前回のエントリーに記したとおり、田村智幸オンブズマンが担当した「発意調査」を契機として、市の担当部局に問い合わせをした。問い合わせのきっかけとなったのが、当該発意調査に登場する二つの用語、「第2次札幌市まちづくり戦略ビジョン」および「ものづくり基盤技術振興基本法」である。
これらの用語に関連し、当ブログ開設者は、2024年3月14日に「第2次札幌市産業振興ビジョン」が公表されたこと、札幌市では「札幌市中小企業振興条例」において中小企業振興の基本理念等が規定されていること、さらに、産業振興部各課の所管事務について把握した。
以上の当ブログ開設者が把握した内容や上記・発意調査の結果によると、札幌市では、ものづくり産業における担い手確保や人材育成のために実施される諸施策は、「ものづくり産業」を対象とする施施策と、「中小企業」を対象とする諸施策が重畳的に実施されているようであった。
しかしながら、上記・発意調査では、こうした施策の構造が必ずしも明確ではないように感じられた。そこで、調査の意義をより明確にすべく、担当部局に問い合わせた次第である。以下、照会内容と回答内容を嚙み合わせる形で紹介する。
まず、照会するに至った経緯について、以下の説明をした。
わたくし、札幌市オンブズマンの活動に興味があり、定期的にオンブズマンが実施した調査に関する文書の公文書公開請求を実施しています。今般、経済観光局長あての苦情等調査結果通知書(2024年2月22日付・第2023-発1号)の写しの交付を受けたのですが(担当オンブズマンン・田村智幸)、市が2023年度に実施した「ものづくり産業における担い手確保等に資する施策」の内容は、大変、興味深い内容でした。
しかしながら、同調査は、「ものづくり産業」に限定されない、中小企業振興施策の一環としての(ものづくり産業をも含む)「担い手確保」という視点が欠けているように感じられました。
そこで、たいへん恐縮ですが、以下の点について、ご教示をお願いする次第です。なお、以下の(5)(6)がもっとも関心がある点ですが、より理解が深まると考え(1)~(4)についてもあわせてお尋ねいたします。
なお、問い合わせの内容が「ものづくり産業の振興」と「中小企業支援」の双方に関わることから、まずは経済企画課あてにメッセージを送るのが適切と考えました。
照会事項(1) 札幌市の産業振興施策の大まかな枠組みについて
札幌市の産業振興施策は、中小企業を対象としており、その際、中小企業の業種(産業)に対応した個別の施策を講じるのが基本的な構造である、という理解でよいでしょうか。
回答(1) 担当:経済企画課
本市においては、中小企業が9割以上を占めていることから、中小企業を中心とした施策が多くなっておりますが、大企業を対象とした施策も展開しております。
なお、特に札幌市が強みを持つ産業への重点的な支援に加え、全産業を高度化させるための業種横断的な支援を両輪で実施しているところです。
照会事項(2) 産業振興課の業務内容について
Webサイト(https://www.city.sapporo.jp/org/address/keizai_kanko.html)には産業振興課の「主な業務内容」として「ものづくり産業の振興に関すること」とあるところ、ここにいう「ものづくり産業」は具体的にどのような産業を指すのか、ということがお尋ねしたい点です。
この点、上記調査の市の回答には、「ものづくり産業(製造業・建設業)」という記述がある一方で、ものづくり基盤技術振興基本法2条2項(および同法施行令2条)が規定する「ものづくり基盤産業」には建設業が含まれていないようです。そこで、産業振興課が想定している「ものづくり産業」の具体的内容についてのご教示をお願いする次第です。
回答(2) 担当:産業振興課
産業振興課においては、ものづくり基盤技術振興基本法に定義されている製造業のほか、建設業法に定義されている建設業も含めた「ものづくり産業」への支援を実施しています。
照会事項(3) ものづくり基盤技術振興法5条が規定する「国の施策に準じた施策」について
ものづくり基盤技術振興法5条は、「地方公共団体は、ものづくり基盤技術の振興に関し、国の施策に準じた施策及びその地方公共団体の区域の特性を生かした自主的な施策を策定し、及びこれを実施する責務を有する」旨規定しています。
今般の調査における「市の回答」で紹介されている諸施策は、上記・ものづくり基盤技術振興法5条が規定する「国の施策に準じた施策」及び「地方公共団体の特性を生かした自主的な施策」に位置づけられると理解してよろしいでしょうか。
回答(3) 担当:産業振興課
お見込みのとおりです。
照会事項(4) ものづくり基盤技術振興法9条が規定する「ものづくり基盤技術基本計画」に準じた計画について
ものづくり基盤技術振興法9条1項は、政府に「ものづくり技術基盤基本計画」の策定を義務づけており、この計画には「ものづくり労働者の確保等に関する事項」(同条2項3号)や「ものづくり基盤技術に係る学習の振興に関する事項」(同条2項5号)等、ものづくり産業の担い手確保や人材育成に関連する事項が含まれています。
ところで、「札幌市産業振興ビジョン」(第1次、改訂版及び第2次)という行政計画がありますが、この「札幌市産業振興ビジョン」は、市における「ものづくり産業の担い手確保や人材育成等の企業支援」をその趣旨として含んでいる、という理解でよろしいでしょうか(ただし、「ものづくり産業」それ自体が「重点」とはされていないようですが)。
また、「札幌市産業振興ビジョン」とは別に、札幌市が「ものづくり産業」における担い手確保や人材育成に関する計画を策定しているならば、当該計画についてご教示をお願いします。
回答(4) 担当:経済企画課、産業振興課
令和6年3月に策定した第2次札幌市産業振興ビジョンにおいては、横断的戦略の一つとして「札幌経済を担う人材への支援」を設定し、その中で「中小・小規模企業の採用力強化と担い手の確保・育成」を基本施策の一つに掲げ、製造業や建設業といった特に人手不足が深刻な業界における人材の確保・育成を支援することとしております。
照会事項(5) 札幌市産業振興ビジョン(第1次、改訂版及び第2次)の位置づけについて
札幌市産業振興ビジョン」(第1次、改訂版及び第2次)は、札幌市中小企業振興条例4条1項が規定する「中小企業振興施策を総合的に策定」したものという理解でよろしいでしょうか。
回答(5) 担当:経済企画課
お見込みのとおりです。
照会事項(6) 中小企業振興施策の一環としての「担い手確保」に関する札幌市の施策について
中小企業は一般に労働力不足という課題を抱えているようです。そこで、札幌市において、(ものづくり産業に限定されない)中小企業における担い手確保や人材育成に関する施策が行われているならば、その概要についてご教示をお願いいたします。
また、そのような施策が行われている場合、当該施策は札幌市中小企業振興条例8条2号が定める「中小企業者等の事業活動に必要な人材の育成及び確保」に位置づけられるという理解でよいかについても、あわせてご教示をお願いします(同号が規定する「人材」とは「起業家や経営者」を想定しており、「労働者」は想定されていないという印象もあるためです)。
回答(6) 担当:経済企画課
上述のとおり、第2次札幌市産業振興ビジョンにおいては、横断的戦略の一つとして「札幌経済を担う人材への支援」を設定し、業種横断的に人材への支援を行うこととしております。本項目では、「企業活動の源となる人材の確保と育成」「多様な人材の活躍促進」「道外・海外からの人材の呼び込み」の3つの柱を掲げ、企業への支援、就労者等への支援、道外・海外からの呼び込みの観点から、人材への支援を行っております。
また、ご質問の2点目についてはお見込みのとおりであり、企業が経済活動を行う上で人材は重要な経営資源であると認識しており、上述のとおり、就労者等も対象とした施策を展開しております。
・・・以上の次第であるが、まず、年度末の忙しい時期であろうに迅速に回答を頂戴したことに驚いた。担当された市職員の方に、記して感謝したい。この回答により、札幌市における「ものづくり産業の担い手確保や人材育成等のために実施される諸施策」は、「ものづくり産業」を対象とする諸施策と「中小企業」を対象とする諸施策が重畳的に実施されていると理解して差し支えないことが確認できたと考えている(なお、ものづくり産業の他にも特定の産業の振興施策を規定する法令が存在する可能性もあるが、この点は未確認)。
ところで、前回のエントリーでは、ものづくり技術基盤振興法が国の責務等について規定していることを紹介したが、このエントリーの締めくくりとして、中小企業基本法も「基本計画」の策定を除き、同様の規定を有していることを指摘しておきたい。
すなわち、中小企業基本法は、同法が定める基本理念にのっとり、国が中小企業に関する施策を総合的に策定し及び実施する責務について規定する(同法4条)。
その上で、政府は同法5条が規定する「基本方針」に基づき中小企業に関する施策を講ずること、中小企業に関する施策を実施するため必要な法制上、財政上及び金融上の措置を講じなければならないこと(同法9条)、定期的に中小企業の実態を明らかにするため必要な調査を行い、その結果を公表しなければならないこと(同法10条)、毎年、国会に、中小企業の動向及び政府が中小企業に関して講じた施策に関する報告を提出しなければならないことが規定されている(同条11条1項。同条2項も参照。なお、同条が規定する報告が「中小企業白書」である。)。
また、国が講ずる基本的施策については、同法第二章が詳細な規定を置いている(第1節から第4節の4節構成で12条から26条)。
さらに、地方公共団については、基本理念にのっとり、中小企業に関し、国との適切な役割分担を踏まえて、その地方公共団体の区域の自然的経済的社会的諸条件に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有することが規定されている(同法6条。このほか、国と地方公共団体の関係については同法27条も参照されたい)。
そして、札幌市においては、上述の札幌市中小企業振興条例に基づき諸施策が実施されている。これに対し、「ものづくり産業」を対象とする市条例は制定されていない模様である。
なお、第2次札幌市産業振興ビジョンには、札幌市中小企業振興条例が「市は条例で定める基本理念にのっとり、中小企業振興施策を総合的に策定し、及び実施しなければならない。この場合において、中小企業者等の実態を的確に把握するとともに、中小企業者等の意見を適切に反映するよう努めなければならない」と明記されていることが、同ビジョンが策定された事情の一つとして挙げられている(同条例4条1項)。