2023/03/15

2023年1月に調査を終了したケース

2023年2月1日、同年1月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、公開決定期限延長のうえ、2023年3月3日付で一部公開決定がなされた。

記の期間(2023年1月)に調査を終了したのは10件で、このうち7件で調査結果が通知されている。また、残る3件のうち2件で調査をしない旨、1件で調査中止が通知されている。

今回公開された案件のうち「調査しない旨」が通知された2件(第2022-67号,第2022-72号)は、いずれも「調査しない」ことの理由づけ(及び調査しないという結論)が適切か、大いに議論の余地があると思われる。

まず、第2022-67号である。この案件は、申立人所有地に道路工事に伴う産業廃棄物が放棄されていた件について市に回答を求めているが、未だ納得のいく回答が得られないという趣旨の苦情である(と当ブログ開設者は理解した)。そして、この案件担当の田村智幸オンブズマンは、申立ての原因となった工事から1年以上経過しており、その後のやり取りの内容も工事の申請経緯等を抜きに判断できないとして、調査を実施しなかった。

しかしながら、本件苦情は、2022年4月に行った照会に対する回答がこれまでの回答と変わらない点を不服として、申立人は苦情を申し立てているのである。「工事から1年以上経過している」ことを理由として調査を実施しないという判断は、市に対する問い合わせ及びそれへの回答という一連の行為の意義について、過小評価しているといわざるを得ない。

この点、当ブログ開設者は田村智幸オンブズマンが再任されるに際し、このエントリーに「市の業務の実体的側面に限らず、制度・手続き・説明といった側面からも、適切な調査が実施されることを期待したい」と記したが、あながち的外れではなかったようである。

また、この案件の苦情申立ての趣旨によると、市は申立人に対し「最終回答」を行っている模様である。本件の調査が実施されていれば、オンブズマンに苦情を申し立てても市の「最終回答」が変わらない、ということが示されたと思われる。こうして一度は調査を実施し、それでも再度申立人が苦情を申し立てるならば、「すでに調査を実施した」ことを理由として調査を実施しないことも正当化されると思われる。

次に、第2022-72号である。この案件は、虐待致死事件について高齢者虐待防止法に基づく通報を行ったが棄却されたことを不服として、市が(施設の?)運営法人に対し適切な処分を行うことを求める苦情である。調査担当の原俊彦オンブズマンは、2020年1月に申立人の関係者が入院しなかったことの経緯の調査を抜きに判断することはできないとして、「申立ての原因となった事実のあった日から1年を経過している」という理由で調査を実施しなかった。

しかしながら、苦情申立ての趣旨によると、通報を行ったのは2022年12月のことであり、オンブズマンへの苦情申立ては1年以内になされている(苦情申立ては2023年1月)。

また、申立人は、通報への対応という「市の機関の業務の執行」について、「申立人が違法と思料する根拠法令の検討をせず、申立外の法令のみを審査基準として審査した」ことを不服として、苦情を申し立てているのである。したがって、「入院しなかったことの経緯の調査を抜きに判断できない」というオンブズマン判断もまた、申立人のいう「論点ずらし」であろう。

すなわち、①高齢者虐待防止法による通報がなされた場合に市はどのような対応をするのか、とりわけ、②どのような法令に基づいてどのような権限を行使することができるのか、という点が明らかになれば、おのずと、③申立人が違法と思料する根拠法令の検討をしなかった事情が明らかになったと思われる。

この案件を担当した原俊彦オンブズマンは、今回公開分の別件(第2022-60号)では、申立人が構成した論点を調査対象と調査対象外に振り分け、専門的な医学的判断に関わらない部分のみ調査を実施するという巧みな技を披露していた。この案件において同様の技巧が披露されなかったことは、実に残念である。

なお、今回、2022年4月1日に申し立てられた第2022-1号が、ようやく公開された。この案件は、オンブズマン事務局職員の説明によると、第2021-83号の苦情がいったん取り下げられた後、再度、同内容の申し立てがなされた案件である。ただし、「調査実施通知書」の日付は2022年11月24日であり、再度の苦情申立がなされた後も、しばらく塩漬けの状態が継続した模様である。

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①第2022-1号
 生活保護受給者が、市側の都合で長らく家庭訪をしなかったにもかかわらず、訪問日を強制的に決定するとともに、訪問日には体調不良であったにもかかわらず訪問が強行され、資産報告書及び預金通帳の写しの提出も強制されたとして苦情が申し立てられたケース。なお、本件は第2021-83号の申立人がいったん申し立てを取り下げた後、再度苦情を申し立てた案件である。(担当オンブズマン:田村智幸)

②第2022-56号
 申立人の所有地に隣接する市有地に盛土がされ豪雨等による流出が懸念され、その旨を市に指摘しても適切な対応がなされないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

③第2022-60号
 申立人の関係人が市立札幌病院で治療を受けた際、担当医が院内での他の診療科に紹介をしなかったことや治療に際し医療過誤があったとして病院から医療事故調査の申立てをすること等を求めて苦情が申し立てられたケース。なお、本件苦情申立人は、第2022-61号の申立ても行っている模様である。(担当オンブズマン:原俊彦)

④第2022-61号
 申立人の関係人が市立札幌病院に入院しているところ、当該関係人が他の病院に転院することを病院職員が妨害しているとして苦情が申し立てられたケース。なお、本件苦情の申立人は、第2022-60号の申立ても行っている模様である。(担当オンブズマン:原俊彦)

⑤第2022-62号
 生活保護受給者が転居費用の支給や担当ケースワーカーの交代を求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑥第2022-63号
 市立中学校の正門前に居住する申立人が、生徒を送迎する違法駐車の車両により迷惑を受けているが改善されないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

⑦第2022-64号
 生活保護受給者が、転居にともない家賃が安くなったにもかかわらず適時に住宅扶助の金額が変更されず、過支給となったために分割での返還を余儀なくされたとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:八木橋眞規子)

⑧第2022-67号
 申立人の土地が産業廃棄物の保管場所となっていることについて、業者が道路占有を申請する際に地番を誤認するとともに、当該誤認を市が十分確認しなかったためであるとして、これまで市に説明を求めてきたが納得のいく回答が得られず、2022年4月に再度質問したがこれまでの回答と変わらなかったとして苦情が申し立てられたケース。苦情申立ての原因となった工事が平成30年の出来事であり、「申し立ての原因となった事実のあった日から1年を経過している」として、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑨第2022-68号
 肺炎球菌ワクチンの接種について保健所に問い合わせたにもかかわらず、適切な情報提供を受けられなかったとして苦情が申し立てられたケース。調査に着手したものの、問い合わせがなされたのが2021年6月のことであり、「申立の原因となった事実のあった日から1年を経過している」として、調査中止が通知された。(担当オンブズマン:原俊彦)

⑩第2022-72号
 申立人の関係人の虐待致死事件に関し市に高齢者虐待防止法に基づく通報を行ったところ、市は介護保険法に違反する事実は認められないとして申立てを棄却したが、その結論は不当であり、市が事業者に対し適切な処分を行うことを求めて苦情が申し立てられたケース。申立人は当該関係人が2020年1月に入院して適切な医療を受けていれば死亡しなかったと主張しているところ、「申し立ての原因となった事実のあった日から1年を経過している」として、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:原俊彦)

2023/03/06

審査請求が認められる

すでに2022年8月に調査を終了したケースのエントリーに記載したが、第2022-22号の苦情等調査結果通知書で非公開とされた箇所の一部の公開を求めて審査請求したところ、審査庁たる札幌市長は2023年3月3日付の裁決において請求を認容した。「札幌市情報公開・個人情報保護審査会」への諮問すら行われない、いわば「完全勝利」である(札幌市情報公開条例17条1項2号参照)。

全文参照

まず、裁決までの経緯を振り返っておく。2022年9月1日付で行った公文書公開請求に対し、同月27日付でなされた一部公開決定において、苦情等調査結果通知書第2022-22号が公開された(当初公開分)。この案件は、敬老優待乗車証のチャージのために郵便局を訪れた際の職員の対応に不満を覚えた申立人が、市に対応を求めたものの適切な対処がなされないとして苦情が申し立てられた事案である。

そして、当初公開された上記通知書においては、市とチャージ業務について業務委託契約を締結した日本郵便北海道支社の業務マニュアルを引用した箇所が非公開とされていたことから、当ブログ開設者が当該箇所の公開を求めて審査請求をしたところ、公開を命ずる裁決が出されるとともに、裁決書と合わせて、苦情等調査結果通知書第2022-22号が送られてきた(裁決後の通知書)。

なお、この裁決では、上記マニュアルを引用した箇所について、「本件非公開部分を公開しても申立人と郵便局員とのやり取りの内容が明らかになるものとは認められず、特定の個人を識別することはできない」として、条例7条1号に定める非公開情報(いわゆる「個人情報」)には該当しないと判断されている(同号は「非公開情報」として「個人に関する情報で、特定個人を識別することができるもの」を規定する)。

ここでのポイントは、特定個人識別性がないことを理由として非公開情報ではないと判断している点である。この点、当ブログ開設者による、マニュアルを引用した箇所は「個人に関する情報」には該当しないという主張は、残念ながら採用されなかった。

また、裁決は条例7条1号の非公開情報該当性を否定するとともに、条例7条5号オ(いわゆる「事務事業情報」)該当性も否定した(同号オは「事務又は事業の性質上、公にすることにより、当該事務又は事業の適正な遂行に著しい支障を及ぼすと認められるもの」を非公開情報と規定する)。

以上の次第で、今回の裁決は、オンブズマンによる「苦情等調査結果通知書」について、通知書の記載内容は「個人に関する情報」であるが、「特定個人識別性」が認められない限り条例7条1号が規定する非公開情報(いわゆる「個人情報」)には該当しないことを明確にした点で、大きな意義があると思われる。

その一方で、条例7条5号オが規定する非公開情報(いわゆる「事務事業情報」)該当性に関しては、条例7条1号が規定する非公開情報該当性と結びつけた判断をしている。しかしながら、こうした判断が適切かどうかは、なお議論の余地があると思われる。特定個人識別性がある箇所を非公開にしたとしても、自らが申し立てた苦情(について記載された文書)が公文書公開の対象となること自体、苦情申立を忌避する理由となると思われるからである。

また、今回の審査請求においては、審査請求書に「苦情等調査結果通知書を公開することによりオンブズマンがいかにずさんな調査を行っているかが明らかになり、「市民のオンブズマン制度への信頼を失わせ」る可能性がある」旨も記載した。裁決書記載の「審査請求書による請求人の主張」においては見事なまでに無視されたが、その理由は定かでない。

2023/03/01

新オンブズマン就任(2023年)

2023年2月28日、以下の議案が札幌市議会に提出され、同日、議会の同意を得た。これにより、新たに神谷奈保子氏(民事調停委員)がオンブズマンに就任するとともに、田村智幸氏(弁護士)が再任された。神谷氏は、2019年3月にオンブズマンに就任した八木橋眞規子氏(民事調停委員)の後任である。

これにより、2023年3月1日以降は、2020年3月1日に就任したオンブズマン2期目の原俊彦氏(大学名誉教授)とあわせ、3名体制で札幌市オンブズマンの職務が遂行されることになる。

ところで、今回再任された田村智幸氏について、当ブログ開設者は2021年9月に調査を調査を終了したケースのエントリーにおいて、「オンブズマンがその手腕を惜しむことなく発揮することを期待したい」と記したことがある。しかし、1期目の2年が満了する現時点では、田村智幸氏の手腕を買いかぶっていたと感じている。

それというのも、その後田村智幸氏が担当した調査には、「市の回答」を鵜呑みにして裏とりをしていなかったり、申立人の主張をオンブズマンの都合で改変したり、場合によっては申立人が主張していない内容をあたかも主張しているかのごとく捏造したと疑われる案件も散見されるからである(なお、第2022-58号は当ブログ開設者が苦情を申し立てた案件であるが、苦情申立ての趣旨において田村智幸氏を名指しでの調査の問題点を指摘している。ご関心の向きに一読を推奨する)。

こうした調査は、田村智幸氏が札幌市オンブズマンとしての職務を遂行するに際し、「市民の意向が的確に反映された市政運営に資する」(札幌市オンブズマン条例1条)ことよりも、苦情を申し立てる口うるさい市民に穏便にお引取りいただくよう、調査をしたという体裁を取り繕うことがオンブズマンの役割であると考えているためではないかと、当ブログ開設者は考えている。

市民の意向が的確に反映された市政運営に資するべく、オンブズマン2期目の田村智幸氏には札幌市オンブズマンの制度の理念に忠実に、市の業務の実体的側面に限らず、制度・手続き・説明といった側面からも、適切な調査が実施されることを期待したい。