当ブログ開設者は、行政情報課に改善を要望する際、「審査請求人にどのように攻撃・防御の機会が与えられるのかが、よくわからない状態」であるという説明を付け加えた。その後、行政情報課がwebページを公開したことは前述したが、行政情報課に要望する際、オンブズマン判断から大きな示唆を受けた内容を盛り込んだことが、こうした成果をもたらした可能性がある。

第三に、オンブズマン調査が申立人の苦情の解決に直接的に役立たなくとも、そのことはむしろ、市民の自主的・自律的な行動を促進する可能性を秘めている。安易にオンブズマンに苦情を申し立てる前に、まずは自らの行動を、というわけである。

この点、当ブログ開設者が上述の苦情を申し立てのためにオンブズマンと面談した際、原俊彦オンブズマンはさすがに居眠りはしていなかったものの、「札幌市オンブズマンは、ろくろく文章を書くこともままならない人物が利用する制度である」という発言を行ったことに驚嘆した。このオンブズマンは、いったい何を考えて職務に取り組んでいるのであろうか、と(ただし、当ブログ開設者が問い合わせた際には、そうした発言を行った事実はないという回答がオンブズマン事務局から寄せられている)。

しかしながら、「まちづくりは、市民が主体である」(札幌市自治基本条例4条1項)ことを考慮するならば、自らの主張・要求を文章化できる限り、オンブズマンに苦情を申し立てるよりも、自ら行動することが期待されるということが原俊彦オンブズマンの言わんとすることであるとすれば、それはそれで一つの見識であろう。

したがって、上述の苦情調査において、原俊彦オンブズマンは市の対応を改善する機会をみすみす取り逃したというよりも、札幌市オンブズマンの存在意義は、「無用の用」にこそある、と考えるべきなのかもしれない。原俊彦オンブズマンが職務に取り組む姿勢は、その象徴なのである。

2020/11/25

2020年10月に調査が終了したケース

2020年11月1日、同年10月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、同年11月16日に一部公開決定がなされた。

上記の期間(2020年10月)に調査を終了したのは3件で、このうち1件で調査結果が通知されている。また、残る2件のうち1件は調査しない旨が通知され、1件は申し立ての取り下げにより、調査が終了している。

このうち、第2020-36号は、札幌市の「障がい者交通費助成」のうち、福祉割引サピカへのチャージが選択された場合の手続きが理解できる点で興味深い。

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①第2020−36号
 障害者であることを示す手帳の交付及び交通費助成をSAPICAへチャージする際の職員の対応等について、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

②第2020−40号
 申立人が所有するアパートから退去した生活保護受給者の荷物が車庫に残されたままであるとして、市に撤去を求めたが対応してもらえないとして、苦情が申し立てられたケース。苦情申立ての取り下げにより、調査は終了している。(担当オンブズマン:原俊彦)

③第2020−46号
 申立人が何らかの通報を行ったにもかかわらず、十分な対応がしてもらえないとして苦情が申し立てられたと思しきケース。なお、通報の内容は不明。申立人に対し調査をしない旨が通知され、調査は終了している。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

2020/11/13

未掲載だった案件の掲載を完了

 当ブログで未掲載だった案件、第30−46号平成30年11月公開分)、第30−59号2019年2月公開分)、第2019−122号2020年4月公開分)の3件を掲載した。

これまで未掲載だったのは、第30−46号の苦情等結果通知書において、「苦情申立日」が非公開とされたことを不服として、審査請求を行なっていたためである。

そもそもの不服は、平成30年(2018年)12月17日付の公文書一部公開決定において、「公文書一部公開決定通知書(以下、「通知書」という。)」では、第30−46号の非公開部分が、「①申立人の来館日、②申立人が職員に同行を求めた際の具体的な発言内容が分かる部分」と記載されていたにもかかわらず、交付を受けた当該文書の写しでは、「苦情申立日」も黒塗りされていた、ということである。

そこで、通知書に「非公開部分」としての記載のない部分については非公開とする決定がなされておらず、「苦情申立日」は公開されなければならないと考え、審査請求を行うことにした。

もっとも、行政不服審査法は、「処分に対し不服がある者」(行政不服審査法2条)が審査請求をすることができると規定している。したがって、「苦情申立日」を非公開とする決定(=処分)が存在しないのであれば、「処分に対する不服申し立て」自体が成立しないことになる。そこで、審査請求の対象とする「処分」をどのように構成するか、ない知恵を絞ることになった(「決定」から「公開」に至る一連の過程を「処分」と考えた。)。

この点、現時点で改めて考えると、「写しの交付」(=「公開」)を「処分」と構成し、通知書に「非公開部分」として記載されていない「苦情申立日」を非公開とする「公開」処分を不服として審査請求をするのが、自らの主張に最も忠実な理論構成であった。したがって、この点の主張をしなかったことは、審査請求をする上で、戦略的ミスを犯したと言わざるをえない(ただし、公文書の「公開」に処分性が認められるかということ自体、一つの論点である。「公開」は「決定」に基づいて行われる単なる事実上の行為であり、「処分性」がないとされる可能性も十分あると思われる)。

(追記:なお、上記の「処分性」について行政情報課に確認したところ、「公開」は単なる事実上の行為で処分性は認められないものの、「決定」から「公開」に至る一連の手続きが「処分」であり、審査請求が可能であるという説明を受けた。その限りでは、「処分性」に関する当ブログ開設者の見解が受け入れられた模様である。)

結局、平成30年(2018年)12月17日付の原決定に対し、2019年2月4日に行なった審査請求は、2019年12月11日付の札幌市個人情報保護・情報公開審査会(以下、「審査会」という。)の答申を経て、2020年1月15日付の札幌市長名による裁決が原決定を取り消し、この裁決に基づいて「再決定」(2020年1月16日付)がなされた。

ただし、再決定の内容を記載した文書には、第30−46号の非公開部分を「ア 申立人の来館日 イ 申立人が苦情申立てを行った日 ウ 申立人が職員に同行を求めた際の具体的な発言内容が分かる部分」という記載がなされていた。原決定の通知書の記載に加えて、「イ 申立人が苦情申立てを行った日」についても、通知書に非公開とする部分として記載される結果となったわけである。

そこで、この再決定に対し、改めて2020年4月14日付で審査請求(2020年4月14日付)を行なったところ、2020年11月10日付で、再決定は妥当であるとする札幌市個人情報保護・情報公開審査会の答申が出された。したがって、近日中に審査請求を退ける裁決が出されるものと思われる(追記:2020年12月7日付で札幌市長名の裁決が行われたが、請求棄却であった)。

ところで、この答申では、「先行裁決は、原決定の取消しを行ったに過ぎず、処分の変更を行ったものではないことから、変更裁決を行うに当たり不利益変更を禁ずる審査法第48条が適用される事例ではない」という判断が示されている。

先行裁決が「処分の変更を行ったものではない」ということは、原決定の通知書に「申立人が苦情申立てを行なった日」が「非公開部分」として記載されていなくても、原決定において「申立人が苦情申立てを行なった日」を非公開とする処分がなされている、というのが審査会の判断のようである。

このような判断を認めるならば、通知書に「非公開部分」として記載しない部分について、公開の段階で非公開とする取り扱いがまかり通ることになりはしないか、当ブログ開設者は懸念する。この懸念が杞憂であることを願わずにはいられない。

2020/10/31

2020年9月に調査を終了したケース

2020年10月1日、同年9月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、同年10月15日に一部公開決定がなされた。

上記の期間(2020年9月)に調査を終了したのは9件で、このうち3件で調査結果が通知されている。また、4件は調査しない旨が通知され、2件は申し立ての取り下げにより、調査が終了している。

今回、紹介する案件のうち、第2020-26号及び第2020-35号が興味深い。

このうち、第2020-26号は、生活保護費返還に関する苦情である。申立人は、①返還決定に対する審査請求中に納入催告を受けたことと、②生活保護受給者等に対する詐欺的な行為、について苦情を申し立てた。担当のオンブズマンは、①について調査を実施する一方で、②については、申立人に実際の不利益が生じていないとして、調査を実施しなかった。

しかしながら、②の点は、申立人が表面的に主張している「詐欺的」という言い回しはともかく、保護費を返還した場合にその後の審査請求がどのような取扱いになるのかという疑問を解消してほしい、というのがその趣旨であると思われる。

そうすると、②の申立人の表面的な主張からは離れるが、ア.審査請求(または取消訴訟)で保護費の返還決定が取り消された場合、返還ずみの保護費相当額は再度支給されるのか、イ.保護費相当額が再度支給されるとして、その金額は収入認定されるのか、という点を明らかにする必要があるだろう(なお、①については「執行不停止」が原則(行政不服審査法25条1項))。

もっとも、保護費相当額が再度支給されるとしても、その金額が収入認定されるということになるならば、保護費返還決定が取り消された意義は実質的に失われるのであり、申立人の「詐欺的な行為」という言い回しにも、それなりの理由があるように思われる。

調査を担当したオンブズマンは、こうした疑問を抱かなかったからこそ、「申立人に実際の不利益がない」と判断したのであろうが、前提となる制度への理解の貧弱さが露呈したと言わざるを得ない。結果として、申立人(のみならずその背後にいる市民一般)に対し、説明がなされる機会が失われることになった。

続いて、第2020-35号である。この案件は、既視感のある苦情であるが(前提となる事実が第2020-7号と共通しているように思われる)、担当の原俊彦オンブズマンは、申立人が不利益を被ったとは認められないとして、調査を実施しなかった。

しかしながら、この原俊彦オンブズマンの判断は、致命的な欠陥を抱えている。すなわち、「市が行う業務に関する契約において、従前とは異なる契約が締結されたとしても、当該事業の目的が十分に達成される見込みが立つような内容であるならば、その契約が業務上不適切とはいえず」という一般論は述べるものの、今回の苦情の前提となる「市が行う業務に関する契約」において、「当該事業の目的が十分に達成される見込みが立つような内容である」かについては、全く判断が示されないまま、申立人が不利益を被ったとはいえないと判断しているからである。

つまり、一般的な判断枠組みを示すのみで、当該判断枠組みに基づいた個別ケースについての判断を全くしないまま、結論を導いているわけである。

また、より原理的には、市の業務が適切に遂行されたか否かという判断と、オンブズマン調査の対象となる前提としての「申立人の利害」の存否の判断は、本来、異なる判断要素である。それにもかかわらず、この案件で原俊彦オンブズマンは、双方を結び付けた判断を行っている。

こうした判断は、「申立人の利害」という形式論で処理することにより、「市の業務が適切に遂行されたか」という実体的な調査を回避しようとしたゆえのものなのかもしれないが、「手抜き」以外の何物でもないだろう。

ただし、「調査をしない」という結論そのものについては、正当化しうる余地はある。たとえば、申立人の苦情は、公金の適正な支出を問題とするものであり、申立人は利害を有しないであるとか、第2020-7号と同一の申立人であるならば、苦情の再調査を求める内容であるといった理由により、調査を実施しないという対応である(もっとも、申立人が関与する協会が再委託から排除された、という点には申立人の「利害」が認められるであろうし、この苦情が第2020-7号と同一の申立人による苦情であるかも不明である)。

以上の次第で、上記の2件は「申立人の利害」についてのオンブズマン判断に疑問を抱かざるを得ないのだが、こうした判断は、「申立人が適切な説明を受ける」という利益について、オンブズマンが軽視していることを反映しているように思われる。

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①第2020−26号
 生活保護費返還決定がなされたことを不服として審査請求を行っているにもかかわらず、保護費返還の納入催告がなされたことについて、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

②第2020−28号
 隣家が街路樹を申立人の自宅との境界側に移植したことに関し、市が承認したことや申立人の問い合わせに対する市の一連の対応について、苦情が申し立てられたケース(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

③第2020−30号
 北海道胆振東部地震災害義援金の申請をしたにもかかわらず、市には受付をしていないと言われたとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:房川樹芳)

④第2020−32号
 芸術の森職員の対応について、苦情が申し立てられたケース。「正当な理由がない」及び申立人が「利害を有しない」として、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

⑤第2020−33号
 ごみ収集員が左右の安全を確認せずに道路を横断しようとして、ぶつかりそうになるのみならず、舌打ちしたことについて、苦情が申し立てられたケース。申し立ての取り下げにより、調査は終了している。(担当オンブズマン:原俊彦)

⑥第2020−34号
 市の臨時職員として勤務した際、窓口業務が過重な負担であったとして、その改善等を求めて苦情が申し立てられたケース。「職員の自己の勤務内容に関する事項」に該当するとして、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:房川樹芳)

⑦第2020−35号
 市がイベントに際し選定した業者が、イベントを再委託した団体を選定した経緯や理由が不明であるとして、市がイベントの実施責任者かつ監督義務を有する者として全容を解明することを求め、苦情が申し立てられたケース。申立人が「利害を有しない」として、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:原俊彦)

⑧第2020−37号
 市民の声を聞く課で、スキャナー付きコピー機を利用させてほしいと要望したところ断られたとして、苦情が申し立てられたケース。申し立ての取り下げにより、調査は終了している。(担当オンブズマン:原俊彦)

⑨第2020−38号
 地域協議会の委員の選定方法、協議会の実施方法等について、苦情が申し立てられたケース。申立人が「利害を有しない」として、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:房川樹芳)

2020/10/06

2020年8月に調査を終了したケース

2020年9月1日、同年8月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、同年9月30日に一部公開決定がなされた(通常、公文書公開請求がなされた場合、請求の翌日から起算して14日以内に決定がなされるところ、今回も決定期間が延長された)。

上記の期間(2020年8月)に調査を終了したのは8件で、このうち7件で調査結果が通知されている。また、残る1件は調査しない旨が通知され、調査が終了している。

今回、紹介する案件のうち、第2020-29号及び第2020-31号は、担当の原俊彦オンブズマンによる、オンブズマン調査の対象事項該当性の判断が興味深い。

すなわち、札幌市オンブズマン条例は、苦情申立人が「申立ての原因となった事実についての利害を有しないとき」には、調査対象外の事項となることを規定している(同条例16条1項1号)ところ、第2020-31号では、市税の減免申請がすでに決定ずみであり、「利害を有しない」として、原俊彦オンブズマンはこの点の調査を実施しなかった。

しかしながら、申立人は、「当初、4か月程度かかる」という説明を受けていたにもかかわらず、1か月以内に決定がなされた「理由」についての説明を求めているのであり、適切な説明を受けるという意味での「利害」は、未だ有していると思われる。したがって、原俊彦オンブズマンは、「利害を有しないとき」の該当性をかなり広範に認めることで、調査対象を厳格に絞り込む判断を行ったことになる。

その一方で、第2020-29号は、芸術の森の駐車場の駐車料金を支払わずに利用している者がいるため、利用料金を支払った者が「不利益」を被ったという苦情について、原俊彦オンブズマンは調査を実施した。

この点、駐車場を利用しているからには駐車料金を支払うことは当然の義務であり、このことは、他に料金を支払わない者がいたからといって、変わることはない。したがって、厳格に考えるならば、ある者が駐車場料金を支払わないとしても、そのことについて、他の利用者は「利害を有しない」ことになるように思われるが、原俊彦オンブズマンは、この案件では「利害を有しないとき」の該当性を絞り込み、調査対象を広範に認め、調査を実施したわけである。

このように、原俊彦オンブズマンの判断は、オンブズマン調査の対象外事項該当性の広狭をめぐって「ゆらぎ」があり、整合性を欠くように思われる。

なお、当ブログ開設者は、オンブズマン制度の役割の一つに、市民が「適切な説明を受ける利益」を実現することがあると考えており、前述のどちらの案件も、調査を実施しない積極的な理由はないと考えている。

また、札幌市オンブズマン制度の発足に際し、当時の桂信雄市長は、オンブズマン制度の運用について、「苦情申し立てに当たっての制約につきましても、市民の権利利益を擁護するというオンブズマン制度の目的に照らして、できる限り広く取り扱うことにしたい」という議会答弁を行っていたことも指摘しておこう(平成12年第4回定例会-12月5日-02号)。

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①第2020−18号
 生活保護の受給者から、保護費の支給額の計算方法の説明や、提出するコピーの金銭負担の大きさ、自動車の利用が認められないこと等について、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

②第2020−21号
 生活保護の受給者が、転居した実態がないにもかかわらず、転居に要した費用が一時扶助として支給されたことが不正受給に該当するのではないかとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:房川樹芳)

③第2020−22号
 国民健康保険の医療費の返還について、担当した職員からいい加減な説明を受けたとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

④第2020−23号
 生活保護の受給者が、再度の転居費用及び転居後に上限額を超える家賃の支給を求めるほか、保護課の職員による個人情報の漏洩があったことをはじめとして市職員の一連の対応について、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:房川樹芳)

⑤第2020−24号
 父親が入居していた市営住宅の家賃について、減免の遡及適用を求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)


⑥第2020-25号
 里親に出している娘に関する児童相談所職員の一連の対応について、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:房川樹芳)

全文参照

⑦第2020−29号
 札幌市芸術の村の駐車場の駐車料金を支払わずに利用している者がいるため、きちんと支払っているものが不利益を受けたとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)


⑧第2020−31号
 札幌市税の減免申請が却下されたことにつき、市民に公開されていない「事務取扱要領」に基づいていること、また、当初は「結果が出るまで4か月程度かかる」という説明だったのが、実際は1か月程度で決定が出されたとして、苦情が申し立てられたケース。すでに却下決定が出ているために、「申立の原因となった事実に利害を有さない」として、調査しない旨が通知されている。(担当オンブズマン:原俊彦)