2024/03/28

2024年2月に調査を終了したケース

2024年3月1日、同年2月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、同年3月15日付で一部公開決定がなされた。

上記の期間(2024年2月)に調査を終了したのは6件である。このうち5件が苦情申し立てに基づく調査、残る1件がオンブズマンの発意に基づく調査で、全6件で調査結果が通知されている。なお、担当者に確認したところ、2023年度に実施された発意調査は今回公開された1件のみということである。

さて、今回公開された調査結果通知書のうち、以下の2件が興味深い。1件目が、自立支援医療の受給者が登録薬局を1か所から2か所に増やしてほしいと要望したことを契機とする市職員の一連の対応についての苦情である(第2023-48号)。2件目が、ものづくり産業における担い手の確保や人材育成等の企業支援策についてのオンブズマンの自己の発意による調査である(第2023-発1号)。いずれの案件も田村智幸オンブズマンが担当した。

まず、第2023-48号である。当ブログ開設者は、市民にとって適切なタイミングで適切な内容の説明を受けることは重要な利益であると考えている。本件事案は、(実体的な結論とは別に)「説明の適切さ」を考えるうえで興味深い。

すなわち、この案件では、申立人からの問い合わせを受けた後、「やむを得ない事情」があれば複数登録が可能である旨の説明がなされるまで日数を要している。さらに、職員が申立人に登録医療機関および登録薬局を尋ねた事情や、職員が複数の薬局の登録を受けているとされる申立人の知人の居住地について尋ねた事情について、本件調査によりようやく明らかにされた模様である。

このように、職員が行った説明は、内容の適切さとは別に説明が後手後手に回った点で「適切」さに欠けたと当ブログ開設者は考えている。もっとも、説明が先走りすぎるのも問題で、今回のようなケースでは「複数登録が認められる」と市民が誤解するおそれもある。説明不足や説明過剰を招かぬよう相手に応じた説明を行うことは、実際のところ難易度が高いことは間違いない。

ところで、申立人が利用する登録医療機関および登録薬局はそもそも申立人に尋ねるまでもなく、市が保有する情報を確認すれば把握できるのではないか、という疑問がある(市は当然、登録医療機関および登録薬局の情報を保有しているはずである)。

ただし、市の回答によると、申立人は登録医療機関および登録薬局を明らかにすることに難色を示したということである。申立人は薬局の対応に不満を抱いていること自体を薬局に知られたくないと考えていたのであろうか。そうした事情がないならば、本件においては申立人の同意を得たうえで、市が把握する情報を利用して登録医療機関および登録薬局に照会するという対応も可能だったと思われる。

以上の次第で、当ブログ開設者は、本件苦情に係る職員の対応は大いに改善の余地があったと考えている。それでも、いかなる場合に「やむを得ない事情」として取り扱うかについての市の見解が明らかになった点は、本件苦情調査の成果であろう。本件苦情を契機として、今後は市民に対し(複数登録について)適切な説明がなされることを期待したい。

次に、ものづくり産業における担い手の確保や人材育成等の企業支援策についての発意調査(第2023-発1号)である。市の回答にある諸施策は非常に興味深い内容であり、その点を明らかにした点で意義ある調査であると思われる。

もっとも、札幌市の産業振興施策は、「ものづくり産業」という特定の産業に着目した施策のみならず、「中小企業」という事業規模に着目した施策も実施されているというのが当ブログ開設者の理解である。

そうすると、「中小企業」対象の施策が「ものづくり産業」における担い手の確保や人材育成等につながるケースもあるのではなかろうかということで、経済観光局産業振興部にその旨問い合わせた。有益な回答が得られた場合には当ブログで紹介したい(追記:照会および回答の内容はこのエントリーで紹介している)。

ところで、この案件を担当した田村智幸オンブズマンによると、「ものづくり基盤技術振興基本法では、第4条で「国の責務」、第5条で「地方公共団体の責務」、第6条で「ものづくり事業者の責務」が並列に記載されているだけで、各自の役割や相互の連携・補完を定める文言はな(い)」そうである。

しかしながら、同法は政府に対し、法制上等の措置を講じることを義務づけ(同法7条)、政府が講じた施策に関する報告書を国会に提出することを義務づけ(同法8条。2023年度版ものづくり白書)、政府にものづくり基盤技術基本計画の策定を義務づけている(同法9条1項。同条2項は同計画に定める事項を規定)。また、同法の第三章は、国が講ずる「基本的施策」について規定している(同法10条~18条)。

したがって、同法は少なくとも国(政府)の役割については、明確に規定していると思われる(たとえば、同法12条は「ものづくり労働者の確保等」のため国が必要な施策を講ずる旨規定する)。

そして、同法5条は地方公共団体の責務として、「国の施策に準じた施策及びその地方公共団体の区域の特性を生かした自主的な施策を策定し、及びこれを実施する」旨規定する。これらの規定が意味するところは、ものづくり基盤技術の振興に関し、国が第一義的に責務を負い、地方公共団体は田村智幸オンブズマンのいう「補完」的な責務を負う趣旨であると思われる。

たしかに、市の回答には「現状では、ものづくり産業の担い手確保等について、国・都道府県・市町村の役割を明確に規定している法令等はな(い)」とある。

しかしながらこの回答は、田村智幸オンブズマンが「国・道・政令指定都市それぞれが果たすべき役割や国・道においてこれに取り組んでいる施策との連携・関係性を踏まえ、市としてどのような施策を実行し検討しているのか調査する必要があると考え」て調査を実施したと言明することに対応するものである。

したがって、前述の「市の回答」の意味するところは、都道府県と市町村については、国が講ずる基本的施策を規定する「ものづくり基盤技術振興基本法」第三章のような法令等は存在しないという趣旨であると理解すべきであろう。

また、田村智幸オンブズマンによると、「ものづくり産業の発展のための施策の総合かつ計画的な推進を強力に図り、担い手の育成を力強く進めていくためには、国が司令塔とな(る)」必要があるそうだ。

しかしながら、国と地方との関係は地域主権改革により、国が地方に優越する上下の関係から対等なパートナーシップの関係へと転換されている。地方自治法においても、245条が「普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与」について規定するとともに、同法245条の2は「関与の法定主義」を規定している。また、同法245条の3は「関与の基本原則」を規定している。

したがって、田村智幸オンブズマンがいう「国が司令塔となる」トップダウン型の施策の推進様式がこれらの規定と整合するか、当ブログ開設者は疑念を抱いている(ただし、地方自治法が定める「国の関与」の諸規定は、個別法に根拠となる規定がなくとも地方自治法が「国の関与」の根拠となることを意味している)。

なお、本件の調査結果が通知された3週間後、2024年3月14日に「第2次札幌市産業振興ビジョン」が公表された。本件調査も、ずいぶん間が悪いタイミングで実施されたものである(なお、「第2次札幌市産業振興ビジョン」は、田村智幸オンブズマンがその「基本的な方向に沿って札幌市の様々な施策が実行・計画されていると承知している」という「第2次札幌市まちづくり戦略ビジョン」(ビジョン編戦略編資料編)の方向性に沿った、産業振興部門の個別計画である)。

さて、縷縷述べてきたが、上記2件のオンブズマン調査はいずれも、当ブログ開設者の興味関心を強く喚起する内容であった。今後も札幌市オンブズマンには、市の業務を市民に可視化する役割を期待している。

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①第2023-48号
 自立支援医療の受給者が登録薬局を1か所から2か所に増やしてほしいと要望したことを契機とする市職員の一連の対応に対し苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

②第2023-50号
 生活保護受給者が保護課に非常食の貸与を申し入れた際の職員の対応等について苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

③第2023-51号
 要介護認定の申請をしたところ「自立」と認定されたことおよび「自立」と認定されたにも関わらず「介護保険負担割合証」が送られてきたとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

④第2023-52号
 区役所の設備運転保守管理業務を受託する事業者に雇用され業務責任者として就労してきた申立人が市民対応時のトラブルを理由に退職に追い込まれたとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

⑤第2023-53号
 保健福祉局の担当職員から誤った情報を提供されたり侮辱する発言をされたとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

⑥第2023-発1号
 札幌市において実施されているものづくり産業における担い手確保や人材育成等の企業支援について、オンブズマンが自己の発意により調査を実施したケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

2024/03/02

2024年1月に調査を終了したケース

2024年2月1日、2024年1月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、同年2月14日付で一部公開決定がなされた。

上記の期間(2024年1月)に調査を終了したのは4件で、このうち2件で調査結果が通知された。また、残る2件のうち1件は調査しない旨が通知され、1件は申立てが取り下げられた。

今回公開された調査結果通知書のうち、市道を走行中にタイヤが破損したとして苦情が申し立てられた第2023-46号が興味深い。この案件では、市は賠償することを認めたものの、申立人は市が主張する過失割合に納得がいかないとして苦情が申し立てられた。

ところで、道路管理の瑕疵により自動車が損傷したとして賠償を求めた案件は過去にもある。ある意味、典型的な苦情といえるかもしれない。当ブログでも紹介しているところ(第28-13号第29-80号第30-57号第2019-119号第2019-121号第2020-74号の6件。ただし確認もれの可能性あり)、これらの案件ではいずれも市は「賠償しない」という見解であった。

これに対し本件では、市は4割の過失を認めている。しかし、申立人はそれでは納得がいかないとして、100%の賠償のほか、破損したタイヤと同一の製品を探すことも求めて苦情を申し立てた。この点、当ブログ開設者は、申立人の主張はあまりスジがよろしくないという印象を受けた次第である(ただし、どのような主張をしようともそれは当事者本人の自由であることはいうまでもない)。

ところで、調査を担当した田村智幸オンブズマンは、「オンブズマンは、オンブズマン条例に基づき、中立公正な立場において市の業務に対する苦情について、市の対応の不備等を指摘する立場にありますが、本来的に司法手続きで判断されるべきことについて司法の判断を先取りするような意見を述べることはでき」ないとして、「過失割合の妥当性や市の道路管理責任について、オンブズマンの判断を述べること」をしなかった。当ブログ開設者は、このような田村智幸オンブズマンの判断は、具体的な過失割合について言質を取られることを避けようとした結果であろうと考えている。

しかしながら、田村智幸オンブズマンもいうように、札幌市オンブズマンは市の業務について、市の対応の不備等を指摘することをその役割とする。したがって、市が業務の一環として「今回の事例おける過失割合は4割である」と主張することについて、オンブズマンがその不備(のありなし)を指摘することは何ら妨げられるものではない、と当ブログ開設者は考えている。

つまり、司法機関は紛争解決のために最終判断を下すのに対し、オンブズマンは市の対応に改善の必要があるならばその点の指摘をするにとどまる。また、その指摘も強制力はなく、市がその指摘に応じるか否かは市の判断に委ねられている。そして、「過失割合」についてのオンブズマンの指摘を市が受け入れたとしても、市と申立人の間で合意が成立するとは限らない。オンブズマンが何を述べようとも、「司法の判断を先取り」することにはならないというのが、当ブログ開設者の考えるところである。

また、田村智幸オンブズマンは本件について「本来的に司法手続きで判断されるべきこと」であると述べているが、司法手続きの利用こそが紛争解決の「本来的」なあり方だと考えているならば、そうした評価は当事者合意に基づく自主的な解決の意義を著しく過小評価していると思われる。

むしろ考えるべきは、オンブズマンが沈黙することは結果として市の対応を黙認することになり、そうしたオンブズマンの姿勢が田村智幸オンブズマンのいう「中立公正な立場」といえるのか、ということであろう。

この点、市の対応に不備はないとオンブズマンが判断した場合、申立人からするとオンブズマンは市をひいきしており「中立公正な立場」ではないように感じられるかもしれない。しかしながら、少なくとも「不備はない」と判断する理由が明示される点はオンブズマンが「沈黙」した場合と決定的な違いがある。田村智幸オンブズマンは「紛争解決の落とし所」について見解を示すことを回避したが、オンブズマンの役割は市の主張の妥当性について見解を示すことなのではなかろうか。

以上、縷々述べてきたが、田村智幸オンブズマンと当ブログ開設者では札幌市オンブズマンの「制度観」に違いがあるのかもしれない。すなわち、田村智幸オンブズマンは、札幌市オンブズマンは行政と市民間の紛争を解決するADR(裁判外紛争解決手続)として理解する一方で、当ブログ開設者は、札幌市オンブズマンは住民自治の実質化を図るための制度であり、苦情を媒介とする行政と市民間のコミュニケーションチャンネルである、と考えているということである。この点については、機会があれば再論したい。

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①第2023-37号
 生活保護の受給者から通院時のタクシー代支給に関する担当ケースワーカーの対応をはじめとする一連の市職員の対応について苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

②第2023-46号
 市道を軽自動車で走行中にタイヤが破損したことに関し市の過失割合に関する説明に納得がいかず市職員の一連の対応にも問題があるとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

③第2023-47号
 有料老人ホームを運営する法人が市本庁の生活保護担当課から指導を受け無料低額宿泊所を開設したにもかかわらず、保護の実施機関である区の保護課から生活保護受給者の入居を認めないという連絡があったとして苦情が申し立てられたケース。調査開始後に苦情申し立てが取り下げられ調査が中止された。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

④第2023-49号
 生活保護受給者が親族の死亡により遺産を相続したところ遡及して保護費の返還を求められたとして苦情が申し立てられたケース。申し立ての取り下げにより調査は実施されなかった。(担当オンブズマン:原俊彦)

2024/03/01

新オンブズマン就任(2024年)

2024年2月29日、以下の議案が札幌市議会に提出され、同日、議会の同意を得た模様。これにより、新たに梶井祥子氏(大学教授)がオンブズマンに就任した。梶井氏は、2020年3月にオンブズマンに就任した原俊彦氏(大学名誉教授)の後任である。

これにより、2024年3月1日以降は、2021年3月1日に就任したオンブズマン2期目の田村智幸氏(弁護士)、2023年3月1日に就任したオンブズマン1期目の神谷奈保子氏(民事調停委員)とあわせ、3名体制で札幌市オンブズマンの職務が遂行されることになる。