2024年3月1日、同年2月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、同年3月15日付で一部公開決定がなされた。
上記の期間(2024年2月)に調査を終了したのは6件である。このうち5件が苦情申し立てに基づく調査、残る1件がオンブズマンの発意に基づく調査で、全6件で調査結果が通知されている。なお、担当者に確認したところ、2023年度に実施された発意調査は今回公開された1件のみということである。
さて、今回公開された調査結果通知書のうち、以下の2件が興味深い。1件目が、自立支援医療の受給者が登録薬局を1か所から2か所に増やしてほしいと要望したことを契機とする市職員の一連の対応についての苦情である(第2023-48号)。2件目が、ものづくり産業における担い手の確保や人材育成等の企業支援策についてのオンブズマンの自己の発意による調査である(第2023-発1号)。いずれの案件も田村智幸オンブズマンが担当した。
まず、第2023-48号である。当ブログ開設者は、市民にとって適切なタイミングで適切な内容の説明を受けることは重要な利益であると考えている。本件事案は、(実体的な結論とは別に)「説明の適切さ」を考えるうえで興味深い。
すなわち、この案件では、申立人からの問い合わせを受けた後、「やむを得ない事情」があれば複数登録が可能である旨の説明がなされるまで日数を要している。さらに、職員が申立人に登録医療機関および登録薬局を尋ねた事情や、職員が複数の薬局の登録を受けているとされる申立人の知人の居住地について尋ねた事情について、本件調査によりようやく明らかにされた模様である。
このように、職員が行った説明は、内容の適切さとは別に説明が後手後手に回った点で「適切」さに欠けたと当ブログ開設者は考えている。もっとも、説明が先走りすぎるのも問題で、今回のようなケースでは「複数登録が認められる」と市民が誤解するおそれもある。説明不足や説明過剰を招かぬよう相手に応じた説明を行うことは、実際のところ難易度が高いことは間違いない。
ところで、申立人が利用する登録医療機関および登録薬局はそもそも申立人に尋ねるまでもなく、市が保有する情報を確認すれば把握できるのではないか、という疑問がある(市は当然、登録医療機関および登録薬局の情報を保有しているはずである)。
ただし、市の回答によると、申立人は登録医療機関および登録薬局を明らかにすることに難色を示したということである。申立人は薬局の対応に不満を抱いていること自体を薬局に知られたくないと考えていたのであろうか。そうした事情がないならば、本件においては申立人の同意を得たうえで、市が把握する情報を利用して登録医療機関および登録薬局に照会するという対応も可能だったと思われる。
以上の次第で、当ブログ開設者は、本件苦情に係る職員の対応は大いに改善の余地があったと考えている。それでも、いかなる場合に「やむを得ない事情」として取り扱うかについての市の見解が明らかになった点は、本件苦情調査の成果であろう。本件苦情を契機として、今後は市民に対し(複数登録について)適切な説明がなされることを期待したい。
次に、ものづくり産業における担い手の確保や人材育成等の企業支援策についての発意調査(第2023-発1号)である。市の回答にある諸施策は非常に興味深い内容であり、その点を明らかにした点で意義ある調査であると思われる。
もっとも、札幌市の産業振興施策は、「ものづくり産業」という特定の産業に着目した施策のみならず、「中小企業」という事業規模に着目した施策も実施されているというのが当ブログ開設者の理解である。
そうすると、「中小企業」対象の施策が「ものづくり産業」における担い手の確保や人材育成等につながるケースもあるのではなかろうかということで、経済観光局産業振興部にその旨問い合わせた。有益な回答が得られた場合には当ブログで紹介したい(追記:照会および回答の内容はこのエントリーで紹介している)。
ところで、この案件を担当した田村智幸オンブズマンによると、「ものづくり基盤技術振興基本法では、第4条で「国の責務」、第5条で「地方公共団体の責務」、第6条で「ものづくり事業者の責務」が並列に記載されているだけで、各自の役割や相互の連携・補完を定める文言はな(い)」そうである。
しかしながら、同法は政府に対し、法制上等の措置を講じることを義務づけ(同法7条)、政府が講じた施策に関する報告書を国会に提出することを義務づけ(同法8条。2023年度版ものづくり白書)、政府にものづくり基盤技術基本計画の策定を義務づけている(同法9条1項。同条2項は同計画に定める事項を規定)。また、同法の第三章は、国が講ずる「基本的施策」について規定している(同法10条~18条)。
したがって、同法は少なくとも国(政府)の役割については、明確に規定していると思われる(たとえば、同法12条は「ものづくり労働者の確保等」のため国が必要な施策を講ずる旨規定する)。
そして、同法5条は地方公共団体の責務として、「国の施策に準じた施策及びその地方公共団体の区域の特性を生かした自主的な施策を策定し、及びこれを実施する」旨規定する。これらの規定が意味するところは、ものづくり基盤技術の振興に関し、国が第一義的に責務を負い、地方公共団体は田村智幸オンブズマンのいう「補完」的な責務を負う趣旨であると思われる。
たしかに、市の回答には「現状では、ものづくり産業の担い手確保等について、国・都道府県・市町村の役割を明確に規定している法令等はな(い)」とある。
しかしながらこの回答は、田村智幸オンブズマンが「国・道・政令指定都市それぞれが果たすべき役割や国・道においてこれに取り組んでいる施策との連携・関係性を踏まえ、市としてどのような施策を実行し検討しているのか調査する必要があると考え」て調査を実施したと言明することに対応するものである。
したがって、前述の「市の回答」の意味するところは、都道府県と市町村については、国が講ずる基本的施策を規定する「ものづくり基盤技術振興基本法」第三章のような法令等は存在しないという趣旨であると理解すべきであろう。
また、田村智幸オンブズマンによると、「ものづくり産業の発展のための施策の総合かつ計画的な推進を強力に図り、担い手の育成を力強く進めていくためには、国が司令塔とな(る)」必要があるそうだ。
しかしながら、国と地方との関係は地域主権改革により、国が地方に優越する上下の関係から対等なパートナーシップの関係へと転換されている。地方自治法においても、245条が「普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与」について規定するとともに、同法245条の2は「関与の法定主義」を規定している。また、同法245条の3は「関与の基本原則」を規定している。
したがって、田村智幸オンブズマンがいう「国が司令塔となる」トップダウン型の施策の推進様式がこれらの規定と整合するか、当ブログ開設者は疑念を抱いている(ただし、地方自治法が定める「国の関与」の諸規定は、個別法に根拠となる規定がなくとも地方自治法が「国の関与」の根拠となることを意味している)。
なお、本件の調査結果が通知された3週間後、2024年3月14日に「第2次札幌市産業振興ビジョン」が公表された。本件調査も、ずいぶん間が悪いタイミングで実施されたものである(なお、「第2次札幌市産業振興ビジョン」は、田村智幸オンブズマンがその「基本的な方向に沿って札幌市の様々な施策が実行・計画されていると承知している」という「第2次札幌市まちづくり戦略ビジョン」(ビジョン編・戦略編・資料編)の方向性に沿った、産業振興部門の個別計画である)。
さて、縷縷述べてきたが、上記2件のオンブズマン調査はいずれも、当ブログ開設者の興味関心を強く喚起する内容であった。今後も札幌市オンブズマンには、市の業務を市民に可視化する役割を期待している。
-------------------------------------------------------------------------------------------------
①第2023-48号
自立支援医療の受給者が登録薬局を1か所から2か所に増やしてほしいと要望したことを契機とする市職員の一連の対応に対し苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)
②第2023-50号
生活保護受給者が保護課に非常食の貸与を申し入れた際の職員の対応等について苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)
③第2023-51号
要介護認定の申請をしたところ「自立」と認定されたことおよび「自立」と認定されたにも関わらず「介護保険負担割合証」が送られてきたとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)
④第2023-52号
区役所の設備運転保守管理業務を受託する事業者に雇用され業務責任者として就労してきた申立人が市民対応時のトラブルを理由に退職に追い込まれたとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)
⑤第2023-53号
保健福祉局の担当職員から誤った情報を提供されたり侮辱する発言をされたとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)
⑥第2023-発1号
札幌市において実施されているものづくり産業における担い手確保や人材育成等の企業支援について、オンブズマンが自己の発意により調査を実施したケース。(担当オンブズマン:田村智幸)