2024年9月1日、同年8月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、決定期間延長のうえ、同年10月15日付で一部公開決定がなされた。
上記の期間(2024年8月)に調査を終了したのは9件で、このうち7件で調査結果が通知された。また、残る2件は調査しない旨が通知された。
今回調査結果が通知された7件は、いずれも「生活保護」に関する案件である。生活保護申請時の窓口対応をはじめとして、札幌市における生活保護の運用実態が垣間見え興味深い。他の案件も含め指摘すべき論点はいくつもあるが、そのなかでも、第2024-35号における市の回答のうち、職員の懲戒に関し「公文書公開請求」がなされた場合の市の対応について言及する部分は看過できないと考えている(第2024-36号も同旨の回答)。
この案件では、職員に懲戒事由に該当する行為があるとして担当部署に情報提供を行ったにもかかわらず、その後の対応について教えてもらえないことを不服として苦情が申し立てられた。これに対し、市は「懲戒処分の公表基準」に基づいてその概要を公表しているところ、特定の職員が処分を受けた事実は、公表基準に該当しない限り公にされることはないと回答している。
また、公文書公開請求がなされたとしても、「本件処分の有無等」および「処分のみならず調査の有無や内容」は、札幌市情報公開条例(以下、「条例」という。)第7条第1号(個人に関する情報)の本文に規定する非公開情報に該当し、その内容が公開されることはない、という回答も行っている(その際、「非公開情報」を公開しないとする決定ではなく、条例第10条に基づく「公開請求の拒否」として扱う模様である)。しかしながら、上記回答の後者、すなわち、職員の懲戒に関し「公文書公開請求」がなされた場合の市の対応について、当ブログ開設者は以下の3点について疑問を抱いている(これに対し、調査担当オンブズマン田村智幸は市の回答に格別の疑問を抱かなかったようである。制度の枠組みについて基本的な理解を欠いているのかもしれない)。
まず、第1の点である。すなわち、市職員の懲戒処分に関する公文書公開請求がなされた場合、「非公開情報」に該当しないとして公開される部分はあるのか、もしあるならば、それはどのような文書のどのような部分なのか、という点である。
続いて第2の点である。市の回答では、条例第7条第1号「ウ」が定める「公務員の職務遂行情報」についての言及がないが、その理由である。
最後に第3の点である。市の回答では、条例第7条第4号が定める「事務事業情報」についての言及がないが、市が市職員の懲戒に関する情報を「事務事業情報」として取り扱うことなく、「個人に関する情報」の枠組みで処理する理由である。
それでは、第1の点から順に見ていこう。市の回答によると、申立人に対応した職員は、「本件を処分した後、情報公開請求があった場合は、処分に関する情報は非公開又は一部公開になると思われること」を説明したということである。したがって、「処分に関する情報」ならばそのすべてが非公開になるわけではなく、「一部公開」になる余地はある模様である。
この点、市の回答によると、「処分に関する情報」のうち、「本件処分の有無等」および「処分のみならず調査の有無および内容」については、条例第7条第1号の本文に規定する非公開情報に該当する「非公開情報」だということである。
そうすると、「処分に関する情報」であっても、「本件処分の有無等」および「処分のみならず調査の有無および内容」を除く部分については「非公開情報」に該当しない余地が残されることになる。しかし、それが具体的にどのような情報であるかについては、市の回答は必ずしも明確ではない。
続いて第2の点である。条例第7条第1号本文は、「非公開情報」たる「個人に関する情報」について規定する。しかしながら、同号本文が規定する「個人に関する情報」であっても、「当該個人が公務員等(中略)である場合において、当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは、当該情報のうち、当該公務員等の職及び氏名並びに当該職務遂行の内容に係る部分」(同号ウ)は「非公開情報」から除外される。
したがって、条例第7条第1号本文が規定する「個人に関する情報」であっても、公務員等の「職務の遂行に係る情報」については、条例7条1号が規定する「非公開情報」に該当しない余地があるわけである。そうすると、上記第1の点については、少なくともこの公務員等の「職務の遂行に係る情報」については、条例第7条第1号が規定する「非公開情報」に該当しない部分があると思われる。
この点、当ブログ開設者は、公務員の職務遂行上の「法令違反」(地方公務員法第29条第1項第1号)や「職務上の義務違反および職務懈怠」(同項第2号)を理由とする懲戒処分の場合には、当該懲戒の事由とされた「職務遂行の内容」に関しては条例第7条第1号が規定する「非公開情報」には該当しない一方で、私生活上の非行による「信用失墜行為」(地方公務員法第29条第1項第3号)を理由とする懲戒処分の場合には「職務の遂行に係る情報」に該当せず、なお条例第7条第1号が規定する「非公開情報」に該当する、といった整理が可能ではないかと考えている。
最後に第3の点である。確認しておくべきは、条例第7条が規定する「非公開情報」は、「個人に関する情報」(同条1号)に限定されないことである。したがって、同号が規定する「非公開情報」に該当しないとしても、他の号が規定する「非公開情報」に該当することは考えられる。実際、条例第7条は「事務事業情報」(同条4号)として、「人事管理に係る事務に関する情報であって、公にすることにより、公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあるもの」(同号カ)を非公開情報として定めている。
ところで、市が職員に懲戒を課すことは、職場規律を維持する人事管理上の措置にほかならない。したがって、公務員等の「職務の遂行にかかる情報」として「非公開情報」たる「個人に関する情報」に該当しない情報であっても、なお、市が行う「事務又は事業に関する情報」であって、「公にすることによって、公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある」ならば「非公開情報」に該当することになると思われる(条例第7条第4号カ)。
ところが、本件調査において、調査対象部局はそうした回答を行っていない。市としては、これらの文書に記載される内容を公にしても、「公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ」はないため、条例第7条第4号カが定める「非公開情報」には該当しない、と考えているのであろうか。
このように、「公文書公開請求」がなされた場合の市の対応に関する市の回答ついて、当ブログ開設者は疑問を抱いたわけである。いずれも公文書に記載された内容の「非公開情報」該当性の問題であるが、実際に職員の懲戒に関する公文書の公開請求を行う場合を想定すると(市にとっては請求された場合)、どのような「公文書」に記載された情報の「非公開情報」該当性が問われるかも考えておく必要があるかもしれない。
当ブログ開設者は、ア.事実関係の調査に関する文書、イ.処分内容およびその決定過程等を記録する文書、ウ.被処分者に通知する文書、等を想定するが、上述したように、これらの文書に記載される内容は、「人事管理にかかる事務に関する情報」(条例第7条第4号カ)として「非公開情報」に該当すると考えている。
以上の次第で、当ブログ開設者が抱いた「非公開情報」該当性に関する市の回答の疑問を解消するには、市が①どのような文書の②どのような部分を③どのような根拠に基づいて非公開にするのか、実際に「公文書公開請求」を行ってみるのが案外手っ取り早いかもしれない。
このほか、2024年度の介護保険料の段階算定が前年度より2段階引き上げられとして申し立てられた苦情(第2024-44号)では、世帯分離について相談したのが1年以上前のことであるとして調査しない旨が通知された。しかしながら、申立人は決定された介護保険料に不満を抱いて苦情を申し立てたものである。当ブログ開設者は、介護保険料の決定通知を受けた日を「申立の原因となった事実のあった日」と解すべきと考えている。
-------------------------------------------------------------------------------------------------
①第2024-29号
生活保護申請時をはじめとする一連の担当職員の対応および保護開始後に受給額が減額されることについて事前に適切な説明を受けていないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)
②第2024-30号
生活保護を従前受給していた申立人が改めて生活保護を申請するために保護課を訪れた際の職員の対応が不適切であるとして苦情が申し立てられたケース。なお、本件の申立人は保護申請後の職員の対応について別件の苦情申し立て(第2024-32号)を行っているが、当該案件はすでに調査しない旨が通知されている。(担当オンブズマン:神谷奈保子)
③第2024-31号
生活保護受給者が入金された保護費の金額が当初聞いていた金額が違ったことをはじめとして保護下の担当職員の一連の対応について苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:梶井祥子)
④第2024-33号
生活保護受給者が意に反してジェネリック医薬品の使用を強制されることや、夜間の家庭訪問に応じてもらえないことについて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)
⑤第2024-35号
生活保護を担当する職員による物品授受行為が懲戒事由に該当するとして担当部局に情報提供したにもかかわらず、当該職員に対する処分内容等について教えてもらえないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)
⑥第2024-36号
生活保護を受給している申立人が職員による物品受領行為や窓口での対応に不満を覚えるとともに、その旨を上司に伝えても適切な対応がなされないとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)
⑦第2024-37号
生活保護を受給している申立人がエアコンの設置を申請が却下されたとして、設置申請を認めるよう求めて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:梶井祥子)
⑧第2024-39号
札幌市立の小学校ではお盆期間が平日であるにもかかわらず完全休校になることが疑問であるとして苦情が申し立てられたケース。申立人が「申立の原因となった事実についての利害を有さない」(札幌市オンブズマン条例16条1項1号)として調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:梶井祥子)
⑨第2024-44号
2023年7月に介護保険料の段階算定のための世帯分離ついて窓口に相談したところ、世帯分離をしなくても2024年の段階算定に影響はないという説明を受けていたにも関わらず、2024年6月の通知では段階が2段階上昇していたとして苦情が申し立てられたケース。説明を受けたのが1年以上前の出来事であり、「申立の原因となった事実のあった日から1年を経過している」(札幌市オンブズマン条例16条1項2号)として調査をしない旨が通知された。(担当オンブズマン:神谷奈保子)