2023年8月1日、同年7月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、8月14日付で一部公開決定がなされた。
上記の期間(2023年7月)に調査を終了したのは6件で、このうち5件で調査結果が通知され、残る1件で調査しない旨が通知されて調査を終了している。
さて、今回もまた、いろいろ興味深い案件が公開されている。まず第2023-8号は、保健所に開設された「医療安全相談窓口」の職員の対応について、苦情が申し立てられた案件である。
ところで、当ブログ開設者が、以前当ブログで紹介した「無料低額診療」に関する第2022-74号のオンブズマン判断の疑義について市に照会したところ(疑義の内容はこのエントリーに記載した)、この「医療安全相談窓口」の担当者からの回答を得た。やや手間がかかったものの、結論としては当ブログ開設者の考える条文理解に誤りはないことが確認できた。対応していただいた担当者に改めてお礼申し上げる次第である。
このような経緯もあり、この第2023-8号の「市の回答」における以下の記述、すなわち、「相談を受ける職員は、・・・(中略)・・・関係法令や法令所管の窓口など的確に把握した上で相談者に伝え、あるいは助言することを常に念頭において対応することが肝要」という箇所が、実に味わい深く感じられた。「医療安全相談窓口」には、対応に苦慮する内容の相談も寄せられるであろうことは容易に想像できる。対応する市職員には、適切な相談対応がなされることを期待したい。
次に、第2023-11号は、地下鉄に由来する「振動」に関する苦情である。周知のように、札幌の地下鉄はゴムタイヤを履いており、一般的には騒音や振動が鉄の車輪より少ないといわれている(一例として、札幌市青少年科学館の科学の質問箱)。そのため、その地下鉄の「振動」についての苦情は、当ブログ開設者には「科学的常識」に反するように思われた。
また、法令等による振動の規制も、新幹線(新幹線の振動対策)とは異なり、在来鉄道(札幌の地下鉄はこれに該当)については実施されていない。もちろん、名古屋市・川崎市のように、在来鉄道の騒音・振動の測定を実施している自治体は存在するものの、測定対象としているのは地上部分に限られるようである。
以上のことから、当ブログ開設者は、地下鉄の振動がトンネル外の建築物に対し影響を及ぼすものなのか、疑念を抱いている。本件苦情の申立人は「地下鉄が■■駅を発車するタイミングで振動が起こることが判明した」と主張するが、どのような手法でその事実を確認したのか、公開を受けた文書からは確認できない。そうである以上、当ブログ開設者としては、市には申立人が主張する事実の存否について確認してほしいと感じた次第であるが、これはいささかないものねだりかもしれない。
ところで、この案件の調査担当のオンブズマンは、「市には、市民の声に耳を傾けていただき、法的義務に有無にこだわらず、市として何かできることはないかという姿勢をもって、可能な限り市民に寄り添った対応をしていただきたい」という判断を示している。
ここでいう「市民に寄り添った対応」がどのような対応なのか不明であるが、社会福祉の分野であれば格別、それ以外の分野でのこうした言いまわしは、ともすれば「市はすべからく市民の求めるままの対応をすべきである」という一般論であるとの誤解を招きかねず、適切ではないように思われる。
こうした誤解を回避するためにも、オンブズマンは、①市が申立人の苦情内容を適切に把握しているか、②市としてできることの説明あるいは対応できない理由の説明が適切になされているか、③可能な範囲での対応が適切になされているか、という各段階で、職員対応の改善の余地について、具体的な指摘をするべきであろう。
「市として何かできることはないかという姿勢」を市職員に期待するのは、百年河清を俟つがごとし。むしろオンブズマンが「あんなことはできないか」「こんなことはできないか」、積極的に市の対応可能性を問い合わせることで、受け身の対応になりがちな市職員が積極性な対応をする後押しとなるならば、「市民の意向が的確に反映された市政運営に資する」(札幌市オンブズマン条例1条)ことになると思われる。
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①第2023-7号
市立札幌病院に入院した際、病室を出て建物外で電子タバコを吸ったところ強制的に退院させられたことに納得がいかないとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)
②第2023-8号
福祉施設の職員が風疹ワクチンの予防接種について医療機関に問い合わせた際の医師の対応に不満を覚え保健所に相談したところ、保健所職員の対応が適切さを欠くものであったとして、保健所職員の対応について苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)
③第2023-9号
市立体育館の正面玄関前の階段に自転車用スロープの設置を要望したところ、当初設置されたスロープが狭く幅を広げる修正が必要となったことや、申立人の問い合わせに対する市の回答が不誠実であるとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)
④第2023-10号
札幌市に転入した申立人がUIJターン就職移住支援事業の移住支援金を申請しようとしたが、「予備申請」が必要であることが十分周知されていないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)
⑤第2023-11号