2023/07/23

2023年6月に調査を終了したケース

 2023年7月2日、同年6月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、7月13日付で一部公開決定がなされた。

上記の期間(2023年6月)に調査を終了したのは2件で、全2件で調査結果が通知された。

さて、今回公開された2件は、いずれも田村智幸オンブズマンが担当した案件である。まず、第2023-4号である。この案件は、市税を滞納したことで「差押通知書」の送付を受けた申立人が差押えを待ってほしいと求めたが受け入れられず、説明を求めた職員から十分な説明も受けられなかったとして苦情が申し立てられた案件である。

この案件で当ブログ開設者の目を引いたのは、市の回答における「申立人に納付誠意がないと判断」したという箇所である。市税の納付という法律上の義務の履行に際し、「誠意」というフレーズはそぐわないように感じられたからである。

しかし、である。どうやら納税義務者が「差し押さえを待ってほしい」と泣きを入れるケースでは、この「誠意」が意味を持つ場合もあるようだ。

この点、まず出発点となるのは、市町村民税の滞納者が督促を受けたにもかかわらず完納しない場合、市町村の徴税吏員は滞納者の財産を差し押さえしなければならないという原則である(地方税法331条1項1号)。

しかしながら、地方税法は「職権による換価の猶予」を規定する(同法15条の5)。ここにいう「換価」とは、財産の差し押さえを含む概念であるが、滞納者の財産の換価を直ちにすることにより「その生活の維持を困難にするおそれ」があり、その者が徴収金の納付・納入について「誠実な意思」を有すると認めるときは、滞納処分による財産の換価の猶予をすることができるとされている。ここにいう「誠実な意思」がおそらく、市の回答にいう「誠意」であろう。

また、地方税法は「申請による換価の猶予」も規定する(同法15条の6)。この場合も、滞納者が徴収金を一時に納付・納入することにより「その生活の維持を困難にするおそれ」があり、その者が徴収金の納付・納入に「誠実な意思」を有すると認められるときは、滞納処分による換価の猶予をすることができるとされている。

このように、「その生活の維持を困難にするおそれ」があることが前提だが、徴収金の納付・納入に「誠実な意思」がある場合、地方団体の長が慈悲深い対応をする根拠となる規定は、実にしみじみと味わい深い。ただし、恣意的な運用とならないように、具体的な運用の適否について別途論ずる余地はあると思われる。

次に、第2023-6号である。この案件は、児童扶養手当を受給する申立人が実家(二世帯住宅)に転居したところ、事実婚をしたとして「資格喪失届」が送付されてくるとともに、調査が終了するまで手当が支給されないことについて苦情が申し立てられたものである。

ところで、児童扶養手当法施行規則6条は、児童扶養手当の受給者に「住所変更の届出」を義務づけているが、この申立人は転居した際、児童扶養手当に関する「住所変更の届出」を失念した模様である(児童扶養手当法施行規則は同法28条1項(及び33条)に基づいて定められたものである。ただし、法28条は届出義務につき「内閣府令」の定めるところによる旨を規定する一方で、児童扶養手当法施行規則そのものは「厚生労働省令」である理由は不明)。

そして、法15条には、手当の支給を受けている者が正当な理由なく法28条1項の規定による届出(上述した「住所変更の届出」はこれに該当)をしないときは、「手当の支払を一時差しとめることができる」ことが規定されている。そのため、本件の申立人が「住所変更の届出」を怠ったことは、手当の支給を一時的に差し止める理由となりえるというのが当ブログ開設者の理解である。

これに対し、田村智幸オンブズマンの判断によると、「別生計であることを確認する前に職権で直ちに支給停止できることについては、明確な法令上の根拠や規定を見出すことはできませんでした」というのである。おそらく、「届出の懈怠」という手続的理由による児童扶養手当の支給の一時に差しとめを可能とする法15条の規定を見落とすとともに、本件における児童扶養手当の「支給停止」が手続的理由ではなく、実体的理由によると考えたためと思われる。

この点、市の回答によると、①受給者の住所変更はシステムで把握している、②住所変更を把握したが「住所変更届」の提出がない場合には提出を依頼する文書を送付する、③変更先の住所に同居の扶養義務者等が確認された場合は、その内容に応じて「支給停止関係変更届」や「資格喪失届」を送付しているということである。

田村智幸オンブズマンとしては、こうした事務手続きの間、児童扶養手当の支給がどのような取扱いになるのか、また、それはどのような根拠に基づくのか調査対象部局に説明を求めておけば、法15条の規定を見落ことはなかったと当ブログ開設者は考えているのだが、いかがであろうか。

-------------------------------------------------------------------------------------------------

①第2023-4号
 市税を滞納したことで「差押通知書」の送付を受けた申立人が差押えを待ってほしいと求めたが受け入れられず、説明を求めた職員から十分な説明も受けられなかったとして苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

②第2023-6号
 児童扶養手当を受給する申立人が実家(二世帯住宅)に転居したところ、事実婚をしたとして「資格喪失届」が送付されてくるとともに、調査が終了するまで手当が支給されないことについて苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:田村智幸)

2023/07/17

2023年5月に調査を終了したケース

 2023年6月1日、同年5月に札幌市オンブズマンによる調査が終了した案件の調査結果等について公文書公開請求を行ったところ、決定期間延長のうえ、6月28日付で一部公開決定がなされた。

上記の期間(2023年5月)に調査を終了したのは8件で、このうち5件で調査結果が通知された。また、残る3件のうち1件は調査しない旨が通知され、2件は苦情申し立ての取り下げにより調査が終了している。

さて、今回公開された案件のうち第2022-92号及び第2023-2号の2件において、申立人が苦情を申し立てたものの当初のオンブズマンとの面談予定日に面談できず、日程の再調整も困難であるとして、いったん苦情申立てが取り下げられている点が興味深い。

このような、苦情申立てをいったん取り下げ(必要に応じて再度申し立て)るという取扱いは、第2022-1号の処理をふまえ、運用面の強化を図ったことを示しているのではないかと、当ブログ開設者は考えている。

すなわち、苦情申立日が2022年4月1日付とされた第2022-1号では、オンブズマンが2022年11月24日付で調査を実施するに至るまで(調査実施通知書記載の日付による)、半年以上にわたり調査が塩漬けにされた。その結果、苦情申立てから調査終了までの日数がいたずらに長期化することになったが、こうした事態は、「簡易迅速」を旨とする札幌市オンブズマンの制度趣旨に照らすと、望ましいことではないように思われる。

また、札幌市オンブズマン条例は「申立ての原因となった事実のあった日から1年を経過しているとき」(同条例16条1項2号)を「調査対象外事項」と規定するところ、第2022-1号の調査にオンブズマンが着手した時点では、申し立ての前提となった事実のあった日からすでに1年以上が経過することになった。

この点、1年以上経過した事実を「調査対象外事項」として規定するのは、時間が経過するほどに事実関係を確認するのが困難になるためである。いったん申し立てがなされたとしても、調査に着手するまでに時間が経過したケースについても事情は同様であろう。

こうした事情をふまえ、札幌市オンブズマン制度の運用として、直ちに調査に着手できない場合はいったん苦情申立ての取り下げを要請するという運用を強化した結果、今回公開分の2件において苦情申し立てが取り下げられたのではないかと、当ブログ開設者は考えている(なお、第2022-1号自体、第2021-83号の苦情申し立てがいったん取り下げられた後、再度、苦情申し立てがなされたという取り扱いがなされた案件である)。

今後は、直ちに調査に着手できないにもかかわらず申立人が任意の取り下げに応じない場合、そのまま調査を塩漬けにするのか、それとも、「調査しない旨」を通知することで調査を終了させるのか、予め検討しておく必要があると思われる。

その際、「調査しない旨」を通知した後に再度の申立てがなされた場合の取扱いについて、「『調査しない旨』を通知した事実関係については、再度の申し立てがなされてもオンブズマンは調査をしない」とした判断(第2022-58号)の妥当性も検討する必要があるだろう(第2022-58号におけるオンブズマン判断の問題点は、このエントリーで指摘した)。

次に、苦情等調査結果通知書の「市の回答」部分において、申立人の市職員への対応について「激昂」というフレーズが5回にわたり用いられている第2023-1号も興味深い(調査担当は原俊彦オンブズマン)。

この案件は、地下鉄出入口の周辺部にある駐輪場の除雪に際し、誘導員の案内が適切ではなかったために転倒して負傷した、と主張する申立人が申し立てた苦情である。当ブログ開設者の語感としては、「激昂」といった場合の当事者は、感情のコントロールを失って理不尽に声を荒らげたというイメージである。そのため、市の回答における複数回にわたる「激昂」という記述により、申立人の対応が「激昂」とは何事かと、申立人を文字どおり激昂させる事態が生じることを当ブログ開設者は懸念する(思い過ごしであってほしい)。

のみならず、市の回答において「激昂」のフレーズが用いられているのは、転倒事故の後日に市職員が申立人に対応した際のことである(したがって、事故当日については「激昂」のフレーズは用いられていない)。それにもかかわらず、オンブズマン判断においては、「事故直後の申立人の激昂した様子」という記述が見られる。調査担当のオンブズマンは、いかにして申立人の「激昂した様子」を確認したのであろうか。この記述が「事実に反する」として、申立人を文字どおり激昂させる事態が生じることを当ブログ開設者は懸念する(思い過ごしであってほしい)。

このほか、原俊彦オンブズマン担当の第2023-5号では、「北海道社会福祉サービス運営適正化委員会」は市の機関ではないため、オンブズマンの調査対象外であるとされた。

しかしながら、申立人は運営適正化委員会の対応について苦情を申し立てたのではない。自己の勤務先である福祉サービス事業所に対し、市職員の担当者が影響力を行使していたということについて、苦情を申し立てたものである。

したがって、調査担当のオンブズマンは、市の機関の業務の執行として、当該職員が当該事業所に対し影響力を行使した事実があったのか、について調査するのが札幌市オンブズマンの制度運用における筋であると思われる。

とはいえ、申立人による「市職員が事業所に影響力を行使した」という主張が奇異であることは否定できない。調査担当のオンブズマンも、そうした主張が申立人の妄想世界のことであると考え、調査をしないための理屈をひねり出したのかもしれないが、当ブログ開設者に対しては、原俊彦オンブズマンは申立人の主張を理解することもままならないと印象づける結果となった。

-------------------------------------------------------------------------------------------------

①第2022-85号
 申請手続きの際に保健福祉課に提出した診断書が医療機関と保健福祉課の間で行方不明になったこと及びその後の対応について苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

②第2022-89号
 生活保護を受給する申立人が、ケースワーカーから収入を増やすよう指導を受けたこと等を不服として苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

③第2022-92号
 子どもが通う小学校でいじめのようなことがあり、学校及び教育委員会に対応を求めているが十分ではないとして苦情が申し立てられたケース。オンブズマンとの面談の日程が決まらないとして、苦情申し立てが取り下げられた。(担当オンブズマン:田村智幸)

④第2022-93号
 勤務先を退職することにともない、国民健康保険に加入した場合の保険料について相談した際に「非自発的失業軽減制度」の説明を受けなかったことから健康保険の任意継続を選択したとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

⑤第2022-94号
 住民税非課税世帯を対象とした特別給付金の申請書類が届かなかったとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:神谷奈保子)

⑥第2023-1号
 地下鉄出入口周辺部にある駐輪場除雪の際の誘導が不適切で負傷したとして、苦情が申し立てられたケース。(担当オンブズマン:原俊彦)

⑦第2023-2号
 入居する市営住宅に空き室が多いのは税金の無駄づかいであり、入居者にとっても班長役が短い周期で回るために負担が大きいとして、苦情が申し立てられたケース。オンブズマンとの面談日の調整が難しいとして、申し立てが取り下げられた。(担当オンブズマン:原俊彦)

⑧第2023-5
 申立人が勤務していた福祉サービス事業所で虐待やパワハラを受けたが、北海道社会福祉サービス運営適正化委員会から得た回答によると当該事業所を所轄する市の担当職員が事業所の運営に関与しているとして、苦情が申し立てられたケース。「北海道社会福祉サービス運営適正化委員会」は市の機関ではないためにオンブズマンの調査対象外であるとして、調査しない旨が通知された。(担当オンブズマン:原俊彦)