2023年2月1日、同年1月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、公開決定期限延長のうえ、2023年3月3日付で一部公開決定がなされた。
上記の期間(2023年1月)に調査を終了したのは10件で、このうち7件で調査結果が通知されている。また、残る3件のうち2件で調査をしない旨、1件で調査中止が通知されている。
今回公開された案件のうち「調査しない旨」が通知された2件(第2022-67号,第2022-72号)は、いずれも「調査しない」ことの理由づけ(及び調査しないという結論)が適切か、大いに議論の余地があると思われる。
まず、第2022-67号である。この案件は、申立人所有地に道路工事に伴う産業廃棄物が放棄されていた件について市に回答を求めているが、未だ納得のいく回答が得られないという趣旨の苦情である(と当ブログ開設者は理解した)。そして、この案件担当の田村智幸オンブズマンは、申立ての原因となった工事から1年以上経過しており、その後のやり取りの内容も工事の申請経緯等を抜きに判断できないとして、調査を実施しなかった。
しかしながら、本件苦情は、2022年4月に行った照会に対する回答がこれまでの回答と変わらない点を不服として、申立人は苦情を申し立てているのである。「工事から1年以上経過している」ことを理由として調査を実施しないという判断は、市に対する問い合わせ及びそれへの回答という一連の行為の意義について、過小評価しているといわざるを得ない。
この点、当ブログ開設者は田村智幸オンブズマンが再任されるに際し、このエントリーに「市の業務の実体的側面に限らず、制度・手続き・説明といった側面からも、適切な調査が実施されることを期待したい」と記したが、あながち的外れではなかったようである。
また、この案件の苦情申立ての趣旨によると、市は申立人に対し「最終回答」を行っている模様である。本件の調査が実施されていれば、オンブズマンに苦情を申し立てても市の「最終回答」が変わらない、ということが示されたと思われる。こうして一度は調査を実施し、それでも再度申立人が苦情を申し立てるならば、「すでに調査を実施した」ことを理由として調査を実施しないことも正当化されると思われる。
次に、第2022-72号である。この案件は、虐待致死事件について高齢者虐待防止法に基づく通報を行ったが棄却されたことを不服として、市が(施設の?)運営法人に対し適切な処分を行うことを求める苦情である。調査担当の原俊彦オンブズマンは、2020年1月に申立人の関係者が入院しなかったことの経緯の調査を抜きに判断することはできないとして、「申立ての原因となった事実のあった日から1年を経過している」という理由で調査を実施しなかった。
しかしながら、苦情申立ての趣旨によると、通報を行ったのは2022年12月のことであり、オンブズマンへの苦情申立ては1年以内になされている(苦情申立ては2023年1月)。
また、申立人は、通報への対応という「市の機関の業務の執行」について、「申立人が違法と思料する根拠法令の検討をせず、申立外の法令のみを審査基準として審査した」ことを不服として、苦情を申し立てているのである。したがって、「入院しなかったことの経緯の調査を抜きに判断できない」というオンブズマン判断もまた、申立人のいう「論点ずらし」であろう。
すなわち、①高齢者虐待防止法による通報がなされた場合に市はどのような対応をするのか、とりわけ、②どのような法令に基づいてどのような権限を行使することができるのか、という点が明らかになれば、おのずと、③申立人が違法と思料する根拠法令の検討をしなかった事情が明らかになったと思われる。
この案件を担当した原俊彦オンブズマンは、今回公開分の別件(第2022-60号)では、申立人が構成した論点を調査対象と調査対象外に振り分け、専門的な医学的判断に関わらない部分のみ調査を実施するという巧みな技を披露していた。この案件において同様の技巧が披露されなかったことは、実に残念である。
なお、今回、2022年4月1日に申し立てられた第2022-1号が、ようやく公開された。この案件は、オンブズマン事務局職員の説明によると、第2021-83号の苦情がいったん取り下げられた後、再度、同内容の申し立てがなされた案件である。ただし、「調査実施通知書」の日付は2022年11月24日であり、再度の苦情申立がなされた後も、しばらく塩漬けの状態が継続した模様である。
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①第2022-1号
生活保護受給者が、市側の都合で長らく家庭訪をしなかったにもかかわらず、訪問日を強制的に決定するとともに、訪問日には体調不良であったにもかかわらず訪問が強行され、資産報告書及び預金通帳の写しの提出も強制されたとして苦情が申し立てられたケース。なお、本件は第2021-83号の申立人がいったん申し立てを取り下げた後、再度苦情を申し立てた案件である。(担当オンブズマン:田村智幸)
②第2022-56号
申立人の所有地に隣接する市有地に盛土がされ豪雨等による流出が懸念され、その旨を市に指摘しても適切な対応がなされないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)
③第2022-60号
申立人の関係人が市立札幌病院で治療を受けた際、担当医が院内での他の診療科に紹介をしなかったことや治療に際し医療過誤があったとして病院から医療事故調査の申立てをすること等を求めて苦情が申し立てられたケース。なお、本件苦情申立人は、第2022-61号の申立ても行っている模様である。(担当オンブズマン:原俊彦)
④第2022-61号
申立人の関係人が市立札幌病院に入院しているところ、当該関係人が他の病院に転院することを病院職員が妨害しているとして苦情が申し立てられたケース。なお、本件苦情の申立人は、第2022-60号の申立ても行っている模様である。(担当オンブズマン:原俊彦)
⑤第2022-62号
生活保護受給者が転居費用の支給や担当ケースワーカーの交代を求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)
⑥第2022-63号
市立中学校の正門前に居住する申立人が、生徒を送迎する違法駐車の車両により迷惑を受けているが改善されないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)
⑦第2022-64号
生活保護受給者が、転居にともない家賃が安くなったにもかかわらず適時に住宅扶助の金額が変更されず、過支給となったために分割での返還を余儀なくされたとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)
⑧第2022-67号
申立人の土地が産業廃棄物の保管場所となっていることについて、業者が道路占有を申請する際に地番を誤認するとともに、当該誤認を市が十分確認しなかったためであるとして、これまで市に説明を求めてきたが納得のいく回答が得られず、2022年4月に再度質問したがこれまでの回答と変わらなかったとして苦情が申し立てられたケース。苦情申立ての原因となった工事が平成30年の出来事であり、「申し立ての原因となった事実のあった日から1年を経過している」として、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:田村智幸)
⑨第2022-68号
肺炎球菌ワクチンの接種について保健所に問い合わせたにもかかわらず、適切な情報提供を受けられなかったとして苦情が申し立てられたケース。調査に着手したものの、問い合わせがなされたのが2021年6月のことであり、「申立の原因となった事実のあった日から1年を経過している」として、調査中止が通知された。(担当オンブズマン:原俊彦)
⑩第2022-72号
申立人の関係人の虐待致死事件に関し市に高齢者虐待防止法に基づく通報を行ったところ、市は介護保険法に違反する事実は認められないとして申立てを棄却したが、その結論は不当であり、市が事業者に対し適切な処分を行うことを求めて苦情が申し立てられたケース。申立人は当該関係人が2020年1月に入院して適切な医療を受けていれば死亡しなかったと主張しているところ、「申し立ての原因となった事実のあった日から1年を経過している」として、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:原俊彦)